「逆方向」の政策転換がもたらす市場への影響【共同コラムを制作】
2025年12月、世界の金融市場は異例の展開を迎えている。米国のFRB(連邦準備制度理事会)と日本銀行が、同じ月に「真逆」の方向へ舵を切ろうとしているのだ。
12月9-10日に開催された米国のFOMC(連邦公開市場委員会)では、市場予想通り0.25%の利下げが決定され、政策金利は3.50~3.75%となった。一方、日本銀行は12月18-19日の金融政策決定会合で、11カ月ぶりとなる0.25%の利上げに踏み切る可能性が極めて高いと見られている。

日米が描く、対照的な政策パス
米国では、物価高よりも雇用情勢の軟化を懸念するFRBが3会合連続の利下げに踏み切った。しかし今回のFOMCは「タカ派的な利下げ」と評された。なぜなら、経済見通し(SEP)で示された2026年の利下げ見通しが、わずか「1回」にとどまったからだ。市場はもっと慎重なペースを想定していたものの、FRBはインフレへの警戒姿勢を崩していない。
対する日銀は、構造的な人手不足を背景とした賃上げ基調の定着を確認し、追加利上げへの地ならしを進めてきた。政策金利を0.50%から0.75%へ引き上げれば、1995年以来30年ぶりの高水準となる。植田和男総裁が12月1日の講演で「利上げの是非について適切に判断したい」と明言したことで、市場の利上げ予想は一気に高まった。
金利差縮小でも円高に向かわない理由
通常、米国が利下げ、日本が利上げという組み合わせは、日米金利差の縮小を意味し、円高への圧力となるはずだ。実際、日米10年債の金利差は今年に入り100ベーシスポイント以上も縮小している。
しかし、ドル円相場は依然として155円台で推移し、円高の勢いは見られない。その背景には、いくつかの「影の重石」が存在する。
まず、高市早苗政権下での積極財政への警戒感だ。大規模な経済対策が財政悪化を招き、長期金利の上昇圧力となっている。日本の10年国債利回りは一時18年ぶりの高水準に達しており、財政懸念が円安圧力として作用している。
加えて、日米の政策金利の「絶対水準」には依然として大きな開きがある。米国が3.5%超、日本が0.75%という金利環境では、投資家にとって米ドル資産の魅力は色あせていない。市場ではドル高・円安方向への賭けがなお優勢を保っている。
企業にとっての「想定外」の円安
為替水準は、企業経営にも直接的な影響を及ぼす。日銀短観によれば、大企業・製造業の2025年度想定為替レートは1ドル=145.68円だ。しかし現実のドル円レートは155円台で推移しており、企業の想定より10円近くも円安となっている。
輸出企業にとっては追い風だが、輸入コストの増加は価格転嫁の圧力となり、インフレ懸念を再燃させかねない。日銀が利上げに動く背景には、こうした企業部門の価格設定行動の変化もある。
投資家が注視すべき3つのポイント
12月の金融政策イベントを受けて、投資家が押さえておくべき視点は以下の3つだ。
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2026年の政策見通し
FRBのドットチャートが示した「年1回の利下げ」という予想は、市場にとって想定よりタカ派的だった。一方、日銀は今後も半年ごとのペースで利上げを継続する可能性がある。この政策パスの違いが、来年の為替市場を左右する。 -
実質金利差の動向
名目金利だけでなく、インフレ率を差し引いた「実質金利」の日米格差が重要だ。実質金利差が縮小すれば、理論的には円高圧力となる。しかし財政や地政学リスクが絡む現状では、単純な相関関係が崩れる場面も出てくる。 -
リスク分散の再確認
為替変動が企業収益や資産価値に与える影響は大きい。通貨分散はもちろん、債券・株式・コモディティといった資産クラス全体でのバランスを再点検するタイミングだ。
歴史的な政策転換期を迎えて
日米の中央銀行が同月に逆方向へ動くという構図は、極めて稀だ。FRBが利下げを進める一方で、日銀が30年ぶりの金利水準に回帰する。こうした政策の分岐点は、通貨市場だけでなく、債券・株式・コモディティ市場にも波及していく。
短期的には様子見ムードが強まるかもしれないが、中長期的な投資戦略を立てる上で、12月の政策決定は重要な転換点となる。金融政策の「正常化」がどのように進むのか、そして市場がどう反応するのか。今後も注視が必要だ。
データ出典:
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FOMC政策決定:米連邦準備制度理事会(FRB)公表データ
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日銀金融政策:日本銀行公表データ、日銀短観
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為替レート:各金融機関公表データ(2025年12月時点)
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企業想定レート:第一生命経済研究所、帝国データバンク調査データ
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