夢のマイホーム実現…のはずが警察沙汰に?~30代夫婦が経験した『モデルハウス購入』のリスク~
モデルハウスに即入居!“夢の家”を買った30代夫婦が経験した想定外のトラブル
あなたの夢のマイホーム、すでに建ってるかも?モデルハウスに住むという選択肢

住宅展示場に並ぶモデルハウス ―― 最新の設備が整い、家具や小物までコーディネートされた空間は、多くの来場者が「このまま住めたら」と憧れる場所です。しかし、実際にその「展示用の家」を購入して暮らしている人がいるのをご存じでしょうか。当記事は、実際にモデルハウスを購入した経験のある30代夫婦の体験談をもとにアンドリフォーム運営事務局が執筆しました。
家はもちろん「建てる」ものだと思ってた。30代、家探しのリアル
今回お話を聞いたのは、5年前に茨城県で実際にモデルハウスを購入した30代のIさんご夫婦。
土地探しから設計、打ち合わせを重ねるという“普通の家づくり”の流れを飛び越えて、すでに建っている展示用住宅をそのまま自宅にしました。
「猫を家族に迎えたい!」
夫婦がマイホームを意識し始めたのは、そんな小さな願いがきっかけでした。

“打ち合わせ地獄”とオプション地獄 マイホーム計画の不安
当時住んでいた賃貸住宅はペット禁止。だけど結婚当初から思い描いていた「猫との暮らし」を実現したいという思いが強くなり、二人は自然と「そろそろ持ち家を…」と考えるように。
ただ、マイホームを持つ人たちの「細かい打ち合わせが延々と続いて大変!」という声も耳にしていました。 いわゆる“打ち合わせ地獄”というやつです。
さらに、ハウスメーカーへ見積もり相談に行った際には「あれも便利ですよ、これも付けておきませんか」と次々とオプションを勧められる場面もあったそうです。
「便利なのはわかるけれど、これって本当に必要なのかな…」と、気づけば不安だらけに。
「最初は当然、注文住宅を建てるつもりでした。土地を探して、間取りを考えて…”打ち合わせ地獄”を何とか乗り越えて理想の家が建つ。そんなイメージのまま、近所にできたモデルハウスを見学することになりました」とご主人。
「ここにそのまま住めたら」――運命のモデルハウスとの遭遇

日差しが差し込む吹き抜けのリビング。家具や小物も、雑誌で見たようなブランドもので丁寧に整えられた空間。
夫婦が訪れたそのモデルハウスは、新興住宅地の一角に建つ4LDKのゆったりとした間取りで、「スマートホーム(IoT住宅)」を全面に打ち出していました。
お湯を沸かす、網戸を開け閉めする、エアコンを管理する、照明を調整する──それらが外出先からスマホでワンタッチ。未来の暮らしを体験できる仕掛けの数々に、夫婦は驚かされます。思わず口にしたのは、こんな一言でした。
「ここに、そのまま住めたらいいのになぁ」
住宅作りに疲れて小さくもらしたひとこと。それに展示場の担当者がにこやかに返します。
「住んでみますか?」
思いがけない答えに、夫婦は顔を見合わせました。
“モデルハウスを買う”──そんな選択肢があることを知らなかった二人にとって、その瞬間は常識がひっくり返るような体験でした。
「それから、この家に惹かれた理由は間取りにもありました。玄関からすぐ広い吹き抜けのリビングがあり、真ん中にはリビング階段が伸びている。当時は“猫と暮らしたい”という思いだけで動いていたけれど、心のどこかで“もし子どもを持ったら?”という未来も意識していました。これなら、帰宅した子供がリビングを通って自室へ行く導線ができる。家族が自然とリビングに集まり、顔を合わせる時間が増えるはず──そう直感したんです」
と奥様

待ち時間ゼロ、家具込み、即入居ーー理想の暮らしが速攻で手に入った
それからの決断は早く、必要な手続きを済ませてから即入居へ。
これから建てる予定だった家はもう建っているので、施工の必要が一切ない「待ち時間ゼロ」で手に入る新生活。
さらに、スマートホームやブランド物の家具という「魅せる」空間のためにコーディネートされた備品もコミコミの価格で購入。一から建てる時には経済的になかなか手を出しづらい…そんな設備がフルで手に入ったことも”展示用”ならではの恩恵でした。
「ハウスメーカーと二人三脚で決めながら我が家を作っていきたい人もいるけど、私たちはそうではないので。待つのは嫌いだし、細かいことを決める手間も省きたかった」と奥様は振り返ります。
“建てる”ことにこだわらなくても、“暮らす”ことにフォーカスすれば、こんな家の選び方もある。
モデルハウスを買うということーー専門家が指摘するリスクとは
”モデルハウスを買う”ということについて、不動産デベロッパー出身、2級建築施工管理技士兼住宅コンサルタントの山﨑 南氏はこう語ります。
モデルハウス購入には、即入居できる点や、展示用に整えられた家具・設備が付帯することでコストパフォーマンスが高い点、さらに引き渡しまでの期間が通常の注文住宅に比べて短い点など、様々な魅力があります。その一方で、展示目的で設計されているため、生活動線や収納、メンテナンス性が必ずしも一般住宅と同じ水準とは限りません。保証範囲や保険制度についても通常の新築住宅と異なる場合があるため、購入前に契約内容を十分に確認することが重要です。こうしたメリットとデメリットを正しく理解したうえで、自分たちのライフスタイルに合う物件かどうかを冷静に判断することがモデルハウス購入で後悔しないための大切なポイントです。
早く猫ちゃんをお迎えしたい!その願いが第一だったご夫婦にとって、気に入ったモデルハウスを購入することは思い描く夢を最短で叶える方法でした。ところが…
幸せ絶頂のはずが…届き続ける“見覚えのない郵便物”
それは、Iさんご夫婦がモデルハウスに暮らし始めて数か月後のこと。
ハイスピードで決まった入居のおかげで、すぐに念願だった猫ちゃんをお迎えすることができて幸せ絶頂のはずが。夫婦を悩ませるのはある時から毎日のように届くようになった「見覚えのない郵便物」でした。

突然の訪問――警察が告げた衝撃の一言
「行政からの信書や、クレジットカードの請求書、知らない会社からの封筒…すべて”知らない名前”宛て。新興住宅地なので、この住所に私たちより前に住んでいた人はいないけど、確実にうちの住所で。気味が悪いけどあまりにも届くので捨てるのもやばいよね、と…」と当時を振り返る二人。手紙類はそのたびに郵便局へ届けていたそうですが、ついにある日、自宅にやってきたのは刑事。
「この住所が、犯罪に使われている可能性があります」
思いがけない言葉に、Iさんご夫婦は凍りつきました。
差出人不明の郵便物は、どうやら過去にモデルハウスの住所が公開されていたことと無関係ではなかったのです。 展示場時代に多くの人に知られ、広告やパンフレットに載り、ネットにも残っていた住所。その情報が悪用され、詐欺や金融トラブルの“ダミー住所”として利用されていた可能性が高いと告げられました。
「夢のマイホームを買ったつもりが、まさか警察に訪ねられるとは…。本当にショックでした」とご主人。幸い、夫婦が直接被害を受けることはありませんでしたが、「展示用だからこそのリスク」を身をもって体験することになったのです。
それでも「買ってよかった」と言える理由

刑事が帰ったあとも、Iさんご夫婦の胸にはしばらくざわつきが残りました。
けれど、陽が差し込むリビングで猫がのんびり過ごす光景を見ながら「この家を選んだからこそ、今の暮らしがある」と思うと、不安よりも満足感のほうが勝つのだといいます。
「展示用だったから得られた設備や間取りの快適さは大きいし、この家だから安らぐ時間も増えた。私たちにとっては、やっぱり買ってよかったんです」と奥様。
一方で、ご主人はこう付け加えます。 「ただ、これからモデルハウス購入を考える人には“夢”だけじゃなく“現実”も知っておいてほしい。住所が公開されていた過去や、展示物として使われていた経緯…「家の過去」は、必ずチェックしたほうがいいと思います」
モデルハウス購入の落とし穴。専門家の見解は
こうした懸念は、特定の物件に限った特殊なものではありません。山﨑氏(=同)はこう指摘します。
今回のように、過去に住所が公開されていたことに起因するリスクは実際に存在します。モデルハウスでは広告やパンフレットに間取り図が掲載されるケースも多く、「どこに出入り口があるか」「どこが死角になりやすいのか」といった建物の弱点が第三者に知られてしまう可能性も否定できません。購入を検討する際は、こうしたリスクを前提に契約前に公開履歴や保証内容を確認しておくことが大切です。合わせて防犯カメラの設置や鍵の交換など、入居後にセキュリティ対策を講じることで、安心して暮らせる環境に繋がります。
夢のマイホームを最短で手に入れるチャンスでもあり、思わぬリスクを背負う可能性もあるモデルハウス購入。
光と影の両方を知った上で、自分たちにとって“正解の家の選び方”を見つけることが大切なのです。
──あなたなら、この選択肢をどう考えますか?
・記事執筆:アンドリフォーム運営事務局
・記事監修:山﨑 南(2級建築施工管理技士兼住宅コンサルタント)
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