【調査リリース】観光客は本当に“迷惑”なのか? 京都フィールドワークで見えた、まちと人のすれ違い
京都駅・清水周辺・高瀬川での行動観察から、観光客の“迷惑行動”を生む空間条件を分析。滞留の連鎖、身体を置きやすい場所、空間境界の読み取りにくさという3つの視点から改善仮説を整理
合同会社アクティブ・オブザベーション(所在地:京都府京都市右京区、代表:西倉美祝、以下「OAO」)は、京都駅・清水周辺・高瀬川周辺において、観光客および地域利用者の行動観察フィールドワークを実施しました。
京都では近年、観光客の増加に伴い、混雑、座り込み、食べ歩き、撮影、喫煙、私有地への立ち入りなどが「迷惑行動」として語られる場面が増えています。
一方で、現地で観光客の行動を観察すると、すべての行動が悪意あるマナー違反として説明できるわけではありません。案内板の前で立ち止まる、荷物を置く、段差に座る、写真を撮る、寺社や生活空間との境界を読み違える。こうした行動の背景には、観光客個人の意識だけでなく、空間の分かりにくさ、休憩場所の不足、荷物の大きさ、撮影したくなる景観、文化的な習慣の違い、そして「ここでどう振る舞うべきか」というコードの不在があると考えられます。
本調査では、観光客の行動を単純に「マナーが良い/悪い」で分類するのではなく、周囲との摩擦がどのような空間条件から生まれているのかに着目しました。その結果、観光地で“迷惑に見える行動”を生む主なメカニズムとして、以下の3点が見えてきました。
<調査結果サマリ>
1. 占有半径の大きい人が止まると、人の流れは連鎖的に止まる
2. 人は椅子があるから座るのではなく、“身体を置きやすい場所”を探して座る
3. 公共・私的・商業・宗教空間の境界が読み取りにくく、越境行動が発生する
<OAOにおける調査手法>

調査サマリー:観光客の“迷惑行動”を生む3つの空間条件
1. 占有半径の大きい人が止まると、人の流れは連鎖的に止まる
京都駅では、案内板、改札前、券売機、店舗前、バス停など、観光客が立ち止まる理由を持つ場所が、通行量の多い動線上に重なっていました。

特に、スーツケースやベビーカーなどを持つ人が立ち止まると、本人の身体だけでなく、荷物を含めた占有半径が広がります。その結果、周囲の人が避ける、後続の人が減速する、別の人が同じ場所に立ち止まる、といった連鎖が生まれ、人の流れが一気に滞る場面が確認されました。

つまり、混雑は単に「人が多い」ことだけで生まれるのではありません。止まる理由を持つ場所に、占有半径の大きい人が集まることで、局所的な滞留が連鎖することが、混雑や通行阻害の一因になっていると考えられます。
改善仮説
案内板、券売機、改札前、バス停、店舗前などでは、大勢の人が通行したり滞留することを前提にして空間の配置を検討する必要があります。案内確認スペース、荷物整理ポケット、待ち合わせ場所、撮影・立ち止まりスペースを、歩行動線から少し外した位置に設けるなどにより、同じ人流量でも滞留の連鎖を抑えられる可能性があります。
2. 人は椅子があるから座るのではなく、“身体を置きやすい場所”を探して座る
清水周辺や高瀬川周辺では、ベンチではない場所に座る、石垣や段差に腰掛ける、壁際や柱の影で休む、日陰や水辺に滞在する、といった行動が確認されました。
これらの座り込みは、単なる疲労やベンチ不足だけでは説明できません。観光客は、背中を預けられる、日陰がある、少し高低差がある、人の視線を避けられる、荷物を近くに置ける、といった条件を持つ場所を選んでいました。

つまり、人は「椅子」を探しているというより、一時的に身体と荷物を置きやすい場所を探していると考えられます。一方で、その場所が民家前、寺社周辺、店舗前、細い通路沿いである場合、地域住民や他の利用者にとっては、生活空間の占有や通行阻害として受け取られる可能性があります。
改善仮説
座り込みを単に禁止するだけではなく、観光客が短時間休める場所、荷物を整理できる場所、同行者を待てる場所を、周囲への影響が小さい位置に設けることが重要です。あわせて、座ってよい場所/避けるべき場所を、サインだけでなく、段差、素材、植栽、照明、視線誘導などの空間のしつらえによって自然に伝える必要があります。
3. 公共・私的・商業・宗教空間の境界が読み取りにくく、越境行動が発生する
京都の観光地では、民家、町家、店舗、寺社、路地、境内、生活道路が近接しています。地域側にとっては明確に区別されている空間でも、初めて訪れる観光客には、それらが一体の「京都らしい風景」として見えている場合があります。
その結果、民家の撮影、立入禁止区域への侵入、寺社での作法の誤解、石垣や建物前への座り込みなど、公共空間と私的空間、商業空間、宗教空間の境界を越える行動が発生していました。


これらには明確に抑制すべき行動も含まれます。一方で、観光客側から見ると、どこまでが自由に使える場所で、どこからが配慮すべき場所なのかが読み取りにくいことも背景にあると考えられます
改善仮説
境界を示すために禁止看板を増やすだけでは、景観や観光体験を損なう可能性があります。床材、段差、置き石、植栽、照明、視線の向き、サインのトーンなどを組み合わせ、領域の切り替わりを身体的に伝えることが重要です。あわせて、住民、店舗、寺社ごとに許容できる行動が異なるため、場所ごとの運用ルールと小さな改善策を組み合わせた、きめ細やかな受入環境整備が求められます。
本調査からの示唆
今回の観察から、観光客の“迷惑行動”は、個人のマナーだけではなく、行動が発生する場所の条件と深く関係していることが見えてきました。
特に重要なのは、以下の3点です。
1つ目は、人流ではなく、停止・占有・連鎖を見ることです。人数だけでなく、どこで誰がなぜ止まり、その停止が周囲にどう波及するかを見る必要があります。
2つ目は、禁止ではなく、望ましい行動の受け皿をつくることです。休憩、荷物整理、待ち合わせ、撮影など、観光地で自然に発生する行動を受け止める場所が必要です。
3つ目は、境界を、景観を損なわずに伝えることです。公共・私的・商業・宗教空間の違いを、看板だけでなく空間のしつらえによって伝える必要があります。
観光地の課題を「人が多い」「マナーが悪い」という問題としてだけ捉えると、対策は注意喚起や禁止表示に偏りがちです。しかし、行動が生まれる空間条件を把握すれば、案内板の配置、待機場所の再設計、荷物整理スペース、撮影視点場、休憩ポケット、境界を示すしつらえなど、より具体的な受入環境整備につなげることができます。
調査概要
調査名:京都観光地における行動観察フィールドワーク(2026春期)
実施主体:合同会社アクティブ・オブザベーション
調査時期:2026年5月10日〜12日の2日間
主な調査対象地:京都駅周辺、清水寺周辺、高瀬川・木屋町周辺 等
調査方法:現地観察、写真記録、行動メモ、観察事例の分類・分析
分析対象:観光客および地域利用者の滞留、移動、休憩、撮影、飲食、荷物、喫煙、境界越境等の行動
調査目的:観光地で発生する行動を、マナーや属性ではなく、空間条件・導線・設備・情報提示・文化的習慣との関係から分析し、受入環境整備に向けた改善仮説を整理すること
今後の調査:本調査は四半期ごとに実施する想定です。調査結果は都度公表していきます。
※本調査は、統計的な世論調査ではなく、現地観察に基づく探索的な行動分析です。
※本調査は、特定の個人、国籍、属性、店舗、施設を批判・評価することを目的としたものではありません。
※外部公開時に使用する写真・画像は、個人を識別できないよう、線画化・ぼかし処理・構図調整等を行います
代表コメント
合同会社アクティブ・オブザベーション 代表 西倉美祝

京都の観光課題は、観光客個人のマナーだけで説明されがちです。しかし、現地で行動を観察すると、案内板の位置、段差、日陰、荷物、撮影したくなる景観、生活空間との境界など、まちの側の条件が行動に大きく影響していることが見えてきました。
もちろん、喫煙、ポイ捨て、立入禁止区域への侵入、危険な車道へのはみ出しなど、明確に抑制すべき行動はあります。一方で、座り込みや撮影、飲食、荷物整理のように、単純に禁止するだけでは解決しにくい行動も多く存在します。
京都の観光課題は、観光客個人のマナーだけで説明されがちです。しかし、現地で行動を観察すると、案内板の位置、段差、日陰、荷物、撮影したくなる景観、生活空間との境界など、まちの側の条件が行動に大きく影響していることが見えてきました。
重要なのは、観光客を一括りに“迷惑”と捉えることではなく、どのような場所で、なぜその行動が生まれるのかを読み解くことです。行動の発生条件が分かれば、注意喚起だけでなく、空間のしつらえや導線設計によって、望ましい行動へ自然に導くことができます。
今回のフィールドワークは、そのための第一歩です。今後も季節や場所を変えながら継続的に観察を行い、京都のまちと観光客、そして地域の生活がよりよく共存するための知見を蓄積していきたいと考えています。
今後の展開
OAOでは、今回の調査結果をもとに、京都市内の観光地・交通結節点・生活道路・水辺空間における行動観察を継続して実施する予定です。
今後は、以下の取り組みを進めていきます。
・季節ごとの継続的なフィールドワーク
・観察事例のデータベース化
・観光客行動の発生条件の類型化
・調査シートの作成
・住民、事業者、行政、施設管理者との対話
・空間のしつらえ、サイン、導線、休憩場所、撮影スポット等の改善仮説の検討
・実装可能な小規模改善策の実証検討
OAOは、観光地の課題を「人が多い」「マナーが悪い」という単純な問題としてではなく、都市空間と人の行動の関係として捉え直し、持続可能な観光地づくりに資する知見を発信していきます。
データの取扱いについて
本調査では、現地での行動観察および写真記録を行っていますが、外部公開にあたっては、個人を特定できないよう、写真の線画化・ぼかし処理・構図調整等を行います。
本調査は、特定の個人、国籍、属性、店舗、施設を批判・評価することを目的としたものではありません。観光地における行動の発生条件を観察し、受入環境整備に向けた示唆を得ることを目的としています。
アクティブ・オブザベーション(OAO)について
会社名: 合同会社アクティブ・オブザベーション(Active Observation LLC.)
所在地: 京都市
代表者: 西倉美祝(にしくらみのり)
事業情報: 空間の利用実態に基づく分析およびコンサルティング業務を中心に、関連技術のソフトウェア・ハードウェア開発支援を行う
URL:https://oao-j.com/
合同会社アクティブ・オブザベーション(Active Observation LLC.)
所在地: 京都市
代表者: 西倉美祝(にしくらみのり)
事業情報: 空間の利用実態に基づく分析およびコンサルティング業務を中心に、関連技術のソフトウェア・ハードウェア開発支援を行う
URL:https://oao-j.com/
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