行政・学校・病院による頭痛啓発活動 糸魚川ジオパーク 頭痛啓発キャンペーン 地域に根ざした頭痛啓発活動の世界初の成功として評価されHeadache誌に掲載
コロナ禍における行政と病院による先進的な手法による世界初の頭痛の啓発活動として評価されました。
糸魚川総合病院 脳神経外科、同 小児科、糸魚川市 健康増進課、同 こども教育課の研究チームは、能生国民健康保険診療所、仙台頭痛脳神経クリニック、糸魚川高校、糸魚川白嶺高校、海洋高校、株式会社エス・エム・エス、株式会社レグニションと共同で、「糸魚川市における行政・学校・病院による頭痛啓発活動」を糸魚川ジオパーク頭痛啓発キャンペーンと題して世界で初めて行いました。新型コロナワクチン接種会場におけるリーフレット配布および学校基盤のオンデマンド e ラーニングによる 2 つの方法で頭痛啓発を行い、頭痛のない一般の方も含めた6593 人(糸魚川市生産年齢人口の 32.3%)に参加していただきました。頭痛に関する重要な 6つのトピックの認知率は 6.6-40.0%から 64.1-92.6%と向上しました。本研究はアメリカ頭痛学会の公式医学雑誌「Headache」に掲載されることが 2022 年 12 月 21日に決定しました。
【背景】日本における片頭痛の年間有病率は8.4%で、20-40歳代の若年女性に多いと言われています。片頭痛を含め頭痛の大半は命に関わることはなく軽視されがちですが、片頭痛による欠勤や休業、学業や労働のパフォーマンス低下などによる間接的経済損失は1人あたり176万円/年と言われています。片頭痛を含め頭痛の多くは、①痛いときに飲む「痛み止め」の適切な選択と内服 ②痛くなって困らないように頭痛の重症度や頻度を改善する「予防薬」の内服 の2本柱の治療により、生活への支障を最小限にコントロールすることができます。そのため、月に2回以上頭痛があるなど、頭痛により普段の生活に支障をきたしている場合は医療機関で適切な治療を受けることが、患者さん自身の生活の質の向上および日本の経済発展のために重要です。
日本において片頭痛患者の約6割は医療機関を受診せず、市販の痛み止めを使ったり我慢をしたりしているのが現状です。片頭痛は進行性の疾患と言われており、適切な治療をしないと年間3%の人が難治な「慢性片頭痛」へと移行します。また痛み止めを毎日のように使用すると「痛み止めの使いすぎによる頭痛(薬剤の使用過多による頭痛、薬物乱用頭痛)」を発症してしまいます。慢性片頭痛や痛み止めの使いすぎによる頭痛のおよそ3割は頭痛が軽快しにくいことが言われており、頭痛を適切に治療しないことで、将来的に難治になる可能性もあるのです。
このような問題は頭痛に関する正しい知識を患者・周りの人(社会)・そして医療者が持つことで回避することが可能であるはずです。しかし、頭痛は我慢するもの、市販薬を飲めば治るから困っていない、などといった間違った偏見(スティグマ、図1)が世界中で根付いており、患者・社会・医療者の頭痛に関する正しい知識の啓発が必要です。地域における頭痛を持っていない一般の人々も含めた頭痛の大規模な啓発活動はほとんど行われておらず、また過去の海外の取り組みでは啓発効果を十分に得られていませんでした。そこで、糸魚川市や糸魚川市内の学校と共同で、頭痛に関する啓発活動を行うことにしました。
【方法】2021年8月から2022年6月にかけて、主に2つの介入を行いました。(図2)
介入1: 第1回新型コロナウイルスワクチン接種会場で頭痛に関する重要な6つのトピックを記載したリーフレットを配布し、第3回新型コロナウイルスワクチン接種会場でその知識の定着率を調査しました。
介入2: 2022年4月に糸魚川市内小中学校および高校において、好きな時間に家族で取り組めるように、頭痛に関する6つのトピックに関する内容を盛り込んだオンデマンドのeラーニング教材を配布しました。自宅で家族と一緒に取り組んでいただき、2022年6月に高校生と小中高校生保護者にその知識の定着率をオンラインで調査しました。
図2: 2つの啓発活動について
頭痛に関する6つのトピックは以下のとおりです。
1: 頭痛による経済損失は1人あたり176万円/年である。
2: 頭痛で学校や仕事を休むこと(アブセンティズム)よりも、頭痛でパフォーマンスが落ちること(プレゼンティズム)による損失のほうが大きい。
3: 頭痛は治療可能な疾患であり、治療が必要な疾患である。
4: 月に2回以上の片頭痛がある場合は、頭痛を起きづらくする予防療法の適応であり、病院の受診が勧められる。
5: 頭痛の治療は痛いときに使用する急性期治療薬だけでなく、頭痛を起きづらくする予防治療との2本立てである。
6: 痛み止めやトリプタンを月に10-15回以上使用することで頭痛がかえって悪化する、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)というものがある。
【結果】糸魚川市生産年齢人口の32.3%にあたる、6593人が2つのプロジェクトのどちらかに参加しました。6つのトピックの認知率は6.6-40.0%から64.1-92.6%と向上しました。(図3)
【今後の展望】 糸魚川市において行政・学校・病院が協力して、頭痛で困っている方だけでなく頭痛のない一般の方々も含めて頭痛に関して正しい知識を啓発することに成功しました。同様の啓発手法が今後世界中の別の地域や企業でも行われることが検討されつつあり、糸魚川市が頭痛啓発や疾患啓発のロールモデルとなる可能性があります。
片頭痛による社会的経済的損失は重大です。頭痛は適切な治療でその生活への支障を最小限にすることが可能な疾患であるため、今回の取り組みをきっかけに、日本中で頭痛に関する正しい知識が広まり、頭痛の治療が適切に行われることで、充実した暮らしや活力あふれる生活を送り、日本が経済的に豊かになっていくことが期待されます。
(論文情報)
論文名 Headache Education by Leaflets Distribution During COVID-19 Vaccination and School-Based On-demand E-learning -Itoigawa Geopark Headache Awareness Campaign-
著者 Masahito Katsuki, Yasuhiko Matsumori, Junko Kawahara, Chinami Yamagishi, Akihito Koh, Shin Kawamura, Kenta Kashiwagi, Tomohiro Kito, Masato Oguri, Shoji Mizuno, Kentaro Nakamura, Katsushi Hayakawa, Osamu Ohta, Noa Kubota, Hina Nakamura, Jun Aoyama, Isamu Yamazaki, Satoshi Mizusawa, Yasuhide Ueki, Maiko Nanri, Yuki Miyakoshi, Shuto Gobo, Akio Entani, Toshiko Yamamoto, Miyako Otake, Takashi Ikeda, Mitsuhiro Matsuo, Fuminori Yamagishi.
掲載誌 Headache (https://headachejournal.onlinelibrary.wiley.com/)
DOI 10.1111/HEAD.14472
https://headachejournal.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/head.14472
プレプリント https://www.researchgate.net/publication/361824954
日本において片頭痛患者の約6割は医療機関を受診せず、市販の痛み止めを使ったり我慢をしたりしているのが現状です。片頭痛は進行性の疾患と言われており、適切な治療をしないと年間3%の人が難治な「慢性片頭痛」へと移行します。また痛み止めを毎日のように使用すると「痛み止めの使いすぎによる頭痛(薬剤の使用過多による頭痛、薬物乱用頭痛)」を発症してしまいます。慢性片頭痛や痛み止めの使いすぎによる頭痛のおよそ3割は頭痛が軽快しにくいことが言われており、頭痛を適切に治療しないことで、将来的に難治になる可能性もあるのです。
このような問題は頭痛に関する正しい知識を患者・周りの人(社会)・そして医療者が持つことで回避することが可能であるはずです。しかし、頭痛は我慢するもの、市販薬を飲めば治るから困っていない、などといった間違った偏見(スティグマ、図1)が世界中で根付いており、患者・社会・医療者の頭痛に関する正しい知識の啓発が必要です。地域における頭痛を持っていない一般の人々も含めた頭痛の大規模な啓発活動はほとんど行われておらず、また過去の海外の取り組みでは啓発効果を十分に得られていませんでした。そこで、糸魚川市や糸魚川市内の学校と共同で、頭痛に関する啓発活動を行うことにしました。
図1. 頭痛に対する偏見(スティグマ)
【方法】2021年8月から2022年6月にかけて、主に2つの介入を行いました。(図2)
介入1: 第1回新型コロナウイルスワクチン接種会場で頭痛に関する重要な6つのトピックを記載したリーフレットを配布し、第3回新型コロナウイルスワクチン接種会場でその知識の定着率を調査しました。
介入2: 2022年4月に糸魚川市内小中学校および高校において、好きな時間に家族で取り組めるように、頭痛に関する6つのトピックに関する内容を盛り込んだオンデマンドのeラーニング教材を配布しました。自宅で家族と一緒に取り組んでいただき、2022年6月に高校生と小中高校生保護者にその知識の定着率をオンラインで調査しました。
図2: 2つの啓発活動について
頭痛に関する6つのトピックは以下のとおりです。
1: 頭痛による経済損失は1人あたり176万円/年である。
2: 頭痛で学校や仕事を休むこと(アブセンティズム)よりも、頭痛でパフォーマンスが落ちること(プレゼンティズム)による損失のほうが大きい。
3: 頭痛は治療可能な疾患であり、治療が必要な疾患である。
4: 月に2回以上の片頭痛がある場合は、頭痛を起きづらくする予防療法の適応であり、病院の受診が勧められる。
5: 頭痛の治療は痛いときに使用する急性期治療薬だけでなく、頭痛を起きづらくする予防治療との2本立てである。
6: 痛み止めやトリプタンを月に10-15回以上使用することで頭痛がかえって悪化する、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)というものがある。
【結果】糸魚川市生産年齢人口の32.3%にあたる、6593人が2つのプロジェクトのどちらかに参加しました。6つのトピックの認知率は6.6-40.0%から64.1-92.6%と向上しました。(図3)
図3:啓発結果
【今後の展望】 糸魚川市において行政・学校・病院が協力して、頭痛で困っている方だけでなく頭痛のない一般の方々も含めて頭痛に関して正しい知識を啓発することに成功しました。同様の啓発手法が今後世界中の別の地域や企業でも行われることが検討されつつあり、糸魚川市が頭痛啓発や疾患啓発のロールモデルとなる可能性があります。
片頭痛による社会的経済的損失は重大です。頭痛は適切な治療でその生活への支障を最小限にすることが可能な疾患であるため、今回の取り組みをきっかけに、日本中で頭痛に関する正しい知識が広まり、頭痛の治療が適切に行われることで、充実した暮らしや活力あふれる生活を送り、日本が経済的に豊かになっていくことが期待されます。
(論文情報)
論文名 Headache Education by Leaflets Distribution During COVID-19 Vaccination and School-Based On-demand E-learning -Itoigawa Geopark Headache Awareness Campaign-
著者 Masahito Katsuki, Yasuhiko Matsumori, Junko Kawahara, Chinami Yamagishi, Akihito Koh, Shin Kawamura, Kenta Kashiwagi, Tomohiro Kito, Masato Oguri, Shoji Mizuno, Kentaro Nakamura, Katsushi Hayakawa, Osamu Ohta, Noa Kubota, Hina Nakamura, Jun Aoyama, Isamu Yamazaki, Satoshi Mizusawa, Yasuhide Ueki, Maiko Nanri, Yuki Miyakoshi, Shuto Gobo, Akio Entani, Toshiko Yamamoto, Miyako Otake, Takashi Ikeda, Mitsuhiro Matsuo, Fuminori Yamagishi.
掲載誌 Headache (https://headachejournal.onlinelibrary.wiley.com/)
DOI 10.1111/HEAD.14472
https://headachejournal.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/head.14472
プレプリント https://www.researchgate.net/publication/361824954
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