4割の自治体で取材に来る“記者が減っている” マスコミで構成する「記者クラブ」の活用率について全国1788自治体にアンケート
「マスコミは行政の監視ができているのか」など約半数の自治体で現状の記者クラブに課題感
詳しい調査結果については弊社HPをご確認ください(参考:https://shireru.jp/blog/kishakurabu-katuyouritu)
記者クラブとは
日本新聞協会によれば、記者クラブとは『公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される「取材・報道のための自主的な組織」』です。
こと日本では『情報開示に消極的な公的機関に対して、記者クラブという形で結集して公開を迫ってきた歴史』があり、日本の報道界では『言論・報道の自由を求め』この“記者クラブ”という制度を一世紀ほどの時間をかけて培ってきました。
記者クラブには報道側・公的機関側、大きく2つの役割があるとされます。
①報道機関:公的機関等への継続取材を通じ、国民の知る権利に応える
②公的機関:国民への情報開示義務と説明責任を果たす
記者クラブは報道機関が一丸となって行政機関の情報にアクセスを訴える場所であると同時に、行政が情報を発信する場としても利用されています。日本新聞協会は『情報を迅速・的確に報道するためのワーキングルームとして公的機関が記者室を設置することは、行政上の責務である』とし、常時利用可能な記者室の存在が公権力の行使をチェックし、秘匿された情報を発掘していくためには欠かせないと訴えています。
参考:日本新聞協会HP
https://www.pressnet.or.jp/statement/report/060309_15.html
「全国の自治体記者クラブに関する調査」の結果要旨
調査を行ったところ、全国の約3割の自治体に記者クラブがあるとみられる結果になりました。一方で、都道府県庁や県庁所在地を除く大半の自治体で記者クラブの活用率が低く、記者クラブに職員を配置している自治体でさえ「記者を見かけたことがほとんどない」という状況が明るみに。
また「この5年間で記者クラブの利用率が減っている」と感じる自治体は約4割にもおよび、調査した自治体のうち半数近くが記者クラブの現状に何かしらの課題を持っていることも判明しました。
記者クラブに感じる課題について自由に回答を求めたところ「マスコミの弱体化」を指摘する声が多数あがりました。自治体職員側も記者クラブをただの情報発信の場としては捉えておらず「行政の監視機能」があることを理解しており、地域メディアの衰退が民主主義に影響を及ぼすのではと不安を抱く様子が伺えました。
本調査は、代表の山田みかんが「記者クラブのない自治体の情報発信」について興味を持ったことからスタートしました。弊社では、地方の過疎化に記者クラブの有無や活用率が関係しているのではないかという仮説を立て調査にあたっています。今後も記者クラブ加盟者側や、記者クラブに加盟していないWEBメディアなど様々なステークホルダーに向けて多角的な調査に取り組んでまいります。
調査概要
調査機関:株式会社Shireru(山田みかん、高森泉美)
期間:2024年5月14日〜同年9月30日
調査対象:全国の都道府県および市区町村 1788 自治体
調査方法:①各自治体の「広報担当部署のメールアドレス」を収集
②収集したメールアドレスに対し、アンケートの Google フォームを送付
③WEBでの回答が難しい場合は別途 PDF か郵送にて回答をもらう
回答数:WEB706 件、メール・郵送38件、回答拒否36件、 合計 780件
回答率:43.6%
調査結果詳細
①自治体内に「記者クラブ」があるのは約 3 割
「自治体に記者クラブはありますか?」の問いに対し、217自治体(回答した780自治体のうち27.8%)が「記者クラブがある」と回答しました。 全国の自治体をくまなく確認したわけではありませんが、国内の自治体のうち 3 割程度に記者クラブが存在していると想定されます。また「記者クラブがある」のは比較的都市部および人口が多い自治体であり、過疎地域や人口が少ない地域には記者クラブがほとんどないことが分かりました。なかには複数自治体で記者クラブを構成している地域もありました。
②平日日中に記者がいる記者クラブは約 4分の1
『記者クラブに「“常に”記者が1人以上」滞在しているますか(※平日 9~17 時に記者が席にいるなど、担当者様の印象で回答)』の問いに対し、記者クラブがある217自治体のうち55自治体(記者クラブがある自治体のうちの25.3%)が「記者が滞在している」と回答しました。平日常に記者がいると回答した自治体の多くが「都道府県庁」や「都道府県庁所在地」でした。
また都道府県庁や都道府県庁所在地でなくとも「鈴鹿サーキット」がある三重県鈴鹿市や、「倉敷美観地区」で有名な岡山県倉敷市、工業都市として全国でも名高い福岡県北九州市には常に記者が滞在していました。「自治体名の公表が不可」であるとの回答が多いため公表できる自治体が一部に限られますが、政令指定都市に限らず著名な観光都市ならびに経済活動が活発な市区町村の記者クラブには記者が常時滞在していることも分かりました。
③記者クラブがあるものの一部では「ほぼ記者がいない」が常態化
記者の滞在頻度を問うたところ、記者クラブがある217自治体のうち29自治体(記者クラブがある自治体のうちの12.4%)が「記者を見かけたことはほとんどない」と回答しました。また「月に1日は記者がいる」と回答した26自治体と合わせると55自治体(25.3%)、実に 4 分の 1 の記者クラブで記者がほぼいない状態であることが分かりました。 一方で、冒頭に記した通り記者クラブは有事の際など記者がスクラムを組んで取材交渉する場合に効力を発揮する場でもあり、常時記者が滞在する必要はないとも考えられます。
④5 年前と比べて「記者が減った」と感じる自治体が 4 割
記者の出入りについても問うたところ、記者クラブがある217自治体のうち「5年前と比べて滞在する記者が減った」と感じているのは93自治体と記者クラブがある自治体の42.8%に及びました。
肌感覚での回答とはいえ、5 年で半数近くの自治体において記者の出入りが減っている現状は、マスコミの情報収集速度が遅くなること、地方の情報が吸い上げられなくなること、すなわち地方の情報発信力の低下を意味しているのではないでしょうか。
⑤クラブに会計年度職員を配置するが、記者が来ない自治体も
記者クラブがある217自治体のうち、受付などの業務のために会計年度職員を配置している自治体が68ありました(記者クラブがある自治体のうちの31.3%に当たる)。
このうち1自治体では「記者を見かけたことがほとんどない」という状況にありました。また「月に1日」程度しか記者がこない自治体も6件ありました。
⑥自治体プレスリリース(報道資料)にまつわるあれこれ
調査に協力いただいた780自治体のうち、「プレスリリースを作成していない」とした自治体は71自治体(回答した全自治体の9%)でした。本アンケートにより「記者クラブというものを初めて知った」という回答も1件ありました。
民間のリリース配信サービスを利用しているのは61自治体で、回答した全自治体の7%でした。
プレスリリースの送付方法について、記者クラブのない189自治体が「近隣の市区町村にある記者クラブに配布している」としました。近隣自治体の記者クラブへの持ち込みについては「リリースするために近隣の記者クラブ所在自治体まで移動するコストが発生している」といった意見がありました。
⑦記者クラブの現状に関する各自治体職員の課題感
現状の記者クラブについての課題感を自由回答で問うたところ383自治体(回答した自治体の49.1%)から、何かしらの課題を感じているといった趣旨の回答がありました。
特に多かったのが「マスコミの弱体化」を指摘する意見で、63自治体が回答しました。弱体化の理由として「複数エリアの取材を掛け持ちする記者が増え、取材頻度が減った」とする自治体が多く、他に「マスコミの人手不足」をあげる声もありました。弱体化により「若手記者のレベルが下がった」との指摘も寄せられました。
さらに「記者クラブの形骸化」を挙げる声や「SNSやネットによる情報発信への移行」、「ペーパーレス化」など現行の記者クラブに変化を望む声が29自治体からあがりました。
記者クラブのない12自治体からは「情報発信のタイムラグ」が指摘されました。これは、プレスリリースをマスコミに配布するために近隣自治体へ向かうなどして生じる時間が、記者クラブのある自治体に比べてリアルタイムな発信の妨げになっているという内容でした。
<以下、自由回答より一部抜粋> ※一部()で内容を補完しています
●報道機関の人員が不足している。広報担当者と記者が顔を合わせる機会が減り、お互い満足のいく報道にならないことが多いと感じる。
●一記者の滞在可能時間は減っており、「行政監視」という意味が薄れているように感じる
●報道機関によっては、連絡棚のプレスを月一くらしか取りにきてくれない。
●加入報道機関への情報周知はできるが、未加入の報道機関への情報提供が難しいと感じる。
●(マスコミの弱体化で)自治体自身が情報発信の主体になる必要があるが、いまだ報道機関並の情報発信は難しいのが課題。
●記者クラブに加入していなくても、市からの情報が得られるため、記者クラブが形骸化している
●メール等でペーパーレスの情報共有を進めたいが先方(マスコミ)の事務がFAXを必要としているため、移行できずにいる。
●常駐していない報道機関にはEメールで情報を伝えているが、温度感は伝えることができない
●地方行政担当であっても、全国的・国政的な事案に係る取材活動の割合が多くなってきていると思われ、地元独自の事案の取材が少なく感じられる。限られた地方での記者リソースを活用する部分で難しい面もあると思うが、地元の魅力や地元で活躍する人や企業などにもっと焦点を当てた取材を行っていただき、行政と一緒に地元を盛り上げていただきたい。
今後の展望について
弊社では、本調査を皮切りに「地方の情報がどのように取り扱われているか」について調査を続けてまいります。今回入手した回答をクロス分析し、記者が減ったと感じている自治体の取材露出数の変化などを調べる予定です。
また記者クラブを利用するマスコミ側の意識調査や、 YouTubeなどで発信するメディアが「地域情報を取り上げた割合」についても現在調査を行なっています。
株式会社Shireru
※本調査の結果についてご紹介いただける場合や詳細のお問い合わせは、以下問い合わせフォームまでご連絡くださいますようお願い申し上げます。
株式会社Shireru
お問い合わせ:https://shireru.jp/#contact
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