ケンカバトルロワイヤル、バン仲村、後藤祐樹、SATORUなどのYouTube運営で見えた、映像ディレクター「スラムリッチ」のバズらせ理論とヒップホップ愛について聞いてみた。
音楽&ダンスのカルチャーマガジン『ムーヴメントプレス』が迫る話題の人物へのインタビュー!スラムフッドスターを運営する『スラムリッチ』のインタビュー記事を掲載しました。
ビデオディレクターとして、勢いのあるラッパーの映像作品を手がける他、HIPHOPメディア"©スラムフッドスター"の運営、”ケンカバトルロワイヤル”などのYouTubeチャンネル運営やイベント運営なども行う、謎に包まれた人物である『スラムリッチ』にインタビュー!
HIPHOPや喧嘩をコンテンツに昇華し、「生き様」をコミカルに映像に落とし込む技術に長けた彼のバックグラウンドやクリエイティビティのルーツについて話を伺った。
スラムフッドスター立ち上げはシンプルなヒップホップ愛から
ーヒップホップメディア”スラムフッドスター”を立ち上げたきっかけについて教えて下さい
スラムリッチ:自分自身ヒップホップが中学の時から大好きだったので、好きなものを表現しながら食っていけたら、どれだけ素晴らしい生き方だろう、というシンプルな思いと勢いで、スラムフッドスターのチャンネルを作り活動をはじめました。
また、日本には国内のアンダーグラウンドも含めたヒップホップシーンをフックアップする専門メディアが無かったことも影響しています。
始めた当時、Lyrical Lemonade(リリカル・レモネード)がメインストリームのアーティストとは別に、シカゴのローカルアーティストを取り上げてバズっていました。
例えメジャーアーティストじゃなくても、シーンで有名でなくとも、面白いメディアさえ作れば、新しいヒップホップファン層のコミニュティと、新たなヒップホップスターを産み出せるはずと、USのシーンを見てて確信していました。
パソコンを一通り触れるようになって、試行錯誤しながら、映像作りが好きな自分が「インターネットを使って、ヒップホップシーンにどれだけ影響を持たせられるか」という自分試しをしながらも、スラムフッドスターを作り上げていきました。
ーヒップホップが好きになったきっかけはありますか?
スラムリッチ:中学生の時、給食の時間にラジオからDragon Ash featuring ACO, ZEEBRA『Grateful Days』が流れてきて、このDragon AshとZEEBRAさんの曲からヒップホップにハマりました。
自分自身は、学校はほぼ不登校で、真面目な生活からは逆に生きていたので、悪をラップで歌った音楽は当時少なく、不真面目な自分に肯定的な音楽で響きました。(笑)そこからずっとヒップホップが好きです。
ー映像作りはどのように始めたのですか?
スラムリッチ:ビデオディレクターになったのは、趣味として愛車のスポーツバイクを撮っているうちに、ラッパーも撮ってみたくなったのがきっかけになりました。
まだ何も実績がない頃に、SNSで無料でミュージックビデオを撮ります!と発信をしていたら、埼玉のラッパークルー Mandallaが連絡をくれて、NAS 『I CAN』をサンプリングして、貧困や格差社会をテーマにした楽曲のミュージックビデオを撮ろうということになりました。
ロケーションに選んだ埼玉の上尾は、工場や団地が多く、ヒップホップらしく団地を使った撮影を行いました。
それがスラムリッチとしては、1作品目となるMANDALLA『3RD IMPACT』です。
そのクリップをTwitter(現:X)で投稿すると、ヒップホップヘッズからの反応が割と良くて、拡散もされたので、一発目のミュージックビデオから、アドレナリンというか、興奮を覚えたのが記憶にあります。
SNSでの反応が楽しくて面白くて、これで食べていけたら良いなと思い、そこから映像制作にのめり込みました。
ー独学で映像制作を始めてから、仕事にするためにしたことはなんですか?
スラムリッチ:仕事としては、字幕編集などの地味な事から始めて、本格的に映像制作をスタートしたいと思った時に、高性能なゲーミングPCやら、SONYのα7のカメラなど機材を揃えました。
中学生の頃から親父の持っていたパソコンを使って、学校の裏掲示板BBSとかを作ったりなど、昔から遊びながらパソコンを触る習慣があったので、撮った映像をパソコンで遊んでいくうちに制作は勝手に覚えていきました。
ー影響を受けた作品について教えて下さい
スラムリッチ:A$AP Rocky『L$D』や『The God Hour』とか演出がサイケデリックだったり、トリッピーな作品はすごく影響受けました。何度も見て、食らったというか。
ストリートでギャングな絵面のMVより、見ていてコミカルで頭に残るような演出の作品が好きです。
他にはCole BennettやDirector Xとか、USで活躍するディレクターの作品などに影響を受けています。
ー制作において意識していることや企画の考え方を教えて下さい
スラムリッチ:ミュージックビデオはアートとして自己表現をするような制作をしています。テーマはアーティスト自身が表現したい事に付け加えて、リリックからシーンを構成してテーマや演出を構成しています。
YouTube動画の企画はバズってるトレンドを意識して、既存のあるネタを元に改良して、バージョン1.2にするみたいな考えですね。ブレイキングダウンが流行ってすぐ、元ネタからちょっと変えたのを出したのがケンカバトルロワイアルでした。
YouTubeでヒットするバズ動画を狙うのであれば、オリジナリティが高すぎる、見たことの無いような番組企画は視聴者が求めてないと思います。ある程度サムネから内容が想像できる、王道を狙うべきで、オリジナリティにあふれるトンガリ企画はスベるってのは経験上知っているので、企画を考える時はその辺を配慮しています。
みんな視聴者は関連動画から似たような物を連続で見るのがYouTubeでの習慣的な行動だと思うので、YouTubeはある程度周りに合わせる意識あった方が上手く行く考えなのかなと思っています。
ー撮影のこだわりはありますか?
スラムリッチ:こだわりというと、ちょっと違うかもしれないのですが、絵コンテと撮影スケジュール管理をしっかり作り込んで、無駄のない撮影をするようにしています。
ヒップホップのビデオクリエイターの多くは、僕と同じように独学な方も多くて、基礎知識の無い監督さんの撮影現場で絵コンテもなく、スケジュール管理ザックリで、永遠と同じシーンを何回も撮影してるといった現場を経験したことがあって、それがめっちゃしんどかったので、自分が監督する際はとにかくスマートに終わるように管理の部分はこだわっています。
ー今までYouTubeチャンネルのプロデュースも数多く成功させていますが、どのように始まったのでしょうか?
スラムリッチ:僕が映像制作を始めた頃に、通っていたタトゥースタジオの彫師さんの知り合いづてで、元モーニング娘の後藤真希さんの弟 元EE JUMPの後藤祐樹さんを、ご本人が「YouTubeチャンネルを立ち上げたい」というタイミングで紹介してもらい、運営初期頃の企画、編集、チャンネルのデザインなどの全般を担当しました。当時、後藤祐樹さんがABEMAの企画で話題となった「朝倉未来にストリートファイトで勝ったら1000万円」のオファーが入っていた良いタイミングだったことと、主婦ネタや犬のネタの定番企画をやったらウケて、1ヶ月で登録者が一気に10万人までいきました。今はもう一緒にお仕事はしてないのですが、YouTubeで初めて軌道にのり、YouTubeだけの収入で暮らせるようになりましたね。
さらなるターニングポイントとなった、SATORU、バン仲村との出会い
ーケンカバトルロワイヤルが生まれたきっかけについても教えて下さい
スラムリッチ:自分が久保田覚のYouTubeチャンネルを立ち上げた後、彼の酒癖が悪く仲違いしてしまい、久保田覚も別でャンネルを立ち上げたため、残った”元”久保田覚のチャンネルの使い道をどうするか?ということを、当時マネージャーとして手伝ってもらっていた同級生に相談していたら、喧嘩自慢専門のチャンネルが無いことに気づいたんです。
これを企画化したら面白いなと考えていたところ、ちょうど「久保田覚のアンチ撃退企画」の応募者リストがあったので、希望者にケンカバトルロワイアルの企画を伝えると「是非出たいです!」という声が多く、すぐ対戦表とスケジュールを当時のマネージャーと組んで番組作成を開始しました。
その応募者のリストの中にたまたまSATORU氏もいて、ヒップホップファンだった自分は元々SATORU氏を知っていたので、ラッパーと格闘技の相性の良さや可能性を感じていました。
結果SATORU氏のキャラクターもあって、一本目がバズっていたタイミングで、バン仲村氏からSNSを通じて連絡をいただき、ケンカバトルロワイアルシーズン1の二回目の収録で出会いました。
当時、バン仲村氏はブレイキングダウンへの応募もしていて、オーディション動画には出演したものの、番組の都合上により本編には採用されておらず、まだ知名度が高くない状態。
そのため、他の番組にも出演応募をしており、その中の一つがケンカバトルロワイアルでした。
「瓜田純士と因縁がある」というストーリーがある時点で、ケンカバトルロワイアルとしては即採用だったので、出演者として即試合を組みました。
"とにかくよく喋る赤いスーツの面白いおじさん"という印象で、まさかあんな大人気タレントになるなんて、今でもビックリしてます。
そんな色々なタイミングと奇跡が重なってケンカバトルロワイアルは立ち上がり、シーズン1〜3まで自分が企画・プロデュースをしていました。今は別制作の運営チームができたので、あまり関わってません。
ーケンカバトルロワイヤルの面白さとは?
スラムリッチ:ランダムに不良が無差別級で戦いあうところが、格闘技に興味がない人でも面白いかなと思います。
実際に自分も格闘技の事や有名な人など全く知らなくて、有名超格闘家を前にしてもピンとこないくらい知りませんでした。
当時一緒にやっていた格闘技好きな同級生と、素人ながら考えたのがかえって面白いルールとなり、結果としてバズったのかなと思います。
シーズン3までのロケ地は高校からの仲間から建築の資材置き場を借りて、グラフィティーとか会場演出をやったり、YouTubeならでは少しチープな文化祭みたいなノリの感じも面白いと思ってます。
イギリスでロードマンファッションが流行ったのは日本の忍者文化の影響!?企画『TOKYO DRILL』で目指すものとは
ー話題になったTOKYO DRIFTをDRILLビートに載せて発信する企画”TOKYO DRILL”はどのような意図で始めた企画でしょうか?
スラムリッチ:ドリルは、ヒップホップのサブジャンルの中でも、過激なリリックに暴力的な背景のあることが多く、リアルにストリートで活動するアーティストも珍しくありません。
そういった事情から、このシーンにおいては、顔出しが完全NGでもアーティストとして成立していることなども、個人的に面白いなと感じていて、盛り上がりそうなジャンルだという思いから、最初は企画しました。
CentralCeeのビデオを監督したSUAVEからフォローされ、DMで交流しているのですが、彼は、イギリスは日本の忍者文化(ナルトとか日本のアニメが流行っている)の影響で、「イギリスでは日本のカルチャーからロードマンファッションスタイルが流行ったんだ」なんていう自論を持っています。
彼は、日本や忍者が大好きで、日本のドリルジャンルのアーティストをイギリスのチャンネルに出演させたいと言っていて、現在来日のスケジュールを調整しています。
TOKYO DRILLでの機会協力をしてもらうように伝えるとOKをもらったので、また新たな化学反応が生まれると思います。
タイミング的に今かな?という感じで、二回目のTOKYO DRILLもスタートしました。
覆面をつけて、キャラクター性を保っているアーティストが世に出てきたのも、ここ最近のことなのかなと感じているのですが、日本において、覆面をしてイギリスのロードマンファッション、いわゆる忍者みたいなスタイルは割とニュースクールだからこそ、海外から見ても分かりやすい”TOKYO DRILL”というワードで日本のドリルシーンがもっと確立していき、世界的に盛り上がればいいなと考えています。
ーMAX、JETG、Link Hood、NARIMIMI、Whoopee Bombなど勢いのある若手のミュージックビデオの制作もされていますが意識していることなどはありますか?
スラムリッチ:若手アーティストが中心なのは、割とそこそこビデオ撮る経験があるアーティストだと、拘りや色があるので、それを崩すのが難しく、ディレクションしにくかったという経験があったということも影響しています。
よくあるヒップホップミュージックビデオって、街中のストリートで撮っていたりすると思うのですが、それだと似たような絵になりがちで印象に残らないなって感じています。
スタジオを使って絵をユニークにしたり、コミカルにしたり、編集も見飽きない作りになるよう工夫しています。
若手の勢いのあるアーティスト達がより多くの人に印象に残るように演出は他と差別化できるように意識してます。
スラムフッドスターで一緒に活動している仲間のt.t.t.がクリエイターとして加わってくれて、彼がJETG君のビデオをあげてから、チームでお互い刺激しながら切磋琢磨する事を、最近は意識してます。
ー現在使っている機材やエディターについて教えて下さい
スラムリッチ:都内に住んでからは、機材は買って揃えずに、テレビ局が使う宅配も可能なレンタル業者からSONYのシリーズを中心に借りて使っています。一台で数百万のカメラ使うなら今時はレンタルの方がコスパ良いかなと最近気づきました。編集ツールはDaVinci Resolvを使っています。
ーこれらの活動は、なんのために行っているのでしょうか
スラムリッチ:趣味で始めてから、気づいたらお金を稼ぐ仕事になっていたんですが、今は自分が大好きなヒップホップシーンに影響を与えるような面白い物を作るために、日々活動しています。
ー将来的に目指しているものを教えて下さい
スラムリッチ:YouTubeチャンネル主催のヒップホップイベントというのは、あまり見ないので、スラムフッドスターのチャンネルに出演してくれたアーティストを沢山呼んで、勢いのある若手の新進気鋭のアーティストを中心に、ヒップホップファンが楽しめるイベントやフェスをやりたいという目標を叶えたいですね。
個人的な目標としては、ミュージックビデオ監督だけではなく、数年後には映画監督も目指しています。
中学の時から同級生と学校サボって映画を沢山見ていた時期があって、いつかは映画監督をやってみたいと思っています。考えていた夢を実現させれたらいいなと、少しずつ映画制作についても学んでいます。
掲載メディア
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