広告に対する苦情、2024年度上期の状況は?(JARO)
苦情上位は医薬部外品、健康食品、オンラインゲームなど ダークパターンや不当なNo.1表示も
日本広告審査機構(JARO)は1974年から広告に対する苦情を受付・審査しており、その統計を年2回公表しています。2024年度上半期(4月~9月)の統計がまとまりましたのでご報告いたします。
この時期の総受付件数は5,311件、うち苦情は4,095件でした。委員会で審議した「見解」は11件で、今期もネット上の広告・表示が多くを占めました。テレビ番組で取り上げられたかのように宣伝する医薬部外品、実際とは異なる「リピート率97%」とうたう健康食品、糖尿病治療薬をダイエット目的で処方するGLP-1ダイエットなどに改善を求めました。
2024年度上半期審査状況(詳細) https://www.jaro.or.jp/news/20250107.html
◇ 総受付件数5,311件、苦情は過去最多だった2020年度から漸減
◇ 業種別:健康食品が再び増加、特に精力増強をうたうものが急増
◇ 媒体別:「インターネット」微増、他媒体は減少
◇「見解」11件、厳重警告は医療機関などに8件発信
◇ GLP-1ダイエットで医療機関とサイト運営事業者に厳重警告
◇ 違法な表示の多いネット通販系美容商材、ダークパターンも
総受付件数5,311件、苦情は過去最多だった2020年度から漸減
2024年度上半期は苦情が4,095件、前年同期比92.3%と減少したが、称賛、照会は増加した。
2019年度に媒体別「インターネット」が前年比142.2%と急増し、2020年度にさらに伸びて、苦情は過去最多となった。そこから減少が続きグラフは山型となっている。
苦情を広告主別に見ると、2020年度に比べ広告主数が大きく減少した。一因として、近年の表示行政における規制強化や相次ぐ執行があると思われる。
苦情の業種別件数:健康食品が再び増加、特に精力増強をうたうものが急増
苦情4,095件を業種別に見ると、上位は医薬部外品、健康食品(保健機能食品以外)、オンラインゲームとなった。前年同期と同様に医薬部外品が最も多く寄せられた。増加が目立ったのは健康食品(保健機能食品以外)、電子書籍・ビデオ・音楽配信、通信販売、保健機能食品などだった。
医薬部外品は、「1回限り、解約不要、追加料金一切なし」と大書しながら実際には購入する画面で定期購入契約となることが分かりにくく表示されている、解約に追加料金がかかるといった事例である。そのほかシミを表現した加工した画像への不快感も多かった。
美容・健康系商品では、健康食品(保健機能食品以外)、保健機能食品が前年同期より増加した(グラフ)。今期は精力増強をうたう広告への苦情が急増し、健康食品(保健機能食品以外)は80件(前年同期9件)、保健機能食品は27件(同0件)あった。生成AIを使うなどして多くが性的なビジュアルを使用しており、卑わいである、広告を非表示にすることができない、一般的なサイトを閲覧していて表示されるなどの苦情が多数寄せられた。
オンラインゲームについては、卑わいまたは残虐な表現に対するもの、広告とゲーム内容が異なるものに対して寄せられた。前年同期より減少したが、媒体「インターネット」については増加した(139件、前年同期104件)。通信販売は特定のECサイトの広告に68件寄せられ、無料プレゼントや○○%OFFなどとお得感をうたっているが条件がある、著名企業と紛らわしい表示をしているといった苦情が寄せられた。そのほか、広告がオプトアウトしても止まらない、1ページに同じ広告が複数出るなどの声があった。
医院・病院については、特定の医院に31件寄せられ、男性 器を表現したものに対して、不快である、子どもも見る媒体に掲載すべきではないとの声が寄せられた。また、GLP-1ダイエットを訴求した医療機関紹介サイトの事例では医療機関とサイト運営事業者に対し、それぞれ「厳重警告」を発信した(後述)。買取・売買については近年増加傾向にあったが、今年4月に景品表示法の景品告示が改正され、同法の規制対象となることが明確化されたこともあり、苦情が減少した。
苦情の媒体別件数:インターネット微増、他媒体は減少
苦情4,095件の媒体別上位はインターネット、テレビ、ラジオの順で前年同期と同様だった。インターネットは微増、他の媒体は減少した。
インターネット2,000件の内訳は、医薬部外品195件(前年同期189件)、オンラインゲーム139件(同104件)、「電子書籍・ビデオ・音楽配信」136件(同108件)が上位。
そのほか増加したのは健康食品(保健機能食品以外)126件(同91件)、通信販売85件(同27件)、保健機能食品59件(同29件)などだった。
テレビ1,652件は、上位が医薬品58件(同77件)、自動車57件(同65件)、加工食品53件(同57件)でいずれも減少した。内容別では「音・映像」の不快感849件(同1,031件)、社会規範78件(同165件)が減少した。
これは前年度にオンラインゲームのCMに対し、アニメで描かれる少女の服装等が不快、児童買春を想起させると言った苦情が多かったためである。
「見解」11件、厳重警告は医療機関などに8件発信
今期は11件を審議した。内訳は厳重警告8件、警告2件、要望1件、助言0件。委員会での審議を経ずに事務局が広告主に改善を促す事務局文書発信は8件だった。
見解11件中、定期購入の事例は6件、No.1・高評価%表示が含まれていたのは5件、アフィリエイトが関係するものは6件あった。
厳重警告・警告の一覧
●厳重警告1 医薬部外品(クリーム) 「若返りすぎて炎上」などと違法な効果の表示や、合理的根拠に基づかず「堂々の3冠受賞」などと表示。 媒体:インターネット(アプリ内動画広告、中間ランディングページ、自社販売サイト) |
●厳重警告2 医薬部外品(クリーム) 厳重警告1と同じ事例。アフィリエイター宛て。 媒体:インターネット(アプリ内動画広告、中間ランディングページ) |
●厳重警告3 医薬部外品(クリーム) 「20代の頃の肌が手に入った」という体験談や、根拠なく「美容皮膚科医の間で話題」などと表示。 媒体:インターネット(アプリ内動画広告、中間ランディングページ、自社販売サイト) |
●厳重警告4 医薬部外品(クリーム) 「絶対にしわが消える」などと違法な効果の表示や、根拠なしに「○○(テレビ番組名)炎上後爆売れ」などと表示。 媒体:インターネット(中間ランディングページ、自社販売サイト) |
●厳重警告5 医院・病院 医療法上の広告可能となる条件を満たさず、「GLP-1内服薬で食欲を減らし痩せ体質に」などと表示。 媒体:インターネット(ニュースサイト上の動画広告、中間ランディングページ、中間LPから遷移したサイト) |
●厳重警告6 医院・病院 厳重警告5と同じ事例の予約サイト運営事業者宛。 媒体:インターネット(ニュースサイト上の動画広告、中間ランディングページ、中間LPから遷移したサイト) |
●厳重警告7 化粧品(美容液) 「肌のサビ抜き」などと違法な効果の表示や、わずか1日のみ1位獲得したことを「○○(大手通販サイト)で3冠獲得」などと表示。 媒体:インターネット(中間ランディングページ、自社販売サイト) |
●厳重警告8 健康食品(サプリメント) 「飲む脂肪吸引」など違法な効果の表示や、合理的な根拠なしに「圧倒的リピート率97.2%」「メディア掲載実績多数」などと表示。 媒体:インターネット(中間ランディングページ、自社販売サイト) |
●警告1 エステティックサロン 合理的な根拠なしに「医療監修施術」「肌再生」などと表示。 媒体:インターネット(美容系サロン検索・予約サイト) |
●警告2 化粧品(頭皮用美容液) 「もう染めない」「黒髪本来の美しさを引き出す」などと白髪が黒髪になるかのような表示。 媒体:インターネット(SNS上の画像広告、中間ランディングページ、自社販売サイト) |
●2024年度上半期のトピックス
GLP-1ダイエットで医療機関とサイト運営事業者に厳重警告
今期はGLP-1ダイエットに関する事例があった。これは、2型糖尿病治療薬として製造販売が承認されているGLP-1受容体作動薬を、ダイエット等の目的で処方するものである。
問題となったのは、オンライン診療予約サイトに誘導するディスプレイ広告とランディングページの表示で、2型糖尿病治療薬の名称や痩身効果の表示が医療法に抵触するおそれがあるとして、医療機関Aとオンライン診療予約サイト運営事業者Bに対して厳重警告を行った。(前述の厳重警告事例5、6)
≪事例≫
オンライン診療予約サイトのディスプレイ広告やランディングページが、処方箋医薬品である2型糖尿病治療薬などの複数の名称を挙げ、「医療で痩せ体質」「独自の痩せる処方プランで平均マイナス4kgを実証」などとうたっているのは問題があるのではないか、と苦情が寄せられた。
JARO事務局がディスプレイ広告とそこからリンクしたランディングページの表示を確認したところ、いずれも表示を行ったのは、オンライン予約サイトの運営事業者Bであった。これらの表示は、医療法の「広告」該当性要件である誘引性、特定性を満たすことから、同法の「広告」に当たると判断した。また、ランディングページの「特定商取引法に基づく表記」に医療機関Aが表示されていることから、ディスプレイ広告およびランディングページは医療機関Aを広告主とした医療広告であると判断した。そのため、医療法の広告規制に違反するかどうかを審議した。
医療法では、広告できる事項が限定的であるが、限定解除要件(医療広告ガイドラインP32「2広告可能事項の限定解除の具体的な要件」1~4)を満たした場合に、他の事項を広告することができる。ディスプレイ広告は1を満たさず、ランディングページについては「特定商取引法に基づく表記」に医療機関Aの記載があるのみで、Aの医療広告であることが大変分かりにくいため2を満たさないと考えられる。そのため、いずれも限定解除要件を満たさず、「広告可能な事項」以外の事項は表示できない。
したがって、「医療で痩せ体質」や2型糖尿病治療薬の名称などの表示は、医療法に抵触するおそれがある。
また、承認された効能効果と異なる目的(2型糖尿病で承認された医薬品をダイエット目的で処方)で医薬品を広告する場合には、未承認の医薬品であることや入手経路の明示など5項目を満たす必要があるが、それらも満たしていなかった。
したがって、医療機関Aに対し、表示の改善を求める厳重警告を行った。また、医療法の広告規制は、「何人も・・・してはならない」という規制であることから、サイト運営事業者Bに対しても同様に厳重警告を行った。
なお、GLP-1ダイエットについては、GLP-1受容体作動薬の需要増加があり、患者に届かなくなるおそれがあることから、厚生労働省や日本糖尿病学会などが適正な使用を呼び掛けている。
違法な表示の多いネット通販系美容商材、ダークパターン事例も
「見解」発信事例は、2011年度から最多媒体が「インターネット」という状況が続いており、年度によっては9割以上を占める。消費者の誤認を誘って契約させようとする著しく不適切な事例は、医薬部外品、化粧品、健康食品が多く、それらに共通してよく見られるのは下記のような表示である。
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誇大、逸脱した効能効果
「若返りすぎて炎上」「医療級 塗るボトックス」「以前は処方せんなしでは手に入らない成分 その効果は絶大」など極端な効果の表示が見られる。入口になるのは、あり得ない効果を表現した動画広告や生理的不快感をおぼえる画像を用いたディスプレイ広告が多い。
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欺瞞的なお得感、あおり
いつ見ても同じであるのに「このページから離れてしまうと特別価格での購入ができなくなります」「○月○日現在残り3個」などのダークパターンのほか、割引価格や景品提供が受けられるようにうたいながら、実は条件があって高額の契約となってしまうケース、定期購入であるのに「定期縛りなし」とか、「このページのみ特別割引」「全額返金」などと強調するケースなどがある。
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テレビ番組や雑誌で紹介
「○○(テレビ番組)炎上後、爆売れ」など放送局や番組名を表示したり、「メディア掲載実績多数!」などと雑誌の表紙を並べた画像を表示するケースがある。事務局から照会すると、製品が取り上げられたのではなく含有成分が紹介されたもの、雑誌に記事で取り上げられたのではなく広告出稿したものだった。虚偽のケースもある。
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行政・専門家の承認・推奨
「厚生労働省が認めた医療級のシワ改善成分」「現役医師が語るしわ・たるみの解決策」など行政のお墨付きや医師・研究者の推奨など権威から認められたかのような表示がある。厚生労働省等から承認を受けて販売する医薬部外品制度を、特別なお墨付きであるかのように表示したり、承認された効能効果の範囲を超えて表示しているケースが多い。
虚偽や誇大広告である場合もあるが、行政や医療関係者が推奨しているかのような表示は、医薬部外品、化粧品では表示してはならない事項である(医薬品等適正広告基準第4-10 医薬関係者等の推薦)。健康食品については同基準の対象ではないが、事実でなければ景品表示法の不当表示に当たるおそれがある。 -
不適切なNo.1表示、高評価%表示
「堂々の3冠受賞!」「圧倒的リピート率97.2%」などと表示しているが、事務局がその根拠を尋ねると、ウェブサイトやパッケージに関するイメージ調査であったり、こじつけた数字の足し上げであるなど、不適切な表示であることが多い。
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違法な表示が多数見られる中間ランディングページ
情報サイトやソーシャルメディアに表示されるディスプレイ広告、動画広告などからランディングページ(LP)を経由して広告主の販売サイトに至るケースが多く、LPには特に違法な表示が多い。LPはアフィリエイターや広告会社などの第三者が作成することもあるが、広告主がその第三者に表示内容の決定を委ねた場合は、景品表示法上、LPにおいても広告主(販売業者)が表示の責任を負う。
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ステルスマーケティング
利用者の体験談や医師・美容家などの推奨コメントが掲載されているが、事務局から照会すると、広告主が依頼してコメントしてもらったものを掲載したとのことだが、その旨の記載がない。
上記のような表現が複数含まれているものが典型例であるが、その表現にも変化が見られる。4年前には医薬品のような効果をうたった明らかに違法なディスプレイ広告が多かったが、最近では生理的不快感をおぼえるビジュアルのものが増え、さらに今期は、精力増強をうたった性的な表現のものが急増した。
JAROの苦情ウェブフォームにはスクリーンショットを最大3つ添付でき、画像を提供いただければ、苦情申立者が見た表示をJAROでも確認できる。ただ、(1)ディスプレイ広告や動画広告、(2)中間ランディングページ、(3)公式通販サイト、というステップで遷移する事例が多い中で、苦情申立時に(1)の情報がなく、JAROで確認できないことが多い。そのため、審議にあたっては(2)(3)のみを対象とすることも多い。ネット通販の最終確認画面や広告など、特に初めて取引する事業者の場合はスクリーンショットを撮っておくよう、消費者に呼び掛けていく予定である。
2024年度上半期審査状況(詳細)
https://www.jaro.or.jp/news/20250107.html
各年度の審査状況
https://www.jaro.or.jp/shiryou/soudan_kensuu/index.html
JAROについて
JARO(ジャロ)は1974年に設立された民間の広告自主規制機関です。「悪い広告をなくし、正しいよい広告を育てたい」という広告界の念願で、広告主、新聞社、出版社、放送会社、広告会社、広告制作会社など広告に関係する企業が自ら集い、JAROを設立しました。年間1万件弱の苦情を受け付け審査する審査活動だけでなく、広告規制情報を扱うセミナーや相談対応などの事業者支援、行政・団体などとの連携・協力など、消費者啓発活動や協働も行っています。
≪組織概要≫
公益社団法人 日本広告審査機構(Japan Advertising Review Organization, JARO)
事務局: 東京都中央区銀座2-16-7銀座2丁目松竹ビルANNEX
関西事務所:大阪府大阪市北区梅田 2-5-8 千代田ビル西別館
理事長: 西澤 豊(時事通信社顧問)
会員社数: 877社(広告主368社、新聞77社、放送177社、出版40社、インターネット(媒体)23社、
広告会社163社、広告関連29社)2024年12月現在
設立: 社団法人許可1974年10月15日、公益社団法人認定2011年4月1日
≪苦情受付≫
広告に対する苦情、ご意見は広告みんなの声ウェブフォームで受け付ています。
https://www.jaro.or.jp/koe/index.html
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