「現実とは何か?」を問い直す作品が新たに登場現代美術館ラビットホー ルの『イシカワコレクション展:Hyperreal Echoes』後期展示が10月2日スタート
―フィリップ・パレーノ、ピエール・ユイグ、ミカ・タジマ、ヤン・ヴォー、小泉明郎、M/M (Paris)、ウーゴ・ロンディノーネら7作家9作品が入れ替えによって展示開始―

大型彫刻やインスタレーションなど、多数の先鋭的な国内外のコンセプチュアルアート約400点によって構成される「イシカワコレクション」。これらを常設一般公開するための現代美術館「ラビットホール」(運営:公益財団法人石川文化振興財団)では2025年の開館時より、現実と虚構の境界を揺るがす様々な表現が繰り返し現れるというテーマに基づき、厳選した約30点の作品を紹介する「イシカワコレクション展:Hyperreal Echoes」を開催してきました。この度、一部作品の展示替えを行い10月2日(金)から後期展示をスタートします。
今回の展示替えでは、フィリップ・パレーノ、ピエール・ユイグ、ミカ・タジマ、ヤン・ヴォー、小泉明郎、M/M (Paris)、ウーゴ・ロンディノーネら7作家による9作品が加わります。
人間の創り出したイメージとコンピューターによるアルゴリズムを儚い蛍に重ねたフィリップ・パレーノ、生産による労働から生じるとりとめない音やエネルギーをコンピューターの祖先ともいえるジャカード織機で美しくも儀式的に記録しようと試みるミカ・タジマ、存在しないキャラクターや現実かとも思えるような模型を巧みに使った映像で虚と実の狭間を混ぜ合わせるピエール・ユイグなど、今回加わる作品には、私たちが「現実」と認識しているものの成り立ちを問い直すさまざまな試みを見ることができます。
建築家・青木淳の手による、場所が持つ時代の重なりを随所に感じさせるユニークなリノベーション建築空間で、鋭敏な感性によって切り取られたコンセプチュアルアートと向き合う。アートと建築が共鳴する空間で、現代社会における現実と虚構の関係に思考を巡らせる機会となるでしょう。
展覧会タイトルにある“ハイパーリアル”とは、現実が記号やシミュレーションによって置き換えられ、オリジナルのない複製(シミュラークル)が支配する状況をいいます。ニュースやソーシャルメディアが現実認識に与える影響ひとつとっても、現代社会における現実と虚構の複雑な関係を理解する上で、重要な論点であることは間違いないでしょう。このテーマに寄り添う現代美術作家は、現実よりもっと早く、そのプラクティスに挑んでいる点が優れています。本展「イシカワコレクション展:Hyperreal Echoes」は、現代美術における物質化と非物質化のエッセンスを捉えると同時に、言葉、物質、非物質の関係を暗示する作家作品など、9点を新たに展示替えし、引き続き時代の関心事を反映した作品を紹介していきます。
黒澤 浩美/ラビットホール ディレクター




■「ラビットホール」展示概要
施設名称:ラビットホール(英語名:THE RABBIT HOLE)
展覧会:「イシカワコレクション展:Hyperreal Echoes」(後期展示2026年10月2日から。2028年春頃まで継続予定。)
住所:岡山県岡山市北区丸の内2丁目7-7
開館日:木曜日〜日曜日、祝日 開館時間:10:00-17:00(最終入場16:30)
休館日:月曜日〜水曜日(但し祝日の場合は開館)
年末年始の開館について:2026年12月31日(木)~2027年1月3日(日)は臨時休館いたします。
なお、2026年12月28日(月)~30日(水)、2027年1月4日(月)~6日(水)は通常の休館日となります。
入館料:大人1,500円(18歳以下無料)
電話番号:086-230-0983 駐車場:なし
公式Web:https://www.ishikawafoundation.org/project/rh/
公式SNS:https://www.instagram.com/therabbithole_okayama/
チケット購入URL:https://ticket.ishikawafoundation.org/#/
【JR岡山駅からのアクセス】 公共交通機関(所要時間約15分):JR岡山駅東口で岡山電気軌道(東山線)に乗車「城下(しろした)」で下車、徒歩約6分。
タクシー・車(所用時間約10分):岡山駅東口のタクシー乗り場からが便利です。駐車場は近隣コインパーキングをご利用ください。
■イシカワコレクションについて
2011年から蒐集が始まった「イシカワコレクション」。コンセプチュアルアートを中心にした日本で最も特徴のあるコレクションのひとつで、現在総数約400点を数えます。過去の展覧会として「幸福はぼくを見つけてくれるかな? ―石川コレクション(岡山)からの10作家―」(2014年、東京オペラシティ アートギャラリー)、「イシカワコレクション展」(2019年、MO.CO.(Montpellier Contemporain)フランス)があるほか、国内外の美術館や芸術祭へ積極的に作品貸出を行なっています。
■建築について
建築は、元々岡山で絵画や工芸品を蒐集した実業家の林原家(株式会社林原 ※現ナガセヴィータ株式会社)がゲストハウスとして建てたルネサンスビルで、近年は岡山映像ライブラリーセンターとして使用されてきたものです。バブル期に建設されたこの既存「ポストモダン建築」を建築家の青木淳が改修リノベーションしました。場所が持つこれまでの歴史や当財団のビジョンを織り込み、新しい価値観を常に提示し続ける現代美術というジャンルに特化した空間として、”work in progress”で20年かけて壊されていく過程をコンセプトにした、生きた美術館です。


『イシカワコレクション展:Hyper real Echoes』後期展示 追加作品紹介

小泉明郎《Untitled》2000
小泉はキャリア初期には、主にパフォーマンス・アートに取り組んでおり、その仕事は自身または他者を居心地の悪い状況に置き、社会的な約束事がずれる、あるいは破られる地点を探るものだった。事態が手に負えなくなったとき、あるいは痛々しいほど気まずくなったときに何が起こるのか。そうしたときに人はどう反応するのか——この緊張の場が、後年の綿密に構成されたシナリオによるビデオインスタレーションの基盤にもなっている。本作では、小泉自身のペンを握る手が、可動域の限界まで線を引き続ける。強制された反復が身体の輪郭を徐々に露呈させていく。

ウーゴ・ロンディノーネ《Zweiundzwanzigsterjunizweitausendundvierzehn》2015
タイトルはドイツ語で「2014年6月22日」を分かち書きせずに一語として綴った造語。鮮やかな色の煉瓦が実物大より大きく描かれ、リアリズムの錯覚が成立しないほど近距離で見る舞台装置のようだ。煉瓦壁は、ロンディノーネの父の職業 (石工) にも接続するモティーフで、立ちはだかることで、誰か/何かを内に閉じ込め、同時に反対側を外に締め出す象徴となる。世界のまわりに壁を築くとは、物理的、視覚的、心理的に作用することは知られる如くだ。ロンディノーネは、開口と遮蔽の弁証法として、ドアや窓といった作品を加えてシリーズに発展させている。タイトルが、特定できるがそれ以上に語られず、見えるが通れない壁と並置されている。

ミカ・タジマ《Art d'Ameublement (Pulo Ampang)》2019
2018年以降の連作で、題はサティの《家具の音楽》に由来する。熱成形したPETG樹脂のパネルにアクリル絵具を吹き付け、霞や夕景を思わせるグラデーションの層をつくる。正面から凝視されることを求めず、空間の空気そのものとして働く絵画である。各作に実在あるいは架空の地名の名が添えられ、〈プロ・アンパン、アンパン島の意〉もそのひとつ。空調・香り・BGMといった気分を設計する技術へのタジマの関心と重なり、風景は眺める対象ではなく、身体を包み込む条件として提示される。

ミカ・タジマ《Negative Entropy (Stripe International Inc., Cultural Planning Department, Fuchsia, Hex)》2019
2012年からの連作。工場や研究所、データセンター、企業のオフィスなど、労働が営まれる場の環境音を録音し、そのスペクトログラムをデジタル・ジャカード織機で織り上げる。消えゆく音の情報を糸の物理的な秩序へと変換する試みであり、織機がコンピュータの祖であるという系譜も踏まえられている。題名末尾は色と織りの重ね(single/double/quad/hex)を示す。本作はストライプインターナショナルの文化企画部で収録された音に由来し、日本のアパレル産業の「現場」そのものが織物の素材となっている。

フィリップ・パレーノ《With a Rhythmic Instinction to be Able to Travel Beyond Existing Forces of Life (Green, Rule #1)》2014
パレーノは4年間にわたって蛍 (luciola=小さな光)を238点、ドローイングに描き溜めた。ジョン・ホートン・コンウェイが1970年に考案した「ライフゲーム」と同様、初期配置を与えたあとはセルが規則に従って生死を繰り返すのを観察するだけの系を利用して、これらのドローイング群とゲーム内の各アルゴリズムの対応関係を設定し、蛍が生きて死ぬまでの生命の一連を、アニメーション作品にした。蛍の断続的な発光は「明滅する欲望」であり、彼の実践の中心にあるオートマトンという形象——幽霊、人形、腹話術師、マーキー、自動ブラインド、そして映画技術そのもの——のリズムを体現している。オリジナルの素描は作家によって3枚組か、それ以上のまとまりで贈与され、世界中に散らばっていった。これは、ライフゲームの規則にある、近傍のセルが一定数を下回ると死ぬという関係と同じく、スクリーン上で蛍が自動的に消滅していく一方で、その外部では人伝に存在し続けるという関係性を模している。

ヤン・ヴォー《Marble plaque》2012
ヤン・ヴォーは1975年ベトナムに生まれ、4歳のとき父の手製の船で社会主義国となった祖国から脱出した。海上でデンマークの船に救助され、難民キャンプを経てデンマークへ移住。この出自が彼の芸術上のプラクティスに色濃く反映されている。ベトナムのカトリックには、人の死後、本式の墓石を据えるまでのあいだ遺族が仮の十字架をつくり、名を手で書き入れる習慣がある。父が祖母のために遺したその十字架が手元に届いたことが、手書きの名入れに関心を持つ発端となった。本作の大理石の卓には、1648年から1962年に東南〜東アジアで処刑されたカトリック教徒の名が、赤い刻印で埋め尽くされている。移民の流動的な生が、国境を越えて輸送されうるという暗示が小型のダンボールに重ねられている。

M/M (Paris) 《No Ghost Just a Shell》1999–2002
《No Ghost Just a Shell》は、フィリップ・パレーノとピエール・ユイグが1999年に始めた共同プロジェクトである。二人は日本のエージェンシーから、4万6千円でマンガ・キャラクターAnnlee―物語を生き延びる資質を与えられず安価に売られていた少女―の著作権を買い取った。二人は彼女を空虚な造形へと還元し、招いた作家たちに無償で提供した。約20名が映像や絵画など30点以上を制作し、それぞれの物語を彼女に与えた後、2002年、マイアミの夜空に花火が上がり、彼女の消滅が告げられた。本作は、そのプロジェクトのためにM/M (Paris)が制作したポスターである。M/M (Paris)はマティアス・オーギュスティニアックとミカエル・アムザラグによる1991年設立のグラフィック・デザイン・デュオ。滴る黒い活字の傍らにシェル石油のロゴが置かれ、題名のshellは「殻」から企業マークへと滑る。手描きの「ANNLEE」の綴りが少女の頭上に吊られ、空虚な記号に名が与えられる過程そのものが図像化されている。
ピエール・ユイグ《One Million Kingdoms》2001
ユイグとパレーノが1999年に日本のエージェンシーから著作権を買い取った、マンガのキャラクター、Annleeが月面状の地形を歩く。語りはニール・アームストロングの音声からデジタル合成され、アポロ11号の交信記録とジュール・ヴェルヌ『地底旅行』の断片が混ざり合う。山も谷も、その声の抑揚に従って隆起し陥没する。地形は語られることで生成される。冒頭に発せられるのは「それは嘘だ」という一言であり、世界を生み出すその声は、はじめから自らの真正性を取り下げている。20世紀でもっとも権威ある声が与えられ、発話によって世界が創造され、空虚な記号のAnnleeが、重ねられた声によって出自から解放されていく。

ピエール・ユイグ《Les Grands Ensembles》1994/2001
月のない夜、霧のなかに、1970年代が残した、特徴のない二棟の集合住宅が向かい合って建っている。外部空間には人の気配がなく、夜を穿つのは街灯と窓の光だけである。やがて窓の明かりが点滅をはじめ、テクノのビートに合わせて加速し、二棟は奇妙な振付に従って互いに応答しあう。終盤、明滅は音と完全に同期する。映されているのは実物ではなく、戦後の公営住宅を模した模型が、人工の嵐と霧に晒され、ワンショットで撮影されている。ユイグはこれらの住宅を、ル・コルビュジエの社会=建築理論が変質し、建築的にも社会的にも失敗した産物とみなす。仮設として構想されながら残りつづけた建築を視野に引き戻し、行為主体性を与えた作品である。
※なお以下の作品は前期から継続して展示いたします。
アンドレア・ジッテル《Bench (after Judd) #3》2014
アンドレア・ジッテル《A-Z Carpet Furniture: Cabin》2012
ヤン・ヴォー《We The People (detail) #B7.2》2011
ヤン・ヴォー《Lot 20. Two Kennedy Administration Cabinet Room Chairs (Wood[mahogany]) 》2013
ヤン・ヴォー《Lot 20. Two Kennedy Administration Cabinet Room Chairs (Muslin and nails) 》2013
ヤン・ヴォー《Lot 20. Two Kennedy Administration (Horsehair and nails)》2013
イアン・チェン《Life After BOB: First Tract》2019
イアン・ウィルソン《Circle on the floor》1968
ジョン・ジョルノ《Dial-A-Poem (Museum Edition)》1968–2012
ジョナサン・モンク《Deflated Sculpture V》2009
ジョナサン・モンク《Lenticular LeWitt #1》2018
ジョナサン・モンク《Wool Piece II》2014
リアム・ギリック《the anyspace whatever》2004
リアム・ギリック《McNamara》1994
リアム・ギリック《Scorpion then Felix》2012
マーティン・クリード《Work No. 1350: Half the air in a given space》2012
ミルチャ・カントール《I decided not to save the world》2011
ポール・マッカーシー《Kitchen Set》2003–2007
ポール・マッカーシー《Children's Anatomical Educational Figure》ca. 1990
ペーター・フィッシュリ / ダヴィッド・ヴァイス《Untitled》1994–2013
ペーター・フィッシュリ / ダヴィッド・ヴァイス《Hunde》2003
ペーター・フィッシュリ / ダヴィッド・ヴァイス《Büsi》2003
フィリップ・パレーノ《My Room Is Another Fish Bowl》2018
サイモン・フジワラ《Art Worlds: Mex in the City》2012
トリシア・ドネリー《Untitled》2014
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