【“仕事もラグビーも”を選んだ彼女たち】「1ミリの誤差も許さない」──校正作業で光る、女子アスリートの集中力
スポーツだけじゃない。「働く」彼女たちの、ちょっと意外な日常に触れるインタビュー記事第1弾。今回は谷口琴美選手の雇用先であるエヌケイエス株式会社の今村尚利代表取締役社長に話を伺った。
日本代表を7人も擁する女子ラグビーの横河武蔵野アルテミ・スターズの選手たちは、普段は一般企業に勤務しながら、日々のトレーニングに励んでいる。
選手たちの勤務先となるのは、チームを支援するスポンサー企業がメインとなっている。アスリート雇用という形でもチームを支える企業側は、どのような想いや狙いをもって、選手たちを受け入れているのか。
アスリートと企業の関係性を紹介するインタビューシリーズの第1弾。今回は谷口琴美選手の雇用先であるエヌケイエス株式会社の今村尚利代表取締役社長に話を伺った。



――まず、御社の事業内容についてお聞かせください。
「平たく言うと、世の中に測るものって、たくさんありますよね。例えば、横河電機が作っているものであれば、電気計測機とか。身近なもので言うと、体重計やストップウォッチなどですね。時間、電気、物理量、大きさなど、計測するものにとって重要なのは、ゼロ地点が正しい位置にあるかどうか。そこがずれていると、正確に測ることはできません。我々はその測るもののゼロの位置が正しいかどうかを評価し、校正する会社になります」

――具体的にどのように評価するのでしょうか。
「標準器というものを用いて評価します。これはいわば神様のような計測器ですね。例えばストップウォッチであれば、ストップウォッチの神様のような計測器があって、それと比較して正しいかどうかということを確認します。ずれているのであれば、校正してゼロの位置を正しいところにもっていくのです」


――顧客ターゲットはどういった企業になるのでしょうか?
「工場だったり、研究室がメインになりますね。例えば有名なところで言うと、京都大学 のiPS細胞研究所も大切なお客さまで、毎年すごい数の校正をやらせてもらっています」
――横河武蔵野アルテミ・スターズのスポンサーになられたきっかけを教えてください。
「弊社はもともと、名古屋の小さなオーナー企業だったのですが、7年前に横河電機の完全子会社になりました。当時、私は名古屋の責任者で、そこからこちらに移ってきた経緯があります。その際に会社の象徴になるようなものが欲しいと考えました。どことなく、社員たちがおとなしく、淡々と仕事をしているように見えたので、会社の象徴となるようなものを作りたいなと。スポーツチームのスポンサーになることで、社員のモチベーションにつながればと考えました」
――いろんなスポーツ団体あるなかで、アルテミ・スターズを支援しようと思った理由はなんでしょう?
「もともと、私は横河電機でラグビーをやっていたこともあり、OBの立場として横河武蔵野スポーツクラブのアンバサダーのようなことをやらせていただいています。選手の就職先を探したり、スポンサーになってくれそうな企業をつないだりして、横河電機のラグビーを後方支援しています。そうした背景もあり、アルテミ・スターズのスポンサーになることを決めました」
――クラブを支援する活動は、御社の事業内容や企業理念に通じる部分はありますか?
「特別意識したことはありませんが、私が横河電機に入社した当時の常務から、『ラグビーも仕事も一番になれ』と、言われていたんですよ。私の先輩たちを見ても、現役中はもちろん、引退してからもすごく仕事でも活躍していて。アマチュアスポーツの第一線で頑張っている人たちは、スポーツをするだけではなく、仕事でも一流であることが多いんです。横河にはそういう文化があったんですけど、うちの会社でもそういう部分を醸成していきたいという想いはあります」
――アスリート雇用という形を選ばれたのも、スポンサーとなったことと同じ理由からでしょうか。
「そうですね。社員の士気が上がることを期待しています。グラウンドが近いっていうのもあるんですけど、社内にはラグビーファンがかなり増えました。毎週のように見に行っている社員もいますし、自費で大きな垂れ幕を作って熱心に応援している人もいます。一緒に働いている仲間がラグビーで頑張っている姿に、ほかの社員も刺激をもらっているだろうし、逆に選手たちも、普段の仕事では先輩社員に可愛がられて、試合にも応援に来てもらって頑張ることができる。今はそういう良い雰囲気が、社内全体に伝播されているように感じます」
――雇用されているアスリートは、何人くらいいるのでしょうか。
「男子のラグビーが4人、バレーボールが3人。テニスも2人いましたが、今は1人は大阪に配属となっています。ただ、いずれも新卒採用という形で、本当の意味でアスリート採用というと、女子ラグビーの谷口だけですかね」
――もともとは違う会社で働いていたわけですね。
「彼女は前回のワールドカップにも出場したんですが、次のワールドカップに出るためにも横河に入りたいと。そういう強い想いを持ってチームを移籍してきて、私どもの会社で受け入れることにしました。ただ彼女はラグビーだけではなく、仕事もしっかりとやりたいと言っていて、そういう考えを持っていたことも採用した理由です」
――谷口選手は、具体的にどのような業務を行っているのでしょうか。
「主に校正作業ですね。特に電気系が多いです。私自身は直接、彼女の働きぶりを見ることはあまりないですけど、周りの評判はいいです。彼女は愛知県の進学校出身なので、頭がいいんですよ。こういう業界は初めてでしたけど、入社後の研修の時に、質問が鋭すぎてリーダーが答えられないなんてこともありました(笑)。一方で天然ボケの部分もあって、誰にでも可愛がられるタイプですね」


――谷口選手の存在は、社内にどのような影響を与えていますか。
「彼女の所属部署は、半分以上がパートさんなんですよね。年齢的には彼女よりも少し上の人が多いのですが、社員とパートの関係性というよりも、お互いにフラットな感じで接していて、すごく良い雰囲気にあると思います。谷口さん以外の社員は年齢が上のおじさんがばかりなのでちょっと距離が生まれてしまいがちですが、彼女が社員とパートさんとの潤滑油のような役割を担ってくれているので助かっています。パートさんの中にもラグビーの試合見に行く人も結構いて、本当に愛されているなと感じますね」


――スポンサーやアスリート雇用の取り組みは、企業イメージやブランド価値の向上につながる部分もあるのでしょうか。
「女子ラグビーがまだまだマイナースポーツということもあって、対外的な影響はあまり感じていません。ただ、お客さんの中にラグビーファンがいれば、『実はうちにこういう選手がいるんですよ』というような話ができるので、コミュニケーションの部分で役立つところはあるかもしれません。ただ、先ほども言ったように女子ラグビーがまだメジャーな存在ではないので、会社の宣伝だったり、広告のようなものにつながることは、今のところはないですね」
――スポンサーシップやアスリート雇用は、社会貢献活動やCSR、SDGsにどのように繋がっていると考えていますか。
「そこもそんなに意識はしていませんが、最近、横河武蔵野のスポンサーになってくれる企業が増えているんですよ。昔は強制参加のようなところがあったんですけど、最近はいろんな企業がCSRの観点から、スポーツ選手を応援したいという流れが生まれています。そういう世の中変わってきているので、我々自身もやっぱりスポーツをしている選手たちを応援したいですし、不遇になってもらいたくないという想いは強いですね。一生懸命やっている彼女たちを応援したいですし、社内にもいい影響をもたらしてくれる存在でもあります。社会貢献と言うと大袈裟かもしれませんが、そういう活動はやっていった方がいいだろうとは思っています」
――今後、アルテミ・スターズとともに、どのような活動を展開していきたいと考えていますか。
「今のところ具体的な考えはないですけど、谷口さんが引退したら、次はどうしようかなとは思っています。今、手を挙げてくれている子が何人かいるんですが、ガツガツというほどではないにせよ、選手の受け入れというものは継続的にやっていきたいと考えています。高卒でも大卒でもいいですし、他のチームから横河に入りたいという選手でも、我々としてはウェルカムの立場を取っています」
――スポンサーの立場として、これからのチームに期待したいことはありますか。
「私はラグビーをやっていたので、スポンサーというよりもOBとしての立場の意見になってしまうんですが、今のチームはちょっとバックスが弱いので、そこをなんとかしてほしいなという想いはあります。フォワードは日本一と言っていいほど強いので、バックスも強くなれば日本一になれると思っています。やっぱり日本一になってもらいたいですよ。会社の宣伝効果が上がるとは思っていないですけど、やっぱり日本一になれば社内的にもすごくいいですし、お客さんと話すときも良い効果が生まれるのかなと。日本一のチームを支援できていることは、我々にとっても喜ばしいことですからね」
――最後に、日本代表としてワールドカップに臨む谷口選手へのメッセージをお願いします。
「本人も十分承知していると思うんですけど、年齢的にも最後のワールドカップだと思うので、会社のこととか、余計なことを考えず、プレーヤーとしての強みを十分に発揮してほしいですね。しんどいところもあると思いますが、変な色気を出さず、最後の舞台ですべてを出し切ってもらいたい。とにかく、頑張ってほしいですね」

(ライター:原山裕平)
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