オキシトシンが脳の若返りを促進し、全身の老化を抑制する可能性 福島県立医科大学らの研究グループがメカニズムを解明

【研究成果の紹介】発見!オキシトシンが脳の「若返りスイッチ」をONにする

公立大学法人福島県立医科大学

【発表の要旨】

公立大学法人福島県立医科大学医学部病態制御薬理医学講座らの研究チームは、2025年10月29日に、老化に伴い減少する「愛情ホルモン」として知られるオキシトシンが、脳の細胞レベルで「脱メチル化」を促進し、ミトコンドリアの機能を改善することで、脳機能の低下を抑制し、アンチエイジングに貢献する可能性を明らかにしました。この研究成果は、老化研究分野で最も権威ある国際的な学術誌の一つである『Aging Cell』に掲載されました。

この研究は、新しい老化対策や脳の健康維持に向けた治療法の開発とヘルシーエイジングの促進に、大きな光を当てるものです。このことは、加齢とともに減少するオキシトシンを点鼻で補うことで、脳と身体の「若返りスイッチ」をONにし、健康寿命を延ばせる可能性を示唆する研究成果です。

【研究の背景:なぜ歳をとると脳が衰えるのか?】

私たちは年を重ねるごとに、記憶力の低下や身体能力の衰えを感じます。これは、体内の細胞に様々な「傷」が蓄積され、機能が徐々に低下していくためです。特に、遺伝子のはたらきを調節する「DNAメチル化」という化学変化は、老化と密接に関わっていることが知られています。老化すると、このDNAメチル化が過剰に進み、「エピジェネティック時計」と呼ばれる生物学的年齢が加速したり、炎症が起きやすくなったりすることがわかっています。また、脳の神経細胞におけるミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)の機能低下も、老化による脳機能の衰えの大きな要因です。

一方、「愛情ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンは、社会性行動やストレス軽減など様々な役割を果たすだけでなく、その血中濃度が加齢とともに低下することが報告されていました。しかし、なぜオキシトシンが加齢とともに減少するのか、そしてその減少が老化にどう影響するのかは、これまで詳しく分かっていませんでした。

【発見:オキシトシンが脳の「若返りスイッチ」をONにする】

本研究では、以下の重要な発見がありました。

老化マウスでは、若いマウスに比べて血中オキシトシン濃度が低下していました。これは、オキシトシンを分泌する脳の神経細胞の数が減少し、さらにオキシトシンの分泌を抑えるタンパク質(Syt4)が増加するためであることが判明しました。

老化マウスの脳(視床下部や海馬)では、DNAの脱メチル化を促進する「TET2酵素」の量が減少し、ミトコンドリア機能を示す「COX IV」というタンパク質も減少していました。これは、老化によってDNAのメチル化が進み、脳の神経細胞の機能が低下していることを示唆しています。

点鼻オキシトシンが脳と全身の老化現象を改善~老化の2つの根元本原因に直接作用

老化マウスに10日間、オキシトシンを点鼻投与したところ、減少していたオキシトシンを分泌する細胞が回復し、低下していた血中オキシトシン濃度が回復しました。

 さらに、点鼻オキシトシンは、脳の神経細胞におけるTET2酵素の量を増加させ、DNAの過剰なメチル化を元に戻す「脱メチル化」を促進しました。

 これにより、老化によって減少していたミトコンドリアのCOX IVタンパク質の量も回復し、神経細胞の機能改善が確認されました。

 驚くべきことに、全身の炎症マーカーのレベルも低下しました。これは、オキシトシンが脳だけでなく、全身の炎症を抑え、老化に伴う様々な病気のリスクを低減する可能性を示しています。

オキシトシン受容体が「若返り」の鍵を握る

 オキシトシン受容体を持たないマウスでは、TET2酵素やCOX IVの量が著しく低下しており、DNAの脱メチル化も不十分でした。これは、オキシトシンがその受容体を介して、脳の若返りに重要な役割を果たしていることを示唆しています。

 さらに、培養した神経細胞を用いた実験でも、オキシトシンが直接神経細胞のオキシトシン受容体を活性化し、ミトコンドリア機能の改善と脱メチル化を誘導することが確認されました。

【未来への展望:健康寿命を延ばす新たな道筋~アンチエイジングと脳、全身の健康に新たな希望】

本研究は、オキシトシンが、DNAのメチル化とミトコンドリア機能という、老化の二大要因に働きかけることで、脳の神経細胞の健康を維持し、全身の老化を抑制するメカニズムを包括的に明らかにしました。

この研究は、点鼻オキシトシンが、安全かつ効果的な「アンチエイジング」戦略として、そして「脳の若返り」を促す有望な手段として、その可能性を示唆しています。今後のさらなる研究により、ヒトへの応用が期待されます。※これは動物(または細胞)レベルの研究です。ヒトへの応用の可否や安全性は、今後の臨床試験で検証される必要があります。

【論文について:オープンアクセスで、以下のURLからご覧いただけます。】

タイトル:Oxytocin Enhances Demethylation Through TET Enzyme Expression in Neurons of Aged Mice: Oxytocin as a Potential Antiaging Peptide

ジャーナル:Aging Cell(イギリス)

DOI:https://doi.org/10.1111/acel.70198

【研究チームについて】

本研究は、福島県立医科大学医学部病態制御薬理医学講座が主導しました。

下村 健寿 主任教授:福島医科大学を卒業、英国オックスフォード大学で8年間、基礎研究に携わ

る。帰国後、母校で教授に就任。糖尿病や生活習慣病、神経科学分野で、基礎研究と臨床診療の両面か

ら「患者様のため」となる研究を推進しています。

前島 裕子 准教授:オキシトシン研究の第一人者であり、その食欲抑制作用や抗肥満効果に関する研究

で世界的に知られています。本研究では、オキシトシンに関する専門的な知見で、下村教授と連携しま

した。

●お問い合わせ先

<研究・取材に関すること>

公立大学法人福島県立医科大学 病態制御薬理医学講座

問い合わせ担当 持田謙介  電話024-547-1016 メールpr-str@fmu.ac.jp


会社概要

URL
https://www.fmu.ac.jp/
業種
教育・学習支援業
本社所在地
福島県福島市光が丘1番地
電話番号
024-547-1111
代表者名
竹之下誠一
上場
未上場
資本金
-
設立
1944年04月