安心で持続可能な物流の未来を実現するために物流コンソーシアム baton、中継輸送実証の概要と展望を発表
物流コンソーシアム baton(以下、baton)は、2025年11月20日(木)に「物流コンソーシアム baton」合同記者発表会を開催し、2026年2月開始予定の企業横断型中継輸送の実証運行※に向けた本コンソーシアムの取り組みについて発表しました。
発表会は二部構成で行われ、第一部では参画各社から、物流を取り巻く社会的課題への危機感が示されるとともに、中継輸送に向けたデータ分析やリスク整理の進捗が共有されました。第二部では、実証運行の具体的なポイントや今後の展望が示され、官民・専門家による講演を通じて、中継輸送の社会実装に向けた展望が語られました。
baton は、長距離輸送の負荷軽減と日帰り運行の実現を目指し、持続可能な物流の構築に向けた取り組みを進めてまいります。
※実証運行の詳細についてはこちら:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000173405.html
「物流コンソーシアム baton」公式HPはこちら:https://www.logi-baton.jp

【第一部】
■東京海上HD・小池社長「物流課題は社会全体で向き合うべきテーマ」
第一部の冒頭、東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループCEO 小池 昌洋氏が登壇し、baton 発足の意義と、業界全体で取り組む必要性について語りました。
小池氏は、日本の物流が「物流量の増加」と「担い手の減少」に同時直面し、“物が運べなくなる”リスクが高まっている現状に触れ、「こうした社会課題は一企業だけでの解決は難しい。企業や業界の垣根を越えた連携で共に課題解決に取り組む仕組みが必要」 と強調しました。

東京海上グループは 「お客様や社会の“いざ”をお守りする」 をパーパスに掲げており、中立的な立場で業界横断の協働を支える役割を担っていく考えを示しました。
さらに、baton の取り組みにおいて最初のテーマを中継輸送とした理由として、ドライバーの負担軽減、働き方の改善、若年層の雇用促進につながる点 を挙げ、持続可能な物流実現への強い意欲を示しました。
■西濃運輸・髙橋社長「構造的課題に直面する物流業界こそ“共創”が必要」

続いて、西濃運輸株式会社 代表取締役社長 髙橋 智氏が、物流業界が抱える課題と、baton の活動意義について語りました。
髙橋氏は、国内貨物の約92%がトラック輸送に依存している現状を挙げ、ドライバー不足・高齢化・燃料高騰の影響を受けやすい構造的課題を指摘しました。ドライバー数はピークアウトし、2030年には輸送力が不足する試算もあることから、「2024年問題の次に“2030年問題”が迫っている」と危機感を示しました。
さらに、日本の運送事業者の約98%が中小規模でDX・自動化投資が難しいこと、EC拡大により宅配便は49億個超へ増加、再配達率も10%を超えて負荷が増している現状など、構造的な課題が複合的に押し寄せていると説明。「生活や経済を支える物流は止められない。だからこそ“競争から共創へ”価値観を転換する必要がある」と述べました。
自社グループで共同配送や幹線の共同輸送、中継拠点の共有など“共創型モデル”を進めてきた経験を踏まえつつ、髙橋氏は「個社単位の連携には限界がある。標準化やルール整備を含め、業界全体で支える仕組みが不可欠」とコメント。そのうえで、「baton が“多数対多数”の共創プラットフォームとして発展することで、より多くの企業が参加し、持続可能な物流に向けた環境整備が進む」と述べ、baton への期待を示しました。
最後に、物流を「日本の血流」と表現し、「この血流を止めないためにも、業界全体で力を合わせ、baton を通じて物流の未来をともに支えていきたい」と締めくくりました。
■東京海上日動・城田社長「中継輸送の実現に向けた基盤づくりが前進」
東京海上日動火災保険株式会社 取締役社長 城田 宏明氏からは、baton における取り組みと進捗を紹介しました。城田氏は、東京海上グループが1879年の創業以来、物流リスクを補償する保険を原点として事業を展開してきた歴史を振り返り、「現在は企業の垣根を超えた連携で強靭なサプライチェーン構築に挑んでいる」と述べました。batonでは、中継輸送を軸に企業間協力による効率的で無理のない長距離輸送体制を目指しており、「参加企業から提供された輸送量上位20路線のデータを基に、週あたり1万3,000便超の情報を分析。企業間連携でより効率的な輸送の実現に向けた確かな手応えを感じている」と説明しました。

一方で、実現にはリスク整理や現場連携など課題も多く、他社車両・施設利用時の責任範囲や、荷物の取り扱い責任に関するガイドライン・協定書ひな形の策定を進めてきたと報告。貨物受け渡しルールを整理し、共通化すべき点と各社固有の業務を切り分けたことで、実証運行に向けた基盤が整ったと述べました。
また、来年2月には、西濃運輸×福山通運、名鉄NX運輸×トナミ運輸の2組でドライバー交替方式の実証運行を開始することを発表。「協調の輪を広げ、効率的で持続可能な物流の実現を通じて社会全体の発展に貢献していきたい」と述べました。
■「物流業界の課題とbatonへの期待」をテーマにトークセッション
第一部の締めくくりとして、株式会社ローランド・ベルガーの小野塚 征志様をファシリテーターに、西濃運輸株式会社 代表取締役社長 髙橋 智氏、トナミ運輸株式会社 代表取締役社長 髙田 和夫氏、福山通運株式会社 代表取締役社長 熊野 弘幸氏、名鉄NX運輸株式会社 代表取締役社長 吉川 拓雄氏、東京海上ホールディングス株式会社 専務執行役員 グループCDO 生田目 雅史氏が登壇し、物流業界が抱える構造的課題と、企業横断型で取り組むbatonへの期待について議論が交わされました。



各社からは、「長距離ドライバーの確保が年々困難になっている現状」、「2024年問題・2030年問題がもたらす輸送力不足への危機感」、「車両大型化・モーダルシフト・自動運転など“個社単独での対応”の限界」、「責任範囲・コスト負担など、企業間連携で立ちはだかる“調整の壁”」、「中立的な立場でリスクマネジメントとデータ分析を担う存在の必要性」などの課題が共有されました。
その上で、「多数対多数の連携」を可能にするbatonが、「業界全体の共通ルールづくり」「リスク負担の整理」「データに基づく輸送最適化」を進める基盤となり得る点に、各社が強い期待を寄せました。
【第二部】
■業界横断の協働が実証段階へ―batonの進展を報告
第二部の冒頭では、東京海上スマートモビリティ株式会社 取締役社長 原田秀美氏が、物流コンソーシアム batonのこれまでの歩みと、実証運行に至るまでの背景を語りました。
原田氏はまず、batonが「物流業界が抱える構造的課題に対し、個社の努力だけでは限界がある領域を、業界横断で協力して解決していく取り組み」と位置づけました。構想を各社に打診した昨年春の段階では、「保険会社が旗を振る取り組みに賛同いただけるのか」、「議論先行で終わらないか」といった不安もあったといいます。

しかしこの1年、参画企業各社が立場を超えて真摯な議論を重ね、課題を共有しながら一歩ずつ前進してきたと強調しました。特に、各社が保有する運行データを横断的に預かり分析できたこと、そして実際に互いの現場を訪れ、オペレーションの違いを直接確認し合えたことが、大きな転換点になったと述べています。
こうした積み重ねによって、今回発表された「企業横断型中継輸送の実証運行」という具体的な取り組みに到達できたとし、baton の実効性を改めて示しました。
■東京大学大学院西成教授、有識者の視点から課題と期待を語る

続いて登壇したのは、東京大学大学院 工学系研究科 教授 西成活裕様。アドバイザーとして講演を行いました。
西成様は冒頭、「2024年問題は“解決した”わけではなく、ギリギリの対応でしのいでいるに過ぎない」と強調。サービスレベルの低下や労働時間規制の影響から、「運びたい量に対し、供給が明らかに不足している」と現状を示唆。その上で、「企業単体では限界がある。鍵になるのは“全体最適”であり、視野をサプライチェーン全体、さらには社会全体へ広げて考える必要がある」と述べ、地球環境視点まで踏まえた広い視野の重要性を指摘しました。
さらに、経済産業省・国土交通省が将来像として示す「フィジカルインターネット」構想に触れ、水平連携や共同輸送、需要起点の最適化など、無駄のない物流ネットワークの姿を紹介。「中継輸送はその実現に向けた具体的な一歩であり、日帰り運行など効果も大きい」と評価しました。
一方で、標準化の遅れ、責任分担の不透明さ、法制度の壁、採算性の確保など、取り組みが進まない理由についても具体例を挙げながら言及。「補助金ありきの“実験”では本質を捉えられない。持続可能なビジネスとして仕組み化できるかが重要だ」とした上で、batonに対して強い期待を表明。東京海上グループの中立性とリスクマネジメントの知見、参画企業によるデータ共有、責任分担の徹底議論といった取り組みを「これまでにない本気度」と評価し、「長期視点(時間軸)と他社連携(空間軸)の“二軸の全体最適”を動かす基盤になり得る」と語りました。
■原田社長、企業横断型中継輸送の実証に向けた取り組みを説明
原田氏より、来年2月に予定する企業横断型中継輸送の実証運行について、その概要と準備状況の説明がなされました。実証は、西濃運輸×福山通運、名鉄NX運輸×トナミ運輸の2組によるドライバー交替方式で実施。既存のトラックで導入しやすく、日帰り運行の実現に最も適している方式として選択したと述べました。

参画企業から提供された週1万3,000便規模の運行データを用いて路線分析を行い、効果が大きい14路線を抽出。そのうち2路線を今回の実証対象としました。また、複数企業のドライバーが1台の車両を運転することに伴うリスク負担や、交代時の点検・連絡方法、伝票処理など、企業ごとに異なる運用ルールを洗い出し、ガイドラインと協定書のひな形を整備したことを紹介しました。
中継輸送によってドライバーの日帰り化が可能となり、参画企業約1,700名の調査でも若年層を中心に支持が高い点に触れつつ、今後の普及には車両仕様やオペレーションなどの標準化が鍵になることを強調。地域の運送事業者や荷主企業など多様なプレイヤーの参画が進めば、ネットワーク拡大と効率化につながるとして、持続可能な物流への期待を示しました。
さらに、持続可能な物流の実現には、「担い手の労務・健康管理の高度化」が欠かせないテーマである点も挙げ、ドライバーマネジメント分科会で進めている実証※のような健康勤労寿命の延伸に向けた取り組みも、今後ますます重要性を増していくと述べ、魅力ある環境整備に貢献していきたいと締めくくりました。
※ドライバーマネジメント分科会での実証詳細についてははこちら:https://www.logi-baton.jp/topics/2025-11-20_002.html
■国土交通省 髙田課長、物流の転換点における「baton」への期待を強調

最後に来賓講演として、国土交通省 物流・自動車局 物流政策課長の髙田 龍様が登壇しました。
まず、2024年問題を契機に、国内物流が転換点を迎えていると指摘。国内貨物輸送の多くをトラック輸送が占める一方で、労働時間の長さ・賃金の低さから担い手不足が深刻化しており、物流の安定維持には中長期的な労働生産性向上と人材確保が不可欠であると話しました。
こうした背景を踏まえ、国土交通省では経済産業省・農林水産省と合同で次期「総合物流施策大綱」の検討を進めており、中継輸送・標準化・DXの推進も重要テーマの一つとして位置づけていると説明。国土交通省の調査事業でもbatonの中継輸送プロジェクトを採択し、制度面・運用面の検証を後押ししていると紹介しました。
batonへの期待として、
①保険・テクノロジーなど物流業界にとどまらない企業同士の「協働・強調」による取り組みの実現 ②安全性・効率性・遵法性を確保したドライバー交替方式による中継輸送の社会実装
③ドライバーが安心して働ける環境づくりと、効率的で強靭な物流ネットワークの実現
の3点を挙げました。
最後に、「ドライバーが安心して働ける環境づくりと効率的で強靭な物流ネットワークの実現につながることを願っている」と締めくくりました。
■会員企業・団体 ※50音順
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幹事会員

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企業名 |
企業名 |
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セイノーホールディングス株式会社 |
福山通運株式会社 |
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第一貨物株式会社 |
名鉄NX運輸株式会社 |
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トナミ運輸株式会社 |
東京海上ホールディングス株式会社 |
|
トランコム株式会社 |
東京海上スマートモビリティ株式会社 |
|
新潟運輸株式会社 |
東京海上日動火災保険株式会社 |
|
ハコベル株式会社 |
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分科会会員

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企業名 |
企業名 |
|
ENEOSホールディングス株式会社 |
野村不動産株式会社 |
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株式会社enstem |
株式会社ユーフォリア |
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ティーティス合同会社 |
株式会社リアライズコーポレーション |
|
日本工営都市空間株式会社 |
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一般会員

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企業名 |
企業名 |
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沖電気工業株式会社 |
富士通株式会社 |
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harmo株式会社 |
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■本コンソーシアムへの参画について
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