建築学生 VS 日本を代表する建築家の熱いバトル!「木の家設計グランプリ2018」9月22日(土)京都造形芸術大学にて開催。
日本の伝統文化を絶やさないために、若い世代に木造住宅の魅力を伝えたい――地方の工務店が立ち上がり、設計力を競うコンテストが開催される。
審査にあたるのは、日本の建築界をリードする6名の建築家。学生と建築家とのトークバトルが繰り広げられる。
【建築を志す学生と、日本を代表する建築家との熱いバトル】
「木の家設計グランプリ」は、全国の学生を対象に開催される『木造住宅』限定の設計コンテスト。個人・グループどちらでも参加できる。2014年に始まり、今年で5回目を迎える。第1回目のエントリーは77組だったが、今年は東北から九州まで335組の応募があり、年々注目度は高まっているようだ。
その年の審査委員長がテーマを決め、学生がそのテーマに沿った模型や設計プランを作成する。一次審査では会場に作品が並べられ、そこから上位10組が選出。その後の公開最終プレゼンテーションで、最優秀賞、優秀賞、準優秀賞、U20(20才以下の学生)賞のほか、各審査員賞が決定する。
今年の課題テーマは「もう一度、庭付き一戸建て」。今年の審査委員長は、景観デザイナーの荻野寿也(おぎの としや)氏が務める。造園家が住宅コンテストの審査員長になるのは、異例と言えるだろう。
荻野氏は、「日本の原風景の再生」を掲げながら、様々な建築家と共に、住宅や商業施設の植栽・外構デザインを行う。彼にかかれば、どんな建物も美しい佇まいになると、建築家や住宅会社からの依頼が絶えない人気の造園家だ。昨年出版した初の著書「美しい住まいの緑」85のレシピは、発売当初、建築部門でベストセラーになった。
「家を取り巻く庭や街並みが、退屈なものになりつつある現実に、日本人が鈍感になっているのではと危機感を感じていました。しかしIT技術の進歩に伴い、自由な働き方が徐々に実現しつつある今、大地と共に生きる素晴らしさを認識した人は、その暮らしを始めています。そこで、風景や庭との関わりという切り口で、若い世代に一戸建ての家に住む喜びや、価値を見つめ直してもらおうと思いました」と荻野氏。
審査員は他にも、竹原義二氏(無有建築工房 )、松岡拓公雄氏(アーキテクトシップ)、横内敏人氏(横内敏人建築設計事務所)、伊礼智氏(伊礼智設計室)、堀部安嗣氏(堀部安嗣建築設計事務所)と建築業界では名の知れた顔ぶれ。学生に木造住宅の魅力を知ってもらい、日本の住環境をより良くしたいという思いで集まった。
『学生の目の前で審査が行われる、臨場感あふれるコンテスト』
一次審査では、学生が自分の作品の前に立ち審査員を待つ。1時間以上かけて審査員は会場をくまなく回り、質疑応答が行われる。憧れの建築家に、自分の作品を見てもらえるとあって、毎年力作が並ぶ。昨年は、20才以下の学生が多数入賞を果たしたことも話題になった。
最終プレゼンテーションは、一組につき持ち時間5分。その際の審査員と学生とのやりとりが毎年見ものだ。学生と審査員が互いにヒートアップする場面もあり、会場を沸かせる。過去には極度の緊張と疲労で、ステージで倒れてしまう学生もいたほどだ。
通常のコンテストでは、審査は非公開で行われるが、このコンペは目の前で審査が進むのが大きな特徴。自分の作品へ票が入ったり抜かれたりするのを、学生は固唾をのんで見守る。
どのような意図で自分の作品が選ばれたのか、落選したのかがダイレクトに伝わってくることが、参加した学生にとっては大きなメリットと言えるだろう。
昨年の大会で最優秀賞に選ばれたのは、当時広島工業大学3回生だった中村凌さん、林 健吾さん、都田あゆみさん3人のグループ。「自分たちが選ばれるとは思っていなかった。 3人で協力したことが認められて本当に嬉しい」。受賞者には、会場から惜しみない拍手が送られた。
『木造住宅を教育する大学・建築学校が殆どないという現実』
国土交通省「住宅着工統計」によると、2014年の新設住宅着工892,261戸の内、54.9%が木造住宅。集合住宅の多くが鉄骨や鉄筋コンクリートで建てられているのを考えると、戸建て住宅に絞れば木造率は依然として高い。また2008年の総務省調査によると、その時点で存在する住宅(住宅ストック)では、戸建ての93%が木造だ。
2011年に内閣府が実施した「森林と生活に関する世論調査」では、新たに住宅を購入する場合、およそ81%が「木造住宅を希望する」と回答している。また、国土交通省が2013年に発表した住宅着工統計によると、新設住宅着工戸数の55.8%が木造住宅であることからも、日本人がいかに木の住まいを好んでいるのかがうかがえる。
しかし、建築を学べる日本の大学や専門学校でも、木造住宅について専門的に教えている学校は殆どないようだ。現に審査員たちも、殆ど独学で木造住宅を学んだという。そのような背景から、自ら教壇に立ち木造住宅を教える審査員も多い。
「大学では見たこともないような設計が高く評価される傾向にあるように思います。でも住宅設計は公共・商業施設とは全く異質のもの。社会に出ると、住宅に携わる機会は意外に多くあるものの、教育を受けていないために挫折した人を多く目にしてきました」と審査員の横内氏。
「建築を専攻する学生から、“木って腐るんですか?”と質問されたことがあるんです。それって、“アジの開きは海で泳ぐんですか?”と同じレベルの話。日本の建築教育は先進国の中でも低いと感じています。ドイツの大学では、学生が色んな研究を重ね数値的なバックアップもとっています。日本も実態と身体を伴った建築の勉強をしていかなければ」と、堀部氏も大学で教鞭をふるう。
※参考資料
国土交通省:「木造住宅の現状」
林野庁:平成26年度 森林・林業白書 参考付表 > 54.新設住宅着工戸数及び床面積
『若い世代が、日本の林業衰退、森林問題を知るきっかけに』
日本では高度成長期以降、安い外国産の木材輸入が主流となったことで国産材の需要が減少。安価な輸入材に押され国産の材木の値段は下がり、採算がとれず放置されている森は日本全国で増え続けている。林業の担い手は減り、さらに森が荒れるという悪循環が生まれているのだ。
森林は生物多様性保全や地球環境保全など様々な機能があり、森林を守ることは地球温暖化防止にも貢献できる。木造住宅について考えることで、日本の森林問題を知るきっかけになることも、当大会では期待されている。
『主催は滋賀県の工務店。大手ハウスメーカーの大工だった社長が一念発起』
この大会を主催するのは、滋賀県の「株式会社 木の家専門店 谷口工務店」。人口12,000人ほどの町で、木造注文住宅の設計施工を行う。最近では関東や九州地方からも問い合わせが入るという工務店。代表を務める谷口弘和(たにぐち ひろかず)氏は、大手ハウスメーカーの大工だった経歴を持つ。
今年の6月には、かつての東海道宿場町 滋賀県大津市で、空き家を再生した日本初の商店街ホテル「ホテル 講(こう)大津百町」を7棟同時にオープンさせるなど、地方創生に挑んだりと同業者からも注目される工務店だ。
当コンテストも企画から運営まで、すべて自社のスタッフで行う。そのきっかけと理由は何だったのか。
「当社は ”良い家づくりは人づくり” という信念のもと、新卒採用を10年以上続けてきました。それで分かったことは、建築を学んだ殆どの学生は、量産型のハウスメーカーや大手ゼネコンへの就職を希望していること。そして志が高く有能な人材ほど、その傾向が強いことでした。10年前、当社が初めて参加した合同就職フェアでは、大手のブースには学生が行列をつくり、隣の私たちのブースには誰も来ない・・それが現実でした。さらに、学生と直接話をしていると、木造住宅について殆ど学んでいないことも分かったのです。
本来住宅は、技術と知恵を駆使し、その地の風土気候に応じた住まいをお客様のために造るもの。それを支えることができるのは、その地域で仕事をする工務店が優れていると考えています。日本の木造住宅を絶やさず未来へ引き継ぐためには、それができる人材を発掘して私たちが育成しなければならない。その思いからこの大会を始めました。若い人材が地域で活躍できる社会をつくり、作り手も学生を受け入れる環境を整え、日本の建築文化を守り、業界を良くしていきたい」と話す。
『全国の工務店が協賛し、遠方の学生には参加の交通費を支給。異例の待遇の意味とは』
谷口弘和氏の想いは、全国の工務店を動かした。「優秀な設計スタッフが働きやすい環境があることを伝えたい」「ローカルな環境にこそ物づくりの原点がある。工務店で働いてほしい」という思いを持つ、工務店や建築企業29社が協賛を申し出た。
協賛金は大会運営だけでなく、遠方で参加をためらう学生の交通費として充てられる。参加者に交通費を出すコンテストは全国でもかなり珍しい。それは地方の工務店が人材獲得に苦労していることもさながら、建築に対するゆるぎない思いからだと話す。
「グローバルに仕事をすることは大事ですが、一方で、ローカルに顔が見える環境は、物づくりの原点だと思います。だからこそ工務店には可能性が広がっている。会社の規模や名前が知れ渡っている云々ではなく、視野を広くもって将来を考えてもらえる機会になれば」と話すのは、相羽建設株式会社(東京都)の代表 相羽健太郎氏。
『建築学生が、地方で活躍できる場を工務店の手でつくる』
地域工務店というと、中小零細企業のイメージが強く、教育体制にも不安を感じる学生がいるようだが、現実は想像以上に充実しているようだ。協賛した各社では、それぞれ人材教育・投資に力を入れていることが伺える。
「家づくりはお客さまの人生に関わる仕事。お金やご家族問題など、様々な問題にも直面する場面が多い。それゆえ人間力が求められます。だから人材育成には惜しみなく愛情と時間をかけます」と話すのは、株式会社コアー建築工房(大阪府)の吉瀬 融 代表取締役。
「従業員が何百人、何千人という企業だと、何か一つ体制を変えるとなると莫大な費用と時間を要しますが、私たちのように小回りが利く規模であれば、やると決めれば明日からできるのが強み。実際、大手よりも最新の仕組みを取り入れている工務店も多いですよ」と谷口氏は語る。
工務店は大手企業と比べ、様々な業務に携わることが多い。「昔は棟梁が営業から設計、現場監督まで全てを行っていました。工務店なら、総合的に家づくりに関われるので、やりがいは大きい」と話すのは、株式会社山弘 代表取締役 三渡眞介氏(兵庫県)。学んだことを、故郷や地方で生かす場所は、想像以上にあるようだ。
『建築家と学生、参加者同士の交流を深める』
グランプリ終了後は、審査員や協賛会社、観覧者も交え立食パーティーが開かれる。普段出会うことのできない建築家や、他校の学生と食事をしながら、建築や将来の話で盛り上がる。
「就職先をどう選ぶのかを建築家の先生に相談できた。自分の学生時代の話を気さくにしてくれた」「工務店のイメージが全く違うものになった。将来の選択肢として前向きに考えたい」と学生たちは話す。
『世界も認める、日本の感性と職人技術を絶やさないために』
建築業界では、大工の人材不足が問題になっている。野村総合研究所(NRI)の調査によると、今後住宅着工戸数が減少するにもかかわらず、大工不足でその需要にすら対応できなくなる可能性があるという。大工は2015年時点で約35万人だが、2030年には21万人まで減少すると予測。大工の高齢化や、人材獲得競争の激化などが要因だ。今後、建設現場の労働生産性を引き上げていかなければ、将来、住宅着工戸数に対応できなくなる可能性も考えられる。
世界を代表する建築家 アルヴァー・アールト (1898-1976)やフランク・ロイド・ライト(1867ー1959)が日本建築に影響を受けたように、日本建築は古くより世界でも評価されてきた。
1300年前に建立されたと言われる世界最古の木造建築「法隆寺」をはじめ、日本には古い建築物が数多く存在する。台風や地震にあいながらも現存している理由は、日本の木造建築技術のすごさと言えるだろう。そしてそれは、職人により幾度となく修理され、永く ”もたされている” ことを忘れてはならない。その職人技術を継承していくことが、日本の伝統建築を守っていくことに繋がると言えるだろう。
「昔、大工は町を守る陰の立役者でした。そして家をつくる仕事は、住む人の命を守る仕事だと思っています。こんなに素晴らしい職業はないですよね。優秀な大工を育て、木造建築を守っていきたい。そして、大工さんになりたいと言ってくれる子どもを増やすのが夢です」と谷口氏。
この大会に参加した学生が、日本の建築業界を背負う日も、そう遠くないのかもしれない。
今年は、どんな戦いが繰り広げられるのか注目だ。
【木の家設計グランプリHP】 http://www.dentoumirai.jp/
主催者
【社名】株式会社 木の家専門店 谷口工務店
【所在地】滋賀県蒲生郡竜王町山之上3409
【連絡先】0748-57-1990
【HP】https://taniguchi-koumuten.jp/
【MAIL】toiawase@taniguchi-koumuten.jp
※本件に関するお問合せ(担当:牧野、佐藤)
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