【数値基準】犬猫保護団体へアンケート調査を実施。52%が数値規制に期待も、漏れ出す犬猫レスキューの余裕はなし。ペットショップ等による譲渡促進の必要性が明白に。
ペット産業は責任を果たすために、本気で譲渡促進の取り組みを。
調査概要
動物愛護管理法の改正により、悪徳繁殖業者の淘汰を狙った各種数値基準が来年6月に施行されます。本数値基準は繁殖・販売事業者の健全化を促す効果が期待される一方、施行後に廃業が予想される業者が、適切に飼育できなくなった犬猫のセーフティネットの議論が進んでいないという課題があります。
実際にセーフティネットの役割が期待される、第二種届出を行っている保護団体にも数値基準は準用されることから、保護団体にアンケート調査を実施し、現状を把握し、あるべきセーフティネットの姿を検討するために、本調査を実施することといたしました。
その結果、数値基準施行後に、10.7%の保護団体で全体の保護頭数を削減する見込みがあること、25.0%の保護団体では、現状で人員数に関する数値基準を満たせていないことが明らかになりました。これらの結果から、保護団体の収容数を現状よりも増加させることは難しく、犬猫を追加で保護する余裕はないと考えられました。
繁殖業者(ブリーダー)から漏れ出す犬猫が、殺処分数に含まれることなく適正な家庭や施設に譲渡されるためには、ペットショップ等の事業者において、元繁殖犬猫の譲渡を本格的に促進し、譲渡のボリュームを確保する必要があると考えられます。数値規制の施行をきっかけに、ペット業界全体が適正な繁殖・販売に加え犬猫の終生に責任を全うする仕組みが求められるようになるでしょう。
調査方法・目的など
調査目的 | 数値基準に対する保護団体の現状を把握し、数値基準施行後の適切な譲渡の在り方について考察すること |
調査方法 | 譲渡仲介ポータルサイトOMUSUBI登録団体(対象150団体)に対して、メールにてアンケートフォーム(Googleフォームを利用)を送信し、回答を得た。 |
調査期間 | 2020年9月2日~9月9日 |
調査主体 | 株式会社シロップ 認定NPO法人人と動物の共生センター |
調査結果
1.回答者属性
対象150団体のうち、28団体から回答が得られた。法人格等については、任意団体16団体(57.1%)、NPO法人8団体(28.8%)、一般社団・一般財団法人3団体(10.7%)、株式会社1団体(3.6%)であった。
動物取扱業への届け出状況は、第1種届出8団体(28.8%)、第2種届出10団体(35.7%)、届出なし10団体(35.7%)であった。
数値基準が、第二種の届け出を行う保護団体にも準用されることについては、知っている17団体(60.7%)、知っているがよくわからない7団体(25.0%)、知らなかった4団体(14.3%)であった。
2.数値基準施行に関する期待と懸念
数値基準の施行に対して、期待するかどうかを聞いた質問では、とても期待している5団体(17.9%)、期期待している10団体(35.7%)、どちらともいえない11団体(39.3%)、期待していない2団体(7.1%)であった。
犬猫の繁殖業・販売業の適正化につながると思いますか?の質問に対しては、強く思う3団体(10.7%)、やや思う15団体(53.6%)、どちらともいえない4団体(14.3%)、やや思わない4団体(14.3%)、全く思わない2団体(7.1%)であった
懸念していることとしては、数値規制が運用されないこと17団体(60.7%)、繁殖業者からのレスキュー頻発による保護活動の負荷12団体(42.9%)、繁殖業者廃業による(保護犬猫増加に伴う)殺処分の増加11団体(39.3%)であった。
3.飼養面積基準はほとんどの団体でクリア
貴団体は、飼養スペースに関する数値基準を満たせると感じますか?の質問に対しては、基準を満たせる25団体(89.3%)、現時点では満たせないが改善可能2団体(7.1%)、基準を満たせないし改善も難しい1団体(3.6%)であった。
4.人員数の基準は7団体(25%)で満たせず
現在の犬猫の収容数と、1日の平均スタッフ数に関しては、以下の散布図の通りであった。尚、犬と猫では、スタッフ1人当たりの上限が異なる(犬は上限20頭、猫は上限30頭)ため、収容数=犬の頭数×1.5頭+猫頭数として計算した。
(図1 1日の平均スタッフ数と収容頭数-全体)
(図2 1日の平均スタッフ数と収容頭数-収容頭数120頭以下の施設)
収容頭数に対する人員数(スタッフ数)については、8時間労働のスタッフ1人あたり、犬20頭、猫30頭までとする数値基準案となっている(図のオレンジの直線)が、7団体(25.0%)の保護団体でこれを満たすことができていない現状が明らかとなった。
5.数値基準施行に合わせ、一部の保護団体では収容数を減らす見込み
数値基準施行に合わせ、「貴団体で収容できる犬猫の数(年間受入頭数)が変化する見込みはありますか?」の質問に対し、変更なし18団体(64.3%)、減らす見込み3団体(10.7%)、わからない7団体(25.0%)であった。保護団体であっても数値規制の準用対象となり、元々新型コロナの影響で運営状況が逼迫している団体も多く、保護頭数を増やす見込みの団体はなかった。
提言:保護団体に保護対応の余裕はなし、ペットショップは自ら譲渡促進を
以上の結果を踏まえて、調査主体からは、ペットショップをはじめとした関係諸団体に対し、以下のような提言を行います。
1.行き場のない、元繁殖犬猫が溢れる可能性
これまでにも多くの保護団体がブリーダーから犬猫を保護し譲渡を行っているが、数値基準施行後に、より多くのブリーダーが相次いで廃業し繁殖犬猫の飼育を継続できなくなった場合、これまで以上に保護しなければならない犬猫が増える可能性がある。しかし、本調査結果より、現時点で一部の保護団体では数値基準を満たせない団体もあり、収容数に関しても現状維持か減少見込みであった。つまり、保護しなければならない犬猫は増えるが、収容できる場所は減るため、行き場のない犬猫が溢れる可能性がある。
2.ペットショップは積極的な譲渡促進を
行き場のない犬猫を、適正に家庭に譲渡していくために欠かせないプレーヤーは、ペットショップである。当然ながら、ペットショップには、犬猫を迎えようとする人が多く集まる。そこで元繁殖犬猫などを譲渡機会を創出することができれば、漏れ出す犬猫のセーフティネットとなり得るだろう。
数値基準の施行後、どのくらいのタイムスパンで影響が生まれるかは具体的な予測はされていない。しかし適正化による廃業によって今よりも子犬子猫の数は減少することが見込まれる。その場合一部の店舗では、展示する犬猫が入らなくなることも考えられるだろう。元繁殖犬猫を店頭で紹介し譲渡することは、事業者としての責務となると共に、譲渡確定の際に飼い主がその後のケア商品やフード等の販売機会にもなるため、少なからず利益をもたす取り組みであると考えられる。
ペットショップでの元繁殖犬猫の譲渡は、ペットショップにとってもプラスに働く要素の多い取り組みと考えられる。是非ペットショップ関係者は積極的に検討いただきたい。
3.生体販売に限らず、ペット産業全体で、元繁殖犬猫への責任を果たす仕組みを
繁殖犬猫たちは、犬猫を迎えたいニーズを持つ消費者と、それを支えるペット産業を成立させる上で必要不可欠な存在である。その繁殖犬猫の適正な終生飼育に誰が責任を持つべきかといえば、それは生体販売業に限らない、ペット産業全体である。獣医師や、トリミングサロン、ペットフードメーカー・卸、動物医薬品メーカー・卸、ショッピングモール、ホームセンターなど、繁殖犬猫がいなければ収益を上げることのできないペット関連業の裾野は広い。生体販売に関わる業種だけの問題ではなく、ペットに関わる多くの業種が繁殖犬猫の適正な終生飼育に責任と取り組みを持つべきだろう。獣医師なら医療面で、トリミングサロンなら美容面で、各業種の強みを生かした適正譲渡促進を行っていくことが期待される。今回の法改正が、一つそのきっかけになることが望まれる。
本件に関する問い合わせ先
認定NPO法人人と動物の共生センター
担当:奥田順之
岐阜県岐阜市岩地2-4-3
TEL 058-214-3442
FAX 058-214-3640
MAIL info@tomo-iki.jp
株式会社シロップ
担当:OMUSUBI事業責任者 井島七海
東京都品川区上大崎3丁目14-1 中丸ハウス B棟
TEL 03-6456-2812
MAIL pr@syrup.co.jp
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