40m2住宅が住宅ストック循環の起点に
自立型高齢者住宅の実態調査が「健康寿命延伸と住宅ストック活用の好循環」を示唆


一般社団法人高齢者住宅協会(所在地:東京都千代田区、会長:芳井敬一)は、千葉大学予防医学センター社会予防医学部門(河口謙二郎特任助教)と共同で実施した、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ付き住宅)入居者・住宅事業者を対象としたアンケート調査「住まいと暮らしに関する実態調査」の結果を発表する研究報告会(2025年11月14日)を開催しました。本調査は、住宅空間・設備などの「ハード面」と、高齢者の健康・生活満足度といった「ソフト面」との関係を分析し、今後の高齢者住宅政策の方向性を検討するものです。
■調査結果のポイント
自立型住宅が健康寿命延伸に寄与する可能性が示唆されました。住室面積40㎡以上の住戸では、調理・外出・趣味活動といった主体的な生活行動が多く、生活満足度の指標も高いことが判明。特に二口以上コンロ付き住戸では、食事づくりが日常行動として維持され、身体活動の促進に貢献しています。
人との交流がウェルビーイングを高める
千葉大学予防医学センターの分析によれば、地域の友人・知人との交流がある入居者ほど、うつ・閉じこもりのリスクが低く、生活満足度・幸福度が高い傾向が示されました。多目的ホールなど、地域とつながる共用空間の整備が社会活動を支える鍵となることが明らかになりました。
活動参加・趣味継続が介護リスク低減
趣味やスポーツ活動に月1回以上参加する入居者は、要介護リスク・フレイルリスクが低く、健康寿命の延伸につながる可能性が示唆されています。
※比較にあたっては、年齢や日常生活自立度などの様々な背景要因を考慮して各高齢者がサ付き住宅に入居する確率「傾向スコア」を算出し、サ付き住宅入居者と地域高齢者の間で傾向スコアが近似する高齢者をマッチングして比較する「傾向スコアマッチング」という手法を用いた。

■参考:サービス付き高齢者向け住宅の住室面積
・サービス付き高齢者向け住宅は、全国で約29万戸(290,444戸、令和7年8月末)供給されているが、その78.7%は住室面積が25㎡に満たないもので、住室面積40㎡以上住戸は、全体の4.3%(12,397戸)のみである。

■調査の概要
・調査目的:サ付き住宅に早めに住み替えた自立高齢者を対象に、【A.空間・環境】、【B.日常生活】、【C.健康状態】の関係を明確にする。

・調査時期:2025年3月
・調査方法:アンケート調査 住宅事業者に送付し、居住者5名(要介護2以下、単身者)へ展開を依頼
・調査対象:自立高齢者が多く住むサ付き住宅1176棟/うち有効回答は360棟、1445人

■調査結果の概要
1.自立した高齢者の生活には、洗濯機・衣類収納、キッチン(コンロ2口以上)、充実した玄関、食寝分離が望まれる。これらを確保するには40㎡以上の面積が一つの目安となる。冬用の寝具やブーツなどの収納が不足すると自宅売却にあたっての家財整理が障害となる可能性がある。

2.自立した高齢者は、住宅の共用食堂があっても、全ての食事を食堂に頼るのではなく、部分的でも自分で調理をしている。自分で食事の用意をする人は必要な食材を買うために外出していることも把握された。外出が促進されることは、ウェルビーイングを高めることが期待される。


3.40㎡以上の住宅に居住する入居者について、入居前住宅との比較では、防犯上の安心感、寒さ解消、転倒防止で高い評価が得られている。一方、キッチンの使いやすさと収納の量については改善の余地があることが示された。

4.共用部に多目的ホールがあると、趣味・サークル活動が行われ、住宅内外の交流頻度が高まる。趣味活動の充実は外出を促進し、外出と交流の増加はウェルビーイングの向上につながることが期待される。


5.サ付き住宅の居住者は、地域で生活する高齢者と比較して、生活満足度が高く孤独感が低い、また身体機能・認知機能低下リスクが低いという特徴が見られる。

6.サ付き住宅の居住者による外出・交流・趣味活動の充実は、介護費用の抑制につながる。スポーツ実施頻度からの推定では約70万円/100人、趣味活動実施頻度からの推定では約130万円/100人の6年間累積介護費用の抑制が見込まれる。

7.自立中心型の住宅事業者の38%は、前住宅の活用について相談窓口を紹介している。適切なサポートがあることで、より住宅ストックが循環しやすい仕組みが作られる可能性が示唆された。


■今後に向けて
住生活基本計画見直しとの関連
本調査の結果は、国土交通省が現在進めている「住生活基本計画見直しの中間とりまとめ」における「住宅ストックの有効活用」や「単身高齢者の住環境整備」と深く関係しています。特に、高齢者住宅の質的転換(自立型・地域と連携したサ付き住宅の供給拡大)は、住宅ストックの円滑な循環や、空き家の抑制、地域社会の活性化にもつながる重要な施策です。現状、自立型サ高住は全体の約4%(約1.2万戸)にとどまっており、今後は、40㎡前後・2口以上コンロのキッチン付き・地域交流スペース併設といった新たなコンセプトのサ付き住宅の普及が、次期住生活基本計画で目指す住宅ストック活用の一翼を担うことが期待されます。
今後の展開
高齢者住宅協会は、本調査で得られた知見をもとに、自立型高齢者住宅の設計・運営モデルの確立を目指し、協会会員企業や国及び地方公共団体との連携を一層強化します。また、追跡調査による経年変化の分析により、住環境が健康・ウェルビーイングに及ぼす具体的な効果の解明に向けて進めます。
本プレスリリースは、当協会が千葉大学との共同研究報告書を素に発信するものであり、内容について当協会が責任を負うものです。
本件に関するお問合せ先
一般社団法人高齢者住宅協会 永野、信里、小林
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町1-21-1ヒューリック神田橋ビル4F
(電話)03-6867-8535 (FAX)03-6867-8536 (メール)info@shpo.or.jp

一般社団法人高齢者住宅協会
一般社団法人高齢者住宅協会は、高齢者が安心・快適に住まうことができる環境づくりを推進する業界団体です。2011年に設立され、サービス付き高齢者向け住宅や高齢者向け賃貸住宅などの運営事業者で構成され、高齢者の住生活向上を目指した調査研究や情報交換を行っています。
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