​新型コロナウイルス感染症の危機管理コミュニケーション~緊急事態宣言時に考える「事業継続コミュニケーション計画(BCCP)」~

株式会社ストーリーズ・オンおよび株式会社ストーリーズ・オン・ヘルスケア 代表取締役社長 大貫 武が、月刊人事労務(2020年4月号)に「新型コロナウイルス感染症の危機管理コミュニケーション」について寄稿いたしました。コミュニケーションを専門とする企業、医療・ヘルスケア領域に注力する企業として、本原稿を一部抜粋、改変して公開いたします。

「新型コロナウイルス感染症の危機管理コミュニケーション」
『月刊人事労務』(2020年4月号)掲載記事はこちらよりご確認頂けます。
https://storieson.co.jp/2020/04/01/media-coronavirus-crisis/

 〔以下一部抜粋版〕
■新型コロナウイルス感染症のリスクの特徴
新型コロナウイルス感染症は、顧客の減少など企業にとっての「事実上のビジネスリスク」をもたらす。それに加えて、社員や社外のステークホルダーの心理が引き起こす「イメージ上のレピュテーションリスク」が拡大する危険性が高いのが、新型コロナウイルス感染症における危機管理の特徴と言える。

【図表1】新型コロナウイルス感染症のリスク

 


■BCCPに基づくストーリーコミュニケーション
弊社では、新型コロナウイルス感染症に対する企業のリスク対策において、通常の「事業継続計画Business Continuity Plan、以下BCP)」に加えて、「事業継続コミュニケーション計画(Business Continuity Communication Plan、以下BCCP)」で事業継続のため戦略的なリスクコミュニケーションを行い、インフォデミックを回避することの重要性を提唱している。

リスクコミュニケーションは、BSEや遺伝子組み換えのなどの社会に向けたコミュニケーションの経験を経て、受け手の欠如している知識を補う「欠如モデル」から、受け手に寄り添った「文脈モデル」へと進化した。

リスクコミュニケーションにおいては、受け手の背景やニーズなど文脈を意識するというマーケティング手法に倣った「ストーリーコミュニケーション」が有効である。

■コミュケーションリスクマップの整備
また、リスクを適切に見積もった対策が、BCCP策定の上で重要となる。コミュニケーションリスクマップでステークホルダーのどの範囲にまで影響が及ぶのか、マスメディアやSNSでどのように情報露出するのかという2つの観点で整理・分析することをお勧めする。

【図表2】コミュニケーションリスクマップ


■社員が新型コロナウイルスに感染した場合の社内(従業員)向けの情報発信
新型コロナウイルスの事業継続コミュニケーション計画(BCCP)は「感染発生」の前後で必要となる。
感染という有事発生前から始まる「リスクコミュニケーション」と発生後の「クライシスコミュニケーション」に分けられる。

クライシスが発生した場合には、社内の意見を聞いて合意形成を行っている時間はない。企業のトップやマネジメントによる強いガバナンスを備えた対応が求められ、「感染発生」から情報収集、意思決定、情報発信までをいかに迅速に遂行できるかどうかが成否を決定する。このためには有事発生前から対応マニュアルや社内規定などの十分な整備が必要となる。ここで、ポイントとなるのはワーストケースシナリオを想定しての対応準備である。

(1)企業が社員に向けて行うべき対応は2つ
企業がクライシス発生前に社員向けに対策できることは大きく2つである。1つ目がリスクコミュニケーションであり、2つ目は感染リスクの低減対策だ。この 2 つが適切に行われていない場合、社内での「レピュテーションリスク」や場合によっては安全配慮義務を怠ったとして労働安全衛生上の「法規リスク」につながりかねない。

(2)社員向けリスクコミュニケーション
まず、社員向けリスクコミュニケーションで重要なのは「新型コロナウイルス」に関連した健康情報のリテラシーを上げる教育・啓発である。次のプロセスでの対応が求められる。

●信頼できる公的機関の情報をベースに社内の対応ガイダンスを決定する。(厚生労働省、国立感染症研究所、WHO など)
●情報は常に変化するため、担当を決め情報を常にウォッチし最新の更新情報を迅速に社内共有する。
●ネット上などに氾濫するデマ情報に社員が惑わされていないかに注意を払い、社としての公的見解で啓発を行う。


(3)社員向けの感染対策
オフィスや自社の持つ店舗・施設での感染リスク低減対策の徹底が必要である。こうした感染対策は、社員や顧客の健康を守るために重要なのは当然だが、対策を怠ることで社員や顧客から起こるレピュテーションリスクを回避することにもつながる。

社内での感染対策を進める上では、厚生労働省などの公的なガイドラインに基づき次のような対応が必要となる。

●手洗い、アルコール消毒、咳エチケットの励行
●テレワーク / 時差通勤の実施
●社内外会議のオンライン化の実施
●社員の体調の報告や検温の義務化
●社員に「密閉して換気が悪く」「人が密集し」「密接した近距離で会話や発生」する場所に集団で集まること(「XX人以上のイベント」等の基準を提示)を避ける
●体調に不調が見られた場合の報告、出社停止の義務化(37.5度以上の熱が 4 日間以上続く、強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある等)
●社員に感染の兆候のみられる場合の相談(地域相談窓口や相談基準の確認)
●検査陽性時の報告の義務化

こうした対策が適切に実施されるためには社内への周知が徹底される必要がある。
感染対策の周知を進めていくと、感染のリスクを潔癖症的に心配する社員が現れてくることもある。潔癖症は、米国では精神疾患の一種として扱われその対応に配慮しないと企業の責任が問われるなどの傾向も出てきている。

潔癖症の傾向を持つ社員にもストーリーコミュニケーションが有効である。社員が持つ不安の気持ちを否定せず、心配の要因を引き出し、気持ちや文脈を十分に受け止めた上でのコミュニケーションが大事なのである。

例えば、次のように、
会社     「Aさんはなぜ心配なのですか?」
A さん 「SNS でこういうことが書かれていました」
会社     「なるほど、こういう情報を見ると心配ですよね。ただこの情報は専門家によると根拠のない情報だと言われています。会社は厚生労働省などの専門的なガイドラインに従って対応していますので、安心してください。」

こうした対応を一人ひとりの社員に行っていくのは膨大な労力と時間がかかる。しかし、不安や不満を抱える社員をそのまま放置することは得策ではない。基本的な対応Q&A でメッセージと対応方法のガイドラインを策定し、部署ごとに担当者を決めておくとよい。

こうして社員の不安には対応するものの、企業の感染対策は「リスクゼロ」を目指すのではなく「リスク軽減」の原則で進めるべきである。感染対策の方針は厚生労働省などの公的ガイドラインに則っていることが大事であり、それ以下でもそれ以上である必要もない。これが企業のレピュテーションリスクと法規リスクを回避する対策の大原則となる。 

(4)感染発生後のクライシスコミュニケーション
次に、社員の「感染発生」というクライシス発生後の対応だ。広報担当者などのコミュニケーターを通じて、以下のような情報が、社内・社外に迅速に、しかもわかりやすく効果的に伝えられなくてはならない。

●「感染発生」の経緯
●濃厚接触者の有無
●感染者の出社停止や社内の消毒等の対策
●今後の会社としての対応策


そもそもこの感染発生という情報を企業がどのように入手してどのように対応するのかというプロセスを整理しておく必要がある。社員が検査を受けて陽性が判明した場合などでも、感染症法上にプライバシーを尊重するという規定があるため、厳密には会社への報告は本人に委ねられる。

社員に感染の報告義務を強制したい場合には、就業規則等の社内規定の整備が必要になるだろう。ただし、感染した社員が社内の行動から濃厚接触者を生んでいた可能性がある場合は、地域の保健所から会社に連絡が入る。

その場合、
●感染者や濃厚接触者の名前や健康情報などの個人情報をどこまで開示するか?
●感染後に何日間欠勤させるべきか?
●欠勤時に給与支給する・しないの規定は整備されているか?
●感染者や濃厚接触者が差別的な待遇を受けないための対策は?


といった法的義務や就業規則などの社内規定の改訂がどこまで必要かについて分析する必要がある。

■社員が新型コロナウイルスに感染した場合の社外(顧客・取引先・株主)向けの情報発信

(1)「感染発生」のステークホルダー影響度を特定する
社内の「感染発生」という有事は、社内にとってもクライシスであるが、様々なステークホルダーにも影響を与える。さらには、自社の施設内で顧客や取引先といったステークホルダーが「感染発生」した場合、リスクレベルは高まる。企業の社会的責任を前提とした対応が求められることになる。

もし社員が顧客に感染させたり、顧客どうしの集団感染に及んだ場合、企業の管理責任、場合によると法的責任が問われる可能性もある。

コミュニケーションリスクマップでステークホルダーのどの範囲にまで影響が及ぶのか、マスメディアやSNSでどのように情報露出するのかについて十分な分析と対策が必要だ。

【図表3】新型コロナウイルス感染症のコミュニケーションリスクマッピングの例


(2)初動の対応
社内や自社の施設・店舗で感染者が発生した場合、企業名が出されるケースは少ないものの、自治体等が速やかに発表を行うため、企業は感染発生の情報を迅速に把握できるようなプロセスを整備しておく必要がある。

企業が関係者に感染が発生したことを公表する法的義務はないが、社会的な責任を考慮し、かつプライバシー保護の観点も踏まえ、どこまでの情報を発信するかという意思決定を迅速に行わなければならない。

これには、公表までの目標時間を決めてシミュレーションしておくと良い。

感染発生から、対策チームの意思決定を経て発表を行うまでの時間は、理想としては2時間、遅くとも24時間以内には発表を行いたい。

■メディア対応上の留意点
(1)マスメディアがネガティブ報道をするリスク
マスメディアが報道を行うかどうかは、社会的に及ぼす影響の大きさに左右される。報道の可否を決定する基準は主に次の2つである。

1つ目は「人的な被害」が出たか、2つ目は「法的な問題」に及ぶかである。

新型コロナウイルスによってどのような「法規リスク」が想定されるかについては、社外の法律の専門家や社内の法務などとの十分な検討が必要となるだろう。

(2)マスメディアが注目するポイント
メディアが企業のクライシス時の対応で、注目しかつ指摘するのは3つである。

1つ目は「事態発生の原因・経緯」、2 つ目は「公表の遅れ・隠蔽」、3つ目は「再発防止策」である。

例えば、次のようなケースが発生したとする。

【想定ケース】
・社員がコロナウイルスの症状があるにも関わらず出社を続けた。
・会社はそれに気づきながら、容認していた。
・自社の店舗を訪れた顧客に集団感染および濃厚接触が発生。
・さらに基礎疾患をもった顧客が死に至った。

こうした場合、マスメディアからは、「企業が社員の十分な感染防止策を取っていたか?」「出社の強制はなかったか?」「店舗の換気やアルコール消毒の体制はどうだったか?」など原因・経緯が厳しく問われるだろう。

さらに、企業が自ら進んで事態の詳細を公表しなった場合には隠蔽体質を疑われる。また十分な再発防止策が提示されない場合には、ネガティブ報道が拡大し事業継続さえ危うくするリスクもはらんでいる。

従って、メディア対策としては、自社の事業から起こりうるリスクを抽出して、そこからマスメディアで報道されるようなリスクに優先順位をつけて準備を行うことが大事だ。そして、対応策はワーストケースシナリオを想定してシミュレーションすること、クライシス時に発信すべき必要情報は、想定のホールディングステートメントとして準備しておくことが望ましい。


(3)SNS の対策も必要
マスメディアによって報道されるのは、社会に大きな影響を及ぼすケースであり、比較的その基準が予想しやすい。一方で、ネット上でのレピュテーションリスクをもたらすSNS等の書き込みによる「炎上」が起きる基準の読みは難しい。

まず、「炎上」という言葉は何気なく使われるが、どのような性格を持つか分析をしてみたい。

炎上の約4 割は、ツイッターによるものである(出典:総務省「情報通信白書」アディッシュ株式会社調べ)。また、どのような状態を炎上とするかだが、過去の炎上の傾向から「リツイートが50 回以上行われた場合」という定義もある(出典:「実証分析による炎上の実態と炎上加担者属性の検証」山口真一氏)。

(4)情報露出リスクの「中間ゾーン」が危険
次に、新型コロナウイルス感染症においてどのような「炎上」リスクがあるかについて考えてみたい。

【想定ケース】
・職場の感染対策が不十分なまま出社させられた社員が不安や不満を書き込んだ。
・派遣の社員が新型コロナを理由に職を失い対応の不満を書き込んだ。
・就職の内定者が新型コロナを理由に内定解除をされた不満を書き込んだ。

こうしたケースは、企業が法的な基準に則って対応しており、なんら非が認められない場合でさえ、その姿勢や倫理感が「心証を害した」という理由から炎上を生むことがある。

このように、マスメディアに報道されるような明確な理由がないにも関わらず炎上を生んでしまう、情報露出リスクの「風評リスク」「管理不備リスク」にあたる中間ゾーンのリスクの対策が企業にとって難しい。この対策には、新型コロナウイルスに関連して社内でSNS 利用ガイドラインの徹底を図るのと併せ、SNS モニタリングのツールなどを活用して自社の社名や店舗・施設などに関する書き込みがされていないか閲覧を行うことが必要である。

こうしたツールには、リツイートが一定数を超えた場合にアラートを発信してくれる機能がついているので炎上に備えることができる。また、平常時から炎上した場合の社内での報告やエスカレーションの基準、対応方法などについて準備しておくことが求められる。

■時差出勤やテレワークを行う場合の対応方法
(1)時差出勤・テレワークを実施するうえでの課題
時差出勤やテレワークを実施していくうえで、懸念や課題には次のようなものがある。

・テレワーク用のデバイスやシステムの体制、制度の未対応
・時差出勤・テレワークなどの対応が不可能な部署などの扱い
・継続的なテレワークによる社員のストレスやモチベーション低下

・テレワークによる情報セキュリティ低下が招く事故 

このような課題を解消するために、テレワークの運用方法やコミュニケーションツールの整備、社内コミュニケーションを活性化するための工夫などが必要である。

(2)コミュニケーションツールの活用と工夫
社員のモチベーションの低下やストレスを低減するためには、テレワークでの業務において、ウェブ会議システムやチャットツールの導入が効果的である。

Microsoft Teams 、Slack、SkypeやZoomといったツールを活用することで、双方向でカジュアルな形態のコミュニケ―ションが実現される。

期間限定のものもあるが、無料で使用できるツールも多く登場している。検討にあたってはまず無料での試用から始めることも可能である。

ツールの導入にあたっては、使用経験のない社員から不安や問い合わせが発生することも予想される。そのような場合は、対応やサポートの専任スタッフ、窓口を設けることも必要だ。対応やサポートに慣れた外部の企業へのアウトソースも検討していきたい。

(3)テレワークにおけるマネージメント
テレワークにおいては、社員とのより一層密なコミュニケーションが重要となる。ウェブ会議システムを用い、通常より高頻度に定期的なチームミーティングを行う、1対1のコミュニケーションの場を設ける等、社員の孤立を防ぐための対策も必要である。

また、チーム内でのコミュニケーションのオープン化、可視化にもいつも以上に気を配る必要がある。チャットツール等を用いてチームメンバーのコミュニケーション、ミーティングの議事録等をオープンにすることで、情報の周知や理解の齟齬を減らすことにもつながる。

社員の体温、症状などの報告を義務付ける際にもこうしたチャットツールは有効に働く。
 
また、自宅でのテレワークは、運動不足を招きメンタルの健康を害することにもつながりかねない。社員に対し、自宅で出来る簡単な運動を促すことも大切である。

こうした課題に対して、弊社で実際に実施している対策を紹介したい。弊社では、毎日決まった時間にウェブ会議システムを用い、体操動画やダンス動画を共有しながらチーム数人が同時にダンスを踊るというストレス解消法を行っている。

このようにチームワークを高めながら、モチベーションを維持するような対策は危機的な状況においては大変重要である。それぞれの企業に相応しい形式でのテレワークやモチベーション維持の対策を進めることで、終わりが見えない新型コロナウイルスのリスクに対して抱く社員の不安の解消につなげることが可能となる。


≪まとめ≫
新型コロナウイルスのリスク対策のポイントをまとめると、次のようになる。
  • 「事実上のビジネスリスク」に加えて「イメージ上のレピュテーションリスク」の拡大の危険性が高い
  • インフォデミックを抑える「文脈モデル」のストーリーコミュニケーションが効果的
  • 「感染発生」前後の事業継続コミュニケーション計画(BCCP)の策定が成否を決める
  • 「感染発生」発生時の法的義務や社内ポリシー整備の分析が必要
  • 先の見えない新型コロナウイルスのリスクに対策は、社員やステークホルダーの「レピュテーションリスク」をコントロールする情報戦が重要

最後に、この寄稿が企業の総務や広報の皆様がこの未曾有のリスクに対応しながら事業継続性を担保し、一刻も早く平常時の事業環境への復帰を達成するのに少しでもヒントとなれば幸いである。
 


株式会社ストーリーズ・オン
株式会社ストーリーズ・オン・ヘルスケア
代表取締役社長 大貫 武

1969年生まれ。早稲田大学卒業後、独立系PR会社に入社。2013年同社チーフ・オペレーティング・オフィサーに就任。2018年に株式会社ストーリーズ・オンを創業し、代表取締役に就任。2019年には、医療・ヘルスケア領域のコミュニケーションに特化した、株式会社ストーリーズ・オン・ヘルスケアを設立。
約20年に亘るコミュニケーションコンサルティングの経験を持ち、対象業種は医療・ヘルスケア、製造、食品、IT、消費財など多岐にわたる。
企業を取り巻くステークホルダーや社会におけるコミュニケーション上の課題を解決するストーリーPRやイシューズマネジメントの戦略策定と実施において多くの実績を持つ。また、人事労務、コンプライアンス、食品事故など企業の危機管理コミュニケーションを多数経験している。

<弊社のサービスに関するお問い合わせ>
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