新型コロナ時代に医薬品アクセスに取り組む企業は増加 今後の動向は?

*本リリースはオランダで11月15日に発表されたものの抄訳です。

2022年版の医薬品アクセスインデックス(以下、「ATMインデックス」)では、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の感染拡大以降、より多くの製薬企業が、医薬品の一部を低中所得国でより広くアクセスできるよう、取組を促進していることが明らかになりました。新型コロナがグローバルヘルスの転換点とすれば、次の課題は、企業がより多くの国で、医薬品へのアクセスを拡大し、低中所得国の人々に行き渡るようにすることと言えます。
  • 研究開発パイプラインの終盤にあるプロジェクトの77%で、上市後のアクセス促進計画が策定されている(前回調査は40%)。
  • 既存医薬品へのアクセスを拡大するための戦略を策定する企業が増えている。評価対象の医薬品のうち、83%がそのような戦略の対象となっており、前回の58%から向上した。
  • 3社が少なくとも1件の任意ライセンスに取り組んでおり、ノバルティスは、非感染性疾患の医薬品を対象とした初のライセンスに調印した。
  • 新型コロナに対する迅速かつ効果的な研究開発の取り組みにもかかわらず、ワクチンの普及においては世界的な不公平があり、また、新興感染症に対する研究開発は依然として不十分である。
  • GSKが首位を維持し、新たにジョンソン・エンド・ジョンソンが2位、アストラゼネカが3位にランクイン。
【オランダ・アムステルダム、2022年11月15日】世界が新型コロナの最悪の危機から脱した今、製薬企業は、パンデミックから学んだ教訓を生かし、低中所得国における長年の医薬品アクセスのギャップを埋める解決策を見つける上で極めて重要な岐路に立たされていると言えます。本日発表された2022年版のATMインデックスによると、従来あまり行動を起こしていなかった企業を含め、より多くの企業が対策に乗り出し、正しい方向に進んでいることが確認されました。

今回初めて、調査対象企業20社すべてが医薬品アクセス戦略を報告し、そのうち19社はこれを企業戦略全体に組み込んでいます。また今回の調査では、低中所得国における自社医薬品のアクセス向上と供給強化に取り組んでいる事例が見られ、中でもGSK、ファイザー、武田薬品による、様々な所得区分の国に対しての公平で堅固なアクセス戦略が際立っていました。また、より多くの企業が任意ライセンス契約を締結し、特許権付き医薬品をジェネリック医薬品として製造できるようにしています。これにより、従来では多くの低中所得国に住む人々に行き渡らなかった革新的な新薬の、この地域での入手可能性、供給、購入可能性を向上させることができるようになりました。

しかし、これらの進展の多くは均一ではなく、低所得国は中所得国に比べて依然として大幅に見過ごされています。ファイザーとサノフィは、これらの国々における新たな野心的なコミットメントを発表しています。このようなコミットメントが今後、実際の行動に移されれば、最も必要としているより多くの人々が恩恵を受けられるようになります。

医薬品アクセス財団(Access to Medicine Foundation)のCEOジェイアスリー・K・アイヤー(Jayasree K Iyer)は次のように述べています。「製薬企業は、新型コロナで浮き彫りになった医薬品アクセスの不公平に対応しており、多くの国において、問題に対処することなどを約束しています。これらの目標を実現し、迅速かつ広範囲に患者さんに手を差し伸べることができれば、グローバルヘルスのギャップの解消に向けた飛躍的な進歩となるでしょう」

公平なアクセスのための計画は、医薬品の上市だけでなく、包括的でなければならない
新しい革新的な医薬品やワクチンが上市された後、できるだけ迅速に低中所得国の人々がアクセスできるようにするため、企業は、少なくとも研究開発の臨床第II相試験(フェーズII:以下、「後期段階」)からパイプラインにある医薬品についてのアクセス計画を策定することが理想的です。アステラス製薬、ベーリンガーインゲルハイム、ジョンソン・エンド・ジョンソン、メルク、ノバルティス、武田薬品の6社は、現在、すべての後期研究開発段階のプロジェクトについてアクセス計画を策定しており、対象企業20社の中で、初めてこのマイルストーンに到達しました。この進展は心強いものの、対象企業のアクセス計画の中で、低所得国27カ国に含まれる国を対象とするものはわずか15%に過ぎず、研究開発プロジェクトのアクセス計画においては、高中所得国26カ国が考慮される可能性がはるかに高い状況にあります。

一部の企業は、より包括的で低所得国を含むアクセス計画を策定しています。例えば、ノバルティス社は、重症マラリア治療薬シパルガミン(KAE609)の臨床試験に低所得国5カ国を含めています。同社は、試験後のアクセス方針に沿って、承認後にこれらの国でこの医薬品を登録することを約束しています。武田薬品のデング熱ワクチンQDENGA®(TAK-003)のアクセス計画では、登録申請の計画における疾病負担を考慮するとともに、革新的な衡平価格モデルや持続可能なコールドチェーン供給を確保するための方法についても検討しています。本ワクチンは、2022年8月に最初の市場承認を取得し、欧州医薬品庁(EMA)の承認は申請中です。

研究開発段階でのアクセスに関する計画が業界全体で改善されていることは心強い一方で、企業は、上市する革新的な新薬が持続的かつ購入しやすい価格で供給できるよう考慮する必要があります。それ故に、任意ライセンス契約の締結は、特に企業が特定の低中所得国で自社ブランド医薬品を発売するつもりがない場合、低価格のジェネリック医薬品の導入を可能にするという、重要な役割を果たすことができます。2022年版のATMインデックスの重要な結果の1つは、企業が非独占的任意ライセンスに取り組む傾向が強まっていることが確認された点です。その結果、複数のジェネリック医薬品メーカーは、多くの場合異なる国々において、特許を有する医薬品をジェネリック医薬品として開発・製造する権限を、特許権者(製薬企業)から付与されることになります。

分析期間中*、6社が新たに任意ライセンス契約を締結し、アストラゼネカ、イーライリリー、ノバルティスの3社にとっては初のライセンス契約となりました。この傾向の多くは、新型コロナ向け医薬品の任意ライセンスに取り組む企業によるものですが、新規治療薬や非感染性疾患向け医薬品など、より幅広い医薬品のライセンス締結を検討する企業への扉を開くものとなっています。ノバルティスが医薬品特許プール(Medicines Patent Pool)と締結した白血病治療薬の非独占的任意ライセンス契約は、非感染性疾患を対象とした初めのもので、重要な意味を持ちます。今後、より多くの企業が、より幅広い疾患や国を対象とし、医薬品ライフサイクルの早い段階で、アクセス重視条項のついた、非独占的任意ライセンス契約に取り組む必要があります。

医薬品アクセス財団のリサーチ・プログラム・マネージャーのジェームス・ヘイゼル(James Hazel)は次のように述べています。「2022年版のATMインデックスでは、業界全体がアクセス計画を立て、アクセス戦略を拡充しているにもかかわらず、低所得国が見落とされていることが判明しました。企業は、最も脆弱な人々に医薬品アクセスが届くよう、計画は十分か、サプライチェーンは強固か、価格戦略は公平かどうかについて考慮する必要があります」

 アストラゼネカがトップ3に浮上、メルクはトップ5に仲間入り
ATMインデックスは低所得国108か国において医薬品アクセスの向上に努める世界の有力製薬企業20社を対象としたランキングです。

GSKは今年も1位を維持しており、ジョンソン・エンド・ジョンソンとアストラゼネカが僅差で続き、後者は新たにトップ3入りを果たしました。

GSKは、特に低中所得国の人々が多く影響を受ける疾患の治療法を開発するための研究開発に取り組んでおり、ライセンス供与を含め、医薬品カテゴリーに応じたアクセス戦略を適用していることで他社をリードしています。アストラゼネカは、特許の透明性と技術移転のアプローチに優れており、医薬品提供の分野でトップに立っています。 

バイエルは初めてトップ10に入り、研究開発におけるパフォーマンスを向上させました。2022年版ATMインデックスでは、幅広い地域的広がりを持つバイエルの研究開発計画がベストプラクティスとして評価されました。メルクはトップ5に入りました。メルクは研究開発アクセス計画に優れており、すべての後期研究開発プロジェクトにアクセス計画があるほか、特許の透明性へのアプローチでも高いパフォーマンスを示しています。

日本企業について
武田薬品工業:7位(前回6位)。武田薬品工業は本インデックスでトップ10にランクインしています。同社は、医薬品アクセスに対するガバナンス(Governance of Access)で高い評価を得ており、あらゆる分野で質の高い能力を構築することに取り組んでいます。パイプラインが少ないにもかかわらず、研究開発においても、開発後期段階のパイプライン候補に包括的なアクセス計画を適用することで高いパフォーマンスを示しています。

エーザイ:12位(前回11位)。エーザイのパフォーマンスは平均的で、上市されている製品へのアクセス戦略で平均的なパフォーマンスを示しています。同社は、優先疾患に対する研究開発に取り組んでいますが、後期段階のパイプライン・プロジェクトの大半はアクセス計画を作成していません。一方で、低中所得国での医薬品の継続的な供給を確保するためのプロセスを有している点は評価されています。

アステラス製薬:16位(前回14位**)。アステラス製薬のパフォーマンスは平均以下であり、「製品供給(Product Delivery)」において、公平なアクセス戦略に対するパフォーマンスは比較的低いと言えます。しかし、研究開発のアクセス計画のプロセスは強化されています。

第一三共:17位(前回16位**)。第一三共は、すべての「Technical Area」において下位に位置しています。責任あるプロモーション活動とコンプライアンス・コントロールの実施におけるパフォーマンスは低くなっています。さらに、評価対象となった製品の大半について、アクセス戦略を欠いています。しかし、医療システム強化の分野では、高いパフォーマンスを示しています。

次の世界的な健康危機の引き金となりうる新興感染症の研究開発 
歴代のATMインデックスを見ると、新型コロナのパンデミック以前は、製薬企業はパンデミックの可能性が既に指摘されていたコロナウイルスを含め、新興感染症の研究開発にほとんど取り組んでこなかったことがわかります。残念ながら、2022年版ATMインデックスでも、新興感染症(新型コロナおよびその他コロナウイルス疾患を除く)を対象とした研究開発プロジェクトのパイプラインは皆無に近いことが判明しました。対象企業20社のうち、この分野で活動しているのはバイエル、ジョンソン・エンド・ジョンソン、メルク、MSD、武田薬品の5社のみで、これらの企業は次のパンデミックや深刻な流行を引き起こす可能性があるとされる少数の新興感染症を対象としています。 

このような厳しい状況にもかかわらず、新興感染症の研究開発には大きな進展がありました。ジョンソン・エンド・ジョンソンのエボラ出血熱用の2回摂取ワクチン(Zabdeno®とMvabea®)が承認され、また、チクングニアやジカなどの病気を媒介する可能性のある蚊の成虫の駆除に使われる、バイエルのベクターコントロール薬(Fludora® Co-Max)が、世界保健機関の事前承認を得ました。バイエルはATMインデックスが対象とする複数の国において、同医薬品の登録を計画しているという証拠を提供しています。

気候変動、都市化、グローバル化、人々の移動などにより新興感染症リスクが世界的に高まる中、より多くの企業がより幅広くこれらの疾患の研究開発に投資し、新薬開発と同時にアクセス計画に取り組む必要があります。世界的なリスクに加え、低中所得国に住む多くの人々がすでに新興感染症の脅威に直面しており、エボラ出血熱、マールブルグウイルス、ラッサ熱などの最近の発症は、ワクチンや治療に対する緊急の必要性を示しています。

2022年版ATMインデックスレポートの詳細(英語)はこちらをご覧ください: https://accesstomedicinefoundation.org/news/2022-access-to-medicine-index-more-companies-move-to-address-access-to-medicine-will-they-now-go-further

*:2022年度医薬品アクセスインデックスの分析期間:2020年6月1日~2022年5月31日
**:2021年1月に発表されたインデックスは、Dense Rank手法(同率があった場合、同じ順位となり、次の順位を飛ばさない)が採用されているのに対し、2022年版は標準的な手法(同率の場合、同じ順位となり、次の順位を飛ばす)が採用されているため、直接的な比較はできません。

注記
メディア資料
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ATMインデックスについて
「医薬品アクセスインデックス」(ATMインデックス)は、世界の有力製薬企業20社を対象に、低中所得国における高負荷疾病の医薬品アクセスに対する取り組みを分析し、医薬品アクセス向上にむけた企業の取り組みに基づく企業の格付けを行います。ATMインデックスは、ベストプラクティスや進展が見られる分野を特定すると共に、いまだ重要な行動が必要とされる分野を明らかにします。ATMインデックスは、運用資産総額が21兆米ドル超となる、134社を上回る機関投資家からの支持を受けています。ATMインデックスは、オランダ政府と英国政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、レオナ・M&ハリー・B・ヘルムスレイ慈善信託、およびアクサ・インベストメント・マネージャーズが資金を提供する独立非営利研究財団、医薬品アクセス財団が2年ごとに実施しています。

 

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会社概要

URL
https://accesstomedicinefoundation.org/
業種
財団法人・社団法人・宗教法人
本社所在地
Naritaweg 227A 1043 CB, Amsterdam The Netherlands
電話番号
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代表者名
Jayasree K. Iyer
上場
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資本金
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設立
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