東北大学発スタートアップAZUL Energy(アジュールエナジー)が次世代エネルギーデバイスとして期待される空気電池の大幅な高出力化に成功

出力が低いためにこれまで補聴器などに限られていた空気電池の用途が、電気自動車やドローンに拡大する可能性を示すレアメタルフリー空気電池の研究成果を発表

AZUL Energy株式会社

リチウムイオン電池に代わる次世代エネルギーデバイスとして、大容量化や高い安全性・低コストが期待される空気電池が注目されています。しかしながら、亜鉛空気電池は電圧が1.4 V程度で、3.7 Vを発生するリチウムイオン電池と比べて低く出力も小さいため、低出力で長時間駆動する補聴器などに用途が限られていました。
東北大学材料科学高等研究所の藪浩教授(主任研究者)および東北大学発スタートアップであるAZUL Energy株式会社(代表取締役:伊藤晃寿)からなる研究グループは、独自に開発した正極触媒と酸性・アルカリ性電解質をタンデムに配置したセルを用いることにより、開放電圧が2 V以上で高い出力を有する亜鉛空気電池を実現できることを見出しました。本成果は電気自動車やドローンなどに金属空気電池を適用する際のボトルネックとなっていた電圧や出力不足の問題を解決する端緒を開く研究成果であると考えられます。本研究成果は、現地時間の2023年4月24日に米国物理学会出版の新しい科学誌「APL Energy」創刊号に掲載され、本誌のFeatured Articleにも選ばれました。

  図1 本研究で開発したAZUL触媒電極と酸性・アルカリ性電解質タンデム型亜鉛空気電池セルの模式図


1.研究の背景

 近年電気自動車(EV)やドローンなどの普及に伴い、大容量で高出力な電池の開発は走行・飛行距離の長距離化や電費の効率化の実現において重要な研究開発課題となっています。また、太陽光、風力などの自然エネルギーの備蓄や長期の停電にも対応できる大型のバックアップ用電源、系統電力の平準化など大型蓄電池の需要が増加しています。大型蓄電池にもリチウムイオン電池が用いられますが、価格の高さや安全性の問題、更にはリチウムやコバルトなどの資源問題から、次世代の大容量エネルギーデバイスのニーズが高まってきております。

 電池のエネルギー密度と出力密度の関係を示すラゴンプロットに示される通り、亜鉛空気電池に代表される金属空気電池はリチウムイオン電池(Lithium-Ion Battery, LIB)に比べ大きな容量を有し、次世代のエネルギーデバイスとして期待されています。空気電池は、正極では空気中の酸素を取り込み、負極には安価な亜鉛やアルミニウム、鉄などを用いる構成の次世代電池で製造コストが低いという特徴があります。しかしながら亜鉛空気電池の電圧は1.4 V程度であり、3.7 VのLIBに比べ駆動電圧が低く出力も低いため、低出力で長時間駆動する補聴器など、限られた用途にしか用いられてきませんでした。そのため、上記のデバイスに金属空気電池を適用するためには、駆動電圧を上げ、高出力化することが求められてきました。

      図2.ラゴンプロット。横軸にエネルギー密度(容量)、縦軸に出力密度をプロットしている。


2.研究内容と成果

 これまで研究グループでは、レアメタルフリーで高いORR活性を示す白金代替の高機能触媒「AZUL」(図1左)の開発を報告しています。本触媒は青色顔料の一種である鉄アザフタロシアニンを炭素上に分子吸着した電極触媒であり、アルカリ環境下でPt/Cに匹敵する性能を示すことが明らかとなっています。

 今回研究グループはまずAZUL触媒単体の活性評価を行いました。触媒単体のORR活性を触媒回転頻度(TurnOver Frequency, TOF)で比較したところ、AZUL触媒は約3~6倍Pt/Cよりも重量活性が高いことが判明しました。これは、同じ量の鉄アザフタロシアニンとPtを用いたとしても、AZULの場合鉄アザフタロシアニン分子一つが触媒活性点として機能するのに対し、Ptはナノ粒子化されており、表面に露出した原子しか反応に寄与できないためであると考えられます。

 次に、AZUL触媒の亜鉛空気電池への適用性について検討を行いました。AZUL触媒とPt/C触媒を正極のカーボンシートに塗布し、3Dプリンタを用いてアルカリ電解質を用いた亜鉛空気電池セルを作製して出力特性と放電特性を評価したところ、AZUL触媒を用いた亜鉛空気電池セルは1/2〜1/3の触媒量でPt/Cと同等の性能を示すことがわかりました。この結果は正極触媒の高い重量活性を反映していると考えられます。

 さらに、電解液室を二つにし、その界面をアニオン交換膜で隔てることで、酸性・アルカリ性電解質をタンデムに配置したタンデム型セルを作製し、AZUL触媒正極、Pt/C正極を用いた亜鉛空気電池を作製しました。(図1右)酸性電解質として3.5 M 塩酸を、アルカリ性電解質として6.0 M 水酸化カリウム水溶液を用いて、出力特性と放電特性を評価したところ、AZUL触媒を用いたセルにおいて、開放電圧最大2.25 V、最大出力318 mW/cm2、最大容量1,139 mWh/g(Zn) (Wh/kg(Zn)、負極の亜鉛重量あたりの容量)を達成しました。これはこれまで報告されているレアメタルフリー正極触媒を用いた亜鉛空気電池の中で最も高電圧・高出力です。

 今後、研究グループでは、セルのスタック化や大面積化などを通して、ドローンや電気自動車などの輸送デバイスに適用可能な空気電池の開発を進めていく予定です。

         図3.酸性・アルカリ性電解質タンデム型亜鉛空気電池セルの出力・放電特性。


【掲載論文】

著者名 :Kosuke Ishibashi, Koju Ito, Hiroshi Yabu

論文題名: Rare-metal-free Zn-Air Batteries with Ultrahigh Voltage and High Power Density Achieved by Iron Azaphthalocyanine Unimolecular Layer (AZUL) Electrocatalysts and Acid/Alkaline Tandem Aqueous Electrolyte Cells

雑誌名 : APL Energy

DOI  : 10.1063/5.0131602

URL  : https://pubs.aip.org/aip/ape/article/1/1/016106/2884912/


【AZUL Energyについて】

会社名   :AZUL Energy株式会社

設立日   :2019 年7 月11 日

代表者   :代表取締役 伊藤 晃寿

役員    :取締役副社長 林誠之、取締役・最高科学責任者(CSO) 藪 浩、取締役 阿部 博弥

URL    :https://www.azul-energy.co.jp

本社所在地 :〒980-0811

       宮城県仙台市青葉区一番町1-9-1 仙台トラストタワー10階 CROSSCOOP内

開発センター:〒980-8577

       宮城県仙台市青葉区片平2-1-1       

       国立大学法人 東北大学 産学連携先端材料研究開発センター(MaSC)

東京オフィス:〒105-0001

       東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階 CIC Tokyo

資本金   : 90,800,000円


【本件に関する問い合わせ先】

AZUL Energy株式会社

代表取締役 伊藤 晃寿

E-mail:info@azul-energy.co.jp

すべての画像


ダウンロード
プレスリリース素材

このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます

会社概要

AZUL Energy株式会社

12フォロワー

RSS
URL
https://www.azul-energy.co.jp/
業種
製造業
本社所在地
宮城県仙台市青葉区一番町1-9-1 仙台トラストタワー10階 CROSSCOOP内
電話番号
022-209-5333
代表者名
伊藤 晃寿
上場
未上場
資本金
2億5800万円
設立
2019年07月