【米Tellus社】健康指標の導入で、個々の高齢者の危険予兆を数値化し、約60%の施設高齢者の早期介入と健康の維持向上に貢献
〜自社の高性能レーダーにより明らかとなった施設高齢者の行動特性とその改善に関する調査を発表〜
厚生労働省は、令和3年度介護報酬改定(令和3年4月1日施行)において、介護サービスの需要が増大することが見込まれる中で、サービスの質の向上を進めていくにあたり、介護サービスのアウトカム等について科学的手法に基づく取り組みを進めています。[1]また、科学的裏付け(エビデンス)に基づく介護(=「科学的介護」)を実現していくため、データの蓄積、およびその利活用が求められています。厚生労働省は、それらの実現を目指し、介護サービス利用者の状態や、介護施設・事業所で行っているケアの計画・内容などを一定の様式で入力すると、インターネットを通じて厚生労働省へ送信され、入力内容が分析されて、当該施設等にフィードバックされる情報システム(LIFE)の利用を進めています。
一方で、介護現場にはICTや介護ロボットの導入が進んでいます。これらを活用して、現場の情報をデジタル化し解析することで、介護職員の負担軽減や高齢者に適切な介入をするための知見を増やす取り組みが行われています。
本調査では、Tellus You Care 合同会社が開発し提供するTellus見守りセンサーを活用し、国内の介護現場から集められた情報を蓄積し、分析することで、見守りだけではなく、個々人の危険な状態の予兆をデータから見つけ出すことができた事例をご紹介します。また、危険予兆のあった一部の施設高齢者※2に対しては、介入プログラムを実施し、その結果、約60%の施設高齢者に維持・改善が見られましたので、あわせてご報告いたします。
※1Tellus見守りセンサーは、ウェアラブル不要で、高齢者の心拍・呼吸、睡眠、部屋での活動などを24時間365日センシングすることが可能です。
※2施設高齢者とは、本稿ではサービス付き高齢者向け住宅を含む介護施設において介護サービスを受けている高齢者と定義します。
本調査について
世界経済フォーラムが2023年に発表した記事では、モニタリングセンサーなどの低価格化により、患者のデータを長期間蓄積、そしてAIなどで分析できるようになったことで、臨床医が特定の患者の正常値を即座に知ることができるようになったこと、さらに、患者の正常値を知ることは、患者の潜在的な健康危機の早期発見にも繋がると報告がされています。[2] また、クリニックで取得される定点での測定では見逃される可能性のある健康上のサイン(心電図 (ECG) とパルスオキシメーターからのデータ)を発見するのにも役立っていると言及されています。[3]
そこで弊社は、Tellusデバイスを活用し、30日以上のデータが収集された139名の施設高齢者のデータを対象に介護に必要とされる健康指標を論文などを参考にしながら独自に選定し、139名の施設高齢者のデータを各健康指標にあわせ解析する調査を実施しました。
また、医療の現場ではエビデンスに基づいた医療を実施することで、早期治療と不必要な医療介入をの低減により、有害事象を20%、コストを18%削減することが示されています。[4] 介護の現場でもエビデンスに基づく介入に向けた取り組みが推進されていることから、弊社では139名中の10名の施設高齢者を対象に、介護職員と協力して目標を設定し、介入策を考えることで、最新のプロアクティブな高齢者ケアのサービスを生み出しました。本調査レポートでは、その事例についても一部紹介します。
健康指標
本調査で用いた健康指標は、高齢者の健康をモニタリングするに当たって重要であり、かつTellusデバイスで取得できる情報である「A.睡眠」「B.部屋及びベッドでの活動」「C.排泄行動」の3つのカテゴリに整理し、調査分析を行いました。
A: 睡眠に関する健康指標
睡眠は人間の健康に影響を与える重要な要素であり、かつ健康的な睡眠は健康的な加齢においても不可欠であることから、最近の米国睡眠医学アカデミーと睡眠研究協会の共同声明では、健康的な睡眠は「適切な持続時間、質の良し悪し、適切なタイミングと規則性、および睡眠障害や障害がないこと」と定義されています。[5]
Tellusデバイスは、睡眠時間、就寝・起床時間、1週間の睡眠リズムの状況、日中の睡眠時間をモニタリングしています。その中でも、認知症、心血管疾患、II型糖尿病、肥満、うつ病などの主な危険因子とも言われている[6]、睡眠不足と過度の睡眠について分析しました。また、健康状態の悪化や認知症の関連リスク因子の一つであるとされている日中の睡眠についても分析しました。
1日の平均睡眠時間について分析した結果、施設高齢者の27%が睡眠不足( 6時間以下の睡眠)になっていることがわかりました(図1を参照)。これにより認知症を含む複数の合併症のリスクが30%高くなります。[7]また、施設高齢者の約11%が過剰な睡眠( 9時間以上の睡眠)となっており、これも認知症発症のリスクが高まる一因となっています。 [8]
日中の平均睡眠時間について分析した結果、施設高齢者の約46%が1〜3時間、17%が3時間以上昼寝をしている(図2、午前10時から午後6時の間に発生した睡眠と推定)ことが分かりました。日中の睡眠がもたらす健康上の影響は深刻で、ある研究によれば、1日1時間以上昼寝をする高齢者はアルツハイマー病を発症するリスクが40%高くなると推定されています。[9]
B: 部屋及びベッドでの活動に関する健康指標
患者の社会的孤立と孤独は、認知機能低下の修正可能な危険因子であると言われています。[10]また、新型コロナウイルスのパンデミック時にはウイルスの蔓延を抑えるために、集団行動や共同での食事の機会が著しく減少しました。
Tellusデバイスは、部屋の在室時間、在室時のベッド上で過ごす時間、ベッドから離れた回数など様々な活動をモニタリングしています。特に、部屋及びベッド上での活動状況をモニタリングすることは、高齢者の社会的な交流についてモニタリングするための指標の1つにもなると考えています。そこで、ここでは1日の平均在室時間及び平均在床時間について分析しました。
1日の在室時間及び在床時間について分析した結果、施設高齢者の14%が1日18時間以上を寝室で過ごし(図3を参照)、55%が1日14時間以上ベッド上で過ごしている(図4を参照)ことが明らかになりました。 新型コロナウイルスの制限が多く解除された現在でも、介護施設では、施設高齢者の行動がまだパンデミック前の社交レベルに戻っていないことが報告されています。
C: 排泄行動に関わる健康指標
夜間頻尿は、夜間にトイレまでの移動を必要とするため、加齢による変化や身体的疾患、服薬状況など、高齢者の方の身体的な状況によって転倒リスクが高まる恐れがあります。[11] 夜間の頻尿(ここでは一晩に一回以上トイレを利用することと定義します。)は、転倒や骨折による入院のリスクやそれによる認知機能の低下、医療費の増加と関連しています。[12]
Tellusデバイスは、1日のトイレの利用回数、夜間のトイレの利用回数、トイレの滞在時間をモニタリングしています。ここでは、夜間のトイレの利用回数について分析しました。分析の結果、施設高齢者の約67%が夜10時から朝6時までの介護職員の手薄な時間に、トイレのために一晩に平均2回以上ベッドを離れている(図5を参照)ことが明らかになっています。
プロアクティブケア
個々の施設高齢者に関連する長期的なデータを得られたことにより、一人ひとりの施設高齢者がどのような状態であるかを把握することができるようになりました。それらに加えて健康指標を論文などを参考にしながら定義したことで、個人単位で危険因子を持っているかを即時に把握することができるようになったことは、エビデンス基づく介入に向けて大きな前進となりました。
ここでは、139名中の10名の危険予兆が見られた施設高齢者を対象に、介護職員と協力して健康指標を活用しながら目標を設定し、介入策を考え実践する、最新のプロアクティブな高齢者ケアを実施しました。それにより、施設高齢者10名中6名に介入の効果が見られました。効果が見られた事例の中から、3つのカテゴリに合わせて事例を紹介します。
睡眠に関する事例
施設高齢者は、認知症の進行により夜間の覚醒と日中の睡眠が推測されていましたが、Tellusデバイスの導入により、数値としても日中の何時にどの程度睡眠しているのかが明らかになりました。夜間の覚醒は、施設高齢者の転倒リスクや介護職員の負担にも繋がることから、昼夜逆転が起きないように睡眠のリズムを戻すことを目標にしました。
介護職員に施設高齢者が日中睡眠を始めた場合に、部屋への訪問を実施した結果、日中の睡眠時間が減り、夜間の睡眠時間が1時間程度増えました。
個人の入眠のタイミングがわかることで、不必要な訪問を防ぎながらも、施設高齢者への介入を実践できた事例になります。
ベッド上の時間に関する事例
Tellusデバイスの導入により、部屋の外に出ることにも抵抗がある施設高齢者が、ベッド上で長時間過ごしていることが数値としても明らかになりました。施設高齢者は身体能力の低下が見られていたため、低下を防ぐ対策として、ベッド上での時間を減らすという目標設定をしました。
その解決策の1つとして、ご家族に新規介護サービスの追加を提案したところ 初回は断られましたが、面会毎にご家族に向けて、ベッド上にいる時間について数値を活用し説明したところ、利用者の部屋での活動状況を理解し、まずは訪問リハビリのサービスを受けることに合意をいただけました。
まずは、訪問リハビリを40分導入し『まずはベッドから出る』を短期目標として進めました。その後『ベッド離床』⇒『廊下歩行』⇒『屋外散歩』⇒『デイサービスへの参加』を長期的な計画として進めています。
ベッド上での時間をモニタリングすることで、介入前後で数値として明らかな違いが見えています。数字で見えることで、施設高齢者のみでなく、介護職員や家族など様々な方が効果を確認できることで良い効果が得られました。
夜間のトイレの回数に関する事例
Tellusの導入により、施設高齢者が毎晩1〜3回トイレに行くことが明らかになりました。回数に加えて、トイレに行く時間も把握することができるため、入眠時間とトイレの訪問時間を介護職員と共に確認したところ、入眠後数時間でトイレに起きていることがわかりました。
そこで、トイレの回数を減らすことを目標に、施設高齢者が寝る前に訪問してトイレに行くように促す介入を実施しました。その結果、約1週間後に夜間のトイレの回数を1晩に0~1回に減らすことに成功しました。複数のデータの相関性を見ながら介入策を考案できた事例になります。
結論
本調査では、弊社のTellusデバイスを活用し、介護現場から集められた情報を、蓄積し、分析することで、見守りだけではなく、危険な状態の予兆を個人単位でデータから見つけ出すことができました。また、危険予兆のあった一部の施設高齢者に対しては、介入プログラムを実施し、約60%の施設高齢者に維持・改善が見られた事例について「睡眠」「部屋及びベッドでの活動」「排泄行動」の3つのカテゴリに関してそれぞれ紹介しました。
個人に紐づく長期的かつ連続的なライフデータが、高齢者の健康状態を把握するための1つの指標になると共に、それらを高齢者ケアの介入に活用することで、健康の維持や向上にもつなげることが可能となる点も明らかとなりました。今後は、健康指標のさらなる検討や介入方法など、さらに多くの事例を増やしていくことを目指します。
弊社の今後の計画としては、海外での展開、利用シーンの拡大(Aging-in-Placeを支援する個人宅)、そして新しい集団への対応(例:不要な再入院を減らす目的で病院を退院したばかりの高齢者)などが予定されています。また、Tellusは、人工知能、テクノロジー、高齢化の研究を目的にa2PilotAwardsにより提供された25万USドルの助成金を2022年に獲得しています。この助成金は、米国国立衛生研究所の一部門である国立老化研究所から資金提供を受けており、本研究プロジェクトでは、米国においてTellusサービスを在宅高齢者介護に利用することの実現可能性を実証することを目指しています。
Tellus You Careについて
弊社は、高齢者の継続的な遠隔健康管理とプライバシー保護を両立できる技術を開発しました。Tellusデバイスは、レーダーと人工知能を組み合わせて転倒を検知するだけでなく、睡眠、行動パターン、呼吸、心拍数を時系列に沿って追跡することが可能です。このデバイスには、高齢者ケアをサポートするために自社開発したレーダーモジュールおよびファームウェアが含まれています。本製品は、ベッドルームやトイレの壁に取り付け、コンセントに差し込むだけで使用可能です。レーダーで取得したデータはクラウドに送信され、機械学習アルゴリズムが適用されます。また、ウェブサービスやモバイルアプリを利用することで、ご家族や介護職員にリアルタイムで状況報告や傾向分析を届けることができます。現在、日本の介護施設で利用されており、今後は在宅分野への展開も予定しています。
社名:Tellus You Care 合同会社
設立年:2020年2月
代表: タニア・A・コーク
所在地: 〒104-0032 東京都中央区八丁堀4-4-4梅崎ビル3F
事業内容:介護施設向け見守りサービス
Tellusサービスは、2つの方法で高齢者のケアをサポートすることを目指しています:
緊急事態の迅速な検出 - Tellusサービスは、転倒などの緊急事態や急性の危険因子を検出し、介護職員が緊急時にすぐに対応すること、また将来の不安を回避するために効率的にリソースを割り当てることができるように支援します。
健康状態の変化の早期発見 - Tellusサービスは、高齢者の過去のデータを分析することで、睡眠の悪化、夜間の徘徊、社会的孤立、移動能力の低下、トイレの頻回使用、バイタルサインの異常など、重要な健康指標の変化を介護職員に通知することができます。このデータは、特定の介入が特定の時期にどの高齢者に行うことが適切かをより理解するためのリスク層別化に特に有効です。
引用文献
[1] 科学的介護とLIFE https://www.mhlw.go.jp/content/12301000/000949376.pdf
[2] World Economic Forum, “Telemedicine could help the world achieve health equity by bringing care to the home - here’s how”, 2023. https://www.weforum.org/agenda/2023/01/telemedicine-global-health-equity-at-home-davos23/
[3] HIMSS, “Continuous monitoring of patients provides versatile, improved care case studies”, 2023. https://www.himss.org/resources/continuous-monitoring-patients-provides-versatile-improved-care-case-studies
[4] Walewska-Zielecka B, Religioni U, Soszyński P, Wojtkowski K. Evidence-based care reduces unnecessary medical procedures and healthcare costs in the outpatient setting. Value Health Reg Issues, 2021.
[5] Recommended Amount of Sleep for a Healthy Adult: A Joint Consensus Statement of the American Academy of Sleep Medicine and Sleep Research Society, Sleep. 2015 Jun 1; 38(6): 843–844.
[6] Stone KL, Xiao Q. Impact of poor sleep on physical and mental health in older women. Sleep Med Clin., 2018.
[7]Sabia S, Dugravot A, Léger D, Ben Hassen C, Kivimaki M, Singh-Manoux A. Association of sleep duration at age 50, 60, and 70 years with risk of multimorbidit
[8] Winer JR, Deters, KD, Kennedy, G, et al. Association of short and long sleep duration with amyloid-β burden and cognition in aging. JAMA Neurology, 2021.
[9] LiP, Gao L, Yu L, Zheng X, Ulsa MC, Yang HW, Gaba A, Yaffe K, Bennett DA, Buchman AS, Hu K, Leng Y. Daytime napping and Alzheimer's dementia: A potential bidirectional relationship. Alzheimers Dement, 2022.
[10] Cacioppo JT, Cacioppo S. Older adults reporting social isolation or loneliness show poorer cognitive function 4 years later. Evid Based Nurs., 2014.
[11] 転倒リスクに気づき、転倒を予防する https://www.almediaweb.jp/expert/feature/1911/index02.html
[12] International Continence Society, “Impact of nocturia on medical care use and its costs in an elderly population: 30 month prospective observation of national health insurance beneficiaries in Japan”, 2009. https://www.ics.org/Abstracts/Publish/47/000280.pdf
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