2022年(第92回)服部報公会「報公賞」が決定

【受賞者】九州大学 工学研究院 主幹教授 安達千波矢【研究業績】「熱活性化遅延蛍光分子の創成と高効率OLEDの実現」

公益財団法人服部報公会

1930年(昭和5年)に設立された公益財団法人服部報公会(理事長:田中英彦)は、活動の一環として、工学に関する優秀な研究成果を挙げた研究者に対して、服部報公会「報公賞」を贈呈しております。
このたび、本年度の公募を行い慎重かつ厳正な審査を経て、令和4年度の報公賞に、 
九州大学 工学研究院 主幹教授 安達千波矢氏の研究
「熱活性化遅延蛍光分子の創成と高効率OLEDの実現」を選定いたしました。

 

[業績の概要]
有機発光ダイオード(有機EL, OLED)は、スマートフォンやタブレット端末の小型ディスプレイから大型TVの画面に至るまで幅広い先端電子デバイスにおいて実用化が進んでいる。1990年代後半から、第二世代の発光分子として白金やイリジウム等を含有する有機金属錯体の研究が盛んに行われ実用化に至っているが、分子設計の自由度の低さや高コスト、更には希少資源などの問題を抱えていた。
これに対して、安達氏は熱活性化遅延蛍光(TADF)に着目し、緻密な量子化学計算と巧みな分子設計によって、100%の内部量子効率を単純な芳香族化合物によって実現した。高効率のTADFを実現するために、励起一重項エネルギーと励起三重項エネルギーの差が小さい(100 meV以下)化合物を設計して、通常ではスピン状態が異なるために遷移確率の低い励起三重項状態から励起一重項状態への遷移を熱的に可能とした(変換効率100%)。この新規分子を発光層に用いたOLEDにおいて、電流励起によって得られた励起三重項状態を励起一重項状態に変換することによって、100%の内部量子効率を有するOLEDを実現している。TADF分子は比較的単純な芳香族化合物であることから、世界的にも多くの研究が追随された(論文の引用回数の多さが物語っている)。また、安達氏は、従来開発が困難であった青色発光TADF分子の開発にも成功しており、さらに、TADFの派生技術として1時間以上の連続発光が可能な有機蓄光現象など、有機電荷移動(CT)状態の精密制御によって新基軸の開拓に繋がっている。
以上のように、理論に基づいた分子設計によって実用可能なエレクトロニクス材料を創出しており、学術的にも工業的にも高いレベルであると判断される。特に、有機CT状態の精密制御がデバイス性能の向上に重要であることを体系的に明らかにしたことは、有機デバイス分野の発展に大きく貢献した。Natureおよびその姉妹誌に掲載された論文の引用数(TADFの論文は5000件)(総論文の引用数は75571件)は群を抜いており、376件の特許出願も注目に値する。また、実用化に関しては、九大発のベンチャー((株)Kyulux)が設立され、世界初のTADF材料を用いたOLEDパネルが台湾の企業(WiseChip社)から上市され、実用化に至っている。
これまでの研究開発の成果は、文部科学大臣表彰科学技術賞(2017年4月)、第63回仁科記念賞(2017年11月)、応用物理学会業績賞(2022年2月)などの受賞につながっている。
以上のような研究業績は、安達氏が有機光エレクトロニクス工学分野において極めて大きな貢献をし、それが世界的に高く評価されている証と考えられ、報公賞贈呈に相応しいと結論した。

なお、服部報公会「報公賞」の贈呈式は、来る10月11日(火)に、開催予定で、
賞状並びに賞金1,000万円が贈呈され、安達氏の受賞記念講演を予定しています。
また、「報公賞」と同時に、本年度の「工学研究奨励援助金」として、15件の研究に対し総額1,500万円が贈られます。
報公賞は、1931年(昭和6年)の第1回目より2021年に至るまでに、117件(133名)を、そして工学研究奨励援助金は、2,989件を贈呈して参りました。

以上

本件に関するお問い合わせ先

公益財団法人 服部報公会 事務局
〒104-0031 東京都中央区京橋一丁目4-10
TEL 03-3275-3166 / FAX 03-3275-3165
E-mail info@hattori-hokokai.or.jp
ホームページ https://www.hattori-hokokai.or.jp/








■受賞者略歴                    

氏名 安達千波矢
生年月日1963年10月26日
学  歴 
1991年3月  九州大学大学院総合理工学研究科材料開発工学専攻博士課程修了
工学博士(九州大学)

主要経歴
1991年4月  株式会社リコー化成品技術研究所研究員
1996年8月  信州大学繊維学部機能高分子学科助手
1999年5月  プリンストン大学(POEM)研究員
2001年3月  千歳科学技術大学光科学部物質光科学科助教授
2004年4月  同大学教授
2005年4月  九州大学 未来化学創造センター教授 現在に至る
2010年4月  同大学工学研究院応用化学部門教授 現在に至る
2010年5月  同大学主幹教 現在に至る
2012年4月  同大学最先端有機光エレクトロニクス研究センター長 現在に至る


受賞歴
2007年4月 文部科学大臣 科学技術賞
2014年5月 SID Fellow Award
2017年11月 第63回仁科記念賞
2018年4月  文部科学大臣表彰 科学技術賞
2019年1月 Highly Cited Researchers 2018
(2019年 2020年 2021年連続受賞)
2019年2月  第24回名古屋メダル「シルバーメダル」
2022年2月  第22回応用物理学会業績賞


公益財団法人服部報公会 概要
服部報公会は、昭和5年(1930年)、株式会社服部時計店(現 セイコーホールディングス株式会社)の創業者初代社長服部金太郎が、その70回の誕辰にあたり、国家、社会の恩に報ずるの 念をもって、私財3百万円を投じて設立した公益事業団体であります。
会の目的とするところは、社会の福祉を増進し公益に資することであり、このために次の事業を 遂行することとしました。
1. 国家及び社会に対し有用なる発明発見または研究を成就したるものに対する感謝及び賞金の贈呈。
2. 一般学術の特殊なる研究又は調査の奨励、援助。
3. 教育その他の公益事業に対する援助。
4. その他の本財団の目的を達成するために必要なる事業または出版を為すこと。
設立当時の役員は、理事長桜井錠二博士、理事に湯浅倉平、大河内正敏、矢野恒太、篠原三千郎の4氏、監事に穂積重遠、清水賢一郎の両氏が当り、評議員には学界ならびに政、官、財界の諸名士が名を連ねました。その後、服部金太郎が昭和9年に歿すると、嗣子2代社長 服部玄三は、設立者の遺志を継いで、さらに私財3百万円を寄附し、ここに会の基金は6百万円に増強され、当時屈指の民間公益事業団体となりました。
会の発足以来今日に至る間に、我が国は、第2次世界大戦をなかにはさんでしばしば激動の 波に洗われましたが、この間においても、会の事業は一度の中断もなく遂行されてまいりました。 しかし戦後の激しいインフレの昂進によって、従来の基金をもってしては事業の遂行が困難になりましたので、創立者の遺業に関係の深い会社のご協力や個人のご寄附によって逐次基金の増加を図り現在に至っております。
なお、当会は平成24年1月に公益財団法人へ移行いたしました。

服部報公会では、1931年(昭和6年)に第1回報公賞を贈呈して以来、毎年授賞を行って現在に至っており、今年で第92回目の贈呈になります。現在は広く工学の進歩に貢献する研究を対象として公募をしており、特定の工学分野に限定していない点が大きな特徴として挙げられます。

報公賞の申請要領は、以下の通りです。
報公賞の贈呈は工学の進歩に著しく貢献する研究を対象に行うもので、独創性と発展性の見地から工学の進歩への貢献度が特に顕著であると認められる研究業績を対象にします。
報公賞は、原則として毎年1件とし、その研究者に報公賞金1,000万円を贈呈します。
受賞候補者は、工学研究者および工学の基礎となる分野の研究者であって、原則として他の著名な賞の受賞経験を持たない優秀な研究者に重点を置き、大学、研究所等の機関・部局長の推薦を受けた者とし、自薦は認めません。


令和4年度 役員(理事、監事)、評議員、審査委員
(令和4年9月7日現在)

理事長    田中 英彦    東京大学名誉教授、情報セキュリティ大学院大学名誉教授
専務理事  山本 隆章   事務局長 、元セイコーソリューションズ株式会社代表取締役会長
理事    神谷 武志     東京大学名誉教授
理事    草間 三郎     元セイコーエプソン株式会社代表取締役社長
理事            佐藤 知正           東京大学名誉教授
理事            武田 保雄           三重大学名誉教授、三重大学リサーチフェロー
理事            畑中 研一   東京大学名誉教授
監事            坂田 東一           一般財団法人日本宇宙フォーラム理事長
監事            山原 英治           弁護士
評議員       服部 真二           セイコーホールディングス株式会社代表取締役会長兼グループ
                                          CEO兼 グループCCO
評議員      高橋 修司            セイコーホールディングス株式会社代表取締役社長
評議員        榊󠄀 裕之             国立大学法人奈良国立大学機構理事長、学校法人トヨタ学園 フェロー、
                                       東京大学名誉教授
評議員        矢部  彰         国立研究開発法人産業技術総合研究所特別顧問・名誉リサーチャー
評議員        竹内 芳美         中部大学学長、大阪大学名誉教授
評議員        徳田  英幸          国立研究開発法人情報通信研究機構理事長、慶應義塾大学名誉教授
評議員      中沢 正隆           東北大学特任教授
審査委員長  田中 英彦           東京大学名誉教授、情報セキュリティ大学院大学名誉教授
審査委員     佐藤 知正           東京大学名誉教授
審査委員     一條 秀憲         東京大学大学院薬学系研究科教授
審査委員     畑中 研一       東京大学名誉教授
審査委員     武田 保雄       三重大学名誉教授 三重大学リサーチフェロー
審査委員      西田 豊明          公立大学法人福知山公立大学副学長 情報学部長教授
審査委員   高田十志和     広島大学大学院先進理工系科学研究科教授同副学長、東京工業大学名誉教授
審査委員  大崎 博之     東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
審査委員  熊井 真次     東京工業大学名誉教授 物質理工学院特任教授
名誉顧問    菅野 卓雄       東京大学名誉教授、東洋大学名誉教授
名誉顧問    佐藤 壽芳         東京大学名誉教授





 

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本社所在地
東京都中央区京橋1-4-10 大野屋京橋ビル
電話番号
03-3275-3166
代表者名
佐藤 知正
上場
未上場
資本金
-
設立
1930年10月