「オープンコート訴訟 —法廷の”秩序”を問う—」訴訟開始のお知らせ
日本初(※1)の公共訴訟支援に特化した専門家団体「LEDGE(レッジ)」所属の弁護士・リサーチャー・キャンペーナーが参画する「オープンコート訴訟 ー法廷の”秩序”を問うー」が2024年11月13日に東京地裁に提訴されましたのでお知らせします。
※1 日本国内における「公共訴訟支援に特化した専門家団体」として、2023年7月に弁護士による見解など自社調査した結果
【訴訟の概要】
本訴訟は3名の原告が、同性婚福岡訴訟を担当する裁判長より傍聴にあたって履いていた靴下のレインボー部分を隠すよう言われたり、袴田事件の再審を担当する裁判長よりパーカーの「HAKAMADA」という文字を隠すよう言われたり、服につけていたバッジを外させられたりしたことについて、そのような裁判長の命令は違法であるとして、国家賠償を求める事案です。
かつて法廷では一律でメモを取ることが禁止されていました。その違法性を争い平成元年の大法廷判決によってメモが取れる環境を勝ち取った「レペタ訴訟」という裁判がありました。本訴は、「令和のレペタ訴訟」として、現代に求められる、開かれた法廷を求める訴訟です。
1. 訴訟の提起を行う裁判所及び年月日
・裁判所 : 東京地方裁判所
・提起日 : 2024年11月13日
2. 訴訟を提起した原告(3名)と、訴訟の対象となる3つの法廷警察権の行使
この裁判では3つの事案における裁判長の命令の適法性を対象としています。
・鈴木 賢 氏(法学者)
1960年5月、北海道生まれ。博士(法学)、明治大学法学部教授、同法学研究科長、北海道大学名誉教授。中国法、台湾法専攻。1989年以降、性的マイノリティの人権運動にかかわり、地方都市としては初めて1996年札幌でプライドパレードを主催。単著『現代中国相続法の原理』『台湾同性婚法の誕生』、共著に『現代中国法入門』(第9版)。
2023年6月、「結婚の自由をすべての人に」福岡訴訟の判決言い渡しを傍聴するため、福岡地方裁判所の法廷に入ろうとしたところ、裁判所職員が、靴下のレインボー柄が見える状態では入廷できないとして、レインボー柄を隠すように命じた。鈴木氏はやむなく靴下のレインボー柄を折り返して傍聴した。
・清水一人 氏(「袴田サポーターズ・クラブ」代表)
1948年生まれ、浜松市出身。2008年から本格的に袴田事件の支援活動に取り組む。2017年以降は日常的に、釈放された袴田巖さんの行動を見守る活動を行い、2020年には市民の支援の声を集めるため「袴田サポーターズ・クラブ」を結成し、代表に就任。
2024年4月、袴田事件の再審公判・第14回期日の傍聴抽選に当選し、静岡地裁の法廷に入ろうとしたところ、裁判所職員から袴田サポーターズ・クラブのバッジをつけた状態や、パーカーに「HAKAMADA」の文字が見える状態では入廷できないと言われた。清水氏はやむなくバッジを取り外し、また職員からパーカーの「HAKAMADA」の文字に養生テープを貼り付けられて傍聴した。
・小川秀世 氏(袴田事件弁護団事務局長)
1952年生まれ、1984年弁護士登録。袴田巌さんの主任弁護人、弁護団事務局長として再審無罪を導く。日弁連では取調べの可視化実現本部に所属し、被疑者や被告人の人権を擁護するための活動も行っている。
袴田事件の再審公判においては、第1回公判から袴田サポーターズ・クラブのバッジを身に着けており、第13回公判まで裁判所から何らの指示はなかった。しかし、2024年4月、第14回公判において、法廷で裁判長にバッジを外すよう命じられた。小川氏は外すことなく弁護活動に従事したが、裁判長からは次回は必ず外すよう指示され、公判への影響を考慮して第15回期日ではやむなくバッジを外して弁護活動に従事した。
3. 弁護団
亀石倫子(法律事務所エクラうめだ・一般社団法人LEDGE代表理事)
水野泰孝(水野泰孝法律事務所・一般社団法人LEDGEパートナーズ)
井桁大介(宮村・井桁法律事務所・一般社団法人LEDGE事務局長)
加藤雄太郎(長島・大野・常松法律事務所)
谷口太規(弁護士法人東京パブリック法律事務所・一般社団法人LEDGE理事)
戸田善恭(法律事務所LEDGE)
4. 訴訟名及び請求の趣旨
・訴訟名 :オープンコート訴訟 ー法廷の”秩序”を問うー(「法廷警察権行使に対する国家賠償請求事件」)
・相手方(被告):国
・請求の趣旨の概要 :
裁判長の法廷警察権の行使が、裁判所法71条2項の定める行使要件を満たさず違法であることを根拠とする国家賠償請求訴訟(原告1人あたり110万円を求める)
5. 請求の法的根拠
鈴木氏、清水氏、小川氏に対して、靴下やバッジ、パーカーの文字を見えないよう命じた裁判官の対応は、法廷警察権の要件を満たさないもので違法です。
法廷警察権の範囲は、無限定ではありません。裁判所法71条2項は、①「法廷における裁判所の職務の執行を妨げ」る者か、②「4不当な行状をする者」に対してのみ、法廷警察権は行使できると定めます。
原告らは平穏に傍聴をしようと、また弁護人として必要な弁護活動をしようと開廷を待っていただけであり、「法廷における裁判所の職務の執行を妨げ」るような行為は何もしていませんでした。また、大手コンビニエンスストアで販売されているような靴下を履くことも、直径2cm程度の小さなバッジを服につけることも、刑事再審事件の請求人の名前が書かれたパーカーを着ることも、社会で日常的に行われていることであり、「不当な行状」にはあたりません。
裁判長の法廷警察権行使は、法律に定められた要件を無視するもので、違法です。
【サポーターメッセージ】
・レペタ訴訟原告・ローレンス・レペタ氏
Declaration
In its 1989 judgment, Japan’s Supreme Court displayed a very positive and welcoming attitude to courtroom spectators, declaring that “it is normally inconceivable that the act of taking notes by spectators might rise to the level of obstructing the administration of fair trials, and in the absence of special circumstances, such activity should be left to the freedom of spectators.” Since the day of that judgment, spectators have been allowed to take notes as they observe trials throughout Japan. It is my sincere hope that Japan’s courts will display this same positive and welcoming attitude to the plaintiffs who file their suits today.
Constitution Article 82 requires that trials be conducted in public. In its 1989 judgment, the Supreme Court explained the importance of this requirement with these words: “The intent of this provision is to guarantee a system in which trials are open to the public and are fairly conducted and thereby to secure the people’s confidence in trials.” If the purpose of Article 82 is to “secure the people’s confidence in trials,” then allowing courtroom note-taking is only a first step, the minimum requirement to secure the people’s confidence. Japan’s courts must take additional steps to render trials, especially criminal trials, more transparent and understandable to the people. By filing their suits today, these plaintiffs show concrete steps the courts can take to achieve the objective the Supreme Court declared in 1989.
Lawrence Repeta, November 13, 2024
1989年の最高裁判決は、「傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであつて、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべき」と述べ、傍聴人に対してとてもポジティブで歓迎的な姿勢を示しました。この判決日以来、日本全国の裁判で、傍聴人はメモを取ることが許されるようになりました。今日、訴訟を提起した原告の皆さんに対しても、裁判所が同様にポジティブで歓迎的な姿勢を示すことを心から願っています。
憲法第82条は、裁判は公開の法廷で行うと定めています。1989年判決において、最高裁判所はこの規定の重要性について次のように判示しました。「憲法八二条一項の規定は、裁判の対審及び判決が公開の法廷で行われるべきことを定めているが、その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとすることにある。」憲法第82条の目的が「裁判に対する国民の信頼を確保しようとすること」であるならば、法廷でメモを取ることを認めることは、その目的達成のための第一歩、最低限の要件に過ぎません。日本の裁判所は、裁判、特に刑事裁判について透明性を高め、かつ理解しやすいものにするためのさらなる措置を講じる必要があります。今日訴訟を起こした原告の方々は、最高裁判所が1989年に宣言した目的を達成するために裁判所がさらに取るべき具体的な措置を示しています。
ローレンス・レペタ 2024年11月13日
【CALL4サイトへの情報掲載】
本訴訟は、認定NPO法人CALL4のサポートを受け、CALL4サイトに掲載し、訴訟費用のクラウドファンディング等を実施します。訴状、その他の訴訟資料や、期日情報等も同ウェブサイトに随時掲載予定ですのでご参照ください。
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000149
【LEDGEクラウドファンディング開始と報道のお願い】
本訴訟は、LEDGEの支援事件です。弁護団長の亀石はLEDGEの代表理事で、事務局長の水野はLEDGEのパートナーです。
LEDGEは、本訴訟に合わせて活動資金を募るクラウドファンディングを2024年11月13日の朝9時より開始しました。ぜひこちらもご取材ください。
https://readyfor.jp/projects/ledge2024
LEDGE(レッジ)とは?
公共訴訟を中心としたソーシャルチェンジを促進するための専門家集団です。公共訴訟に必要なリソースを社会から集めて、より充実した効果的な公共訴訟を遂行するための様々なサポートをします。また公共訴訟が取り扱うイシューについての認知を上げ、世論を喚起し、行政・政治を動かしていくためのキャンペーンも展開していきます。日本初のフルタイムで公共訴訟に専従する弁護士を擁する法律事務所LEDGEと連携し、その活動を支えています。詳細については下記リンクをご確認ください。
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