黒田清輝の名画を現代的にアップデート!橋爪 彩「Girls Start the Riot」展で新作展示
ポーラ美術館(神奈川県、箱根)は、開館15周年を機に、新たに未来を切り拓く現代美術の作家を紹介するスペース「アトリウム ギャラリー」を新設しました。このギャラリーのオープニング展として気鋭の作家、橋爪 彩(はしづめ さい)による個展「Girls Start the Riot」(2018年1月8日(月)まで)を開催しています。本展にて橋爪による新作《Princess at work》を発表する運びとなりましたのでお知らせいたします。
橋爪は「After Image」という伝統的な絵画を翻案するシリーズを手がけています。現代美術は美術史の流れと切り離されたものではない、またアートとは疑問や批評眼を投げかけるものだとする橋爪は、今回初めて日本の洋画に、橋爪らしい問いかけをしました。黒田清輝《野辺》を題材とした新作《Princess at work》は1月8日まで展示しています。作家自身の言葉を通じて、その魅力をご紹介します。
[作家コメント]今回の個展「Girls Start the Riot」は、私が日本に帰国してから7年間のほとんどを費やして制作した「After Image」シリーズを振り返る展覧会です。「After Image」シリーズとは、伝統的な西洋絵画を、現代的にアップデートした一連の作品から構成されています。この個展のお話をいただいた際に、新作の制作を決意したわけですが、今回私が取り上げたのは、ポーラ美術館の収蔵する黒田清輝の《野辺》であり、日本の洋画家に取材するのは、これが初めての機会となります。
実は私は、この美術館ができたばかりの頃に一度、箱根を訪れたことがあります。その際に、《野辺》を目の前にして、強烈な体験をしました。多くの男性のシニアの方々が、この絵画を前にして口元を緩めている場面に出くわしたのです。当時、私は20代前半でしたが、《野辺》に描かれている女性も、おそらくは当時の私の年齢に近いことでしょう。ヌードで描かれた女性の側に立ったような感覚を覚えるとともに、男性の視線というものに強烈な抵抗感を抱いたのです。この記憶を原動力にして、今回はポーラ美術館の収蔵する作品をアップデートしたいと考えたのです。
新作《Princess at Work》は、日本語に直しますと「仕事中のお姫様」という意味合いになります。女性という性はある意味、生涯にわたって「見られる」対象であり続けることでしょう。見られるという「仕事」は、もしかしたらアイマスクをつけて眠っている間にも、継続されているのかもしれません。しかしながら、好奇の目線にさらされがちな女性たちは、こうした状況をまったく好ましくは思っていません。
新作のモデルがとる左手のジェスチャーには、このような男性と女性の関係性をめぐる問題についての、作家としての明確なメッセージを込めたつもりですし、違和感を強調するために、黒田の横の構図を、あえて縦の構図に変更しました。この作品は、一方的に見られることへのフラストレーションを感じる女性に共感していただけるものではないかと思います。(橋爪 彩)
◆橋爪 彩(はしづめ・さい)
1980年東京生まれ。東京芸術大学大学院修了。文化庁新進芸術家海外留学制度研修派遣生やポーラ美術振興財団在外研修員として、フランスやドイツに滞在。帰国後は、国内外で精力的に活動。主な展覧会に、「ポーラミュージアムアネックス展2012”華やぐ色彩”」ポーラミュージアムアネックス(東京、2012年)、「DOMANI・明日展―未来を担う美術家たち〈文化庁芸術家在外研修の成果〉」国立新美術館(東京、2013年)、「ノスタルジー&ファンタジー 現代美術の想像力とその源泉」国立国際美術館(大阪、2014年)、「高松コンテンポラリーアート・アニュアル vol.04」高松市美術館(2014年)、「Beautiful Stranger」ポーラミュージアムアネックス(東京、2014年)、「This isn’t Happiness」イムラアートギャラリー(京都、2017年)など。2014年秋には、個展「Beautiful Stranger」と同タイトルの初作品集刊行、またポーラRED B.Aのメインビジュアルとして《RED SESSION》を制作。島田雅彦『美しい魂』(新潮社)、金原ひとみ『ハイドラ』(新潮社)な
どの装画を担当。
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