【宇宙探査】地球外生命の痕跡を探る新たな分析技術―マーチソン隕石や火星類 似環境の砂漠試料でも実証―(大阪大・産研)
2026/10/13(火)11:30〜 記者発表

多くのアミノ酸には、右手と左手のように鏡に映したような形をしていながら重ねることのできない「L型」と「D型」があります。ところが、私たち人間をはじめとする地球上の生命がタンパク質をつくる際に使うアミノ酸は、ほぼL型に偏っています。生命がなぜL型を選択したのかは、未解明の謎の1つです。これらは、生命誕生の過程を解き明かす手がかりであるとともに、地球外生命の痕跡を探る指標の候補としても注目されています。
大阪大学産業科学研究所の大城敬人准教授、谷口正輝教授らと、ジョージア工科大学、NASAゴダード宇宙飛行センター、シカゴ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などからなる国際共同研究グループは、生命の起源を探る上で重要な「L型・D型アミノ酸」を、1個のアミノ酸が生み出す微弱な電流波形から識別することに成功しました。
さらに、この技術を生命起源研究に関わる実試料へ応用し、マーチソン隕石や、火星に似た極限環境をもつアタカマ砂漠の試料を分析することで、その有用性を実証しました。
本研究成果は、米国科学誌 『Nature Communications』 に、10月5日(月)付で公開されました。また、本研究成果について、10月13日(火)11時30分から大阪大学中之島センターおよびオンラインにて記者発表を行います。(一般の方はご参加いただけません)
宇宙で生命の痕跡を探す、新たな1分子分析技術
―アミノ酸の「L型・D型」を識別、隕石・砂漠試料でも実証―
記者発表:10/13(火)11時30分~@大阪大学中之島センターおよびオンライン

<登壇者>
大阪大学 産業科学研究所 バイオナノテクノロジー研究分野
谷口 正輝(たにぐち・まさてる)教授
専門領域:ナノテクノロジー、1分子科学
ポイント
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生命の起源を探る上で重要な「L型・D型アミノ酸(※1)」を、従来の大型装置で多数の分子を一括分析する方法とは異なり、1個(1分子)のアミノ酸が生み出す微弱な電流波形から識別することに成功
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地球外有機物を含むマーチソン隕石(※2)や、火星類似環境のアタカマ砂漠(※3)を分析し、技術の有用性を実証
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重量やサイズ・消費電力・耐振動性など厳しい制約のある宇宙探査機への搭載に向けて、小型で高感度な電気式宇宙生命探査装置の実現に道を拓く基盤技術
概要
多くのアミノ酸には、右手と左手のように鏡に映したような形をしていながら重ねることのできない「L型」と「D型」があります。ところが、私たち人間をはじめとする地球上の生命がタンパク質をつくる際に使うアミノ酸は、ほぼL型に偏っています。生命がなぜL型を選択したのかは、未解明の謎の1つです。これらは、生命誕生の過程を解き明かす手がかりであるとともに、地球外生命の痕跡を探る指標の候補としても注目されています。
大阪大学産業科学研究所の大城敬人准教授、谷口正輝教授らと、ジョージア工科大学、NASAゴダード宇宙飛行センター、シカゴ大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などからなる国際共同研究グループは、1個(1分子)のアミノ酸分子が金のナノギャップ(※4)を通過するときに流れる量子トンネル電流を測定し、その電流波形を機械学習で解析することで、アミノ酸のL型とD型を識別する技術を開発しました。
L型またはD型の偏りだけで生命の存在を断定できるわけではなく、他の分析結果と組み合わせた評価が必要ですが、本技術により、今後、「分子が存在するか」だけでなく、「どの分子か」、「L型かD型か」、「どのくらい存在するか」を1分子ずつ電気的に読み取る装置へ発展すれば、火星や氷衛星、小惑星などの試料から生命や生命誕生前の化学反応の痕跡を調べる新たな分析手段となることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌 『Nature Communications』 に、10月5日(月)付で公開されました。また、本研究成果について、10月13日(火)11時30分から大阪大学中之島センターおよびオンラインにて記者発表を行います。
谷口正輝教授のコメント
生命がなぜL型アミノ酸を選んだのか、そして宇宙には生命につながる分子の痕跡が存在するのかという大きな問いに、1分子の電流から迫れる可能性を示しました。今後は複雑な実試料での精度をさらに高め、小型で信頼性の高い宇宙生命探査技術へ発展させたいと考えています。
研究の背景
分子には、右手と左手のように、互いに鏡像でありながら重ね合わせることのできないものがあります。この性質を「キラリティ(※5)」と呼びます。タンパク質を構成するアミノ酸にもL型とD型がありますが、地球上の生命は主としてL型アミノ酸を利用しています。一方、生命が関与しない化学反応によってアミノ酸が作られる場合には、一般にL型とD型がほぼ同量生じます。
そのため、「宇宙で見つかったアミノ酸がL型とD型のどちらに偏っているか」を調べることは、その有機物がどのような過程で作られたのかを考える上で重要です。これまでキラリティを調べるためには、偏光を利用した光学測定や、キラルな分子を利用してL型とD型を分離する方法などが使われてきました。将来、火星や氷衛星などの探査機上で分析を行うためには、小型で、高感度で、できるだけ複雑な光学系や反応操作を必要としない分析技術が望まれます。
研究の内容
研究グループは、2本の金電極の間に約0.5ナノメートル(ナノは1メートルの10億分の1)の隙間(ナノギャップ)をつくり、そこを1個のアミノ酸が通過した際に生じる微弱な電流波形を測定しました。AIで波形全体を解析することで、19種類すべてのキラルアミノ酸についてL型とD型を高い精度で識別しました。さらに、極低濃度のアミノ酸検出や、複数のアミノ酸が混ざった試料の組成推定にも成功しました。また、地球外有機物を含むマーチソン隕石と、火星類似環境であるアタカマ砂漠の実試料でも主要なアミノ酸組成を捉え、従来のLC–MS分析(※6)と共通する傾向を確認しました。一方、成分ごとの定量値やD/L比には差もあり、実用化にはさらなる精度向上が必要です。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究では、分子の「左右」を、光ではなく電流によって1分子ずつ読み取れることを示しました。特に宇宙探査では、装置の重量、サイズ、消費電力、耐振動性などに厳しい制約があります。電気式の検出技術は大型の光学系を必要とせず、標識分子やキラル認識分子も用いないため、将来的な分析装置の小型化・簡素化につながる可能性があります。
今後、「分子が存在するか」だけでなく、「どの分子か」、「L型かD型か」、「どのくらい存在するか」を1分子ずつ電気的に読み取る装置へ発展すれば、火星や氷衛星、小惑星などの試料から生命や生命誕生前の化学反応の痕跡を調べる新たな分析手段となることが期待されます。一方、実際の宇宙探査への搭載には、未知物質を含む複雑な試料への対応、汚染管理、定量精度の向上、宇宙環境での装置検証など、さらなる研究が必要です。
特記事項
本研究成果は、2026年10月5日(月)付で英国科学誌 『Nature Communications』 (オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Chiral discrimination of amino acids in meteorite and desert soil extracts via single-molecule nanogap conductance”
著者名:Takahito Ohshiro, Yuki Komoto, Takayuki Takaai, Takeshi Yoshida, Takashi Washio, José L. Ramírez-Colón, Hannah L. Mclain, Daniel Duzdevich, Maria T. Zuber, Christopher E. Carr, Masateru Taniguchi
DOI:10.1038/s41467-026-77947-6
なお、本研究は、JST経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)、JST戦略的創造研究推進事業 (CREST)、NASA-PICASSOの一環として行われ、マサチューセッツ工科大学M. Zuber教授、ジョージア工科大学C. Carr教授の協力を得て行われました。
用語説明
※1 L型・D型アミノ酸
互いに鏡像関係にあるアミノ酸。地球上のタンパク質を構成するアミノ酸は主としてL型です。
※2 マーチソン隕石
1969年にオーストラリアに落下した炭素質隕石で、アミノ酸を含む多様な有機物が見つかっていることから、生命の起源や太陽系初期の化学進化を研究する重要な試料として知られています。本研究では、米国スミソニアン国立自然史博物館が所蔵するマーチソン隕石の試料を用いて分析を行いました。
※3 アタカマ砂漠
南米チリ北部に広がる世界で最も乾燥した地域の1つ。極端な乾燥、強い紫外線、塩分や酸化性の高い土壌など、火星表面と共通する環境条件を持つことから、火星環境の類似地として広く研究されています。生命が存在できる限界の研究や、火星で生命の痕跡を探すための分析装置・探査技術の試験にも利用されています。本研究では、この火星類似環境であるアタカマ砂漠の土壌から抽出したアミノ酸を用いて、ナノギャップによる単一分子分析を行いました。
※4 ナノギャップ
2つの電極の間につくられた、ナノメートルサイズの微小な隙間のことです。
※5 キラリティ
右手と左手のように、鏡に映した形同士が完全には重ならない性質。同じ化学式を持っていても、L型とD型という異なる鏡像体が存在します。
※6 LC–MS分析
液体クロマトグラフィー質量分析。試料に含まれるさまざまな成分を分離し、その質量を測定することで、物質の種類や量を調べる分析手法です。アミノ酸のL型・D型の比率を調べる際にも用いられる代表的な手法の1つで、一般に大型の分析装置を必要とします。
出展情報(10月7日〜9日)
イベント名:BioJapan2026
小間番号:A-43
参考URL
谷口 正輝 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/97549af6bd6f5e89.html
バイオナノテクノロジー研究分野(谷口研究室)
https://www.bionano.sanken.osaka-u.ac.jp/

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