日本の職場で浮上する新たな課題:無許可で生成AIを使用する「シャドーAI」の増加
AIツールの利用に関する調査結果
最新の調査で、日本のSTEM人材の約3分の1が職場でAIチャットボットやAIアシスタントなどの生成AIツールを会社の許可なく使用していることが明らかになりました。一方で、別の3分の1の回答者はAIを一切使用していないと回答し、残りのグループは自身が使っているツールがAIを活用しているかどうかは不明だと答えました。この調査は、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)分野に特化したグローバルな人材紹介企業であるSThreeがYouGov社に委託して実施したものです。
この結果は、組織が承認していないAIツールを無許可で使用する、いわゆる「シャドーAI」が日本の職場で静かに広まりつつあることを示唆しています。この傾向は、グローバル規模で実施されたSTEMプロフェッショナルを対象とした調査結果にも表れており、世界のSTEM人材の約3分の1が、会社の承認を得ずに業務で生成AIツールを利用していることも明らかになりました。 状況は組織ごとに大きく異なるものの、無許可のAIツールの利用が蔓延していることと、それに伴う影響は、職場において注視すべき課題として慎重な見極めが必要になっています。
生産性向上とコンプライアンス順守のトレードオフ
日本の調査では、STEM人材が無許可のAIを使用する主な動機として、生産性向上やスキルアップが挙げられました。上位の項目は次のとおりです。
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業務の効率化(52%/最多):作業のスピードアップのため
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試行と学習(19%):実験的に試す、または新たなスキルを身につけるため
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付加的な機能(11%):会社の公認ソフトでは利用できない機能があるため
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問題がないと認識(12%):組織の方針に反しても大きな問題にはならないと考え、AIツールの利用によるリスクもほとんどないと認識しているため
一方で、AI利用に関するルールを整備する企業も増えており、回答者の35%が、勤務先にはすでにAIツールの使用に関する正式な方針やガイダンスがあると答え、44%は、業務での利用を認められたAIソフトウェアがあると回答しました。しかし、多くの回答者が自社で承認されているAIリソースには限界がある点を指摘しており、許可されたツールでは性能や利便性が十分でないと感じていることが伺えます。
実際に、日本で無許可でAIを使用しているSTEM人材の約11%は、その理由として「承認されたツールでは利用できない機能が必要だから」と答え、同じく約11%は「無許可のツールの方が公式ツールより使いやすいから」と述べています。さらに約8%は「公式ツールは遅すぎる/非効率だ」と不満を示しました。これらの回答は多数派ではないものの、会社が提供するソリューションでは埋められないギャップを補うために、従業員が無許可のAIに頼ることが多い現状を浮き彫りにしています。
また、無許可のAIツールを使用していない回答者が挙げた理由のトップは「組織の方針を遵守するため」でした。非利用者の約3分の1は「組織の方針に従っている」と回答しています。これは、明確なルールの存在が一定の潜在的利用を抑止していることを示しています。その他の理由としては、データプライバシーへの懸念や、企業システムによってAIサイトへのアクセスがブロックされているなどの技術的な障壁が挙げられました。
データセキュリティ上の懸念とリスクに対する認識
言うまでもなく、無許可のAIツールを使用することには顕著なリスクが伴います。調査では、多くのSTEM人材はその事実を認識していることも分かりました。主な懸念事項は以下のとおりです。
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データのプライバシーとセキュリティ(68%):無許可のAIは組織のデータに中程度または重大なリスクをもたらす
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アウトプット品質(65%):未検証のAIツールは不正確または偏った結果を導く可能性があり、重大なリスクとなり得る
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知的財産(62%):自社の機密情報が流出する可能性を、中程度または深刻なリスクと捉えている
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企業イメージリスク(58%):無許可のAIツールの使用が自社の企業イメージを損なう可能性を懸念
こうした懸念が指摘されている一方で、無許可のAIツールの使用に伴う危険性を十分に把握できていない人材も少なくありません。回答者のうち「無許可のAIツールを使用することのリスクを完全に理解している」と答えたのはわずか21%でした。さらに、33%は「リスクについて全く考えたことがない」と述べています。適切な対策を講じずに機密データをAIプラットフォームに入力することで、意図せずセキュリティ上の脆弱性を生み出す可能性があるため、この認識のギャップは深刻だと言わざるを得ません。STEM人材は生成AIを積極的に業務に取り入れて生産性向上を図っているものの、多くの場合、データ漏えい、コンプライアンス違反、その他の重大な結果を招き得る点を十分に理解しないまま使用しているため、企業側はリスク回避のための教育を行う必要に迫られています。
イノベーションとリスク管理の両立
調査結果から、日本企業はSTEM人材による生成AIの活用実態に追いつく必要性が高まっていることが明らかになりました。こうした人材は業務効率の向上からスキルの補完に至るまで、生成AIから実質的な価値を得ており、そのために正式なルートから外れてでも利用しようとしている一方で、このような無許可の利用はガバナンス上の大きな死角を生むことにもつながります。
STEM人材の約3分の1が無許可のAIツールを使用しているという事実は、企業のIT部門やセキュリティ部門にとって大きな警鐘を鳴らしています。このことは、公式に提供されているテクノロジー環境が不十分である可能性を示すとともに、企業の方針を最新化する重要性を示唆しています。
企業は、AIに関するガイドラインを策定し、特定のプラットフォームの使用を承認するだけでなく、従業員とのコミュニケーションや教育の強化にも取り組む必要があります。従業員がリスクを理解し、ニーズに合った安全な公式AIツールを提供することが重要です。さらに、安全な利用を徹底することで、生産性を向上させると同時に、非公式ツールへの依存を減らすことができます。調査結果を踏まえると、社員がどのような場面で、なぜAIのサポートを必要としているのかを理解し、自社にとって最も効果的なAI導入オプションを特定することが組織にとって有益だといえます。
潜在的なデータ漏えいを防ぐためには、企業がより厳格な方針を立て、従業員に教育を提供し、そしてコンプライアンス順守を徹底したうえで適切に管理されたテクノジーを導入することで、組織としてこの動きに主体的に対処していくことが不可欠です。
出所:YouGovが2025年に日本のSTEM人材851人を対象に実施した、職場におけるテクノロジーおよびAI利用に関する調査結果。記載の数値はすべて本調査データに基づきます。
以上
※特に断りのない限り、すべての数値はYouGov社によるものです。調査は、日本のSTEM人材851人を対象に、2025年7月11日から8月27日にかけてオンラインで実施しました。
SThreeについて
SThree plcは、未来を築くために高いスキルを持つ人材をつなぐ企業です。当社はSTEM(科学・技術・工学・数学)分野のグローバルな人材コンサルティング会社として、高度な専門スキルを持つSTEMプロフェッショナルと彼らを最も必要としている業界とのマッチングを行っています。企業へのアドバイス、専門チームの構築、プロジェクトソリューションの提供を通じてクライアントを支援しています。STEMに特化して38年の実績を有し、世界11カ国に現地に根差した専門チームを配置しているSThreeは、エンジニアリング、ライフサイエンス、テクノロジー分野における高需要スキルを幅広くカバーしています。
また、約6,000社におよぶ多様なクライアントに対し、正社員だけでなく柔軟な契約形態による人材を提供しています。先進的なテクノロジーと専門的な知見を融合させることで、当社の世界水準のオペレーティングプラットフォームから得られるデータとインサイトを活用し、従来の枠を超えた最適なソリューションを実現しています。
SThreeは、皆様とともに未来を切り開きます。
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