急性期病院で糖尿病専門医が果たす役割 〜糖尿病専門医が在籍する施設で大腸がん手術を受けた糖尿病を有する人の周術期合併症リスクが低下〜

一般社団法人 日本糖尿病学会

日本糖尿病学会(理事長:植木浩二郎)の「急性期病院における糖尿病専門医の役割の解析:DPCデータの解析」委員会(委員長:戸邉一之、担当理事:島田朗)では、大腸がん手術者のDPCデータの解析を行い、日本糖尿病学会が認定する糖尿病専門医が在籍する医療施設では在籍しない医療施設と比較して、周術期合併症リスク比が0.86倍(95%信頼区間:0.77–0.91)と低いことを明らかにしました。


■ ポイント

  • 日本全国の急性期病院から収集されたDPCデータベース※1)と、施設毎の糖尿病専門医※2)数の情報を統合解析した結果、糖尿病専門医が在籍しない施設に比べ、在籍する施設では、大腸がん手術を受けた糖尿病※3)を有する人の周術期合併症リスクが低下していた。

  • 急性期病院において、糖尿病専門医が配置されることで、糖尿病のある大腸がん患者の手術後の予後が向上する可能性が示唆された。

図1:糖尿病専門医の在籍の有無と術後合併症リスク

■ 概要

  • 糖尿病を有する者では、大腸がん手術において、糖尿病を有さない者と比較して術中・術後の合併症リスクが高いことが知られています。

  • 本研究では、糖尿病を有する者に対して、大腸がん手術を行った際の周術期合併症リスクを検討しました。

  • 日本全国の急性期病院から収集されたDPCデータと、日本糖尿病学会が認定する糖尿病専門医の施設毎の在籍状況に着目しました。

  • 糖尿病専門医が在籍する医療施設は在籍しない医療施設と比較して、周術期合併症リスク比が0.86倍(95%信頼区間:0.77–0.91)と低いことが明らかとなりました。

  • 糖尿病を有する大腸がん患者の手術後における合併症リスクの低減のために糖尿病専門医が重要な役割を果たす可能性があることが示唆されました。

  • 今後、急性期病院に糖尿病専門医を配置する医療体制の整備が、より安全な外科治療の実現に寄与すると期待されます。

本研究成果は、「Journal of Diabetes Investigation」に 2025年8月15日に掲載されました。

■研究の背景

急性期病院において入院患者の多くが糖尿病を有しており、その血糖マネジメントは重要な臨床的課題です。しかし施設毎の糖尿病専門医の在籍の有無が周術期合併症リスクに与える影響については、検討が十分ではありませんでした。そこで、本研究では糖尿病を有し、大腸がん手術を受けた方を対象に検討を行いました。大腸がん手術を選んだ理由は、糖尿病を有する患者では合併症リスクが高いことが既に報告されているからです。

本研究では施設毎の糖尿病専門医の在籍の有無と、大腸がん手術の周術期合併症リスクの関連性を検討することを目的としました。

■研究の内容・成果

日本糖尿病学会が保有する施設毎の糖尿病専門医数の情報の提供を受け、日本全国の急性期医療施設から収集されたDPCデータベースと組み合わせました。潜在的な交絡因子となる患者と施設の要因を調整し、施設毎の糖尿病専門医の有無と周術期合併症リスクとの関連を推定しました。

本研究では、887の医療施設を対象としました。評価対象施設のうち、約3割には糖尿病専門医が在籍していませんでした。

周術期合併症は3,165例(13%)発生しました。交絡因子を調整後、糖尿病専門医が在籍する施設では、糖尿病専門医が不在の施設と比較して周術期合併症リスクが低いことが示されました(リスク比 0.86[0.77–0.96]、リスク差 -2.5%[-4.4 – -0.60])(図2)。

図2: 術後合併症リスクおよび入院期間に関する多変量解析

またプロセス指標の評価として、入院中のHbA1c測定は糖尿病専門医在籍施設で0.88倍(0.80–0.96)と少なく、グリコアルブミン測定は3.01倍(2.01–4.51)と多く、7日あたりの血糖測定回数は1.29回(0.16–2.43)増加していました。このことは糖尿病専門医が在籍する施設において周術期の短期的な血糖変動を評価するために、より適切な指標が用いられている結果と考えられます。

本研究は、日本全国を対象とした大規模な研究であり、糖尿病を有し、大腸がん手術を受けた方において、施設毎の糖尿病専門医の在籍有無が周術期合併症のリスク低下と関連していることが明らかになりました。さらに、糖尿病専門医が在籍する施設では、短期的な血糖コントロールを反映する指標であるグリコアルブミン測定の頻度も高い傾向がみられました。これは、糖尿病専門医が在籍する施設で手術を受けた患者は、より適切に糖代謝が評価され、周術期合併症が少ない可能性を示唆しています。

■今後の展開

本研究において大腸がん手術を対象としました。今後の研究では、大腸がん以外の手術に関しても、同様の検討が必要と考えています。また医療費にも着目し、検討を続けていく予定です。

【用語解説】

※1)DPCデータベース

DPC(Diagnosis Procedure Combination)データは、全国の急性期医療機関から収集された入院患者情報をまとめたデータベースです。入院中に実施した診療行為名、診断名、入院期間、退院時の状況など、多様な情報を含んでいます。

※2)糖尿病専門医

日本糖尿病学会は、糖尿病に関する専門知識と診療能力を持った糖尿病専門医を養成・認定しています。内科あるいは小児科で規定研修を終え各学会の認定医や専門医の資格を取得した医師が、糖尿病に関する専門的な研修を更に3年以上受け、糖尿病専門医の資格を取得することができます。

※3)糖尿病

血糖値が慢性的に高い病気。新しい呼称「ダイアベティス」が提案されていますが、本稿では一般的な「糖尿病」としました。

【論文詳細】

●論文名:

Effectiveness of the presence of diabetologists for perioperative complications in patients with diabetes undergoing colorectal cancer surgery: A nationwide inpatient database in Japan

●著者:

四方雅隆: 横浜市立大学 医学部公衆衛生学 / 富山大学 医学部第一内科

後藤温: 横浜市立大学 医学部公衆衛生学

清水沙友理: 横浜市立大学大学院 データサイエンス研究科 ヘルスデータサイエンス専攻

亀井望: 広島赤十字・原爆病院 内分泌・代謝内科

中條 大輔: 国際医療福祉大学 医学部 糖尿病・代謝・内分泌内科学

遠藤格: 横浜市立大学 医学部医学科 消化器・腫瘍外科学

島田朗: 埼玉医科大学 医学部内分泌・糖尿病内科

伏見清秀: 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科医療政策情報学分野

植木浩二郎: 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 糖尿病研究センター

戸邉一之: 富山大学 医学部第一内科 / 富山大学 未病研究センター

●掲載誌:

Journal of Diabetes Investigation

●DOI:

https://doi.org/10.1111/jdi.70139

【本発表資料のお問い合わせ先】

横浜市立大学医学部・大学院医学研究科 公衆衛生学教室

共同研究者: 四方雅隆 <Email: shikata.mas.wi@yokohama-cu.ac.jp>

主任教授: 後藤温 <Email: agoto@yokohama-cu.ac.jp>

一般社団法人 日本糖尿病学会 事務局

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代表者名
植木 浩二郎
上場
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資本金
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設立
1957年12月