特殊清掃業者として見る“事故物件に関する告知基準”~死の告知に関するガイドラインを受けて~
2021年10月、国土交通省が策定した「宅地建物業者による人の死の告知に関するガイドライン(以下ガイドライン)」に関する声明を発表しました。
声明
孤独死が相次ぐ中、不幸の連鎖を防ぐ。この取り組みの中で、ガイドラインの内容は孤独死で悲しむご遺族を追い詰めるようなことがないか懸念しています。
孤独死を取り巻く状況においては、特殊清掃の依頼者は8割以上が孤独死のご遺族か、その連帯保証人という状況です。
ご遺族に原状回復費用のほか家賃保証などの金銭的負担を強いる事例もあり、孤独死の予防の重要性や、金銭的負担を軽減できる保険の重要性は日々刻々と増しています。
特殊清掃の定義が定まらない中で、孤独死にまつわる死の告知の基準として特殊清掃の有無を重要な判断基準とする内容は控えるべきだと考えますが、ガイドラインの発行は意義があり今後も発展を望んでいます。
当社はガイドラインに接する特殊清掃業という立場から貢献してまいります。
特殊清掃を定義できるよう、業界としてのルール作りを進める事に貢献します。
ルール作りを進める上で、特殊清掃資格の制定や活用について優れた手段だと認識しています。業界団体や協会に働きかけてまいります。
当社は、孤独死が相次ぐ状況を防ぎ、不幸の連鎖を防ぐ。この事が何よりも重要であると考えます。孤独死という社会問題には迅速な対応が必要であり、情報提供や啓発活動を積極的に行ってまいります。
2022年2月14日A-LIFE株式会社 代表取締役 亀澤 範行
原文「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」に対する声明文書
(https://www.k-clean.jp/wp-content/themes/2018/assets/pdf/20220214_seimei.pdf)
- 「ご遺族を苦しませたくない」特殊清掃業者として見る“事故物件に関する告知基準” ~死の告知に関するガイドラインへの見解~
2021年10月、国土交通省は「宅地建物業者による人の死の告知に関するガイドライン(以下ガイドライン)」を策定しました。
これまで定めが曖昧なために多くの迷いが生じていた不動産における告知義務。ガイドラインでは、“自然死又は日常生活の中での不慮の死”が発生した場合は過去の裁判例を挙げて“買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低い”と考えられ、“原則としてこれを告げなくてもよい”との指針が示されました。
売主、物件オーナーにとっては個別に判断する幅が少なくなることでトラブルを防ぐだけでなく、不必要に不動産の価値を下げずに済むとの期待が高まるでしょう。
しかし私たちは特殊清掃を行う業者として、さらなるトラブルの可能性と、社会的影響の拡大を危惧しています。ガイドラインは特殊清掃を行ったことで事故物件の烙印を押し、追い打ちをかけるようにしてご遺族を苦しませるものとなり得るのです。
なぜなら、孤独死においては特殊清掃の有無が重要な判断基準とされ、告げるべきか否かが示されているためです。
孤独死の増加とともに特殊清掃現場も増える昨今、私たちは「ご遺族の負担をわずかでも軽くできるならば」との思いで清掃・整理のご依頼に応えてきました。ガイドラインを受け、いったい何をもって特殊清掃を行ったと言えばいいのでしょうか?
日本が抱える孤独死の現状は海外からも注目を集める社会問題となっています。清掃・整理の現場では孤独死の凄惨な状況、故人の生きた軌跡を目の当たりにし、孤独死の増加に歯止めをかけたい、ご遺族を苦しませたくないという思いは強くなるばかりです。
- 孤独死遺族を苦しめる?ガイドラインの告知基準は特殊清掃の有無
冒頭に述べた通り、ガイドラインには“老衰、持病による病死など、いわゆる自然死”や“自宅の階段からの転落や、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など、日常生活の中で生じた不慮の事故”については、“買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低い”と示されました。
買主および借主の不動産業者に対する損害賠償請求や、高齢者の入居拒否、不動産業者ごとに異なる対応など、これまで告知義務が不明確なことにより生じていたトラブルを未然に防ぐ指針として、意義があるものと言えるでしょう。
ではなぜこのガイドラインがご遺族を苦しませるものとなり得るのでしょうか。順を追って解説していきます。
ガイドラインの内容を抜き出すかたちで図にまとめると以下の通りとなり、孤独死については、告知義務の判断が分かれてしまっています。
ガイドラインにはこう書かれています。
“長期間にわたって人知れず放置されたこと等に伴い、いわゆる特殊清掃等が行われた場合においては、買主・借主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものと考えられる”
つまり、腐敗の進んだ孤独死については「特殊清掃」を行ったか否かを基準として、告知義務の有無が変わってくるとガイドライン内で提示されているのです。
特殊清掃を必要とする場合と不要な場合の一般的な例
●特殊清掃の必要がない場合 2~3日で発見されたような【腐敗していないご遺体】の場合には、臭いや体液の痕はほぼ無く自然死と定義されて、告知は不要。 |
●特殊清掃を要した場合 長期間にわたって人知れず放置された【腐敗が進んだご遺体】の特殊清掃を要した場合には、物件の価値にも少なからず影響を及ぼす可能性があり、賃貸において概ね3年間の告知と、売買においては無期限で告知書へ記載される。※いわゆる事故物件といわれる。 |
実際の問題として孤独死現場は、ガイドラインに照らした際、告知すべきか否かの判断のちょうど真ん中、境界線上にあることが多くあります。さらに、何をもって特殊清掃を行ったとするのか、個別に判断する幅は広がり、事故物件の増加とさらなるトラブルの可能性すら感じさせるものになっているのです。
- 孤独死は他人事ではない ご遺族・連帯保証人におよぶ損害賠償請求
事故物件となった不動産は価値が下がる傾向があり、物件オーナーは損失を受けることにもなります。そしてその損失について、ご遺族や賃貸借契約の連帯保証人に対し、原状回復費用を主な内容とする損害賠償金を請求する訴訟に発展することは決して珍しくはありません。
賃貸物件内における死亡と損害賠償の関係について孤独死の側面から整理すると、これまで孤独死の場合は原状回復費用のみが損害賠償として認定されることはあっても、その後の物件価値低下による下落した家賃額や修繕工事等による賃貸不能期間の保証(逸失利益)まで損害に含めることは難しいと考えられていました。
しかし、平成29年2月10日の東京地方裁判所判決では、死亡した入居者が死後1ヶ月程度経過してから発見された孤独死のケースにて、連帯保証人に対して高額の原状回復費用に加えて逸失利益の賠償が命じられました。
ご遺体の腐乱によって木製フローリングの広範囲に生じた体液の染み込みやそれを原因とする強い異臭が残ったこの物件において、一旦スケルトン状態に解体した後、設備の交換や床板の張替え等を実施することはやむを得ず、裁判では、これらは通常の使用に伴って生じる損耗の程度を超える汚損状況であることから、遺族は原状回復義務を負うべきであると述べています。
そして連帯保証人である被告の連帯保証責任については、「(連帯保証契約時に)予期し得ない請求額を負わせるものとなる連帯保証契約の責任範囲は信義則上限定されるべきで、スケルトン状態にして原状回復工事等の費用の損害を認定することが過大である」という主張はこの判決では認められませんでした。
加えて事件性が無いとは言え異常をきたす死亡後の態様による心理的影響を踏まえた2年間分の下落した賃料の差額、及び原状回復等工事の完了および新入居者の入居に至るまでに要するであろう期間を含めた1年間の賃貸不能期間の賃料相当額が原告の逸失利益に当たると言い渡されました。
この裁判は、連帯保証人に対し原告が主張する改修費用(654万2586円)及び逸失利益(136万8000円)支払いを命じるものとなったのです。
原告の主張 | ・本件貸室は深刻な汚損を受けており全面的な改修工事(654万2586円を下回らない)をしなければ居住物件としての利用は不可能。 ・亡Aの死亡様態は著しく通常と異なっており相当の時間が経過するまでは心理的瑕疵を構成されると考えられる。 ・改修工事及び新入居者探しのため少なくとも1年間の収益が妨げられ、96万円相当の逸失利益が生じる。・事故物件であることを説明しなければ賃貸できず、入居希望者は大きく減少し、賃料水準も(月額7万円から5万3000円に)著しく低下するため2年間で40万8000円相当の逸失利益が生じる。 |
被告の主張 | ・継続性のある根保証を被告に負わせる本連帯保証契約は、契約締結当時、予期し得ない請求額を負わせるものであり、信義則上相当な範囲に限定されるべきである。 ・管理費に毎月1万円を徴求していることやマンションの評価(競争力が中位以上とされていること)に基づき、原告は異臭やうじ虫の発生にもう少し早い時期に気がつくべきであり、被告の責任は相当な範囲内に限定されるべきである。 ・原告が遺体発見場所の汚損物除去をより早く適切に行っていれば臭気被害は軽減できたはず。 ・スケルトン状態にして全てを入れ替える工事費を請求することは、明らかに過大であり、被告が追うべき損害の範囲は、フローリング貼りを中心としたこれに関連する範囲の付随工事費に限定されるべきである。 |
孤独死の場合であっても、物件の汚損状況によっては連帯保証人が逸失利益も含めて高額な賠償をしなければならないケースが現に存在するのです。
このような判例と、ガイドラインの策定により今後、孤独死の物件においても同様の訴訟が起こりやすくなると考えられはしないでしょうか。
物件が「事故物件」と定義された場合のリスクは物件所有者だけのものではなく、親族を孤独死で失い、悲痛な心情を抱えるご遺族にも及ぶ恐れがあります。今後、賃貸物件に居住する一人暮らしの高齢者が増えていくことを考えると、物件が事故物件と定義されるかどうかに関わる本ガイドラインの制定は、これまでの物件取引の慣習を覆すように波紋を広げる可能性があるといえるでしょう。
- 腐敗は死の直後から進行し、便の排出も起こりえる。特に夏場は数日で臭気が発生するもの。
遺体は胃や腸などの消化器から腐敗が始まります。死の直後から腸内細菌が繁殖し、その後体内の消化器が溶解され、早ければ夏場は死後1~2日、冬場でも数日で初期段階の腐敗が進行し始めます。この段階で体外にガスが放出され、血液や排せつ物が流れ出ることもあります。汚れや臭気はわずか数日で発生し得るものなのです。
このような科学的状況があるにも関わらず、単に特殊清掃を要したという基準のみで、大量の事故物件と定義される物件ができてしまうことには強い疑問を感じます。
- 孤独死で告知が必要とされる「いわゆる特殊清掃」と、ハウスクリーニング等の清掃の線引きは曖昧な部分も
孤独死が起こった部屋の清掃を一般的に特殊清掃と呼びます。しかし特殊清掃とひとことで言っても、布団やベッドマットの上で亡くなられた場合は、腐敗が進んでも床や壁の下地に体液が到達しない場合もあります。
このようなケースではシミのような体液の痕が残らない為、脱臭消毒工程を除いた清掃として、通常、賃貸の退去時に行われるハウスクリーニングや、壁紙の張替え、フローリング材の交換のみで、見かけ上の原状回復はすることが可能です。実際にご遺体の腐敗は進んでいても、もし体液がどこまで到達するかで告知義務の解釈が変わるのであれば、物件の価値を下げたくない不動産会社としては特殊清掃ではない通常清掃で処理を行う方向に意思決定が傾く恐れがあるのではないでしょうか。
- 告知義務の抜け穴。事故物件を隠されてしまう恐れも
遺体の腐敗が進み、臭気・害虫が発生している場合でも、特殊清掃業者が適切な清掃を行うことで、技術的にはリフォーム工事を含め生活に全く影響のないレベルまで完全清掃・完全脱臭することが可能です。
ガイドラインでは、死の告知に関して、出来事や死因だけでなく「事件性、周知性、社会に与えた影響等」についても言及していますが、周囲に強烈な臭いが漏れ出てしまう前に清掃を実施することができるなら、我々特殊清掃業者に、近隣にばれないように行ってほしいと要望する依頼主がいるのも事実。そうなると後から特殊清掃の有無を確認することは困難で、さらに罰則がなければ隠してしまう不動産会社が現れる恐れもあるのではないでしょうか?
過去に人が亡くなったという事実はあっても、自然死・日常生活の中での不慮の死(事故死)については告知すべき義務はなく、告知義務の抜け穴ができてしまうのです。
- 特殊清掃現場の実際
2021年10月に大阪府内で特殊清掃のご依頼を受け、実際に清掃・整理させていただいた現場を紹介します。亡くなられたのはご依頼主様のお母様。死後4日目、孤独死での発見でした。
作業の合間、私たちはご依頼主様に話を伺うことができました。
――死因は聞かれていますか?
「警察には血液検査の結果が出るのが2か月くらいかかると言われています。ただ、生前に持病を持っていたので他に無ければおそらくその病気が原因だろうと言われました。」
――最初に部屋を確認されたときのことを教えてください。
「痛みがあったのかもがいたような痕跡がありましたが、幸いにも腐敗まではなかったので尿の臭いだけで済んだのだと思います。」
この場合ガイドラインに沿って判断すると、腐敗は進んでいない病死であるため、告知する必要はないという事ができます。
しかし、腐敗臭は無くともご遺体のあった場所には畳に黒いシミができており、ご依頼主様の話と現場の状況からこのシミはご遺体からの排泄物の染み込みと考えられたため、作業は感染予防の観点から、防護服を着用し消毒剤の噴霧が必要と判断した現場でした。シミができた畳を撤去すると臭いや体液の痕はなく、通常の遺品整理と何ら変わりない作業となりました。
このように、孤独死と言われる事案でも死後2~4日と比較的短い期間で発見されることは少なくありません。たとえ臭いや腐敗は少なくても、ご遺族にとっては部屋に入ることですら心情的な辛さを伴うために私たちのような特殊清掃業者へ清掃・整理を依頼される方が多くいるのも事実です。
特殊清掃を専門に扱う私たちの目から見て、ガイドラインでの孤独死のケースは、自然死でありながらも特殊清掃業者に依頼したことによって事故物件になるという矛盾した見方が存在するように思えてなりません。
このような事例について、みなさんはどう思われたでしょうか。孤独死の扱いについて、今後も議論していくべき課題は多いと考えています。
- 孤独死は増加傾向。2040年代、高齢者の一人暮らしは約1.3倍、900万世帯 超へ
近年における孤独死の増加は大きな問題となっています。当社の主たる事業エリアである大阪府では2017年より死後4日以上経過して発見され、孤独死と判断された件数を公表しています。大阪市内の孤独死数は以下のとおり増加傾向にあります。
・2017年:1,077件
・2018年:1,240件
・2019年:1,171件
・2020年:1,314件
(大阪府監察医事務所「大阪市内における孤独死の現状」)
さらに、大阪府警が行った調査では、2019年の1年間で死後2日以上経過して発見された孤独死のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は71%と高いもので、高齢者が単身で生活する世帯は孤独死が発生しやすい状況にあることがわかっています。65歳以上の高齢者の単独世帯は以下のとおり今後も増加傾向にあると推測されており、孤独死の増加が深刻なものになる事が危惧されます。
特に現在のように新型コロナ感染症の影響が未だ残り、人と人との接触が制限される状況においてはさらに高齢者の孤立は増加する恐れもあり、それは事故物件のさらなる増加を示唆しています。
- さいごに
孤独死は、昨今増加している高齢者の単独世帯で発生しやすい傾向にあり、事故物件になるか、ならないかの境界線上に位置する事例になりやすいと言えます。人との繋がりや交流が希薄な現代において孤立は誰にでも起こり得ることです。
「元気に暮らしていると思っていた」大切な人の思いがけない悲しい知らせが届く前に、家族や身近な人と連絡を取り合ってください。それが結果的に悲しみに暮れるご遺族を減らすことになるのではないでしょうか。
- 関西クリーンサービスは特殊清掃や遺品整理、お住まいのお困りごとを解決するサービスを提供しています
【お問い合わせ窓口】
https://www.k-clean.jp/estimate/
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