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高知大学医学部
会社概要

「外因性オキシトシンのボンディング(対児愛着)への影響」に関する論文がJournal of Affective Disordersに掲載されました。

誘発分娩に使用されるオキシトシンは母児の愛着形成に影響を与えるのか?

高知大学医学部

国立大学法人高知大学のエコチル調査高知ユニットセンター(センター長:菅沼成文 環境医学教室 教授)の研究チーム(本研究担当者:国見産婦人科 院長 國見祐輔)は、 環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加した約2万組の親子を対象に母親に誘発分娩時に分娩を促すために誘発剤としてオキシトシンを使用したことと、母から子への愛着形成との関連について解析しました。その結果、母から子への愛着形成についてはオキシトシン使用の有無により変化がなく、オキシトシンは母児の愛着形成に影響を与えず安全に分娩に使用できることがわかりました。
なお、エコチル調査は観察研究であり、愛着形成のリスク因子に対する介入の効果などは確認できないといった限界があります。

※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

研究の背景
子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010) 年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査です。臍帯血、血液、尿、母乳、乳歯等の生体試料を採取し保存・ 分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康と化学物質等の環境要因との関係を明らかにしています。

エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。

【エコチル調査 HP】
環境省 https://www.env.go.jp/chemi/ceh/
エコチル調査コアセンター https://www.nies.go.jp/jecs/index.html
エコチル調査高知ユニットセンター https://kochi-ecochil.jp


ボンディングについて
赤ちゃんとお母さんを繋ぐ絆、これはお母さんから、そして赤ちゃんからの愛着により相互に強く保たれています。愛着のことを科学的にはボンディングといいますが、このボンディングが十分でないことからネグレクト(育児放棄)、そして虐待が生まれてしまう可能性があることが示されており、日本でも産後2週間検診、1か月検診においてそのボンディングを評価する赤ちゃんの気持ち質問票を用いて、母と子のボンディングに対してサポートが必要かどうかの評価が全国的に始まっています。

ボンディングが十分でないことをボンディング障害といい、原因としてその妊娠が望んだものでないことや、夫からの暴力など母親をめぐる環境によるものの関係が強い事が知られていますが、出産のときに用いる薬剤との関連が懸念されていました。

オキシトシンについて
オキシトシンという薬は、日本で一番誘発分娩(ぶんべん)に用いられている非常に歴史の長い薬で、微弱陣痛や陣痛誘発に使われます。近年、オキシトシンは愛着行動に強い影響を与えることが知られており、母親由来の内因性オキシトシンは愛着にプラスの働きがあることが分かっていますが、誘発分娩を行うために外因性のオキシトシンを加えてしまうことで、内因性のオキシトシンひいてはボンディングへの悪影響が懸念されていました。

研究結果
我々は、エコチル調査において出産された母子のうち、誘発分娩を行い、産後1年後まで赤ちゃんへの気持ち質問票への回答を行った母子19700組を対象とした調査を行いました。 このような大きな母集団を基にした研究ですので、ボンディングに影響を与えると考えられる多数の因子の影響を考慮できる重回帰分析という解析方法を用いて検討することができました。
結果は、外因性オキシトシンを陣痛誘発に使用した群と使用しなかった群との間で、各時期においてボンディングに対する有意な差を1年後まで認めませんでした。つまり、オキシトシンを用いて陣痛を誘発しても、1年後までのボンディングに悪影響は認めないと考えています。
外因性オキシトシンは、ボンディングを悪化させるのではないかと懸念されていましたが、外因性オキシトシンの投与方法や、母親の社会的背景による外因性オキシトシンの効果の違いなどの理由により、ボンディングに影響を与えなかったと我々は考えています。
この結果より、オキシトシンは長期的にボンディングに対する悪影響を与えず安心して使用いただき、安全な誘発分娩が行える重要な薬剤であると考えております。


用語解説
微弱陣痛:陣痛が弱く、出産に至らない状態
陣痛誘発:薬剤や器具などによって陣痛を起こす方法
重回帰分析:統計解析の一手法であり、定量化した因子を含めた多数の調整因子を扱うことができる

 

筆頭著者
国見産婦人科 院長 國見祐輔
発表論文( 英文タイトル )
Exogenous oxytocin used to induce labor has no long-term adverse effect on maternal-infant bonding: Findings from the Japan Environment and Children's Study
著者
Yusuke Kunimi 1)2), Marina Minami 3), Sifa Marie Joelle Muchanga 3), Masamitsu Eitoku 3), Kazutoshi Hayashi 4), Mikiya Fujieda 5), Narufumi Suganuma 3) , Nagamasa Maeda 1), Japan Environment and Children's Study (JECS) Group 6)


1) 國見祐輔、前田長正:高知大学 産科婦人科学講座
2) 國見祐輔:国見産婦人科 
3) 南まりな、Sifa Marie Joelle Muchanga、栄徳勝光、菅沼成文:高知大学医学部 環境医学教室
4) 林和俊:高知医療センター 産婦人科
5) 藤枝幹也:高知大学医学部 小児思春期医学
6) グループ:エコチル調査運営委員長(研究代表者)、コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、
  各ユニットセンターから構成

掲載誌:Journal of Affective Disorders
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0165032721012842?via%3Dihub
DOI:10.1016/j.jad.2021.11.058

 

■ 関係者コメント

杜の都産業保健会 一番町健診クリニック
高知大学 名誉教授  深谷 孝夫

内因性オキシトシンは、周産期において陣痛や産後の乳汁分泌に重要な役割を担う一方対児愛着形成に関与することも知られております。これに反して、陣痛剤促進剤として用いられる外因性オキシトシンは、内因性オキシトシンや受容体の生物学的活性にネガティブに作用する可能性も推定さております。もしその作用が事実であれば、臨床的な陣痛促進は対児愛着形成障害ひいては将来の児童虐待の一因となり、産科的にはジレンマに陥りかねません。しかしながら、今回の國見先生の研究では「外因性オキシトシンは母子の長期的愛着形成に何も影響を与えない」との結果であり、産科医が安心して外因性オキシトシンを使用できることを明らかにしました。この点、本論文は極めて価値が高いと思われます。
ところで、エコチル調査は世界に類を見ない大規模疫学研究であり、この調査から得られた解析は高い信頼性があることは言うまでもありません。平成23年に調査が開始され現在では全国から多数の研究成果が報告されております。その中で、産科関連の研究が高知から世界に向けて英語で発信されたことは、エコチル調査開始に関係した者として大変誇りに思う次第です。高知大学医学部環境医学講座、産科婦人科学講座、小児思春期講座ならびに高知県関係各位のご尽力に敬意を表するものであります。

 

高知大学 産科婦人科学講座
教授  前田 長正

外因性オキシトシンは、分娩誘発・陣痛強化・産後の子宮収縮などに用いられます。対児愛着への影響は解析が少なく不明な点が多い状況でした。本研究でエコチル調査により解析した結果、外因性オキシトシンは対児愛着に影響を与えないとの結果を得ました。これは対児愛着への安全性を示す最初の論文となります。



 

 

高知医療センター 産婦人科
副院長 兼 地域医療センター長  林和俊

高齢妊娠の増加を背景に難産が増えているように感じています。陣痛が弱く、お産の進みが悪いために陣痛の強化が必要なお母さん。分娩予定日を1週間以上過ぎても、自然陣痛が始まらず、分娩誘発が必要なお母さん。自然分娩、つまり経腟(けいちつ)分娩を目指しているのに、オキシトシンを使わざるを得ないお母さん達が少なからずいるのです。強すぎず、より自然な子宮収縮となるようオキシトシンは投与量を細かく調整しながら使っています。一方で、母児の愛着を促進する「愛情ホルモン」の一面があることから、以前より、オキシトシンを分娩時に使用すると、本来、お母さんの脳下垂体から分泌される内因性オキシトシン量が少なくなり、その結果、母子の愛着形成に影響を及ぼすのではないかという根強い意見がありました。膨大なエコチルデータからまとめられたこの論文は、私達産婦人科医のみならず、オキシトシン投与を受けて出産したお母さんや赤ちゃん達にも安心感を与える貴重な知見であり、大変、喜ばしく思います。

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