2024年(第94回)服部報公会「報公賞」が決定
「酸化物の界面電子物性に関する先駆的研究」 国立研究開発法人理化学研究所 研究政策審議役 東京大学大学院工学系研究科教授 川﨑 雅司
1930年(昭和5年)に設立された公益財団法人服部報公会(理事長:佐藤知正)は、活動の一環として、工学に関する優秀な研究成果を挙げた研究者に対して、服部報公会「報公賞」を贈呈しております。
このたび、本年度の公募を行い慎重かつ厳正な審査を経て、令和6年度の報公賞に、国立研究開発法人理化学研究所 研究政策審議役、東京大学大学院工学系研究科教授 川﨑雅司氏の研究
「酸化物の界面電子物性に関する先駆的研究」を選定いたしました。
[業績の概要]
結晶の幾何学的対称性によって発現する特異な電子物性として、トポロジカルな量子電子物性が知られている。近年、半導体-絶縁体界面や半導体のヘテロ接合などの二次元電子系に現れるこのトポロジカルな電子物性を、量子コンピュータやスピントロニクスなどの様々な科学技術に応用する可能性に注目が集まっている。
川﨑氏は、金属酸化物の単結晶薄膜・高品質原子平坦ナノ界面の作製や、そこに発現する新しいトポロジカル電子物性(量子ホール効果や超伝導など)の発見および機能化に関する研究において、多くの先駆的業績を残している。
まず、原子レベルで平坦な酸化物高温超伝導体の薄膜を世界に先駆けて作製し、酸化物ヘテロ接合界面における新奇物性研究の端緒を拓くとともに、原子平坦化した金属酸化物界面に電界制御を用いて超伝導を誘起することに成功した。次に、バンドギャップが大きく透明な酸化亜鉛薄膜ナノ結晶において、励起子による室温紫外レーザー発振に成功するとともに、青色〜紫外域で発光する酸化亜鉛pn接合型発光ダイオードの実現に世界で初めて成功した。さらに、酸化マグネシウムを添加した酸化亜鉛と純粋な酸化亜鉛とのヘテロ接合の界面に、極めて高い移動度の二次元電子が自発的に蓄積された金属状態が実現すること、また、超高品質化により電子移動度が一定の閾値を超えると偶数分母の分数量子ホール効果に遷移することを発見した。
川﨑氏が発見した偶数分母の分数量子ホール効果が発現する酸化亜鉛薄膜ヘテロ接合界面では、粒子と反粒子が同一の性質を有する電気的に中性の素粒子(マヨラナ粒子)が存在しうる。マヨラナ粒子は、磁場中において特異なトポロジカル量子物性を有するため、その量子状態が熱擾乱などの環境ノイズの影響を統計的に受けないという類稀な性質を有することが明らかになっている。このトポロジカル量子物性は、ノイズエラー耐性の欠如という現在の量子コンピュータが抱える本質的な課題を克服し、将来の実用化・多ビット化を実現しうるブレークスルーとして注目されており、マヨラナ粒子の発見に向けた研究が世界的に加速している。
川﨑氏が開拓・創成した多くの学理および業績は、新世代量子コンピュータに繋がる新たな科学技術の扉を開き、未来社会に光明をもたらすものとして評価される。川﨑氏が、日本学術振興会賞(2007年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2016年)、紫綬褒章(2020年)などの内外の大賞を受賞・受章していることはその証左である。よって、川﨑氏、および同氏の業績は、報公賞贈呈に相応しいと審査委員会において結論した。
なお、服部報公会「報公賞」の贈呈式は、来る10月9日(水)に、開催予定で、賞状並びに賞金1,000万円が贈呈されます。また、「報公賞」と同時に、本年度の「工学研究奨励援助金」として、16件の研究に対し総額1,600万円が贈られます。
報公賞は、1931年(昭和6年)の第1回目より2023年に至るまでに、119件(136名)を、そして工学研究奨励援助金は、3,019件を贈呈して参りました。
本件に関するお問い合わせ先
公益財団法人 服部報公会 事務局
〒104-0031 東京都中央区京橋一丁目4-10
TEL 03-3275-3166 / FAX 03-3275-3165
E-mail info@hattori-hokokai.or.jp
■受賞者略歴
氏名 川﨑 雅司 (かわさき まさし)
生年月日 1961年12月15日
学 歴
1989年3月 東京大学大学院工学系研究科化学エネルギー工学専攻
博士課程修了、工学博士
主要経歴
1989年4月 日本学術振興会 特別研究員
1989年9月 IBM T.J Watson Research Center ポスドク
1991年7月 東京工業大学工業材料研究所 助手
1997年4月 東京工業大学総合理工学研究科物質科学創造専攻 助教授
2001年4月 東北大学金属材料研究所 教授
2007年10月 東北大学WPI原子分子材料科学高等研究機構 教授
2011年1月 東京大学大学院工学系研究科量子相エレクトロニクス研究
センター 教授 現在に至る
2013年4月 理化学研究所 創発物性科学研究センター 副センター長
2023年4月 理化学研究所 研究政策審議役 現在に至る
受賞歴
2001年 丸文研究奨励賞
2005年 日本IBM科学賞 エレクトロニクス分野
2006年 丸文学術特別賞
2007年 日本学術振興会賞
2007年 山崎貞一賞 材料分野
2008年 日本化学会第学術賞
2010年 市村学術賞功績賞
2011年 本多フロンティア賞
2015年 応用物理学会フェロー表彰
2016年 文部科学大臣表彰科学技術賞
2020年 紫綬褒章
公益財団法人服部報公会 概要
服部報公会は、昭和5年(1930年)、株式会社服部時計店(現 セイコーグループ株式会社)の創業者初代社長服部金太郎が、その70回の誕辰にあたり、国家、社会の恩に報ずるの念をもって、私財3百万円を投じて設立した公益事業団体であります。
会の目的とするところは、社会の福祉を増進し公益に資することであり、このために次の事業を遂行することとしました。
1. 国家及び社会に対し有用なる発明発見または研究を成就したるものに対する感謝及び賞金の贈呈。
2. 一般学術の特殊なる研究又は調査の奨励、援助。
3. 教育その他の公益事業に対する援助。
4. その他の本財団の目的を達成するために必要なる事業または出版を為すこと。
設立当時の役員は、理事長桜井錠二博士、理事に湯浅倉平、大河内正敏、矢野恒太、篠原三千郎の4氏、監事に穂積重遠、清水賢一郎の両氏が当り、評議員には学界ならびに政、官、財界の諸名士が名を連ねました。その後、服部金太郎が昭和9年に歿すると、嗣子2代社長 服部玄三は、設立者の遺志を継いで、さらに私財3百万円を寄附し、ここに会の基金は6百万円に増強され、当時屈指の民間公益事業団体となりました。
会の発足以来今日に至る間に、我が国は、第2次世界大戦をなかにはさんでしばしば激動の 波に洗われましたが、この間においても、会の事業は一度の中断もなく遂行されてまいりました。 しかし戦後の激しいインフレの昂進によって、従来の基金をもってしては事業の遂行が困難になりましたので、創立者の遺業に関係の深い会社のご協力や個人のご寄附によって逐次基金の増加を図り現在に至っております。
なお、当会は平成24年1月に公益財団法人へ移行いたしました。
服部報公会では、1931年(昭和6年)に第1回報公賞を贈呈して以来、毎年授賞を行って現在に至っており、今年で第94回目の贈呈になります。現在は広く工学の進歩に貢献する研究を対象として公募をしており、特定の工学分野に限定していない点が大きな特徴として挙げられます。
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