100年先も“活き続ける建築”へ 【新(シン)木造モダニズム】 『三岸家住宅アトリエ』 【コーナーウィンドウの再構築 ― “第4代目”への挑戦】

バウハウスの理念を未来へ【築91年の国登録有形文化財 大規模改修工事プラン発表】―民間企業主導の動態保存&積極活用の試みー

株式会社キーマン

三岸家住宅アトリエ大改修プランイメージ ©建築継承研究所

株式会社キーマン(東京支社:東京都中央区、代表取締役:片山寿夫)は、2025年10月28日、国登録有形文化財「三岸家住宅アトリエ」(東京都中野区)にて、建物の大規模改修プランを発表いたしました。
運営主体となる耐震補強・建築再生を手がける株式会社キーマンは、同社が所有する三岸家住宅アトリエと集合住宅「カーサビアンカ」の2つの建物を一体で運営し、“文化財施設ならびに旧耐震建物の未来的保存モデル”としての活用を目指します

この発表にあわせて策定した「三岸アトリエ 保存活用計画書」について、より多くの皆さまに本建物の歴史的価値と今後の活用方針を知っていただくため、本日より、公式ホームページにて一般公開を開始いたします

ぜひご覧いただき、文化財建築の保存と活用に向けた私たちの取り組みに触れていただければ幸いです。


【文化財継承の経緯 ― 芸術と建築が交わったアトリエの物語】

三岸家住宅アトリエは、洋画家・三岸好太郎・節子夫妻のアトリエ兼住居として1934年10月に建設
設計を手がけたのは、ドイツ・バウハウスで学んだ建築家・山脇巌。

施主である三岸好太郎も建築への関心が深く、自らスケッチを描き、共に理想のアトリエを構想したと伝えられています。

しかし、三岸好太郎は完成を待たずに1934年7月に急逝。建物は妻・節子によって引き継がれ完成。
平明な直方体のフォルムに、二層吹抜けのコーナーウィンドウと螺旋階段を備えたこの建物は、当時の国際様式を日本の木造技術で実現した「木造モダニズム建築」の先駆けとされています。

もともとは鉄骨造として構想された様式を、コストの制約から木造で建てるという挑戦的な試みであったため、創建以降、幾度となく増改築や応急修繕を重ねながら今日まで受け継がれてきました。


それでもなお、現存する戦前の木造モダニズム建築として極めて貴重な存在であることから、2014年10月7日に国登録有形文化財に登録されました。

創建から90年の歳月を経て、2024年7月29日、三岸夫妻のご子孫より株式会社キーマンへと正式に継承
これにより、建物の価値を守りながら、長寿命化と積極的な活用を両立する新たな運営体制が整いました。
本改修計画は、この継承を契機に三岸家住宅アトリエの理念と記憶を未来へつなぐために立ち上げられたものです。


【新たな継承のかたち ― 『新(シン)木造モダニズム』による再生で、本質的な“進化的継承”を目指す】

三岸家住宅アトリエの改修は、単なる老朽建物の修繕ではありません。
「文化財的価値」と「社会的価値」を共に高め、“活きる文化財”として次世代へ引き継ぐための再構築計画です。

これまでの改修や補修は、建物を守るためにやむを得ず行われてきたものでしたが、その過程で創建当時の意匠やディテールの一部が失われてきたのも事実です。
本改修では、そうした失われた価値をどのように“現代のかたち”で再構築するか、それこそが最も重要なテーマとなりました。

創建当時の姿を忠実に復原する方法もありますが、三岸家住宅アトリエには詳細な資料がほとんど残っていませんし、当初の仕様をそのまま再現すれば、未成熟な技術に起因する不具合を繰り返す可能性があります。
そこで本計画では、過去を尊重しながらも現代の技術と感性をもって、新たな「基本の状態」をつくり直すという、より創造的な継承のかたちを採用しています。

これを象徴するキーワードが、『新(シン)木造モダニズム』です。

1934年に建てられた三岸家住宅アトリエは、前述のように、本来は「鉄骨造」で可能になった様式を、当時の制約の中で「木造」で実現した挑戦的な作品です。

その結果として、当時の日本では極めて先駆的な木造モダニズム建築が誕生しました。

しかし、この挑戦は同時に構造的な弱点も抱えており、長年にわたり雨漏りや歪みなどの不具合を繰り返してきた中、今回の改修では、そうした課題を解決しながらも、創建時の精神を否定することなく、最新の木造技術で“木造のまま再生”することこそが本質的な継承であると考えています。

鉄骨やRC(鉄筋コンクリート)による再構築は技術的には容易ですが、あえて“木”という素材にこだわることで、「木という素材でモダニズムを実現した」という当時の精神を現代に活かす、私たちが掲げる『新(シン)木造モダニズム』です。

創建当時の意匠を尊重しつつ、最新の耐震技術や環境性能を融合させることで、“過去を復原する”のではなく、“未来へ進化させる”
それが、三岸家住宅アトリエにおける本質的な“進化的継承”であり、そしてそれは、施主・三岸好太郎と建築家・山脇巌が追求した「機能と美の融合」というバウハウスの理念を、現代の技術で引き継ぐ試みでもあります。
過去をそのまま残すのではなく、時代を超えて無形の価値を活かす保存、三岸家住宅アトリエが目指す“新しい文化財のかたち”です。


【コーナーウィンドウの再構築 ― “第4代目”への挑戦】

三岸家住宅アトリエの象徴でもあった“コーナーウィンドウ”は、バウハウスとのつながりを示し、建物の設計思想を最もよく表す重要な要素でした。
1934年の創建当時、施主・三岸好太郎と建築家・山脇巌はこの建物を「光と空間を融合させるアトリエ」として構想し、南東の角を大胆に切り取った二層吹抜けのガラス面によって、自然光を最大限に取り入れるデザインを採用

しかしながら、その革新的な設計は同時に多くの課題を抱えていたことも事実です。

構造を兼ねていた細い木方立が強度不足で建物全体のゆがみが発生し、強風の時にはガラスが破損、雨漏りにも長年悩まされてきました。戦後以降、少なくとも3度の大きな改修を経て現在の姿に至ります。

特に1950年代後半、応接室の増築によりコーナー部分が覆われ、1980年代には建築の特徴であった連続ガラス面は住宅用アルミサッシに置き換えられました。
こうして、創建当時の“光のアトリエ”としての姿は徐々に失われていったのです。

今回の計画では、創建時のデザインを手がかりに、本改修では創建当時の意匠を現代技術で再解釈するという方針のもと、現代の防火・耐震基準に適合した新しいコーナーウィンドウを設計

  • マリオン(縦格子)と無目(横桟)は、当時の塗装跡から推定される約50mm幅を目標に、極限までシャープな納まりを追求。

  • 防火性能を満たすスチール製サッシを採用しながら、構造上の強度を確保するため、木製の3尺角の格子フレームを内部補強として組み込み、木造モダニズムの表情を再現。

こうした構成によって、創建時の印象的な透明感と軽快さを再び取り戻しつつ、防火・耐震・断熱の現代基準を満たした「新しい構造美」としてのコーナーウィンドウが誕生します。

また、当初の色彩(マリオン=白、サッシ=濃青)は資料上推定にとどまるため、今回は素材そのものの質感を生かした無彩色仕上げとし、“異素材で受け継ぐ”現代版の意志を静かに語るデザインとしています。


【物語の継承 ― 「応接室」を残すために記憶を残す「移設保存」】

三岸家住宅アトリエの東側に後年増築された通称「応接室」は、戦後の暮らしの変化とともに生まれた空間です。
建物の中では比較的新しい時代を象徴する部分でもあり、長く家族や来訪者を迎えてきた“もうひとつの記憶の部屋”でした。

今回の改修において、創建時のコーナーウィンドウを復活させるためには、この応接室の一部を解体せざるを得ません

しかし、単に撤去して“なかったこと”にするのではなく、時間の層として記憶を残し未来に語り継ぐ保存のかたちを選びました。

応接室の内装や建具、照明器具、床材などは、隣接する集合住宅「カーサビアンカ」1階へと“移設保存”します。
そこでは、来訪者が実際に触れられる形で往年の雰囲気を体験できるようにし、応接室が持っていた温かみや生活の記憶を、現代の空間の中で再生させます。

さらに、元の場所には痕跡を意図的に残すことで、「ここに確かに応接室が存在していた」という時間の証を建物の中に刻み、時間を積み重ねていく三岸家住宅アトリエの保存理念「進化的継承」を実践した文化財保存の新しいアプローチとして、時間そのものを建築の要素として扱う試みでもあります。


【REDO事業の立ち上げと目的】

この三岸家住宅アトリエと隣接するカーサビアンカの2つ建物を所有するキーマンは、創業以来30年以上にわたり、建物の「耐震補強」に特化した事業を展開してきました。
これまで、1981年以前に建てられた、いわゆる“旧耐震”の建物に、確かな技術で補強を施し、安全性を高め、価値を再生する取り組みを行っています。

しかし、建物を本当に“活かす”ためには、耐震だけではなく、その先の活用――つまり“中身”の再生が欠かせません。

そこで、2021年に立ち上げたのが、新規事業「REDO」。
「REDO」には、“もう一度つくり直す”、“再び価値を生み出す”という意味を込めています。

この事業では、耐震補強の技術をベースに、リノベーション、運営までを一貫して手がけ、建物の寿命だけでなく、事業としての寿命=収益の長寿命化を図ります。

古い建物を取り壊すのではなく、直して、活かして、回していく。そこに新しい循環を生み出す。

それが私たちのREDO事業の理念です。

今回の三岸家住宅アトリエとカーサビアンカの取り組みは、このREDO事業(=耐震補強+再生運用プロジェクト)の一環として進めてまいります。

REDOの最大の特徴は、
「耐震補強に特化したキーマンだからこそできる、再生のプロジェクト」
であるということです。

構造の安全性を担保しながら、建物の価値を上げていくために、建築、設計、不動産など、多様な分野の専門家とチームを組み、一つ一つの建物に最適な未来のかたちをつくっていく。

この“チームでの再生”こそが、REDOの大きな強みです。

どんなに古くても、どんなに難しい建物でも、技術と創意があれば必ず再生できる、私たちはそう信じて、このプロジェクトも進めています。


【活用計画―『REDO 鷺ノ宮プロジェクト』としての再生】

改修後、三岸家住宅アトリエと隣接するカーサビアンカは一体的に「REDO 鷺ノ宮プロジェクト」として運用されます。

単なる保存にとどまらず、文化財を“日常の中で活かす”ための新しいモデルとして再生するプロジェクトです。

三岸家住宅アトリエとカーサビアンカ1階は、美術や建築に関する書籍を閲覧・展示できる空間としても整備され、ハウススタジオとしての利用や企画展示、講演会、ワークショップ、イートインスペースなどに改修予定、またカーサビアンカ2・3階は各階2室・計4戸の共同住宅として改修され、三岸家住宅アトリエとカーサビアンカ、2つの建物で一体として多目的に活用できる文化拠点として運営される予定です。

また、これまで通り月に一度の定期公開日を設け、一般の方々にも国登録有形文化財建築を体感いただける機会を継続的に提供し、見学にとどまらず、多様な活動を通じて建物に関わることで、“見る文化財”から“活きる文化財”へと進化させたいと考えています。

三岸家住宅アトリエとカーサビアンカ、保存と活用を両立しながら二つの建築が呼応し合うことで「活き続ける文化遺産」を育てていくこと、それが『REDO 鷺ノ宮プロジェクト』の目指す新しい活きる文化財のかたち“持続可能な文化財運営の新しいモデル”です。


【株式会社キーマン代表・片山寿夫 コメント】

「今回の改修は、国登録有形文化財を“守る”だけでなく、“活かす”ことを目的としています。
三岸家住宅アトリエの価値を継承しながら、耐震性能・環境性能を現代レベルに高め、積極的な活用によって収益と循環を生み出す“活きた文化財”へと進化させることにあります。

これまで守られてきた築91年を迎える三岸家住宅アトリエを“過去の遺産”ではなく、私たちが継承し、“未来の資産”として新たな運営方法で次の世代へ引き継いでいく過去・現在・未来をつなぐ建築物として次の50年へ歩み続けられるようにしたいと考えています。

私たちプロジェクトチームの技術と知恵を結集し、この大改修工事を必ず成功させたいと思っています。

この取り組みは、当社が展開するREDO事業(=耐震補強+再生運用プロジェクト)の一環として、文化財と旧耐震建物の双方に新たな可能性を見出す挑戦でもあります。
三岸家住宅アトリエとカーサビアンカを通じて、地域や社会とともに “直して、活かして、回していく”。

収益と循環を生み出す“活きる文化財”のモデルケースならびに“旧耐震建物の未来的保存モデル”をこのREDO鷺ノ宮プロジェクトから発信していきたいと考えています。」


【REDO鷺ノ宮プロジェクトチーム】

株式会社キーマン 代表取締役 片山 寿夫・構造設計担当 西坂達哉・新規事業担当 青木佑奈

創造系不動産株式会社 代表取締役 / 神奈川大学建築学部 教授 高橋 寿太郎

株式会社建築継承研究所 代表取締役 樋口 智久

株式会社山野井靖建築事務所 代表 山野井靖

神奈川大学建築学部 特別助教 印牧岳彦

三岸家住宅アトリエ運営事務局 小泉佳奈・梅澤璃桜


【改修工事】

・2025年3月工事着工済み

・2025年10月28日 大規模改修プラン発表(本発表)
・2026年秋頃 新たな「三岸家住宅アトリエ」公開予定


【三岸家住宅アトリエ 建築概要】(2025年10月現在)

  • 名称:三岸家住宅アトリエ https://www.miguici-atelier.com/

  • 所在地:東京都中野区上鷺宮2丁目2-16

  • 竣工年:1934年(昭和9年)

  • 設計者:山脇 巌(1898–1987)

  • 構造:木造2階建ておよびコンクリートブロック造平屋建、スレート葺、建築面積88㎡

  • 文化財指定:2014年国登録有形文化財(建造物)登録

  • 外観意匠:水平・垂直を強調したシンプルなフォルム。

  • 開口部のデザイン:光を最大限に取り込む大きな窓配置(※今回の大規模改修に大きく関わる要素)。

  • 美術史的意義:画家の生活と創作の場として、昭和初期の芸術活動の痕跡を今に伝える。

  • 保存の重要性:戦前モダニズム建築は解体が進んでおり、現存例が少ない。特に「生活と芸術が一体となった住空間」は稀少。


【本件に関するお問い合わせ】

三岸アトリエ運営事務局(株式会社キーマン内)
TEL:03-6820-0707
10:00-17:00 (土日祝・GW・夏季休暇・年末年始を除く)
公式LINE:https://x.gd/Lq2Zn

Mail:miguici-atelier@keyman.co.jp

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会社概要

株式会社キーマン

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URL
https://www.keyman.co.jp/
業種
建設業
本社所在地
大阪府大阪市中央区本町3丁目1番10号 PMO EX本町7階
電話番号
03-6661-0288
代表者名
片山寿夫
上場
未上場
資本金
3000万円
設立
1996年09月