グラファイト層間化合物(GIC)の簡便・高速合成法を開発
次世代電子材料と期待されるGICの大量生産に道筋
・リチウムイオン電池材料などに用いられるGICの合成時に、金属Naが触媒として働くことを発見
・原料の室温混合または低温(250 ℃)熱処理でGICが高速生成
・高品質GICの簡便かつ大量合成が可能に
・原料の室温混合または低温(250 ℃)熱処理でGICが高速生成
・高品質GICの簡便かつ大量合成が可能に
- 概 要
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。PR TIMESのシステムでは特殊文字は使用できないため、正式な表記とは異なることご留意ください。正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20230131_2/pr20230131_2.html)をご覧ください。
- 開発の社会的背景
層間に入る原子の種類により多種のGICが存在し、それぞれが高導電性やガス吸蔵性、超伝導性など、多様な機能を有しています。グラファイトへのインターカレーション現象は、リチウムイオン二次電池の電極でも利用されています。最近では、GICを原料にしたグラフェン合成技術も開発され、今後もさまざまな応用が期待されます。しかし、気相法や溶融塩法などの従来のGIC合成手法は、合成プロセスが複雑で、合成に数日〜数週間を要し、ステージ構造(図1)の制御が容易ではなく、高価な高配向性グラファイト原料が必要など、高品質試料の大量合成には不向きでした。そのため、GICの実用化に向けて、革新的なGIC合成法の開発が望まれていました。
- 研究の経緯
- 研究の内容
このときのGIC生成の様子を探るため、X線回折(XRD)法を用いて、混合により試料中に生じる物質とその比率の混合時間に対する変化を調べました(図2b)。 混合2分後にはステージ1と2構造のLi-GIC (LiC6とLiC12)およびNa-GIC(NaCx)が生じ始めます。反応は約15分間の混合で概ね完了し、試料は最終的にLiC6とNaの混合物になることが分かりました。また、原料の混合比を変えるだけで、LiC12も合成できました。同様な手順により、ステージ1〜4構造のK-GIC(KC8, KC24, KC36, KC48)の合成にも成功しました。例えば、K-GICはステージ構造によりガス吸蔵性などの機能が異なるため、ステージ構造の制御性はGICの応用に向けて重要です。
AE-GIC(AEC6)は、比較的高い温度で超伝導を示すなど優れた特性を持っていますが、AM-GICに比べて格段に合成が困難なことで知られています。典型的には、従来法では350 ℃~450 ℃で6~10日間かけてAEC6は合成されています。金属Na添加は、AEC6合成にも極めて有効でした。AEC6を合成する場合は、原料と金属Naの混合に加えて熱処理が必要ですが、その温度は250 ℃と従来法よりも低く、しかも数時間でAEC6が合成できました。
金属Naを添加することでGICの生成が促進される理由も分かって来ました。XRD解析の結果から、GICの生成過程において金属Naは一旦Cと反応してNaCxを形成し、それが反応中間体となってインターカレーション反応を加速していることがわかりました。金属NaはGIC生成の触媒として作用すると捉えることができます。
このNa触媒法で合成した試料には、必然的に金属Naが残留します。そこで、試料中の金属Naを低減する手法も開発しました。まず、試料をペレット成型器に入れて150 ℃(金属Naの融点である98 ℃以上)に加熱します。次に図2cに示すように、押し棒で試料を加圧することにより、液体となった金属Naが試料外に押し出され、稠密なGICペレットを得ることができました。
表面を研磨したGICペレットの写真を図3a〜3cに示します。インターカレート元素やGICのステージ構造に応じてグラフェン層が保持する電子量が異なるため、それぞれのペレットは特徴的な色を示しています。得られたGICペレットをXRDにて評価したところ、図3dに示すように単一ステージ構造のみからなる高品質GICが得られていることがわかりました。
以上のように、従来法に比べ格段に低温・短時間で高品質なAM-GICおよびAE-GICの合成を可能にするNa触媒法を開発しました。この方法では、安価な粉末グラファイトを原料として使用可能であり、かつ簡単な設備を用いた簡便なプロセスであるため、GICの大量合成への拡張が容易です。
- 今後の予定
- 論文情報
論文タイトル:Dramatically Accelerated Formation of Graphite Intercalation Compounds Catalyzed by Sodium
著者:Akira Iyo, Hiraku Ogino, Shigeyuki Ishida, Hiroshi Eisaki
DOI:10.1002/adma.202209964
- 用語解説
化学反応の前後でそれ自身は変化しないが、反応速度を速める機能がある物質のことです。
グラフェン
炭素原子がハチの巣のように六角形に結合して形成された原子1個分の厚さのシート。
同素体
同一元素からなる単体のうち、結晶構造や結合様式の異なる物質同士を同素体といいます。
気相法
グラファイトに気体の原子や分子を接触させることにより、GICを合成する方法です。蒸発しやすいアルカリ金属に対して多用されています。合成手順が複雑であったり合成に一週間程度かかったりするため、GICの大量合成には不向きです。
溶融塩法
インターカレーションする元素を溶かし込んだLiCl-KClなどの溶融塩に、グラファイトを浸すことによりGICを合成する方法です。アルカリ土類金属(AE)に対して多用されています。AE-GICの合成には、例えば350 ℃で数日~10日間を要します。
次世代超伝導材料の探索
無作為に選んだ数種類の元素を反応させて、新規超伝導物質を偶然に合成するコンビナトリアル法による探索を行っています。選んだ元素にCa, Na, Cが含まれていたことが、Na添加によるGIC合成法のきっかけとなりました。
X線回折(XRD)法
試料にX線を照射すると、試料に含まれる物質に応じてX線が回折されます。その回折X線の角度や強度を分析することによって、試料に含まれる物質やその割合を調べる方法です。
Na-GIC(NaCx)
Naは他のアルカリ金属元素と異なり、高ステージ(x = 48~64)構造のGICのみが生成することで知られている。NaCxは一時的に生じるものの、混合中にNaと他のアルカリ(土類)金属と入れ替わるため最終的には消滅します。
反応中間体
触媒反応において触媒と反応物の間で一時的に形成される物質で、この反応中間体を介して反応が高速に進行します。
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