日本企業向けに「バスク州洋上風力産業ウェビナー」を開催。バスク州と日本企業の協業促進を後押し
バスク州政府貿易投資事務所は、バスク州のエネルギークラスター、バスク企業、日本企業をご登壇者にお招きし、州の洋上風力産業の戦略・強み、両地域の事業の特徴や連携事例を紹介しました。
■概要
Basque Trade and Investment(BT&I;バスク州政府貿易投資事務所)は、一般社団法人日本風力発電協会(JWPA)のご後援のもと、バスクの洋上風力産業を紹介する「Basque Offshore Wind Energy Industry & Technology」ウェビナーを2024年9月18日(水)に開催しました。
ウェビナーでは、バスク州政府貿易投資事務所からバスク州の概要、バスク・エネルギー・クラスターから産業の強みと戦略を紹介した後、浮体式洋上風力の係留事業を世界的に展開し、日本企業との協業実績も持つVicinay Marine社より、事業概要と導入事例をご説明いただきました。
後半では、バスク企業のSaitec Offshore Technologies社(以下Saitec社)と連携して浮体式技術の実証プロジェクトを進める関西電力株式会社、ならびに日本の風力発電事業にバスク企業として参画するイベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン社から、それぞれの視点で事業概要と協業体制における取り組みについてお話しいただきました。
バスク州を複数回視察したご経験のあるJWPA国際部長の上田様からは、1990年代にゼロからサプライチェーンを作り上げたバスク州は日本にとって参考地域となる可能性が示されました。また、日本企業が欧州企業とのパートナーシップを構築する際、バスク企業は有力な選択肢となりうることから、「バスクで2年ごとに開催されるWindEuropeやバスク企業を訪問してはどうか」という日本企業を後押しするメッセージをいただきました。
▶ウェビナーのフル動画は以下のURLから視聴できます。
https://www.youtube.com/live/K0YnBH5B0Ew?si=I46VEUTjHJnlVqg0&t=220
■目的
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日本の風力業界全般におけるバスク州のプレゼンスと洋上風力産業の理解向上を通じ、両地域のビジネス関係の促進を図る
■プログラム
■登壇者略歴
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朝川誠氏(関西電力株式会社):グローバルな水力発電プロジェクトにおいて、企画、現地調査、設計、建設、運転保守など、幅広い分野における豊富な経験のほか、洋上風力発電の開発、技術デューデリジェンスや分析、大規模な洋上土木工事を伴う火力発電所の設計、建設管理、運転保守など、幅広い技術経験を有する。日本、英国、ドイツ、スペイン、ノルウェー、ベトナム等で洋上風力発電所の事業開発および技術デューデリジェンスを行うなど、海外での洋上風力事業での海外経験も豊富。DemoSATHプロジェクトでは、浮体O&Mや技術開発に取り組んでいる。
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中山智佳子氏(イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン株式会社):プロセスエンジニアとしてキャリアをスタートし、プロジェクトマネージャーとして数千億円規模の国内外のエネルギープロジェクトを成功させる。北米に渡り、欧米のオイルメジャー(国際石油資本)に移籍。数兆円規模の石油・天然ガス等のバリューチェインへの事業開発・事業投資を世界各国にて展開。その後、複数の事業会社の代表及び役員として各国政府や業界のメインプレオヤーとの提携及び交渉に従事。経営戦略策定、ポートフォリオマネジメント、M&A, A&D, SPCの運営等を手掛ける。
各プレゼンテーションのポイント
■バスク洋上風力産業の概観・バスク企業の浮体式技術を取り巻く戦略
□概要
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船舶・機器類の製造を通じて地域に根付いた造船技術を基盤に、約30年前から産業が発展。
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約150社が5000人以上を雇用(バスクで働く人の約10%が関連事業に従事)。
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今後5〜10年で洋上風力の設置水深がさらに深まることを見据え、浮体式技術への取組を強化。
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世界に先駆けて実証を手がけるなど、高い技術力を武器にグローバルで存在感を増加。
□広範に分布するバスク企業
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世界に50社ある浮体プラットフォーム技術開発企業のうち、5社がバスク企業:Esteyco社、Hivewind社、Isati社、Nautilus社、Saitec Offshore Technologies社。
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浮体式風力エネルギーに積極的に取り組むIberdrola社、主要なオフショア風車メーカーのSiemens Gamesa Renewable Energy社、実証サイトのBiMEP、国際的なR&Dプロジェクトに参画する複数の技術センターや大学など、産官学が連携。
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約60社のバスク企業が部品供給、タワー建設、R&D領域で活躍。
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世界中のほぼすべての浮体式技術の実証実験に関与。
□産業戦略:『Basque Floating Wind Energy Technology Strategy』
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バスク・エネルギー・クラスターが、バスク企業17社と7つのR&D機関の協力のもと、技術戦略を策定。4つの戦略エリアにわたって20の技術項目が盛り込まれている。
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バスク地方における浮体式風力エネルギーの技術開発と産業の発展を支える役割を担い、各分野で具体的なR&D目標が設定されている。
<4つの戦略エリアと重点技術項目>
1.プラットフォームの設計と建設(Platform Design and Construction)
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浮体風力風車の共同設計
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統合荷重解析手法
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構造強度計算手法
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製造と組立のための設計
2.設置、運転・保守(Installation, Operation & Maintenance)
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係留システムと動的ケーブルのO&M
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O&Mのための技術経済分析
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負荷と運用変数の記録用計装
3.風車、係留、補助コンポーネント(Turbine, Mooring and Auxiliary Components)
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海中電力ケーブルとアクセサリーの開発
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浮体式風力風車向け最適化された係留ラインの開発
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浮体式風力風車専用リフトの開発
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環境負荷を抑えた薄型防食コーティングの開発
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高出力風車の多物理モデルと新開発
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過酷な現場条件への係留
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浮体式風力風車コンポーネントの解体とリサイクル
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浮体式風力風車の作動システムと制御戦略
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浮体式風力風車の熱管理システムの開発
4.資源および影響の分析と研究(Resource and Impact Analysis and Studies)
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波と風資源の特性評価と予測
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海洋空間計画:洋上風力開発の適地特定ツール
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海洋環境における浮体式風力風車の環境影響
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洋上グリーン水素生産プラントの技術および経済分析
■Vicinay Marine社の係留事業
□事業概要
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Vicinay Marine社は17世紀から鋼鉄事業の経験を持つファミリー企業。
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1960年代に洋上風力分野に参入し、海上の石油生産プラットフォーム用のチェーンの製造を開始。
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近年は、洋上風力発電のための浮体式プラットフォーム関連事業への参画が増加。
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国内外に5つの製造拠点を持ち、係留索とコネクタを製造。
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製造に加えてエンジニアリング事業、メンテナンス事業も提供。プロジェクトの全ライフサイクルに対応する。
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日本では北九州・響灘沖や五島列島の洋上発電設備に係留索の納品実績がある。
事業領域 |
内容 |
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エンジニア リング事業 |
• 係留解析(Mooring analysis) • 構造解析(Structural analysis) • 詳細な機器設計(Detailed equipment design) • 特別な研究(Special studies) • 海中ソリューション(Subsea solutions) • 設置方法(Installation methods) |
製造・供給 事業 |
• オーダーメイドのコネクター(Tailor made connectors) • テンショニングシステム(Tensioning systems) • 海中ソリューション(Subsea solutions) • オフショアグレード R3 から R6 まで対応 • その他の係留用設備(Other mooring equipment) • チェーンの径:50mm から 220mm まで |
メンテナンス事業 |
• オフショア・オンショア検査(Offshore and onshore inspections) • 腐食・状態のモニタリング(Corrosion/condition monitoring) • 非破壊検査・3Dスキャン(NDE/3D scanning) • フルスケール試験(疲労試験、破断試験など)(Full scale testing: fatigue, break, etc.) • 残存寿命の評価(Remaining life assessments) • 工学的重要性の評価(ECA: Engineering criticality assessments) |
□浮体式製品のイノベーション
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新たな素材・コンポーネント・設置手法を採用し、係留索のイノベーションに取り組む。
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プロジェクトの初期段階から関わり、テクノロジープロバイダーとして課題と予算を早期に把握することで、より適切なソリューションを提供したい。
■連携事例① DemoSATHプロジェクト(Saitec社-関西電力社)
□再生可能エネルギー事業の変遷
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当初は水力中心の取組からスタートし、バイオマス、ソーラー、風力へと事業を拡大。
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2021年には『ゼロカーボンビジョン2050』を策定し、本格的に再生可能エネルギー分野に注力。
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これまでの発電所設備は主に関西に集中する一方で、再生可能エネルギーは全国に展開(水力が東海・北陸地方、バイオマスが福岡県・福島県、風力が北海道・東北・九州地方)。
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2040年までに国内の再生可能エネルギーの発電容量を現在の4GWから9GWに増加させることを目標としている。
□洋上風力事業の方針
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着床式を着実に進める一方で、浮体式に注力していく。
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日本は急峻な地形であるものの、広大なEEZを有し、沖合に出るとすぐに水深が深くなるため、浮体技術の需要が高いと判断。
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浮体式技術の発展に向け、先進技術を有する複数の欧州企業と協業中。そのうちのひとつがバスクに本拠を置くSaitec社である。
□Saitec社との協業理由
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グローバルな知名度の向上
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浮体技術のノウハウ習得
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日本市場および成長著しい欧州市場における経験豊富なプレイヤーとしての地位確立
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DemoSATHプロジェクトの技術情報へのアクセス
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SATH技術に関するワークショップの実施
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自社のエンジニアがO&M(運用・保守)経験を積み、プロジェクト理解を深める機会づくり
□DemoSATHプロジェクト
目的 |
SATH(Swinging Around Twin Hull)浮体式の商業実証 |
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種類 |
バージ型(SATH型)浮体 |
場所 |
BiMEP実証サイト(ビルバオ) |
参加企業 |
Saitec社、RWE Renewables社、関西電力 |
発電容量 |
2MW(2.0MW × 1基) |
実証期間 |
2023年9月から2年間 |
□Saitec社との協業で得られた学び
“バスクには優秀な人材が多い印象。浮体技術に精通していて、細かい質問もごまかすことなく対応してくれる。食へのこだわりなど日本との文化的な共通点も見られる。”
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建設段階から関わることができ、日本国内では得られない知識を学べた。
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社員派遣やワークショップを通じて、人材育成を促進し、SATHプロジェクトに関する知識や課題の理解が深まっている。
<社員の現場派遣から得られた学び>
・浮体構造設計および風力タービンメンテナンスに関する包括的な知識
・初期段階のプロジェクトにおける問題の理解
• 浮体式洋上風力発電のメンテナンス時に考慮すべき項目やポイント
• SCADAシステムの機能と使用方法
• 運転中のアラーム対応と対策
• 洋上風力のO&M(運転・保守)の戦略的計画方法
<Saitec社とのワークショップのトピック>
1. 浮体プラットフォーム設計
2. 固定システムとケーブル設計
3. 浮体式洋上風力プラットフォームの建設
4. 海洋作業
5. DemoSATHプロジェクトのレビュー
■連携事例②:イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン株式会社
□企業概要
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イベルドローラ社は、総合電力会社として世界2位の時価総額を誇るグローバル企業。同業他社との大きな違いは、発電量の75%が再生可能エネルギー由来である点。
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イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン社は、アジア市場進出の拠点として、また、本社の全機能を活かして日本の脱炭素化に貢献することを目指して、2020年12月に設立。
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日本を拠点にした背景は、電力需要が最も高く、政治的に安定しているため。また、電力の約60%を化石燃料に依存しており、再エネ事業の拡大に参入余地があると判断。
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太陽光、陸上・洋上風力、水力、T&D、グリーン水素、アンモニア・メタノール、電気自動車、エネルギーストレージなど、多岐にわたる技術を総合的に活用して脱炭素化を推進。
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洋上風力事業は、スコティッシュ・パワー社を2007年に買収して参入して以降、世界を牽引。現在、1.8GWが稼働中、3.0GWが建設中であり、これは世界で最も進んでいる規模のひとつ。
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今後は浮体式洋上風力へ段階的に移行予定であり、英国では5GW級の浮体式風力発電所の稼働計画が進行中。
□「秋田県八峰町及び能代市沖」事業
パートナー |
JRE、東北電力、秋田銀行 |
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発電規模 |
375 MW |
プロジェクト面積 |
34平方キロメートル |
タービン |
15MW V236タービン x 25基 |
運転開始予定日 |
2029年6月 |
フィードインプレミアム (FIP) |
3JPY/kWh |
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2024年3月に落札。
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方式は着床式で、375MWと比較的小規模ながらも、日本での新しい土地で開始するプロジェクトとしては適切な規模と考えている。
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ENEOSリニューアブル・エナジー社及び東北電力、秋田銀行がパートナー。
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事業の持続性を確保するため、O&Mの内製化を進める必要がある。ENEOSリニューアブル・エナジー社、東北電力の関連子会社と共に、新会社設立を予定。
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4社のパートナーシップで相互のシナジーを最大化し、役割の補完を目指す。
■Q&A
質問1:関西電力が参画するDemoSATHプロジェクトの発電方式のメリットを教えてください。また、2MWタワーの最新情報について教えてください。
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朝川氏の回答: DemoSATHプロジェクトはコンクリート式の浮体を採用しているため、国内のサプライチェーンの観点から有利です。また、一点係留方式を採用しているため、常に風向きに正対するよう設計されており、発電効率が向上するメリットがあります。
2MWタワーはすでに実証段階にあります。将来的には市場ニーズに応じて15MWクラスへの大型化が進むと考えられます。
質問2: Vicinay Marine社が日本市場に参入したきっかけと、日本企業との直接的なコラボレーション実績について教えてください。
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Xabier氏の回答: 私たちは長年、船舶用チェーンの供給を通じて日本市場にプレゼンスを築いてきました。各種イベントへの参加やNEDOとの関係構築を通じて、日本企業との接点が生まれています。現在も定期的に日本を訪れ、セミナーや展示会に参加し、関係強化に努めています。
質問3: バスク州企業が日本企業とコラボレーションする機会を創出するスキームがあれば教えてください。また、日本企業がバスク企業に売り込む機会があれば知りたいです。
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BT&I・加藤の回答: 日本企業の窓口はBT&Iの日本オフィスが担当しています。ミッションやマッチングイベントにご参加いただくこともできますし、個別にバスク企業をご紹介したり、バスク訪問時の現地調整を行うことも可能です。まずは用件を問わずお気軽にご相談ください。
■バスク州全体の概要
・データ:人口約220万人|面積7,234 km2
・代表的産業:エネルギー、自動車、ICT、機械・工具、環境技術、バイオメディカル。
・工業力:工業がGDPの25%を占める地域です(日本は約20%)。産業クラスター制度、企業支援事業・投資促進政策、技術革新エコシステムの構築など、充実した産業促進政策を有します。
・革新性:強固な産業エコシステムを背景に、欧州でも屈指の革新性を有します。欧州委員会の「European Innovation Scoreboard」では「強力な革新地域」の評価を得ています。
・自立性:中央政府から州内の税の徴収・管理権限が委譲されていることから、高度な自治権と税務行政能力を有し、長期的な産業技術革新政策を策定・執行しています。
■バスク州政府貿易投資事務所・日本オフィス
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所在地:東京都港区虎ノ門1丁目17−1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階
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代表:加藤萌映
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事業内容:貿易投資促進のコンサルティング、トレードミッションの企画・実施、顧客・事業パートナーの開拓支援、市場調査・レポーティング
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