人工知能による糖尿病サブタイプは、糖尿病関連腎臓病の発症や透析導入リスクを糖尿病診断時に予測
–福島県立医科大学・国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 共同研究成果が欧州糖尿病学会誌「Diabetologia」に掲載–



福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座(渡邊桐子 助教、主任教授 島袋充生ら)と国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所(大杉満 糖尿病情報センター長、植木浩二郎 糖尿病研究センター長)等の共同研究チームは、人工知能による糖尿病サブタイプ化により、糖尿病関連腎臓病の発症や透析リスクを糖尿病診断時に予測できることを明らかにし、2025年11月17日 欧州糖尿病学会が発行する国際的医学雑誌「Diabetologia」に公開されました。
糖尿病の深刻な合併症である糖尿病関連腎臓病は、我が国における透析導入の原因疾患の1位です。
このため、厚生労働省、日本医師会、日本糖尿病学会などが中心となり、糖尿病性腎症重症化予防プログラムと呼ばれる全国的取り組みを進めています。本研究で利用した診療録直結型全国糖尿病データベース事業(英名 J-DREAMS:Japan Diabetes compREhensive database project based on an Advanced electronic Medical record System)は、日本糖尿病学会の支援を受けて運営されており、本研究は、学術調査研究の支援を受けています。
糖尿病関連腎臓病予防における課題のひとつは、糖尿病と診断された時点で、腎臓の機能が、将来どの程度悪くなるか予測できないことです。健診や病院で腎機能(尿を作る機能)低下や蛋白尿がわかったときは、既に進行しており、透析導入が防げないことがしばしばです。そこで、まだ腎臓病をもたない方々で、糖尿病関連腎臓病の発症や進展(透析導入)リスクを予測できる方法を探しました。
研究では、J-DREAMSに登録された1万人を超える大規模な日本人集団の糖尿病をもつ人が、「データ駆動型糖尿病クラスター分類」を使って、5つのサブタイプに分類できることを確認しました。若い年齢で発症し自己免疫が関わるSAID(重症自己免疫性糖尿病)、インスリンの分泌する能力が著しく低下したSIDD(重症インスリン不足糖尿病)、インスリンの効果が悪く肥満があるSIRD(重症インスリン抵抗性糖尿病)、肥満があるが合併症が起こりにくいMOD(軽症肥満関連糖尿病)、高齢で発症するMARD(軽症加齢関連糖尿病)の5つです。
重要な発見は、インスリンの効きが悪く肥満傾向にある「重症インスリン抵抗性糖尿病(SIRD)」サブタイプで腎臓病の発症や増悪リスクが最も高いことです。それぞれのサブタイプで腎臓病の発症要因が異なることもわかりました。つまり、同じ糖尿病でも、サブタイプによって注意すべき点が違うということです。
この研究の意義は、従来「糖尿病」として一つの病気と扱われていたものを、サブタイプに分類することで、それぞれに適した予防策、治療法を提供できる可能性を示したことです。今後、健診や病院など実際の現場で、患者さん一人ひとりの糖尿病のサブタイプを早期に判定し、その人に最も適した予防策や治療法を選択できるようになることが期待されます。このことは「個別化医療」と呼ばれる、患者さん個人の特性に合わせた医療の実現に大きく貢献する可能性があります。
本研究は、糖尿病治療を新たなステージへと進めるための重要な一歩と言えるでしょう。
論文タイトル
Diverse Combination of Factors Associated With the Development of Diabetic Kidney Disease Among Data-Driven Diabetes Subtypes: Analysis of the J-DREAMS Registry
データ駆動型糖尿病サブタイプにおける糖尿病性腎臓病の発症関連因子の多様性:J-DREAMSレジストリ解析
論文リンク先 https://doi.org/10.1007/s00125-025-06594-1
共同研究者
渡邊 桐子(1)、田辺 隼人(1)(2)、大杉 満(3)(4)、川上 英良(5)(6)、田中 健一(7)(8)、風間 順一郎(7)(8)、植木 浩二郎(3)(9)、島袋 充生(1)(2)(8)
(1) 福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座
(2) 福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科・総合内科学講座
(3) 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター 糖尿病内分泌代謝科
(4) 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 糖尿病情報センター
(5) 千葉大学大学院医学研究院 人工知能(AI)医学
(6) 理化学研究所 情報統合本部 先端データサイエンスプロジェクト
(7) 福島県立医科大学 腎臓高血圧内科学講座
(8) 福島県立医科大学 先端地域生活習慣病治療学講座
(9) 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療研究所 糖尿病研究センター
●お問い合わせ先
<研究に関すること>
公立大学法人福島県立医科大学 医療研究推進課 課長 渡邉 卓
電話024-547-1795
<取材に関すること>
公立大学法人福島県立医科大学 広報コミュニケーション室
担当 持田・佐久間 電話024-547-1016
メールpr-str@fmu.ac.jp
国立健康危機管理研究機構 危機管理・運営局 広報管理部
Tel:03-3202-7181 E-mail:press@jihs.go.jp
一般社団法人 日本糖尿病学会 事務局
https://www.jds.or.jp/modules/about/index.php?content_id=12#inquiry
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