大腸癌の増悪化に関わるFusobacterium nucleatumは口腔内に由来する ~歯周病菌が大腸癌に関わっている。大腸癌の新たな治療法や予防法に繋がる可能性~
メイトーブランドの協同乳業株式会社(本社:東京・中央区/社長:尾﨑 玲)の松本光晴主幹研究員らは、横浜市立大学 肝胆膵消化器病学 日暮琢磨診療講師らとの共同研究で、大腸癌患者の大腸癌組織と唾液からFusobacterium nucleatum (F. nucleatum、フソバクテリウム ヌクレアタム)を分離して解析した結果、4割以上の患者で、大腸癌組織と唾液に共通したF. nucleatum菌株が存在していることを発見しました。この結果は、大腸癌の増悪化に関与が報告されている腸内細菌のF. nucleatumが口腔内に由来すること、すなわち、口腔内F. nucleatumが大腸癌に関与していることを強く示唆しています。この研究成果は、英国消化器病学会(British Society of Gastroenterology)の機関誌「Gut」に6月23日(日本時間)にオンライン公開されました。
【研究の概要と成果】
次世代型DNAシークエンサーの普及とともに大腸癌の病態に関わる腸内細菌 の研究が世界的に進められ、2012年以降、F. nucleatumが大腸癌の病態や予後に悪影響を及ぼすといった報告例が増えて、非常に注目されています。しかし、F. nucleatumは従来ヒト腸内からは検出さないことが多く、大腸癌における本菌の由来(感染源)については不明な状況でした。
本研究グループは、F. nucleatumが口腔内環境において優先菌種であることに着目し、口腔内F. nucleatumが大腸(癌)組織へ細菌が移行しているのではという仮説を立てました。
そこで、直近の抗生物質使用歴が無い等の条件で選抜された全14名の患者を対象に、内視鏡を用いて採取した大腸癌組織および唾液検体をF. nucleatum選択培地にて培養し、計1,351個の分離菌を解析しました。
その結果、患者8名(57%)において、大腸癌組織と唾液の両方からF. nucleatumが検出されました。次に、その8名の検体より分離されたF. nucleatumを対象に、AP-PCR法※1を用いて菌株レベル※2で解析した結果、8名中6名では、大腸癌組織と唾液の両方から同一菌株が検出されました。これは全被験者の43%、大腸癌からF. nucleatumが検出された患者母集団では75%に相当します。
この結果は、大腸癌で高頻度に検出され、大腸癌悪化への関与が強く疑われるF. nucleatumの感染源が、口腔内環境に由来することを強く示唆しています。そして、この研究成果は、大腸癌の新たな治療法、予防法、リスク評価などに繋がる可能性がある発見と考えられます。
■研究の流れ
バンドの検出パターンが同じだと同一菌株と判定できる。
大腸癌組織から1菌株(点線より左)、唾液から6菌株(点線より右)が検出され、1菌株(P4、青四角で包囲)が同一菌株で、両検体から検出されたことがわかる。すなわち、患者Eの大腸癌組織と唾液にはF. nucleatum subsp. polymorphum P4菌株が共通して存在していると結論付けられる。
亜種の正式名は以下に示す
po:F. nucleatum subsp. polymorphum
vi:F. nucleatum subsp. vincentii
an:F. nucleatum subsp. animalis
【研究成果の意義と今後の展望】
大腸癌は、国立がん研究センターのがん情報サービス「2018年のがん統計予測」の部位別がん罹患数予測で男女合計第1位、部位別がん死亡数予測で男女合計第2位と増加傾向が続いており、早急な対策が求められています。
今回、この研究で、大腸癌の病態や予後への悪影響を及ぼすことが報告され、大腸癌の増悪化に関与していることがほぼ確実視されているF. nucleatumの由来が、口腔内であることが、少なくとも4割以上の大腸癌患者で確認されたことは、大腸癌の予防や治療において、非常に意味のあることだと考えられます。
具体的には、口腔内あるいは腸内の細菌を調べることにより、大腸癌の簡便な診断法が開発できる可能性を示しています。また、口腔内および腸内の細菌叢を制御することにより大腸癌の治療や予防につながっていく可能性も示しています。
一方で、口腔内F. nucleatumが大腸(癌)組織まで移行・感染する経路に関しては、まだ明らかにされておらず、今後の研究課題となります。また、本研究チームは、論文データは症例数が少ないため、より多くの大腸癌患者を対象にさらなる研究を進めて行く予定です。また、本研究で得られたF. nucleatum分離菌株用いて、新たな大腸癌治療法や予防法(食品を含む)に繋がる研究に取り組む予定です。
【用語解説】
※1 AP-PCR法は、任意のプライマーを用いて鋳型DNAを増幅させることで、菌株レベルで増幅DNA(数とサイズ)に再現性高く差が出ることを利用して菌株を識別する方法。感染性病原菌の菌株特定などに広く利用されている。
※2 菌株とは、同一種内の生物個体のことであり、ヒトの場合、各個人に該当する。菌株毎に特徴や能力に差が認められる。
【論文】
ジャーナル:Gut
タイトル:Patients with colorectal cancer have identical strains of Fusobacterium nucleatum in their colorectal cancer and oral cavity
(大腸癌患者は大腸癌組織および口腔内に同一菌株のFusobacterium nucleatumを保有する)
著者:Yasuhiko Komiya(※1,2), Yumi Shimomura(※3), Takuma Higurashi(※1), Yutaka Sugi(※3), Jun Arimoto(※1),Shotaro Umezawa(※1), Shiori Uchiyama(※1), Mitsuharu Matsumoto(※3), Atsushi Nakajima(※1).
(※1)横浜市立大学 肝胆膵消化器病学、(※2)横須賀市立うわまち病院、(※3)協同乳業㈱研究所 技術開発グループ
次世代型DNAシークエンサーの普及とともに大腸癌の病態に関わる腸内細菌 の研究が世界的に進められ、2012年以降、F. nucleatumが大腸癌の病態や予後に悪影響を及ぼすといった報告例が増えて、非常に注目されています。しかし、F. nucleatumは従来ヒト腸内からは検出さないことが多く、大腸癌における本菌の由来(感染源)については不明な状況でした。
本研究グループは、F. nucleatumが口腔内環境において優先菌種であることに着目し、口腔内F. nucleatumが大腸(癌)組織へ細菌が移行しているのではという仮説を立てました。
そこで、直近の抗生物質使用歴が無い等の条件で選抜された全14名の患者を対象に、内視鏡を用いて採取した大腸癌組織および唾液検体をF. nucleatum選択培地にて培養し、計1,351個の分離菌を解析しました。
その結果、患者8名(57%)において、大腸癌組織と唾液の両方からF. nucleatumが検出されました。次に、その8名の検体より分離されたF. nucleatumを対象に、AP-PCR法※1を用いて菌株レベル※2で解析した結果、8名中6名では、大腸癌組織と唾液の両方から同一菌株が検出されました。これは全被験者の43%、大腸癌からF. nucleatumが検出された患者母集団では75%に相当します。
この結果は、大腸癌で高頻度に検出され、大腸癌悪化への関与が強く疑われるF. nucleatumの感染源が、口腔内環境に由来することを強く示唆しています。そして、この研究成果は、大腸癌の新たな治療法、予防法、リスク評価などに繋がる可能性がある発見と考えられます。
■研究の流れ
■結果の一例
患者Eから分離したF. nucleatumの代表菌株のAP-PCRパターン
バンドの検出パターンが同じだと同一菌株と判定できる。
大腸癌組織から1菌株(点線より左)、唾液から6菌株(点線より右)が検出され、1菌株(P4、青四角で包囲)が同一菌株で、両検体から検出されたことがわかる。すなわち、患者Eの大腸癌組織と唾液にはF. nucleatum subsp. polymorphum P4菌株が共通して存在していると結論付けられる。
亜種の正式名は以下に示す
po:F. nucleatum subsp. polymorphum
vi:F. nucleatum subsp. vincentii
an:F. nucleatum subsp. animalis
【研究成果の意義と今後の展望】
大腸癌は、国立がん研究センターのがん情報サービス「2018年のがん統計予測」の部位別がん罹患数予測で男女合計第1位、部位別がん死亡数予測で男女合計第2位と増加傾向が続いており、早急な対策が求められています。
今回、この研究で、大腸癌の病態や予後への悪影響を及ぼすことが報告され、大腸癌の増悪化に関与していることがほぼ確実視されているF. nucleatumの由来が、口腔内であることが、少なくとも4割以上の大腸癌患者で確認されたことは、大腸癌の予防や治療において、非常に意味のあることだと考えられます。
具体的には、口腔内あるいは腸内の細菌を調べることにより、大腸癌の簡便な診断法が開発できる可能性を示しています。また、口腔内および腸内の細菌叢を制御することにより大腸癌の治療や予防につながっていく可能性も示しています。
一方で、口腔内F. nucleatumが大腸(癌)組織まで移行・感染する経路に関しては、まだ明らかにされておらず、今後の研究課題となります。また、本研究チームは、論文データは症例数が少ないため、より多くの大腸癌患者を対象にさらなる研究を進めて行く予定です。また、本研究で得られたF. nucleatum分離菌株用いて、新たな大腸癌治療法や予防法(食品を含む)に繋がる研究に取り組む予定です。
【用語解説】
※1 AP-PCR法は、任意のプライマーを用いて鋳型DNAを増幅させることで、菌株レベルで増幅DNA(数とサイズ)に再現性高く差が出ることを利用して菌株を識別する方法。感染性病原菌の菌株特定などに広く利用されている。
※2 菌株とは、同一種内の生物個体のことであり、ヒトの場合、各個人に該当する。菌株毎に特徴や能力に差が認められる。
【論文】
ジャーナル:Gut
タイトル:Patients with colorectal cancer have identical strains of Fusobacterium nucleatum in their colorectal cancer and oral cavity
(大腸癌患者は大腸癌組織および口腔内に同一菌株のFusobacterium nucleatumを保有する)
著者:Yasuhiko Komiya(※1,2), Yumi Shimomura(※3), Takuma Higurashi(※1), Yutaka Sugi(※3), Jun Arimoto(※1),Shotaro Umezawa(※1), Shiori Uchiyama(※1), Mitsuharu Matsumoto(※3), Atsushi Nakajima(※1).
(※1)横浜市立大学 肝胆膵消化器病学、(※2)横須賀市立うわまち病院、(※3)協同乳業㈱研究所 技術開発グループ
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