脂質の摂取はバランスが重要。“青魚信仰”に疑問符。加齢との関連も?

日本ブレインヘルス協会

脂質の摂りすぎは健康に悪影響をもたらす。しかし極端に減らすことがいいかといえば、そうでもない。食事調査を通じて、脂質の摂取量や体内への取り込み状況を調べている、女子栄養大学・基礎栄養学研究室教授の川端輝江氏は、「適量摂取を心がけることはもちろんだが、脂質にもさまざまな種類があるので、それらをバランスよく摂る必要がある」と強調。中高年を中心に広がる、昨今の“魚を食べていれば大丈夫”という風潮にも疑問を投げかける。今回のブレインヘルスニュースでは、脳の健康とも関わりの深い脂質栄養について、先般開催された第62回日本栄養・食糧学会大会(2008年5月2日~4日)での川端氏の研究報告を中心に取り上げる。
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■全身の健康に関わる細胞膜中の脂肪酸

 脂質の大部分はエネルギー源として利用され、余った分は脂肪細胞に蓄えられる。この“蓄え”が過剰になった状態が肥満だ。しかし、エネルギーにはならず、細胞膜の材料として利用される脂質もある。脂質全体からみればごくわずかな量だが、細胞膜の働きを左右し、ひいては全身の機能に関わるため、細胞膜中の脂質は軽視できない。
 もちろん、脳の細胞も例外ではない。本ニュースでも過去に取り上げてきたように、アラキドン酸(ARA)※1やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの脂肪酸が、脳の働きに重要な役割を果たしているといわれるのも、これらの脂質が脳の神経細胞の膜内にどのくらいあるかによって、膜の性質が変わり、神経細胞の機能にも影響を与えると考えられているからだ。
 川端氏は、脂質の中でも膜の成分として特に重要とされる、n-6系不飽和脂肪酸のアラキドン酸と、n-3系のDHA、EPA(エイコサペンタエン酸)に注目し、食事からの摂取量と、細胞膜への取り込み状況について、2004年より調査を進めている。ちなみにこれらは、動物性食品由来の脂肪酸で、アラキドン酸は肉や卵、魚介類などに幅広く含まれるが、DHA、EPAは魚介類で特徴的に含有量が多い。
 調査方法は、毎日の食事のデジタル画像と食事記録から、各脂肪酸の摂取量を推量していくというもので、期間は28日間となっている。調査期間終了後に採血を行い、赤血球の細胞膜に各種の脂肪酸がどの程度、蓄積されているかなどを調べた。すでに若年女性、高年男性での調査結果が発表されているが、今回、新たに若年男性の結果を加えた報告が行われた。

■魚はほどほどでいい!? EPA、DHAはアラキドン酸の取り込みを阻害

 各脂肪酸の摂取量と赤血球膜への取り込みについては、EPAは性、年齢に関わらず、摂取量に比例して膜内の量も増えていた。しかしDHAでは、一定量を超えるとそれ以上は膜に取り込まれていなかった。
 アラキドン酸では、どの対象グループにおいても、摂取量と取り込み量の間に相関関係は認められなかったが、一方でEPA、DHAの影響を強く受けることがわかった。すなわち、これらの脂肪酸を同時に摂ると、アラキドン酸よりも、EPA、DHAの方が優先的に膜に取り込まれる。例えば図1は、各種脂肪酸について、食事からの摂取量(左)と、赤血球膜中での組成(右)を示したものだが、若年男性ではアラキドン酸の摂取量が、高年男性に比べて有意に少ないものの、膜中の組成は有意に高値を示している。これは若年男性が、EPAやDHAが豊富な魚介類をあまり食べておらず、アラキドン酸の大部分を肉や卵から摂取していたため、EPAやDHAによるアラキドン酸の取り込み阻害が、ほとんど生じなかったと考えられる。
 また若年男性では、アラキドン酸だけでなく、図1に示したn-6系脂肪酸すべてにおいて、赤血球膜中の割合が高年男性に比べて有意に高くなっている。この現象について川端氏は、「若年男性ではこれらの脂肪酸の摂取量がもともと少ないので、これを補うため、体内でリノール酸※2からの、代謝亢進が起きたのではないか」との見方をしている。

■赤身の肉や卵と、魚介類をバランスよく食べる

 脂肪酸の取り込みには、摂取量だけでなく、年齢が影響している可能性も出てきた。図2は対象グループごとに、赤血球膜中のn-6系、n-3系脂肪酸(その中でも特に膜の機能上、重要とされる、炭素数が20以上で、二重結合が3以上の脂肪酸の総量)の割合を示したものだ。川端氏は、高年男性に比べて、若年男性でn-6系脂肪酸の占める割合が顕著に高く、n-3系とn-6系を合わせた総量も、若年男性の方が多いことを指摘。摂取量による取り込み阻害の差だけでなく、年をとるとn-6系の脂肪酸が減少しやすくなるなど、年齢との関連があるのではないかと推察している。
 n-6系脂肪酸であるアラキドン酸については、体内でも特に、脳の神経細胞膜に多く存在すること、
年をとると脳内のアラキドン酸量が少なくなること、などがこれまでに報告されており、このことが加齢にともなう記憶や学習能力の低下に関与していると考えられている。川端氏の研究は赤血球膜を調べたものだが、赤血球の膜は、脳を含めた全身の細胞膜の状態を反映するため、今回得られた結果は、食とブレインヘルスの観点からも非常に興味深い。川端氏は今後さらに、高齢女性を対象とした調査等を行い、性別や年代によって、脂肪酸の膜への取り込みがどのように異なるかを、解明していく予定だ。

 国の食事摂取基準では2005年以降、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸の目安量などが設定されたが、各脂肪酸ごとの摂取基準については、まだ明らかになっていない。現時点で留意できることとして川端氏は、「健康のために肉や卵を敬遠して、魚ばかりを食べる人がいるが、今回の調査結果でも示されたように、魚に多く含まれるn-3系のDHAは、一定量以上は取り込まれないばかりか、かえってn-6系のアラキドン酸の取り込みを阻害し、脂肪酸バランスを崩す可能性もある。脂質の摂りすぎにつながりやすいのは、植物油と肉の脂(飽和脂肪酸)なので、これらを控えめにしながら、EPAやDHAが豊富な魚介類と、アラキドン酸が豊富な赤身中心の肉や卵を、日替わりで主菜にすれば、脂肪酸バランスがよくなる」と話している。

※1 アラキドン酸(ARA)
 n-6系の不飽和脂肪酸。体の組織のいたるところに存在するが、特に記憶との関係が深い海馬を中心に脳に多く含まれ、そのため脳の機能そのものに大きく関わっているとされる。食品では肉や卵、魚などに豊富で、食事からの摂取が必要な「必須脂肪酸」のひとつに数えられている。

※2 リノール酸
 n-6系の不飽和脂肪酸の代表格。「必須脂肪酸」のひとつに数えられるが、植物油などに多く含まれるため、現代の食生活では不足しにくいと考えられる。従来リノール酸は、体内でアラキドン酸をはじめ、図1に示されたようなn-6系脂肪酸に代謝されると考えられてきたが、最近では、状況によってはほとんどつくられないとする報告もある。今回の調査では、アラキドン酸の摂取が少ない若年男性で、不足を補うために、体内でリノール酸からアラキドン酸への代謝が亢進したと推察される。

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