CHUGAI INNOVATION DAY 2025 開催レポート（DAY2）

中外製薬が異分野との共創によって生み出すイノベーションの軌跡と挑戦の最前線　各界で活躍するリーダーが「ヘルスケアの未来を生み出すイノベーション」についてディスカッション

中外製薬株式会社

2025年12月5日 13時00分

　中外製薬株式会社（本社：東京、代表取締役社長 CEO：奥田修）は、サイエンスとテクノロジーによるヘルスケアの未来をテーマに、共創によるイノベーション創発に焦点をあてたビジネスカンファレンス「CHUGAI INNOVATION DAY 2025」を11月27日（木）、28日（金）に「丸ビルホール＆コンファレンススクエア」にて開催しました。本イベントはヘルスケア領域のイノベーションやDXに関心のあるビジネスパーソン、学生を参加対象者とし、会場及びオンラインを合わせて、２日間で延べ3,674名の方にご参加いただきました。

特設サイトURL：https://digital.chugai-pharm.co.jp/

【開催概要】

■　イベント名：CHUGAI INNOVATION DAY 2025

■　日時：Day 1／2025年11月27日（木）10:30～18:45

　　　　　Day 2／2025年11月28日（金）10:30～18:45

■　開催形式：ハイブリット開催（事前申込／参加無料）

■　会場：丸ビルホール＆コンファレンススクエア

■　特設サイト：https://digital.chugai-pharm.co.jp/

　　※中外製薬のサイトに遷移します。　

■　主催：中外製薬株式会社

　11月28日のDAY2【サイエンスｘテクノロジーの可能性】では、サイエンスとテクノロジーが融合することで形作られる未来の健康・医療の姿を様々な角度から探求し、最先端の分野で活躍する専門家による議論を通じて、急速に発展するテクノロジーが社会や私たちの価値観に与える影響を考察しました。製薬業界におけるDXの最新動向や、業界を超えた連携の実践例、さらには個別化医療を加速させるデジタル技術の展望などを共有して、次世代のヘルスケアを「共創」するきっかけを探る一日になりました。

本レポートでは、DAY2の各Sessionにおける登壇者の解説・コメントを紹介します。

・本レポートは、中外製薬および講演者が所属する企業・組織の計画、戦略、業績の見通しなど、将来の見通しに関する情報を含んでいます。実際の業績は様々なリスクや不確定な事柄により、これら見通しとは大きく異なる結果となることがあります。

・本レポートは、医薬品・医療機器（開発品を含む）に関する情報が含まれていますが、それらは宣伝・広告や医学的なアドバイスを目的とするものではありません。

11 月 28 日 DAY2 【サイエンス×テクノロジーの可能性】

【Session 1】　サイエンス×テクノロジーで創る、ヘルスケアの未来

基調講演テーマ：忘れられた感覚・嗅覚が脳にもたらす力

・東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻教授竹内春樹氏

　嗅覚は歴史的に、主観的で動物的な感覚として軽視されてきました。しかし実際には、ヒトの全遺伝子約2万のうち約2％が匂いを受容する嗅覚受容体遺伝子であり、その多さは嗅覚の生存上の重要性を示しています。当研究室では、この「意識の外にある感覚」が脳や心身に及ぼす影響を科学的に解明することを目指しています。本講演では、認知症において特定の香りが神経変性の進行を抑え、認知機能を改善する可能性について、研究成果を交えて紹介しました。

基調講演テーマ：世界最速義足アスリートのためのものづくり

・ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー株式会社Xiborg 代表取締役遠藤謙氏

　近年、パラリンピックなどで義足アスリートの活躍が目覚ましく、健常アスリートに迫る記録が生まれています。一方で、義足が高価であること、技術者や練習環境の不足などにより、障害者がスポーツを楽しむハードルは依然高くなっています。本講演では、トップアスリート向けの「Blade for the One」と、スポーツ用義足の民主化を目指す「Blade for All」の二本柱からなるBlade forプロジェクトを紹介し、ものづくりを通じた包括的社会の実現に向けた可能性を示しました。

基調講演テーマ：社会課題解決に挑むマルチモーダルAI

・慶應義塾大学理工学部教授慶應AIセンターセンター長杉浦孔明氏

　大規模言語モデルを始めとするAI技術は、広告・金融・製造業・ヘルスケア・エンターテイメント・教育など幅広い分野に変革をもたらし、その影響範囲は広がり続けています。最近の画像・音声・動画を扱うマルチモーダルAIの発展により、自動運転やロボットへの応用であるPhysical AIや、科学・医学のためのAIなどの分野において、社会的インパクトが期待されています。本講演では、マルチモーダルAIの基礎、Physical AIへの応用、科学・医学におけるAIの利活用事例に関する慶應AIセンターにおける取り組みと展望について述べました。

パネラー（右から）：

・東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻

　教授　竹内春樹氏

・ソニーコンピュータサイエンス研究所

　シニアリサーチャー

　株式会社Xiborg　代表取締役遠藤謙氏

・慶應義塾大学理工学部教授慶應AIセンター

　センター長　杉浦孔明氏

モデレーター（左端）：

中外製薬株式会社参与デジタルトランスフォーメーションユニット長鈴木貴雄

【Session 2】　異分野融合が拓く DXの最前線

基調講演テーマ：SHIONOGIのDXにおけるオープンイノベーション

・塩野義製薬株式会社執行役員 DX推進本部長三春洋介氏

　SHIONOGIは、新たなプラットフォームでヘルスケアの未来を創り出すことを目指しており、その実現にはデジタル分野でのオープンイノベーションが欠かせません。製薬とテックの協働には、規模や文化、意思決定のスピードなど多様な違いが存在します。だからこそ「オープンかつフェア」であることを重視しています。本講演では、その理念に基づき、いくつかの実際の取り組み事例をご紹介しました。

基調講演テーマ：小野薬品の共創活動の中から

・小野薬品工業株式会社執行役員デジタルテクノロジー本部長三戸仁氏

　これまで小野薬品では、プロスタグランジン、ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体と、オープンイノベーションで新薬を生み出してきました。現在の創薬活動、本日紹介した新規事業や人材育成の活動も引き続き重要視しており、ベンチャーへの出向、提案、投資、共創活動等を行っています。特にベンチャー出向では、帰任後にスピード感の違いを口にする社員が多く、彼らの発言と行動が周囲に好影響をもたらしています。オープンイノベーションの前提はWin-Winが成立している事にあり、自社視点だけでなく相手側の視点を持てるかが重要であり、不十分ではありますが、今後もそのような視点を持った社員を育てていきたいという考えを、本日講演で紹介しました。

基調講演テーマ：他業種とのコラボレーション事例ご紹介～Maas～

・アストラゼネカ株式会社カスタマーエキスペリエンス＆IT本部 Director 大河原美佐紀氏

　本講演では、アストラゼネカが取り組む異業種（自動車業界）とのコラボレーション事例として、トヨタ紡織株式会社と進める「モビリティ×ヘルスケア」の検討をご紹介しました。車内外のセンサーや気象データ、バイタル情報を活用し、快適かつ安全な移動空間の提供を目指す取り組みです。大阪・関西万博で展示されたコンセプトカー「MOOX」では、最先端のウエルネス体験が提案され、移動時間を健康増進に活用する未来のモビリティの可能性が示されました。疾患の早期発見・早期治療介入に寄与する新たなテクノロジーや、異業種の融合による新たな価値創出を通し、社会課題解決に向けてヘルスケア業界全体で目指していくことに言及しました。

基調講演テーマ：異業種連携で取り組む臨床開発プロセス変革

・中外製薬株式会社臨床開発本部長水井啓広

　医薬品開発では、創薬から承認取得に至るまでの間に、成功確率の低さ、多大な投資、長期にわたる開発期間など、多くの課題があります。これらを克服し、社会課題の解決に貢献するため、多くの製薬企業で生成AIの活用が活発化しています。本講演では、異分野連携とデジタル技術の活用によって臨床開発プロセスを変革する取り組みを紹介しました。中外製薬とソフトバンクの強みを融合させたマルチAIエージェントの開発事例を説明し、異分野パートナーとの共創により医薬品開発の生産性向上を図り、革新的な医薬品を必要とする人々に一日でも早く届けたいという考えを述べました。

パネラー（右から）：

・塩野義製薬株式会社執行役員 DX推進本部長

　三春洋介氏

・小野薬品工業株式会社執行役員

　デジタルテクノロジー本部長三戸仁氏

・アストラゼネカ株式会社

　カスタマーエキスペリエンス＆IT本部

　Director 大河原美佐紀氏

・中外製薬株式会社臨床開発本部長水井啓広

モデレーター（左端）：

中外製薬株式会社デジタルトランスフォーメーションユニットデジタルソリューション部長小原圭介

【Session 3】　個別化医療の可能性を広げるDX

基調講演テーマ：中外製薬が取り組むPHCソリューションとは

・中外製薬株式会社 PHCソリューションユニットPHCソリューション推進部

　プロジェクトストラテジーリーダー釘本貴宣

　中外製薬は、患者一人ひとりの多様なニーズに応える個別化医療（PHC: Personalized Healthcare）ソリューションの開発に取り組んでいます。PHCソリューションとは、病態や治療効果を精緻に診断・測定し、個々の患者に最適な治療を可能にするプログラム医療機器やバイオマーカーなどの製品・サービスです。医療DXの進展、遠隔医療の普及、AI技術の活用といった環境変化を背景に、中外製薬は創薬力と医療専門知識を活かし、多様な技術やデータを組み合わせたソリューション創出を目指しています。本講演では、本邦における病理診断の課題に対応するAI活用の病理診断支援プログラム医療機器の開発事例を紹介しました。

基調講演テーマ：予測・予防・個別化を加速する次世代ヘルスケア基盤技術

　　　　　　　　～異業種共創で進化する特化型AI×汎用デバイス×デジタルバイオマーカー～

・株式会社ExaMD 代表取締役社長羽間康至氏

　今回は、「予測・予防・個別化を加速する次世代ヘルスケア基盤技術」について講演しました。AIを用いた社会課題解決をミッションに掲げ、社会保障費拡大や医療従事者の負荷増大といった課題に対し、「予防」と「早期発見」を推進する重要性を強調。同社は、特化型AIと汎用デバイス（スマホ・タブレット）を組み合わせたデジタルバイオマーカー技術で成果を上げています。具体的には、国内初となる医療用AI歩行分析アプリや、優先審査品目に指定された認知症診断支援プログラム（音声AI）などのSaMD開発実績を紹介。今後は、これらの医療市場で培ったケイパビリティを活かし、異業種共創を通じて予防から治療までを網羅するデータ駆動型ヘルスケアサービスを構築していく戦略を示しました。

基調講演テーマ：ウェアラブルデバイスによるフレイル評価：最新の研究知見と今後の展望

・国立研究開発法人国立長寿医療研究センター

　研究所老年学・社会科学研究センターフレイル研究部

　副部長大須賀洋祐氏

　ウェアラブルデバイスなどから得られるデジタルバイオマーカーは、日常生活下の生体情報をリアルタイムかつ継続的に取得できるため、疾患の早期診断や個別化医療、治療効果のモニタリング、遠隔医療などへの応用が期待されています。近年、Neuroscience Research Australia（豪国）は、手首装着型ウェアラブルデバイスの加速度信号から、歩行速度・量・質や歩行中の腕の動きなどを評価するデジタル歩行バイオマーカーを抽出するアルゴリズムを開発しました。本講演では、国際共同研究として実施した最新の研究成果（デジタル歩行バイオマーカーによるフレイルの判定、健康予後の予測、介入への反応性）を紹介するとともに、社会実装を見据えた今後の展望について私見を述べました。