「新潟県糸魚川市脳卒中啓発キャンペーン」の取り組みが医学雑誌Cureusに掲載されることになりました
コロナ禍であっても小中学校を通じたオンライン教育で脳卒中の啓発に成功
新潟県の糸魚川総合病院 脳神経外科、糸魚川市 健康増進課、同 こども教育課、同 消防本部、新潟県立中央病院 脳神経外科の研究チームは、「コロナ禍における小中学校を通じた脳卒中に関するe-learning」を糸魚川脳卒中啓発キャンペーンと題して世界で初めて行いました。コロナ禍で対面授業や課外実習を行うことが難しい中、小中学校を通じてオンライン動画やクイズによるe-learning教材を配布し、こどもと保護者に取り組んでもらった結果、学習2ヶ月後の脳卒中の初期対応に関する理解度は44.1-51.7%から78.5-93.8%まで上昇しました。
本研究は医学雑誌Cureusに掲載されることが2023年4月10日に決定しました。
本研究は医学雑誌Cureusに掲載されることが2023年4月10日に決定しました。
(説明)
【背景】脳出血や脳梗塞といった「脳卒中」は、急いで処置をしないと寝たきりになってしまう可能性が高い、時間との戦いの病気です。しかし、「寝ていれば治ると思った」「周りの目が恥ずかしいから救急車を呼ぶのを控えた」といった、不合理な受診行動により、発見後すぐに救急車を呼んで受診すれば助かったかもしれない患者さんが寝たきりになってしまうという現状が、日本各地で続いています。
脳卒中の疑いがあれば、すぐに病院に来てほしいという願いを込めた標語に、FAST(ファスト)というものがあります。脳卒中で起こる典型的な3つの症状の頭文字(F=Face 顔の麻痺, A=Arm 片側の麻痺, S=Speech ろれつが回らない、言葉が出てこない)と、発症時刻(T=Time)を組み合わせた言葉です。かお、うで、ことば、のうち、1つでも突然症状が出た場合は、急いで救急車を呼びましょう、という標語です。(図)
この標語を糸魚川市全体に広く伝えるべく、糸魚川市内の小中学校にFASTを題材にした漫画を配布したり、動画やクイズといったe-learning教材を配布し、ご家庭でこどもと保護者に一緒になって取り組んでもらいました。こどもと保護者が一緒に取り組むことで、その啓発効果を家庭全体や地域全体に広げることを目的とし、その啓発効果を調べました。啓発教材は、過去に対面で同様の手法が行われた、国立循環器病研究センター開発の教材を、オンラインで取り組めるようにアレンジして使わせていただきました。(https://fast.stroke-ncvc.jp/index.html)
【方法】2021年8月に糸魚川市内の小中学校を通じてFAST に関するオンライン教材を配布し、こどもと保護者にご家庭で一緒に取り組んでもらいました。同年10月に、FASTに関する知識の定着をオンラインアンケートで確認しました。また啓発前である2020年の1年間と啓発後である2022年の1年間の脳卒中患者の、発症3ヶ月後生活自立度の割合を調べました。
【結果】全家庭に資料を配布した所、およそ10%の保護者および生徒に取り組んでもらえました。学習2ヶ月後の脳卒中の初期対応に関する理解度は44.1-51.7%から78.5-93.8%まで上昇しました。啓発活動との直接的な因果関係はわかりませんが、発症3ヶ月後に生活が自立していた患者さんの割合は啓発前40%から啓発後54%まで上昇しました。
【今後の展望】 医師や看護師が学校などに出向いて直接教育しなくても、オンライン教材を配布することで、コロナ禍であっても効率的に脳卒中の啓発を行うことができました。オンライン教材を利用した啓発活動は世界で初めての試みであり、不合理な受診行動を減らすためにも、今後世界中で脳卒中啓発が行われることが期待されます。
(論文情報)
論文名 School-Based Stroke Education Through On-Demand E-learning During Coronavirus Disease 2019 Pandemic: Itoigawa Stroke Awareness Campaign
著者 Masahito Katsuki, Junko Kawahara, Hiroyuki Senda, Chinami Yamagishi, Satoshi Mizusawa, Yasuhide Ueki, Shin Kawamura, Kenta Kashiwagi, Akihito Koh, Rie Hashiba, Atsuko Ono, Yuki Watabe, Kazuhiro Ando, Bumpei Kikuchi, Shinya Yamashita, Fuminori Yamagishi
掲載誌 Cureus https://www.cureus.com/articles/149026
DOI 10.7759/cureus.37380
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