第2回 日本人の環境危機意識調査 コロナ流行後、半数近くが「環境問題に前向きな意識や行動」を継続

危機的な問題1位は「気候変動」、環境先進国1位は「日本」、日本のSDGs、2030年の予想達成度1位は「安全な水とトイレ」、最下位は「ジェンダー平等」

公益財団法人旭硝子財団

公益財団法人旭硝子財団(理事長 島村琢哉、所在地 東京都千代田区)は、全国各地10~60代の男女1,092名(Z世代:18~24歳 520名、大人世代:25~69歳 572名)に対し、環境問題への危機意識および行動について把握するため、「第2回日本人の環境危機意識調査」を行いました。本調査は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科蟹江憲史(かにえのりちか)教授監修のもと、インターネットにて実施しました。
調査では、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の流行後には、昨年に引き続き環境問題への意識や行動において半数近くに前向きな変化が見られました。日本国内の危機的な環境問題は、昨年に引き続き1位「気候変動」となり記録的豪雨や猛暑に対する危機感が浮き彫りになりました。また、環境問題の意識や行動が進んでいると思う国は昨年に引き続き1位「日本」で、自国の環境への取り組みに対して継続して前向きなイメージを持っていることがわかりました。2030年における日本のSDGs達成度として最も高いと思うのは「安全な水とトイレ」と衛生面への評価が高く、最も低いのは「ジェンダー平等」と男女格差への問題意識が見られました。主な調査結果は以下のとおりです。

◆新型コロナ流行後、半数近くが食品ロス削減や省エネなど環境問題への意識や行動に前向きな変化。
一方、電力量やごみの量は在宅ワークや自粛生活の影響か昨年よりやや増加傾向に。

◆日本国内の環境問題で危機的だと思う項目、昨年に引き続き1位は「気候変動」で記録的豪雨や猛暑を懸念。2位に「社会、経済と環境、政策、施策」が浮上し、経済や政策への関心が高まる。

◆環境問題の意識や行動が進んでいると思う国は、昨年に引き続き1位「日本」、2位「スウェーデン」。
3位、Z世代は「韓国」、大人世代は「ドイツ」と世代間でギャップあり。

◆日本のSDGsの取り組み、一般生活者・有識者ともに、2030年における達成度が最も高いと思う目標は「安全な水とトイレを世界中に」。一方、達成度が最も低いと思う目標は「ジェンダー平等を実現しよう」と、男女格差の問題が浮き彫りに。

◆環境危機意識を時刻(0:01~12:00の範囲)に例えると、「6時35分」で「かなり不安」を感じている。
世代別では、Z世代「6時16分」、大人世代「6時51分」と大人世代の方がより不安を感じている。
日本の有識者の回答「9時36分」の「極めて不安」とは3時間程度の差はあるが、いずれも危機意識は高い。


※本リリースは当財団 HP(https://www.af-info.or.jp)でもご覧いただけます。


<調査概要>
・調査目的 :日本国内の一般生活者の環境問題に対する意識や行動の実態を把握する
・調査対象 :1,092名 (18~24歳男女520名、25~69歳男女572名)
・調査地域 :全国
・調査方法 :インターネットリサーチ
・調査時期 :2021年8月4日(水)
・有効回答数:1,092サンプル
・調査主体 :公益財団法人 旭硝子財団

<調査詳細>
◆新型コロナ流行後、半数近くが食品ロス削減や省エネなど環境問題への意識や行動に前向きな変化。
一方、電力量やごみの量は在宅ワークや自粛生活の影響か昨年よりやや増加傾向に。

Q1. 2020年1月以降から現在に至るまで、新型コロナはわたしたちの日常生活や自然環境に大きく影響を及ぼしています。新型コロナ流行以前の生活と比較して、あなたの生活における環境問題への意識や行動について変化はありましたか?(複数回答)
• 新型コロナ流行後の環境問題への意識や行動の変化で、何かしらの「変化があった」(64.9%)、特に「変化がなかった」(35.1%)となり、「変化があった」の回答のうち何かしら環境問題の解決に向けての前向きな意識や行動の変化があったのは半数近く(45.2%)で、昨年の結果(43.0%)とほぼ同じ傾向が見られました。

 

• 最も多かった変化は「使用する電力量が増えた」(28.6%)、次いで「家庭ごみの量が増えた」(26.1%)で、昨年よりやや多い結果となり、在宅ワークや外出自粛などの影響のためか自宅で過ごす時間が増加傾向にあると考えられます。

 

 

◆日本国内の環境問題で危機的だと思う項目、昨年に引き続き1位は「気候変動」で記録的豪雨や猛暑を懸念。2位に「社会、経済と環境、政策、施策」が浮上し、経済や政策への関心が高まる。
Q2.あなたが日本国内における環境問題を考える上で、以下の表より危機的な状態にあると考える項目(※)を
3つ選んで、1位~3位の順位付けをしてください。また、その理由を具体的に記載ください。
※項目は、旭硝子財団が実施している日本の環境問題に携わる有識者を対象とした「環境危機時計®」
の調査と同内容のものを使用しています
• 日本国内における環境問題において、危機的な状態にあると考える項目として最も多かったのは、「気候変動」(44.6%)、次いで「社会、経済と環境、政策、施策」(14.0%)、「環境汚染」(11.5%)の順となりました。
• 「気候変動」の理由として、昨年に引き続き夏の猛暑や記録的豪雨の影響について「幼い頃より暑くなっている」「命にかかわり生活が脅かされている」など、気候の変化を肌で感じている回答が多く見られました。
• 「社会、経済と環境、政策、施策」の理由として、ニュースなどで触れる機会も多くなったためか「コロナ禍での経済と感染防止の両立」や「コロナ禍の影響による貧困への対策」などに問題意識を抱く回答が多く寄せられました。
• 「環境汚染」の理由として、「地球上の生物の変化による人間への影響」や「海洋汚染」などへ関心が寄せられ、感染症が環境問題として認識され始め、また近年のSDGsの取り組みに関するニュースなどで地球全体の汚染を懸念する回答が見られました。

※1位の回答のみを集計(2~3位を必須回答としなかったため)※1位の回答のみを集計(2~3位を必須回答としなかったため)


◆環境問題の意識や行動が進んでいると思う国は、昨年に引き続き1位「日本」、2位「スウェーデン」。
3位、Z世代は「韓国」、大人世代は「ドイツ」と世代間でギャップあり。

Q3.環境問題への取り組みについて、国民の意識や行動において進んでいるイメージがある国を、国の
リスト(※)より3つ挙げて、1位~3位の順位付けをしてください。また、その理由を具体的に記載ください。
※国のリストは、国連が定める持続可能な開発目標の達成度を国別にランキングにした「2021年版SDGsインデックス&ダッシュボード」上位50位を抜粋しています
• 環境問題について国民の意識や行動が進んでいると思う国は、昨年に引き続き全体で1位日本、2位スウェーデンとなり、継続して自国に対して意識や行動が最も進んでいるイメージを抱いていることがわかりました。
• 1位に日本を選んだ理由として、「レジ袋が有料になった」「企業で環境問題やSDGsに取り組んでいる」などの回答が寄せられ、昨年のレジ袋有料化によるマイバッグ持参などの定着や企業の取り組みの拡がりが影響していると見られます。
• 大人世代は全体での順位と同じく3位ドイツでしたが、Z世代では3位韓国となり、「ステンレスの箸を使っていてエコのイメージがある」など、近年の韓流ドラマやアイドルブームの影響で関心が高まっているためか世代間でのちがいが見られました。

※1位の回答のみを集計(2~3位を必須回答としなかったため)※1位の回答のみを集計(2~3位を必須回答としなかったため)


◆日本のSDGsの取り組み、一般生活者・有識者ともに、2030年において達成度が最も高いと思う目標は「安全な水とトイレを世界中に」。一方、達成度が最も低いと思う目標は「ジェンダー平等を実現しよう」と、男女格差の問題が浮き彫りに。
Q4.日本国内において、17項目あるSDGsの中で2030年に達成度が高い(あるいは低い)と思うものを3つ選んで高いものから順に1位~3位の順位付けをし、目標の番号でお答えください。
※同じくらいの達成度だと考える場合は、より達成が早い(あるいは遅い)と考えられる目標をお答えください。
※SDGs(Sustainable Development Goals;持続可能な開発目標)とは、2015年9月の国連サミット で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。
• SDGsの目標のうち2030年において達成度が高いと思うものは、全体で1位「安全な水とトイレを世界中に」となり、日本の衛生面への評価が最も高い結果となりました。
• Z世代では2位「貧困をなくそう」、同数で「ジェンダー平等を実現しよう」となり、大人世代の2位「飢餓をゼロに」、3位「すべての人に健康と福祉を」と意識の差異が見られました。
• 有識者を対象とした旭硝子財団による本年のアンケート調査結果で、日本の有識者※2が、2030年において達成度が高いと思うものは、1位「安全な水とトイレを世界中に」となり、一般生活者と同様の結果となりました。

•   SDGsの目標のうち2030年において達成度が低いと思うものは、全体で1位「ジェンダー平等を実現しよう」となり、日本の男女格差への問題意識が浮き彫りになりました。
•   また、Z世代では1位「ジェンダー平等を実現しよう」である一方、大人世代では1位「貧困をなくそう」に関心が高まり、意識の差異が見られました。
•   有識者を対象とした旭硝子財団による本年のアンケート調査結果で、日本の有識者が、2030年において達成度が低いと思うものは、1位「ジェンダー平等を実現しよう」となり、一般生活者と同様の結果となりました。


◆環境危機意識を時刻(0:01~12:00の範囲)に例えると、「6時35分」で「かなり不安」を感じている。
世代別では、Z世代「6時16分」、大人世代「6時51分」と大人世代の方がより不安を感じている。
日本の有識者の回答「9時36分」の「極めて不安」とは3時間程度の差はあるが、いずれも危機意識は高い。

Q5.以下の図は、環境問題の意識を時計の針に例えた「環境危機時計®」とよばれるものです。あなたの日本国内における環境問題への危機意識を時計の針に例えて0:01 ~ 12:00の範囲で○○時○○分と答えてください。(※時刻は便宜上、10分単位で記入)
• 環境問題への危機意識を時刻に例えると、全体として平均で「6時35分」となり、「かなり不安」という結果になりました。世代別では、Z世代は「6時16分」、大人世代は「6時51分」で大人世代の方がより危機を感じているものの、いずれも「かなり不安」という結果でした。
• 環境問題の有識者を対象とした旭硝子財団の本年のアンケート調査結果によると、日本の有識者(※1)が示した「環境危機時計®」(※2)の時刻は「9時36分」で「極めて不安」と回答しており、一般生活者との意識には、3時間程度の差があることがわかりました。
• 昨年の時刻は、全体が「6時44分」、Z世代が「6時20分」、大人世代が「7時5分」と、環境問題への関心が低下したためか、全体的に危機感がやや和らいだ傾向となりました。
※1  日本の政府・⾃治体、NGO/NPO、⼤学・研究機関、企業、マス・メディアなどで環境問題に携わる有識者
(旭硝⼦財団保有データベースに基づく)
※2  旭硝子財団が1992 年より実施している「地球環境問題と⼈類の存続に関するアンケート」の調査を元に地球
環境悪化に伴う危機感を時計の針で表示したもの

 

 


※注釈:時刻計算方法の訂正
昨年の時刻は、全体平均を「6時40分」、Z世代を「6時20分」、大人世代を「7時0分」と発表しましたが、
より正確に時刻を表示するため、今年より分数を10分単位ではなく1分単位で計算しています。
その結果、昨年の結果を下記のように訂正させていただきます。



<本調査に対する監修者の見解>
新型コロナウィルスの影響が長引く中で昨年に引き続き行われた今回の調査では、まず「社会、経済と環境、政策、施策」への危機感が強くなっていることが目に留まりました。国による対策の違いや、感染度の違いが明らかになる中で、政策への関心が高くなっていることや、経済との関連が関心事項になっていることが良く表れているように思います。政策や政治への無関心が長らく問題となっている日本社会において、コロナ禍が機会となり、本当の意味での民主主義が実現されていく期待を持たせてくれるように思います。

SDGsの達成度においても、新型コロナウィルスへの関心が反映されているように思います。感染症対策の基本である水や衛生の状況が日本では良いという認識が高くなっています。また、貧困をなくすことが達成度が低い目標として挙げられているのも、コロナ禍の影響を反映しているように思います。過去一年でも様々な問題が浮き彫りになり、国際的にも大きく後れを取っているジェンダー平等も、やはり達成度の低い目標の筆頭にあげられました。課題認識が一般でも有識者でも一致している今は、大きく変革をするチャンスだと言えるように思います。

Z世代の問題意識の高まりは、大学で学生と触れることの多い私も感じているところでしたが、その印象に比べると、Z世代の環境危機時計は思ったよりも進んでいないという印象です。Z世代と一言で言っても、まだまだ世代全体として意識が高まり、ムーブメントに結びついてはいないという事でしょう。日本において、Z世代における環境意識の高まりが、一部の人たちだけでなく世代のあらゆる人に広がりを持つには、もう少し時間が必要なのかもしれません。

多くの人にコロナ禍は行動変化をもたらしたと言えますが、それが必ずしも環境保全行動には結びついていないようです。危機意識の高まりと行動変容は表裏一体だと思います。専門家と一般の危機意識の開きを見ると、コロナ禍への危機感同様に、専門家は、環境危機に対する危機感を醸成していく努力をより一層行う必要があるように思います。

 <監修者プロフィール>

蟹江 憲史 (かにえ のりちか) 

 

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表
国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)非常勤教授

 

北九州市立大学講師、助教授、東京工業大学大学院准教授を経て現職。日本政府SDGs推進円卓会議構成員、内閣府地方創生推進事務局自治体SDGs推進のための有識者会議委員など、国際的、国内的にSDGsや環境問題を中心に多方面で活躍中。Earth Commission委員を務め、また2023年Global Sustainable Development Report執筆の15人の独立科学者の一人に国連事務総長から選出されている。

専門は国際関係論、サステナビリティ学、地球システム・ガバナンス。主な近著に「SDGs(持続可能な開発目標)」(中央公論新社、2020)、
Governing through Goals: Sustainable Development Goals as Governance
Innovation (MIT Press、 2017、共編著)などがある。博士(政策・メディア)。

 

 
 

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