3次元細胞培養容器「ミコセル」を変形性膝関節症に対する臨床研究へ提供開始
株式会社日本触媒(本社:大阪市中央区、社長:五嶋祐治朗)は、開発した3次元細胞培養容器 「ミコセル®」を、医療法人再生会 そばじまクリニック(所在地:大阪府東大阪市、院長:傍島 聰)で開始する脂肪幹細胞凝集塊による臨床研究に提供いたします。ミコセルとは、日本触媒が独自技術により開発した3次元細胞培養容器で、粒子径が揃い生体内での状態に近い細胞凝集塊を多量に作製できることを特徴とします。本臨床研究は、患者自身の脂肪由来幹細胞を用いた変形性関節症に対する臨床研究で、そばじまクリニックが「再生医療等の安全性確保等に関する法律」において求められる「第2種再生医療等計画」を再生医療等委員会へ申請し2020年6月10日に承認されました。
ミコセルは、培養基材表面に細胞が適度に接着する非生物由来の材料で作られており、粒子径の揃った細胞凝集塊を多量に作製できることが特徴です。細胞凝集塊では、従来の2次元で培養された細胞とは異なり、体内の状態に近い細胞が得られることが知られており、細胞凝集塊の作製技術は近年注目されています。
現在、主に市販されている細胞凝集塊形成を目的とした培養容器は、容器内部に細胞接着性の低い処理を施したものが一般的で、得られる細胞凝集塊は基材との相互作用をしない状態(浮遊状態)となっています。これに対して、日本触媒が開発したミコセルは培養基材表面に細胞が適度に接着した細胞凝集塊が形成するため、他の培養容器で形成される浮遊の細胞凝集塊にはない更なる高機能化と、投与疾患部で有効に働く効果が期待されております(図1)。また、ミコセルで作製した細胞凝集塊は、今回の臨床研究開始にあたり、2次元で培養された細胞や他の3次元培養容器で作製した浮遊の細胞凝集塊と比較して高い機能および安全性を有していることを非臨床で確認しております。
さらに、ミコセルは次の3つの特徴も持ちます。(1)培養時の培地交換が容易で操作性に優れます。(2)容器内部に設置した区画分けにより、均一な大きさの細胞凝集塊が多量に形成します。(3)細胞凝集塊の形成後に、容器から剥離するための薬剤を用いることなく、凝集塊の剥離・回収ができます。これら特徴により、効率的な細胞凝集塊の作製を実現します(写真1および2)。
本臨床研究の対象である変形性膝関節症(OA)は、膝の軟骨がすり減ったり、失ったりしたために膝の形が変形し、痛みや腫れをきたす疾患を指します(図2)。国内患者数は約1000万人、自覚症状はないがX線診断により症状が確認される潜在患者数は更に約3300万人いるといわれている病気で、主な原因は加齢によるものであり、高齢化の中、患者数は年々増加しています※。
その治療法としては、痛み止めの投薬や関節内注射ではヒアルロン酸注射等があり、重篤患者には人工関節置換術が行われておりますが、手術を伴う処置となり、特に高齢者に対する手術入院を伴わない低侵襲な治療法が切望されておりました。そばじまクリニックにおける本臨床研究は、患者自身の脂肪から得た幹細胞をミコセルで細胞凝集塊とし、関節内注射投与を行います(図3)。これにより、脂肪採取時、投与時共に入院することなく日帰りでの処置が可能となります。
今回のそばじまクリニックにおける臨床研究において、ミコセルを用いて作製した細胞凝集塊を投与し細胞凝集塊の安全性が実証されることにより、細胞凝集塊を用いた治療の実用化にならびに再生医療の更なる発展に向けて大きく貢献ができると考えております。
用語の説明
・再生医療
怪我や病気で臓器や組織が本来有する機能が失われたとき、細胞や人工的な材料を利用して失われた機能の再生をはかる医療を指す。
・幹細胞
自己複製能力と様々な細胞に分化する能力を併せ持つ細胞を指す。体内にも存在しているが、特に脂肪由来の幹細胞は採取のしやすさ、増殖及び分化能力が高いために再生医療分野での利用が期待されている。
・細胞凝集塊(スフェロイド)
細胞同士が3次元的に凝集して塊状になったものを指す。スフェロイドとも呼ぶ。従来の2次元細胞に比べて、体内での状態に近い細胞挙動を示すことが明らかとなってきており、再生医療や創薬分野での応用が期待されている。
・変形性膝関節症
膝の軟骨がすり減ったり、失ったりしたために膝の形が変形し痛みや腫れをきたす疾患。英語で“Osteoarthritis”といい、その頭文字から「OA(オーエー)」と略して記載することもある。
・臨床研究とは
医療における疾病の予防方法、診断方法及び治療方法の改善、疾病原因及び病態の理解並びに患者の生活の質の向上を目的として実施される医学系研究であって、人を対象とするものをいう。なお、本件の場合の再生医療では再生医療等安全性確保法に基づいた手続きを行う。
※厚生労働省老健局介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会 「介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について報告書 平成20年7月1日」より
以上
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