【声明】刑法性犯罪規定改正法案に対する声明
2023年3月14日に国会に提出された「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案」について、現在の改正法案の到達点と課題について見解を表明します。
2023年3月14日、刑法性犯罪規定に関し、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下、改正法案)が国会に提出された。ヒューマンライツ・ナウは、他の市民団体と共に、幅広い世論の支持を得て、国際水準の性犯罪規定の導入を求めて活動を続けてきた立場から、現在の改正法案の到達点と課題について見解を表明する。
2023年4月5日
認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ
刑法性犯罪規定改正法案に対する声明
2023年3月14日、刑法性犯罪規定に関し、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下、改正法案)が国会に提出された。ヒューマンライツ・ナウは、他の市民団体と共に、幅広い世論の支持を得て、国際水準の性犯罪規定の導入を求めて活動を続けてきた立場から、現在の改正法案の到達点と課題について見解を表明する。
1 改正法案の到達点 ~①不同意性交等罪の導入、②性交同意年齢の引き上げ、③地位関係性利用罪の創設という被害当事者の要望がどこまで達成されたのか~
① 不同意性交等罪について
改正法案では、刑法177条・178条について、いわゆる罪名である条見出し(柱書き)が「強制性交等」罪から「不同意性交等」罪へ変更された。これは不同意性交等罪の創設を求める幅広い世論と被害者の声を受け止めたものであり、国際水準の不同意性交等罪を日本において実現する第一歩として歓迎する。また、同意のない性交等が処罰対象になることが市民にとってわかりやすくなり、周知される効果が期待できる点でも、評価できる。
また、改正法案では、「同意しない意思」を構成要件の中心としている点は、一定の評価に値する。
加えて改正法案では、同意の有無を判断する基準として8つの行為が個別に例示されたことで、これまでの規定の仕方では判断者による判断のブレが生じるおそれがあったところ、統一的な運用を可能にすることにつながるものであり、一定の評価ができる。
以上のように、改正法案は、同意のない性行為の処罰を求め続けてきた被害当事者の声を反映する努力が伺え、上記のように評価できる点がある一方で、後述するとおり、国際水準の不同意性交等罪の創設をめざすという観点から見ると、現実の被害救済を前進させるためには、まだ多くの課題も残っている。
② 性交同意年齢の引き上げ
性交同意年齢が、相対的にとどまるにせよ、16歳未満となったことは評価する。
③ 地位関係性を利用する性犯罪
地位関係性を利用する性犯罪類型の導入は、独立した構成要件の創設が見送られた。改正法案には、後記のとおり、まだ解決すべき課題があり、評価できない。
2 課題
① 不同意性交等罪について
当団体は、性交等に同意しない意思を言葉や態度で相手が示しているにも関わらず、その同意しない意思を無視して性交等に及んだ場合には、暴行や脅迫などの行為(手段としての行為)を要求することなく処罰対象とする“No means no”型の不同意性交等罪の導入を求めてきた。しかしながら、改正法案の規定ぶりでは、相手の同意がない性的行為は犯罪になるという性暴力被害者の期待に沿うような運用が実現するのか、疑問が残る。
改正法案では「同意しない意思を形成し、表明し、若しくは全うすることが困難」という構成要件になっているが、これでは、「全うする」という意味があいまいであり、「困難」ということの判断が一義的ではなく、裁判官や司法関係者の個人的な価値観に左右されてしまい、同意のない性的行為を処罰する構成要件として十分に機能しないおそれがある。
特に、最初に被害申告を受ける警察や起訴権限を有する検察が、従来の実務に縛られずに、個別の例示事由の判断や、「全うする」、「困難」という構成要件の解釈を抜本的に転換しない限り、被害者を救済することができないことを懸念する。
② 性交同意年齢について
「16歳未満」という年齢は、本来絶対的処罰年齢であるべきである。にもかかわらず、処罰除外規定として、13歳以上16歳未満の者については、5歳差の年齢差要件が設けられたことで、「16歳未満」の意味があいまいとなったことは、被害者保護やわかりやすさの点から見て、問題である。
この除外規定によって、例えば、17歳の者が4歳年下の13歳の者に性的行為を行った場合、改正法案の不同意わいせつ・性交等罪の構成要件に該当しない限り、処罰に問えない構造となっている。性交同意年齢による処罰が絶対処罰であるべきことからすれば、除外規定を設けるにしても2歳差が適切である。
③ 地位関係性を利用する性犯罪
今回の改正法案が地位関係性に関して、これを個別例示事由の一つに規定するにとどまった点は問題である。特に、「不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」といった被害者の主観にかかる規定が付加されていることで、いかなる事情を行為者が認識していれば故意の認定に足りるのかが不明瞭なために、恣意的な運用につながる危険がある。さらに、「不利益を憂慮しているとは思わなかった」といった不合理な弁解を許すことにもなりかねない。
今回の改正法案は、地位関係性利用の実態に即した独立した規定としなかったことで、年齢を問わず幅広く生じている被害を適切に処罰することができなくなるという問題がある。
3 国会審議に向けての要請
以上の点を踏まえて私たちは以下のことを要請する。
(1) 不同意性交等に関する解釈の明確化
上記の懸念を踏まえ、国会の審議では、個別の例示事由と包括要件の解釈の明確化を図るべきである。性犯罪の処罰根拠の本質は被害者が同意していないにもかかわらず加害者が性的行為を行うことにあるのであって、このことが国会審議において確認される必要がある。特に下記の3点を明確にすべきである。
1)例示事由の「暴行」又は「脅迫」要件は、現行法の解釈とは異なり、有形力の行使であれば足りるとして、その程度を問わないこと
2)「困難」の要件は、現行法の「抗拒不能」とは異なり、「著しい」という程度は要求しないこと
3)「同意しない意思を全うすることが困難」という要件は、被害者が「嫌だ」「やめて」などの言葉や泣く・手を押さえるなど態度で示したにもかかわらず、なおも性的行為をやめない場合は、この要件に該当すること
(2) 見直し課題と期限を明確にした付則の制定
これまで当団体が改正を求めてきた上記の3項目には、未だに多くの課題がある。加えて、改正法案では、公訴時効の期間が短いことや代表者聴取の実施方法にも課題がある。そして、新設された16歳未満の者に対する面会要求等罪や盗撮罪等が適切に運用されるかも確認する必要がある。そのため、改正後の捜査や裁判実務を把握し、改正法案の目指す処罰が適切に行われているのかを検証する必要がある。
したがって、 積み残し課題が多くあることを国会審議を通じて共通認識にして、改正後の実態を把握して検証し、再改正の要否を検討するなど、見直しに関する付則を、期限を明記したうえで、設けるよう強く要請する。
以上
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