アジア太平洋にサプライチェーン拠点を持つビジネスリーダーの半数近くが今後3年のうちに製造能力の拡大を計画
7万人規模のサプライチェーンマネジメント(SCM)専門家を誇るシンガポール、新たな人材育成を開始
シンガポール経済開発庁(以下、EDB)は、本年7月、「SCM-Jobs Transformation Map Study」に関わる共同調査の結果を公開した。まず、コロナや地政学リスクなどの不確実性が高まっていることから、より俊敏で強靭な製造生産体制並びにサプライチェーン(以下、SC)の再構築、さらにはそこに関わる人材の職務や担当業務の再定義に、企業は大きな投資を行っていることが明らかになった。また、サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の新たな潮流である ① デジタル化、② 強靭化・俊敏化、③ グリーン化のニーズに対して、プランニング業務の改革・強化の必要性が高まっていることが、調査した有識者や企業担当者から指摘された。既に7万人規模のSCM専門家を誇るシンガポールは、いち早く新たな人材及びスキルの育成を開始することで、既にシンガポールに拠点を置くグローバル企業や今後アジア太平洋地域に進出を検討している外国企業のニーズに応えていく。
ASEANの成長に伴うハブ拠点の責務
近年、東南アジアは中間層を核に高い経済成長を遂げていることから、ボストン コンサルティング グループは、ASEANの製造業生産高が今後2030 年まで、2020 年の水準から毎年4,000億米ドルから6,000億米ドル増加すると推定している。ASEAN地域におけるシンガポールの立地の優位性に加え、このような試算から、グローバルなSCの拠点としてさらに多く、且つ複雑な役目を果たすことが求められることになる。
シンガポールは、既に今後「空港と港湾の能力を大幅に化する」ことを表明しており(https://www.edb.gov.sg/ja/newsroom/news-library/japan-singapore-global-logistics-supply-chains.html)、この点についてEDBのダミアン・チャン企画・政策担当副次官は、7月に開催された「SCM-Jobs Transformation Map Study」イベントにおいて、「世界との接続性を強化し、長年にわたる投資によってデジタルとデータのエコシステムを成長させてきたことにより、グローバル企業にとって信頼できるSCの拠点としての強固な基盤が築かれた。これにより、SCM能力を持つ地元企業に新たな門戸が開かれ、シンガポール以外の新興市場へのアクセスが容易になる」と述べている。
新たなSCMの潮流が求める人材とは
本年7月にEDBが公開した「SCM-Jobs Transformation Map Study」は、人材開発省(MOM)及び同省傘下の就職支援機関Workforce Singapore(WSG)やSkills Future Singapore(SSG)と共同で実施した調査である。27の事業内容に携わる180社の実務担当者と50名の有識者への聞き取りを中心に分析した結果、① ビッグデータ活用やインダストリー4.0などの「デジタル化」、② エンドツーエンド(E2E)のサプライチェーンの可視化をはじめとする「強靭化・俊敏化」、③ 調達や廃棄を含む全体のサステナビリティに配慮した「グリーン化」といった3つのニーズが急速に高まっていることが改めて強調された。
シンガポールには、現在7万人規模のSCM専門家を抱えているが、2025年までに、調査対象となった38種類のSCMの職務や担当業務のうち、およそ3分の1に相当する12の職務については、リスキリング(新たな職務に移行するスキルの習得)が必要になるとの見解が示された。
プランニング業務の改革・強化の重要性
また、近日公開予定の別の産業調査(グローバルリサーチ&アドバイザリ企業ガートナーと共同で実施)の速報値によれば、アジア太平洋にサプライチェーン拠点を持つビジネスリーダーの48%が今後3年間で東南アジアにおける製造能力の拡大を計画している。一方、回答者の49%が人材のスキルアップと再教育の必要性を指摘していることが判っている*。今後のプランニングについては、7月の調査で示された12の職務と符合する結果となった。具体的には、地域レベルでの需給計画の最適化と寸断リスクの管理、また調達においても単一の供給元への依存低減や、持続可能でESGに配慮したプランニングなどが求められている。
グローバル企業の進出により、シンガポールでは2025年までに、新たに700名の専門職、管理職、幹部職や技術職(PMET)のSCMの雇用が創出されるのだ。
*Gartner-EDB Survey on Trends in APAC Supply Chain Network
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いち早く新たな人材・スキル育成を開始
シンガポールでは、前述の ① デジタル化、② 強靭化・俊敏化、③ グリーン化といった新たなニーズに応えるSCM高度人材の需要の高まりに備えるため、以下のような新たな人材育成の取組を導入し、企業が地域の成長市場に対応するためのSCM能力を強化するための人材を提供する。
i. 試験的サプライチェーン・マスタークラス
ii. インダストリー・プラクティス・マスター(IPM)
iii. ロジスティクスとサプライチェーン・マネジメントの大学院ディプロマ
iv. デジタル・サプライチェーンにおけるSkillsFutureキャリア移行プログラム(SCTP)
v. ロジスティクス・サプライチェーンマネジメントのワークスタディ・ディプロマ
vi. サプライチェーンとロジスティクスの専門家とコーディネーターのためのキャリア転換プログラム(CCP)
vii. SCMスキルプラン(ワンストップ・リファレンス・ガイドの開発)
各取組の内容やSCM高度人材の現地雇用に関するご質問は、(clientservices@edbv.gov.sg) までお問い合わせください。
シンガポール経済開発庁(EDB)とは
EDBは1961年に設立された貿易産業省傘下の政府機関で、シンガポールの産業育成、投資誘致を担っています。「外資系企業誘致のワンストップセンター」として、海外20カ所以上に事務所を持ち、外国企業に投資先としてのシンガポールの情報を提供するだけでなく、世界の経済、技術、市場動向を把握することで、シンガポールで競争力を持ちえる産業や分野を育成するための経済戦略を立案しています。日本には、東京に事務所を構え、日本企業のシンガポール投資をサポートしています。
最新のビジネスニュースについては、EDBのニュースルーム(https://go.gov.sg/edb-jp-newsroom)をご覧ください。
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