ベートーヴェン生誕250周年記念オペラ『フィデリオ』上演 多数の大ヒット映画や舞台を手がける深作健太が演出 世界で活躍する指揮者ダン・エッティンガーが二期会と初タッグ

2020年9月3日(木)〜6日(日) 新国立劇場 オペラパレス 2020年4月11日(土) チケット一般発売

公益財団法人東京二期会

 公益財団法人東京二期会は、2020-2021シーズンの開幕として、9月3日から6日まで、新国立劇場オペラパレスにて、ベートーヴェン作曲オペラ『フィデリオ』を上演いたします。
 2020年は、音楽史上最も重要な作曲家の一人であり、「楽聖」と称されるベートーヴェンの生誕250周年にあたります。これを記念して、東京二期会は、ベートーヴェンが遺した唯一のオペラである『フィデリオ』を上演することといたしました。
 クラシック音楽界にとって最大級のメモリアル・イヤーですが、その意味は今や大きく変わりました。現在、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、世界中の人々が感染症の苦しみまたはその不安に直面し、自由を制限された生活を余儀なくされています。
 この時代の状況で、私たちのオペラ『フィデリオ』公演が、皆様に希望を提供するものになることを願っています。

©︎Fröhlingsdorf©︎Fröhlingsdorf

 
  • オペラ『フィデリオ』について

 オペラ『フィデリオ』は、不当な政治罪で牢獄に囚われた夫フロレスタンのため、妻のレオノーレが男性に変装し「フィデリオ」と名乗って刑務所に潜り込み、夫を救い出すという物語。フランス革命の興奮冷めやらぬ1805年のウィーンで初演され、その後も9年にわたり改訂を重ねたベートーヴェン渾身の作品です。「自由」「勝利」「博愛」「復活」「歓喜」のシンボルとして、第二次世界大戦後に再建されたウィーン国立歌劇場の杮落し公演など、特別な機会に上演されることも多く、世界中の人々に尊敬の念とともに親しまれてきています。

 今回、演出をつとめるは、映画監督で演出家の深作健太。オペラにも造詣が深く、東京二期会でR.シュトラウス『ダナエの愛』(2015)、ワーグナー『ローエングリン』(2018)に続いて、今回が3作目の演出です。作曲家の意図や思考を深く探求しながら、現代的なテーマを浮かび上がらせるのが深作演出の特徴のひとつ。今回の演出にあたっては、『フィデリオ』を「〈自由〉をめぐる人類と、牢獄=〈壁〉の闘いのオペラ」といい、グローバルな時代だからこそ重みを増しているベートーヴェンからのメッセージを現代に投げかけます。

 指揮は、シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、イスラエル歌劇場音楽監督のダン・エッティンガー。メトロポリタン歌劇場、ウィーン国立歌劇場、パリ・オペラ座、ロイヤル・オペラ・ハウスはじめ世界一流の歌劇場を席巻するマエストロが東京二期会公演に初登場いたします。桂冠指揮者を務める東京フィルハーモニー交響楽団とのタッグにもどうぞご期待ください。

 キャストには、フロレスタン福井敬、レオノーレ木下美穂子、ドン・フェルナンド黒田博はじめ、年末の「第九演奏会」のソリストとしてもおなじみのベートーヴェンのエキスパートが集結します。この特別な公演を担う東京二期会のキャストにぜひご注目ください。

 2020年、暗い〈壁〉を打ち破り、〈自由〉を獲得し、〈歓喜〉に至るオペラ『フィデリオ』の公演が皆様の希望となることを願っております。
 
  • 演出 深作健太コメント

――深作さんにとっての、ベートーヴェンの「原体験」を教えてください。

1989年、僕が高校一年生の時、ベルリンの壁が壊れました。その時、バーンスタイン指揮の記念コンサートの映像で「第九」を聴いたのが、最初のベートーヴェン体験です。それはもう衝撃的でした。歌詞のFreude (歓喜) を、あえてFreiheit (自由) に変えて歌っていて。冷戦が終わり、これからヨーロッパがひとつになる新しい時代が来るんだ、という実感と共に、二百年も前の時代にベートーヴェンさんが音楽に籠めた、壮大な〈自由〉への祈りに、全身が震えました。

――『フィデリオ』の演出を決められたときの心境を教えてください。

とても嬉しかったです!『フィデリオ』はベートーヴェンが遺した唯一のオペラ。それを生誕250周年の記念の年に、演出させていただけるなんて。だけど演出家としては、ものすごく難しい作品なんですよね。台本の構成がシンプルすぎて、そのまま演出したのでは、ベートーヴェンさんが当時、訴えたかったはずの、激しいまでの〈自由〉への渇望が、現代の観客には伝わらなくなってしまう。フランス革命当時の、女性が男性に化けて夫を救うという設定の、ジェンダーの問題しかり。国家権力と闘って、政治犯として監獄に囚われる事の意味も、現代とはかなり違う訳で……。そのあたりをどう演出するか、大きな挑戦が必要だと思います。

――最初にオペラ演出をされた『ダナエの愛』のときに、楽譜をとおして、作曲家リヒャルト・シュトラウスと、対話するということおっしゃっていました。『ローエングリン』のときは、ワーグナーが深作さんの夢枕に立たれたとか…今、『フィデリオ』からは作曲家のどのような言葉が聞こえてきているのでしょうか。

ベートーヴェンさんの時代に比べて、今の僕達は、平和で豊かですよね。だからこそ、聴こえてこない〈音〉ってあると思うんです。楽譜を読んでると、「おい。君達は今、本当に自由なのか?〈自由〉って何だ?」って、ベートーヴェンさんに問いただされている気がして(笑)。ひょっとしたら、まだあまり〈自由〉になれてないんじゃないかって思うんですよ。今年は、戦後75年の節目の年でもあるんですが、世界中で何千万人の死という大きな犠牲を経て、親達から受け継いだはずの〈自由〉の根底が今、大きく崩れ始めています。格差は開く一方だし、不安だから、弱い僕達はまた、せっかく壊したはずの〈壁〉を、国境にも、自分達の心にも、あちこちに建て始めている。それはとても後ろ向きで、哀しい事です。芸術は常に、他者を拒む〈壁〉ではなく、他者を繋ぐ〈橋〉にならなくてはなりません。ベートーヴェンさんの音楽に響く情熱を、いかに〈国境〉を越えて次の世代に伝えるか。とても大切な責任だと思っています。

――今回の『フィデリオ』は、どのような公演にされたいですか。お客様にむけたメッセージをお願いいたします。

今は危険なウイルスが蔓延して、チケットをお求めになるお客様も、御自身の健康や公演の成否など、とても不安な時かと思います。だからこそ、このメッセージが〈希望〉を込めて、皆様に届きますよう。これから世界がどうなってゆくのかは、まだ誰にもわかりません。だけど人類は、いくつもの大きな戦争や災害、パンデミックを乗り越えて、自分達の〈自由〉を獲得して来ました。その永い闘いはこれからも続くし、その一端に〈芸術〉も存在しています。ベートーヴェンさんもまた音楽を武器に、数多くの苦難と闘い続けた先輩でした。僕達は今、この降り注ぐ苦難が、一刻も早く収束する事を祈りつつ、世界中で活躍される同年代のマエストロ、ダン・エッティンガーさんや、大好きな東京二期会の歌手の皆さん、東京フィルハーモニー交響楽団の皆さんと力を合わせ、現代に生きる僕達でしか響かせられない音楽を、お届けしたいと願います。ベートーヴェンさんがいつもそうであったように、革新的な冒険心を忘れずに。
これは戦後75年に及ぶ、〈自由〉をめぐる人類と〈壁〉の闘いのオペラです。「希望よ、来たれ!」とは、劇中でレオノーレが歌う大切なアリアですが、今こそ、それが歌われるのに、最もふさわしい時だと思います。
〈復興〉への願いと、祈りを込めて――
 
  • プロフィール Profile

©️WilhelmBetz©️WilhelmBetz

指揮 ダン・エッティンガー Dan Ettinger

世代で最も国際的な活躍を見せる指揮者の一人。2015/2016シーズンから、シュトゥットガルト・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者及びシュトゥットガルト市音楽総監督を務め、2018年からはイスラエル歌劇場音楽監督、イスラエル交響楽団首席指揮者。
2005年から2012年までは同楽団音楽監督、2009年から2016年までマンハイム国民劇場音楽監督、2010年から2015年まで東京フィルハーモニー交響楽団首席指揮者をそれぞれ歴任し、現在桂冠指揮者。
メトロポリタン歌劇場、ワシントン・ナショナル・オペラ、ロイヤル・オペラ・ハウス、パリ・オペラ座、新国立劇場、チューリッヒ歌劇場、ザルツブルク音楽祭、ウィーン国立歌劇場、バイエルン州立歌劇場等名だたる歌劇場に客演している。今後はパリ・オペラ座『マノン』、ロイヤル・オペラ・ハウス『蝶々夫人』が予定される。
イスラエル歌劇場カペルマイスターや合唱指揮として幅広いレパートリーを得、2003年にベルリン州立歌劇場でダニエル・バレンボイムのアシスタント、2009年までは同劇場カペルマイスターとして従事。
ディアナ・ダムラウ、アドリアンネ・ピエチョンカ、ファビオ・マルティーノ、ギル・シャハムらとレコーディングを行い、マンハイム国民劇場での「ニーベルングの指環」、ザルツブルク音楽祭『フィガロの結婚』はDVDもリリースされている。
 

演出 深作 健太 Kenta Fukasaku

映画監督・脚本家・演出家。

1972年東京都生まれ。成城大学文芸学部卒業。
2000年、父・深作欣二と共に脚本・プロデューサーとして『バトル・ロワイアル』を制作、
2003年、撮影中に逝去した父の跡を継ぎ『バトル・ロワイアルⅡ【鎮魂歌】』で監督デビュー。
以降、舞台、TVドラマなど多様なジャンルの作品を演出している。
『バトル・ロワイアル』にて第24回日本アカデミー賞優秀脚本賞、第20回藤本賞新人賞、
『バトル・ロワイアルⅡ【鎮魂歌】』にて第58回毎日映画コンクール脚本賞を受賞。
2015年、東京二期会『ダナエの愛』で念願のオペラ初演出、
2018年、同『ローエングリン』で念願のワーグナー作品を演出、好評を博した。

《おもな映画監督作品》
・2000年 『バトル・ロワイアル』( 脚本・プロデュース 東映 )
・2003年 『バトル・ロワイアルⅡ【鎮魂歌】』( 監督・共同脚本・プロデュース 東映 )
・2005年 『同じ月を見ている』( 東映 )
・2011年 『僕たちは世界を変えることができない。』( 東映 )
・2013年 『夏休みの地図』( クォーボ・ピクチャーズ )
《おもな舞台演出作品》
・2010年 『 罠 』( 天王洲銀河劇場ほか )
・2012年 『里見八犬伝』( 新国立劇場中劇場ほか )
・2015年 『 MORSE 』( 東京グローブ座ほか )
・2016年 『スルース~探偵~』(新国立劇場小劇場ほか )
・2018年 『いつもいつも君を憶ふ』(俳優座劇場)
・2019年 『暗くなるまで待って』(サンシャイン劇場ほか )
 

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