専門家インタビュー 災害時における裸眼視力確保の重要性 国際防災デー(10/13)に考える「ライフライン」としての視力
10月13日は「国際防災デー」。1989年に国連が制定し、世界が減災について考える日です。特に日本は、地震や台風などの自然災害が多い国であり、日頃の備えが命を守るカギとなります。そして視力もまた、非常時において重要な「ライフライン」のひとつです。実際、東日本大震災では、多くの方がメガネなどの視力矯正手段を失い、その結果として必要な情報さえ入手できないという不自由な生活を強いられました。本ニュースレターでは、東日本大震災時に被災地で診療にあたった、野口三太朗先生(ASUCAアイクリニック 仙台マークワン・主任執刀医)に、大規模災害時における視力の確保の重要性という視点から、ICL(眼内コンタクトレンズ)治療という視力矯正の選択肢についてお話を聞きました。
東日本大震災で直面した「裸眼では何も見えないという不安」
東日本大震災では、多くの人が家屋を津波で流され、同時にメガネやコンタクトレンズなどの生活必需品も失いました。被災地では長らく断水状態が続き、コンタクトレンズの洗浄に使う水自体が確保できなかったり、ワンデータイプの場合は、手元に代替品が届かず、何週間も同じレンズを装用し続けたことで、眼の表面が傷だらけになったり、感染症を起こしてしまう事例も見られたそうです。
特に強度屈折異常の場合は、メガネなどの矯正手段がなければ、裸眼では掲示板の文字も読めず、たった1メートル先を歩く知人の顔も判別できません。その結果、たとえば避難所で食料品や生活物資の配給予定などの予定表が掲示されても、その内容を読むこともできず、たとえ近くに知人がいても気づかず、彼らに頼ることもできません。野口先生によると、実際に多くの近視および強度近視の方々が矯正手段を失い、避難所にいながら必要な情報が届かずに、不安な生活を余儀なくされたそうです。

しばらくすると「粉じん」が舞い上がり、重症結膜炎の発症者が急増
さらに野口先生が指摘する、大規模災害時における視覚を妨げるもう一つの大きなリスクが「粉じん」です。東日本大震災では、地震発生からしばらく経つと、津波と一緒に流されてきた海底の泥や土砂、液状化現象で地面に吹き出した泥土が乾燥し始め、膨大な量の粉じんが飛散しました。同時に不衛生な状態が続いたことで、蝿なども大量発生しました。その結果、被災地ではアレルギー性結膜炎の患者が急増しました。特にソフトコンタクトレンズは、空気中のほこりも付着するため、多くのユーザーが重症結膜炎を発症しました。
東日本大震災をきっかけに裸眼視力の改善を求める人も増加
東日本大震災を契機に、近視矯正手術を希望する近視および強度近視の方が急増し、野口先生の勤務する病院にも「何も見えなくて、本当に大変だった」という近視の方が受診されました。野口先生も「多くの人が東日本大震災の体験を通じて、裸眼で十分な視力がないと、生きる上で必要な情報も入手できない現実を知り、災害時における裸眼視力の確保の重要性を実感したのでしょう。」と言います。
現在、裸眼視力を確保する方法として、子どもの近視に対しては進行を抑制する治療が、大人の近視に対してはレーシックやICL(眼内コンタクトレンズ)治療といった屈折矯正手術があります。レーシックは、角膜を削って光の屈折を変化させることで、近視を矯正する手術ですが、物理的に角膜を削るため、のちに白内障の手術を行う際に手術の精度が低下する可能性があります。これに対して、ICL治療は、虹彩と水晶体の間に柔らかいレンズを入れて視力を矯正する治療で、レンズ自体外部に露出しないので、粉じんなどの影響は受けません。洗浄・交換などの日々のメンテナンスは不要であり、将来加齢による白内障などが発症した際には必要に応じ眼科医によってレンズを取り外して元に戻すことが可能です。こうした特徴もあって、近年、多くの人が近視矯正手術の手段として、ICL治療を選択肢として考えているようです。
自分に適した近視治療か何であるかを眼科医に相談することが大切
ICL治療の適応年齢について、野口先生は「20歳代後半から40歳代までが、主な適応対象になります」と説明します。その理由は、20歳代前半より以前の場合はまだ今後も近視が進行する可能性があり、まずは近視の進行抑制を目的とした治療が優先されること、逆に50歳代以降の場合は白内障を合併している可能性が高く、もし白内障を合併する場合は白内障手術が第一選択肢となるからです(白内障手術でも視力の回復が期待できます)。ICLは、他の屈折矯正手術と比べると手術時の合併症リスクは低いとされますが、それでもリスクはゼロではなく、一般的な眼手術と同程度の合併症リスクは存在することから、その点は治療前に理解しておく必要があります。自分にとってどの治療が適しているかは、専門医ときちんと相談することが大切です。
大規模災害に備えは、「自分の視力を知ること」「裸眼視力を確保すること」
いつどこで起きるかわからない大規模災害に備えて、今できることはなんでしょうか。野口先生は「まずは自分の視力を正しく知ることが最も大切」と指摘し、視力に不安のある人は、眼科を受診して自分の視力を正しく把握しておくことを推奨しています。近視は決して災害時だけの問題ではありません。近視は、将来の白内障や緑内障、網膜剥離の発症率との関連も非常に強く、特に強度近視眼と将来の網膜剥離のオッズは、正視眼の12.6倍に上るとの報告もあり(1)、まさに「近視は万病のもと」というわけです。その上で野口先生は、裸眼での生活に不安を感じるのであれば、いまのうちに裸眼視力の確保を検討しておくことが、大規模災害に対する最大の備えになると提唱します。「人間は外界からの情報の9割を視覚から得ていると言われています。災害時には、食べ物や生活物資の入手方法など情報へのアクセスが生きる上で重要であり、まさに視力はライフラインの一つと言えるでしょう。防災を意識するにあたり、災害時にどう視力を確保するか、日頃から検討しておくと良いでしょう。」
[出典]
1. Haarman AEG et al. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2020 Apr 9;61(4):49. doi: 10.1167/iovs.61.4.49.
野口三太朗先生(ASUCAアイクリニック 仙台マークワン・主任執刀医)
医学博士。日本眼科学会認定・眼科専門医。専門は白内障手術・網膜硝子体手術。多焦点レンズをはじめ、ICL治療にも詳しく、ICLインストラクター(指導医)資格を有する。東日本大震災時には、眼科医として被災地で多くの眼疾患患者さんたちの診療にあたり、その中で「大規模災害時における近視者の実態」を目の当たりにする。

眼内コンタクトレンズ(ICL)治療について
眼内コンタクトレンズ(ICL)治療とは、角膜を削らずにレンズを目の中に挿入して視力を矯正する治療法です。インプランタブルコンタクトレンズ(Implantable Contact Lens)を略してICLと呼び、フェイキックIOL、有水晶体眼内レンズ、眼内コンタクトレンズと呼ばれることもあります。
ICL治療は、1980年代より開発が行われている手術法で、現在世界75か国以上の国々で実績があります。また、眼科医によって必要に応じてレンズを取り出せるので、手術前の状態に戻すことが可能です。
眼内コンタクトレンズ(ICL)について: https://jp.discovericl.com/

スターサージカル株式会社について
スターサージカル株式会社は米国に本社を持つスターサージカルカンパニー(STAAR Surgical Company、NASDAQ: STAA)の日本子会社です。40年以上にわたり眼科手術の分野に専心してきた米国スターサージカルは、眼内コンタクトレンズの設計・開発・製造・販売に従事しています。当社のレンズは、従来のわずらわしさから解放され、患者さんにVisual Freedom(視覚的自由)を提供することを目的としています。スターサージカルカンパニーはカリフォルニア州レイクフォレストに本社を置き、カリフォルニア州アリソビエホ、カリフォルニア州モンロビア、スイスのニダウで製造・包装施設を運営しています。スターサージカル株式会社の本社および流通センターの所在地は東京です。詳細については当社ウェブサイト staarsurgical.co.jp (日本語)をご覧ください。
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