【セミナーレポート】『5人に1人が認知症の時代!再生医療と法的対策の最前線』
認知症という難病治療の夜明けが到来
公益財団法人がん集学的治療研究財団(東京都江東区、会長:藤田 讓・理事長:山岸 久一)は、11月27日(水)に、WEBセミナー『5人に1人が認知症の時代!再生医療と法的対策の最前線』を開催しました。
本セミナーでは、再生医療による最新の認知症治療法と驚異の治療成績について、また認知症患者の抱える問題点と解決のための法律的アプローチについて講演が行われました。
以下、講演要旨と講演後の質疑応答について公表致します。
講演1:認知症治療の新たな希望 ~再生医療の最前線~
講演者:山岸 久一 先生(京都府立医科大学元学長・名誉教授/がん集学的治療研究財団 理事長)
講演2:認知症の再生医療と法的課題
講演者:松浦 剛志 先生(シグマ麹町法律事務所 弁護士)
アーカイブ動画の視聴
がん集学財団の公式Youtubeにて、本セミナーのアーカイブ動画を公開しています。
◇がん集学財団公式Youtube:https://youtu.be/PlPGsIqDHsw
セミナー概要
講演1:認知症治療の新たな希望 再生医療の最前線(山岸 久一 先生)
現行治療の限界と再生医療への期待
厚生労働省の発表によると、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると言われており、大きな社会問題となっています。認知症のうち、アルツハイマー型認知症は約2/3を占めると言われていますが、治療方法は確立されていません。
現在、認知症治療薬として処方されているアセチルコリンエステラーゼ阻害薬や、最近ニュースでも取り上げられているレカネマブなどの治療薬は、認知症症状の進行を遅らせる効果はあるものの、認知症を治すことはできません。根本的な治療方法は確立されていないのです。こうした状況の中で、山岸先生は薬物以外の治療方法に着目しました。そして幹細胞を用いた再生医療により認知症の症状が改善することを発見したのです。
再生医療の可能性
山岸先生の報告によれば、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)を用いた再生医療を14人の認知症患者に行い、その14人全員で、認知症の程度を計るMoCAJというスコアが改善したのです。更に、MoCAJで進行度が中等度以上と診断された12人のうち9人(75%)の認知機能が、健常値近くまたは健常状態にまで改善したとのことです。
本セミナーでは、治療前後の認知症患者の具体的な症状の変化を紹介しました(下記)。
治療方法と安全性
治療方法について説明がありました。まず、患者の腹部から脂肪細胞を採取し、幹細胞を分離・培養した後、患者本人に点滴投与します。これがADSC治療の全てです。培養には6~8週間を要し、投与は月1回、計3~6回行われます。自分の細胞を投与するためiPS細胞の様に拒絶反応を考慮する必要はありません。ADSC治療は今までに82人(計468回)行われていますが、有害事象は血種が1例(1.2%)あるのみで安全な治療法とのことです。
ADSC治療 効果の理由
山岸先生は、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)の治療効果を二つの側面から説明しました。一つはADSCの幹細胞としての特徴です。ADSCは神経系の他、循環器系など様々な組織に分化するとともに、病変部に自ら移動して集まると言われています。もう一つは、ADSCに様々な生体物質を分泌する力があることです。認知症の原因物質として、アミロイドβとタウ蛋白が有名ですが、山岸先生はこれらの脳内蓄積を防ぐ酵素を、ADSCが分泌することを発見しました。これらの特性により、脳内の異常タンパク質が減少し、神経細胞が修復されて、認知症症状が改善するのではないかと考えられています。
ALS、パーキンソン病への治療実績
ALSは全身の筋肉が弱くなり、数年で人工呼吸器に頼らざるを得なくなる病気です。原因不明で治療方法も確立していない難病です。しかしながら、ADSC治療では、症状改善例が54%(7/13)とのことでした。セミナーでは、治療後10年を経て、仕事をしているという症例も紹介されました。
パーキンソン病についての治療効果も紹介されました。この病気は脳内のドーパミンが減って運動障害や振るえなどが発現する病気で、根治的治療法が未確立な難病です。パーキンソン病患者9人に対し、それまで行っていた治療にADSC療法を追加して経過を確認したところ、89%(8/9人)に更なる症状の改善(UPDRS指標の改善)が見られました。
未来への展望
脂肪組織由来幹細胞治療(ADSC治療)は、認知症やALSなど、これまで治療が難しいとされていた疾病に対して治療効果を発揮する最先端の再生医療です。
山岸先生は、これらの成果を基に「認知症治療の夜明けを迎えつつある」と述べ、再生医療が社会に広がることで認知症治療の未来が大きく変わる可能性があると強調しました。
登壇者プロフィール
山岸 久一 先生(京都府立医科大学元学長・名誉教授/がん集学的治療研究財団 理事長)
1969年に京都府立医科大学を卒業後、第2外科に入局し、医師としてのキャリアをスタート。その後、1976年から1978年まで米国テキサス大学外科にてリサーチサイエンティストとして研究活動に従事し、1979年から1981年まで同大学でスペシャルリサーチフェローとしてさらなる研究を続けた。
1986年から1988年まで京都府立与謝の海病院で外科医長を務め、1988年には京都府立医科大学第2外科助教授に就任。1998年には第1外科教授、そして1999年には消化器外科教授(大講座制機構改革)に昇進し、卓越した指導力を発揮。2002年から2004年までは京都府立医科大学附属病院長として、さらに2005年から2011年まで同大学の学長として、大学の発展に貢献。2012年から2020年までは京都府地域医療センター長を務め、地域医療の向上に尽力。
そして、2021年よりがん集学的治療研究財団の理事長に就任。同年に、京都脂肪由来幹細胞治療センターの代表にも就任し、がん集学的治療研究財団の研究の幅を再生医療の分野に拡張している。
講演2:認知症の再生医療と法的課題(松浦 剛志 先生)
意思能力の法的判断
意思能力とは、自己の権利や義務についてしっかり判断できる能力であり、財産管理、契約、相続、遺言、事業の継続等の場面において重要な能力とされています。ただ、認知症患者においては意思能力が低下しており、上記の場面では係争が起こる可能性があります。松浦先生は、係争時に意思能力を判断するのは裁判官であり、医師の診断だけでなく、様々な情報を総合的に考慮して判断していると説明しました。また意思能力が認められた例、認められなかった例に分けて、具体的な係争内容と裁判官の判断のポイントについて解説しました。
医療同意の課題
再生医療の治療を受ける際、認知症患者の同意能力が問題となる場合があります。軽度の患者であれば本人の意思が最優先されますが、同意能力に問題のある場合、法律上の決まりはありません。実務的には家族の同意が重要になります。成年後見人には医療同意に関する権限はありませんが、家族の意見が分かれる場合では重要な役割を果たすことになります。そして、今後はさらなる法的整備が必要とされていると聴講者に伝えました。
成年後見制度の改正
2019年の民法改正により、成年後見制度は本人の意思を尊重する仕組みへと進化しました。これにより、代理中心から意思決定支援型への移行が進み、後見人の権限も必要最小限に抑えられるようになりました。松浦先生は、認知症が回復可能な病気と認識されることで、自身で後見人を選択できる後見制度(任意後見制度)の利用が増える可能性に言及しました。
法制度の未来と医療技術の連携
松浦先生は講演の最後に、医療技術の進歩と法制度の整備が連携することで、認知症患者の尊厳や自己決定権を守る社会の実現が可能になると強調しました。また、再生医療の進展が法的課題にも変化をもたらし、新しい制度設計が求められる時代が到来すると述べました。
登壇者プロフィール
松浦 剛志 先生(弁護士/シグマ麹町法律事務所)
2001年に早稲田大学法学部を卒業後、日商岩井株式会社(現 双日株式会社)及び三菱重工業株式会社で与信管理を中心とするリスク管理業務、学校法人順天堂で大学の研究成果リリースを中心とする広報業務に従事。
社会人として働きながら司法試験に挑戦し、2022年に夜間開講の日本大学法科大学院を修了し、同年司法試験合格。2023年からシグマ麹町法律事務所にて弁護士として執務を開始し、企業法務を中心に、一般民事、家事事件、刑事事件に取り組んでいる。
社会人経験で得た豊富な実務経験を活かし、クライアントに寄り添い、問題解決まで併走することをモットーにしている。
参加者からの質疑応答
今回のWEBセミナーでは、山岸先生、松浦先生、それぞれのご講演後に質疑応答の時間を設けました。ご参加者の皆さまよりいただいたご質問のうち、一部を以下にご紹介いたします。
山岸先生へのご質問(再生医療について)
Q1:認知症の新薬が誕生しています。今後、このような新薬が次々登場するものと思います。再生医療による認知症治療は期待が高いのですが、これら新薬との相性、相乗効果、役割分担など、あればご教示ください。
A1:認知症の新薬は軽度の認知症治療に適応とされています。再生医療による治療は、新薬を含む認知症治療薬の内服を続けながら受けることができます。相性がよい薬については、まだ症例が多くないため判断しかねております。認知症以外の疾患がある方も、主治医から処方されている薬を飲みながら再生医療治療を受けていただけます。
Q2:認知症治療・研究についての世界的な動向について教えてください。
A2:認知症の再生医療については、日本国内ではまだ認知度が低いですが、日本とアメリカを中心に世界で研究が始まっています。現在、アメリカのハーバード大学で多くの被験者を対象とした治験がされていますが、まだ結果の発表はございません。私自身、結果を大変楽しみにしているところです。治験は患者さんから費用をいただかずに実施しますが、ADSC治療は細胞の培養に大変コストがかかるため、研究者が負担するのはなかなか難しいという実情があります。そのため日本では、患者さんに費用をご負担いただいて治療をさせていただいており、症例数を増やすのがなかなか難しい状況です。
Q3:認知症の代表的な症状である記憶障害について、ADSCによって改善する可能性があるのかどうか。当治療を受けることができる医療機関が関東地方にあるのかどうか。想定される治療機関と費用の目安等を教えてください。
A3:中等度の認知症であれば、ADSCの投与で約75%の方が正常の基準近くに改善され、記憶障害も改善されています。私たちは日本で初めて、京都にて認知症のADSC治療を行いましたが、関東でも同様の治療を行っているところがあるかもしれません。厚生労働省に届けを出しているところはありますが、私たちと提携しているところではないため、詳細はわかりかねます。申し訳ございません。私たち、京都のなぎ辻病院でのADSC治療は、期間は約6か月、費用は1か月に1回投与で約170万円ほどになります。
Q4:ADSCによる認知症治療は、実用化できればノーベル賞級の研究だと思われるのですが、どうして今、ここまで世間における認知度が低いのでしょうか。
A4:ADSC治療について、海外の学会や論文発表をしていますが、まだ日本国内の医師のあいだでADSC治療のことや、認知症が改善するということは十分に知られていません。そのため「諦めない」という著書を出版するなどして、認知拡大に努めています。
松浦先生へのご質問(法制度等について)
Q1:認知症が進んで判断が難しくなる前に、家族はどんな準備をしておけば安心できますか?成年後見制度以外にも方法があれば知りたいです。
A1:例えば土地や会社などを売ることを考える場合、一つの方法としては後見制度があります。それ以外として、公証役場の方で公正証書として契約を取り交わす方法もあります。公証人が締結に立ち会うので、対外的に第三者が意思能力に問題がないと判断したうえで契約したことを証明することができます。よってのちに裁判になった場合でも、契約が有効だと判断される可能性が高まります。
Q2:認知症患者を抱える家族が、当人が詐欺にあわないようにするには、どんなことをサポートするべきですか?
A2:認知症患者が詐欺にあって金銭等を要求された場合、認知症によって意思能力がなかったため契約は無効という主張が成り立ちます。家族から離れた状態でトラブルに巻き込まれる場合もあるので、後見制度を利用して財産の管理を後見人に任せると、リスクを減らせるかと思います。
Q3:本人の能力回復を法的には、どのような段階を経て認定するのでしょうか?
A3:意思能力の有無に関しては、裁判になると裁判官が判断することになります。能力が回復したかどうかについても、医学的診断を踏まえて、治ったとされたあとの認知症患者本人の言動、立ち振る舞いなどを考慮して、契約が有効か判断されます。具体的には、認知症患者本人の様子を家族が証言したり、入居しているグループホームの介護記録などをもとに判断されることになります。
「がん集学的治療研究財団」が再生医療に取り組む理由
がん集学財団は、がん治療の研究助成・情報発信・開発支援などを主たる事業目的とした財団でありますが、当財団の第6代理事長、京都府立医科大学元学長・名誉教授である山岸久一医師は、大学の職務とは離れたところで、再生医療の一種である脂肪組織由来幹細胞治療(ADSC治療)の研究に取り組み、上記の治療成績を示してきました。
しかしながら、ADSC治療は新しい研究であるため、医学界における認知度は低い状況です。弊財団は認知症・難病で苦しむ方々を助けることも当財団の目的に合致すると考え、この研究の周知活動、寄付集めなどを通してADSC治療をサポートしてきます。
公開情報・お問合せ先
【「脂肪組織由来幹細胞治療(ADSC治療)」に関する情報】
「脂肪組織由来幹細胞治療(ADSC治療)」ついてもっと知りたいという方は、山岸 久一 医師の著書「諦めない」をご一読頂くか、弊財団のHPや公開されているYouTube動画においてもご覧いただけます。弊財団の再生医療事業に対する寄付もお待ちしています。
・「諦めない」株式会社アークメディア 発行 1,980円
https://arcmedium.co.jp/products/detail.php?product_id=4948
・弊財団HP YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC6VPlPWT8gj5Gyb-N-nyr3g
【山岸医師への講演依頼、再生医療事業に関するお問合せ、寄付のお申込み】
公益財団法人がん集学的治療研究財団 再生医療担当:金子、武藤
Eメール:soumu@jfmc.or.jp TEL:03-5627-7594
【ADSC治療に関するお問合せ先】
また、「脂肪組織由来幹細胞治療(ADSC治療)」に興味のある方、治療を受けたいという方は、下記までご連絡下さい。
・京都府立医科大学元学長:名誉教授 山岸久一
Eメール:hisakazu.y.1101@gmail.com
・なぎ辻病院 (ADSC治療 実施医療機関)
所在地:京都府 京都市山科区 椥辻東潰 5-1
URL:http://www.nagitsuji-hp.jp/regenerative/
TEL:050-3091-1131
「がん集学的治療研究財団」概要
基本概要
組織名称:公益財団法人がん集学的治療研究財団
設立日:昭和55年6月23日(厚労省医政局所管の財団法人として設立)
所在地:〒136-0071 東京都江東区亀戸1-38-4 朝日生命江東ビル3階
お問い合わせ:https://www.jfmc.or.jp/contact/
組織
役員構成
【会長】藤田 讓 元 朝日生命保険相互会社 社長
【理事長】山岸 久一 京都府立医科大学元学長 名誉教授
【常務理事】桑野 博行 遠賀中間医師会 おかがき病院 地域総合支援センター センター長
【理事】市川 大輔 山梨大学医学部外科学講座第一教室 教授
【理事】井本 滋 杏林大学 医学部 乳腺外科 教授
【理事】宇山 一朗 藤田医科大学先端ロボット・内視鏡手術学 主任教授
【理事】今野 弘之 国立大学法人 浜松医科大学 学長
【理事】三枝 稔 学校法人先端教育機構 特別顧問・評議員
【理事】瀬戸 泰之 国立がん研究センター中央病院 病院長
【理事】谷下 一夫 一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ 理事長
【理事】松原 久裕 千葉大学大学院医学研究院先端応用外科学 教授
監事
杉原 健一 光仁会 第一病院 院長
松本 謙一 サクラグローバルホールディング株式会社 代表取締役会長
評議員
14名
各種委員会
一般研究選考委員会、臨床試験審査委員会、医療機器委員会、利益相反委員会、財務委員会、データベース事業支援委員会、広報委員会
事業内容
臨床試験関連事業
患者様に負担の少ない治療法を選択すべく、50を越える臨床研究を実施し、その成果は治療ガイドラインに記載されるなど、現実の治療に生かされてきた。
一般研究助成事業
がんの集学的治療や医療機器に関する研究を選抜し、研究資金を助成。
データベース事業
過去の大腸癌7試験についてデータベース化し、解析研究を実施。
医療機器事業
市販後調査、試作品評価の他、講演会・交流の場の提供を行うなど開発支援も実施。
講座・講演会事業
出版物の発行(一般研究助成事業成果報告書/JFMC機関誌 等)、市民公開講座の実施。
上記の他、今回、新たに幹細胞を用いた認知症・難病治療をサポートする事業を開始。
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