NEDO懸賞金活用型プログラムで、量子コンピュータの開発環境を無償提供します
量子技術の社会実装に向け、研究開発の支援体制を整備しました
NEDOが推進する量子コンピューティング技術に関する懸賞金活用型プログラム「NEDO Challenge, Quantum Computing “Solve Social Issues!”」(以下、本プログラム)において、スクリーニング審査を通過した参加者向けに量子コンピュータの開発環境を新たに整備し、無償提供します。
この開発環境は、量子技術の研究開発を加速させることを目的として、NEDOとともに、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、国立研究開発法人理化学研究所、株式会社インテリジェントウェイブ、クオンティニュアム株式会社、IBM、東芝デジタルソリューションズ株式会社、株式会社 Fixstars Amplifyが協力して構築しています。
1.プログラム概要と現在の状況
本プログラムは、量子コンピューティング技術の発展と、技術活用による社会課題の解決を目指すべく、量子分野の研究者や技術者に加え、異なる分野の専門家や次世代の人材の参加を幅広く促し、有用なユースケースにつながる成果をコンテスト形式で審査する懸賞金型の研究開発プログラムです。
審査対象となる成果物の提出は2026年6月末までの予定です。
このたび、成果物の提出に向けて、自ら計算環境を用意することが困難なプログラム参加者でも高度な実験や検証を行える研究活動を支援するため、本プログラムの一環として、複数の機関の協力により、量子コンピュータの実機やシミュレータなどを活用できる開発環境を整備しました。
既に、本開発環境の利用希望者に対して、新規性・独自性やインパクト、実装可能性などのスクリーニング審査を実施し、通過した参加者にNEDOが費用負担することで無償提供しています。選考結果は2025年8月8日にNEDOおよび本事業専用サイトにて公開しています。
なお、コンテストの審査対象となる成果物の提出は、本開発環境の利用有無を問わず、誰でも応募が可能です。
スクリーニング審査通過者(採択者)リスト:https://qc-challenge.nedo.go.jp/docs/screening_list_ver2.pdf
2.提供する開発環境
スクリーニング審査を通過したプログラム参加者に対して以下の研究開発環境を提供します。
量子コンピュータ(主にゲート方式の実機)
疑似量子アニーリングマシン(組合せ最適化問題などに特化した計算機器)
量子シミュレータ(実機の挙動を再現する環境)
本環境は、参加者の多様な研究ニーズに対応できるよう設計されています。実機とシミュレータを併用することで、アルゴリズムの検証やデバッグを効率的に行え、開発スピードと精度の向上が期待されます。
また、複数の量子計算方式に対応しているため、参加者は普段の研究では扱わない手法にも挑戦でき、研究の幅を広げる機会にもつながります。
3.協力機関と役割
本開発環境の構築にあたり、下記の機関が参画しています。
産総研
産総研の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)では、産官学連携のもと、量子技術による産業化を後押ししています。本プログラムでは参加者のアイデアによる新たなユースケースに期待しています。G-QuATからは、画像処理半導体(GPU)スーパーコンピュータ、超伝導型量子コンピュータ、中性原子型量子コンピュータの計算リソースを提供します。GPUスーパーコンピュータにはNVIDIA製GPUが2020基搭載され、大規模人工知能(AI)処理の他、三つのイジングマシン(Fujitsuデジタルアニーラー、東芝SQBM+、Fixstars Amplify AE)や、GPUに対応した量子シミュレータなどが利用できます。超伝導型量子コンピュータは富士通製、中性原子型量子コンピュータはQuEra社のGeminiモデルで稼働します。
G-QuAT計算環境利用案内ページ:https://unit.aist.go.jp/g-quat/HowToUse/index.html
理化学研究所
理化学研究所は、計算科学研究センター量子HPC連携プラットフォーム部門がNEDOの委託を受けて実施中のJHPC-quantumプロジェクトで構築中の量子HPC連携プラットフォームを提供します。本プラットフォームでは、スーパーコンピュータ「富岳」と連携して、方式の異なる2台の商用量子計算機、IBM Quantum System Two(ibm_kobe)およびQuantinuum System Model H1(黎明)をオンプレミスで利用できる環境を提供します。
理化学研究所ウェブサイト:https://www.riken.jp/
計算科学研究センターウェブサイト:https://www.r-ccs.riken.jp/
JHPC-quantumプロジェクトウェブサイト:https://jhpc-quantum.org/
IBM
IBMは、世界最大級の高性能量子コンピュータ群へのアクセスを、本プログラム参加者に無償提供します。参加者は、156量子ビットのIBM Quantum Heronプロセッサー搭載機を含むIBMの量子コンピュータをクラウド経由で利用し、さまざまな領域の問題に対応した実験を実行できます。IBM Heronプロセッサーは、IBM史上最高性能の量子プロセッサーであり、前世代のプロセッサー比で2量子ビットのエラー率が10倍改善しています。100量子ビットのレイヤード回路において、エラー率は3×10⁻³(最高値は8.4×10⁻⁴)まで低減し、処理速度は25万CLOPS(回路レイヤー演算/秒)に到達しています。これにより、5000ゲートを超える演算を正確に実行することが可能となり、ユーティリティー・スケールのワークロードを支える上で極めて大きな価値を提供します。
IBMのミッションは、世界中に有用な量子コンピューティングを提供することです。本プログラムに開発環境を提供することで、IBMはエネルギー、物流、医療、金融および文化の創造・発信などのさまざまな分野において、実践的な問題解決に役立つユースケースとアルゴリズムの開発を加速できるよう支援します。
IBM Quantumサイト:https://www.ibm.com/quantum
インテリジェントウェイブ
インテリジェントウェイブは、本プログラムにおいて量子シミュレータ「Qaptiva 800」を提供しています。Qaptiva 800は、最大41論理量子ビットの量子回路を実行できるシミュレータです。主要な量子プロセッサ(QPU)がモデリングされているほか、各種ハードウエアのスペックや演算精度などが設定可能なため、ゲート方式・アニーリング方式の実行環境に対応した開発が可能です。
ノイズの有無や発生条件も細かく設定でき、NISQ※1とFTQC※2に対応した研究が行えます。さまざまな量子コンピュータや開発ツールと柔軟に連携可能なため、量子回路を効率的に設計・実行・検証できます。
インテリジェントウェイブサイト:https://www.iwi.co.jp/
Qaptiva 800製品ページ:https://www.iwi.co.jp/products/innovation/qaptiva800.html
クオンティニュアム
クオンティニュアムは、高フィデリティ※3(1量子ビット99.997%、2量子ビット99.895%のゲートフィデリティ)かつ全結合を特徴とする56量子ビットのイオントラップ型量子コンピュータ「Quantinuum System H2」へのクラウドアクセスを提供します。このシステムは、中間測定と量子ビットの再利用や、条件付きロジック、フィードフォーワード、誤り検出など、誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)を見据えた高度な機能を備えた量子コンピュータです。さらに、性能評価指標である量子ボリューム※4では2025年5月時点で世界最高の225を実現しています。
クオンティニュアムは、米国、英国、ドイツ、日本に拠点を置き、370人以上の研究者および技術者を含む合計630人以上の従業員が、量子コンピューティング革命を推進しています。創業以来200本以上の科学論文を発表しており、Quantinuum SystemシリーズはJPMorganChase、BMW、Amgen、理化学研究所など、著名な企業や研究機関で広く利用されています。この先進的な量子計算基盤を活用し、研究開発支援や人材育成を含む、イノベーションの加速と、社会的価値の高いユースケース創出に貢献しています。
クオンティニュアムサイト:https://www.quantinuum.com/
Quantinuum System H2製品ページ:https://www.quantinuum.com/products-solutions/quantinuum-systems/system-model-h2
東芝デジタルソリューションズ
東芝デジタルソリューションズは、本プログラムに量子インスパイアード最適化ソリューションSQBM+を提供します。SQBM+は、1000万変数をサポートし、複雑で大規模な問題の高精度な近似解(良解)を短時間で得ることが可能なソフトウェアです。高次項に対応し、現実の組合せ最適化問題に対して高い求解性能を実現しています。
SQBM+の計算環境を提供し、さまざまな分野の参加者にSQBM+を活用していただくことで、多様なユースケースの創出に貢献します。
SQBM+について:https://www.global.toshiba/jp/products-solutions/ai-iot/sbm.html
Fixstars Amplify
Fixstars Amplifyは、本プログラムに高性能アニーリングマシン「Fixstars Amplify AE」とソフトウェア開発キット「Fixstars Amplify SDK」(SDK)を提供します。SDKは、さまざまな方式がある量子コンピュータやイジングマシンの違いを意識することなくPythonで直感的に問題を記述・実行できるよう設計されており、シンプルで効率的なアプリケーション開発を支援します。
また、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社の協力により、本プログラム参加者に対してAmazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)の高性能計算リソースを提供し、疑似量子アニーリングマシンを活用した研究開発も支援します。クラウドの柔軟性とスケーラビリティを活用することで、参加者の多様な計算ニーズに対応し、社会課題解決に向けたソリューション開発の加速に貢献します。
Fixstars Amplify企業サイト:https://amplify.fixstars.com/
4.今後の予定
プログラム参加者は、2026年6月頃の成果提出に向けて、各自の研究テーマに沿った開発を進めます。今回整備された開発環境は、技術検証や成果物の作成を支援することで、量子技術の研究を加速させることを目的としています。
本プログラムを通じて、日本における量子技術者の育成や関連企業の増加を促進し、量子技術を活用した社会課題の解決と新たな産業の創出を目指します。
【注釈】
※1 NISQ
Noisy Intermediate-Scale Quantumの略で、ノイズの影響を受ける中規模量子コンピュータです。現在の量子技術の主流で、特定の問題に対して有効な計算が可能です。
※2 FTQC
Fault-Tolerant Quantum Computingの略で、量子エラー訂正技術を用いて、ノイズの影響を抑えた高精度な量子計算を実現する方式です。
※3 フィデリティ
量子力学において、フィデリティ(忠実度)は実際の状態と理想的な状態の間の波動関数の重なりを測定します。すなわち、密度行列のトレースです。実際には、忠実度は状態や操作が数学的に記述した理想的な状態にどれだけ近いかを測る指標です。例えば、2量子ビットゲート操作の忠実度は、正しい結果が得られる頻度を大まかに測ります。フィデリティ99.9%とは、操作が1000回中999回成功することを意味します。
※4 量子ボリューム
量子コンピュータの複雑な回路における性能指標の一つです。
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