プロ翻訳者20人に聞いた!翻訳力アップに役立つ学習アプローチ5選
現役講師が伝授する、学びを続けるヒントと仕事に活きるスキルとは

翻訳を学び始めたばかりの人が「どのように学べばうまくいくのか?」という問いに、翻訳スクールの現役講師たちが答えました。
今年で50周年を迎えた翻訳の専門校「フェロー・アカデミー」では、プロの翻訳者である講師20名にアンケートを実施。現場を知るプロならではの視点から、初心者におすすめの学習スキル、実践的な学習法、習慣のコツまでを網羅した調査結果を公開します。
[調査概要]
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調査名:翻訳学習に関するアンケート
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調査対象:翻訳スクール講師 20名
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調査方法:インターネット調査
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調査期間:2025年4月21日〜4月28日
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調査主体:フェロー・アカデミー
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有効回答数:18
[回答者のプロフィール]
翻訳歴10年以上が9割を占め、半数以上の講師が複数分野で活躍しています。
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出版翻訳:13名
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実務翻訳:10名
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映像翻訳:4名
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ゲーム翻訳:2名
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ニュース翻訳:1名
■ プロ翻訳者が選ぶ「翻訳力が伸びた学習法」ベスト5
アンケートでは「翻訳スキルの向上に最も役立った学習法・習慣は?」という設問に対して、複数回答形式で自由に選択してもらいました。その結果、翻訳学校での学習(94%)が最も多く挙げられ、続いてプロの文章を読む(67%)、翻訳者同士の交流(50%)がランクインしました。

1位:翻訳学校に通う/通信講座を受講する - 94%(17名)
2位:実際に翻訳されたプロの文章を読む - 67%(12名)
3位:他の翻訳者や学習仲間との交流会・勉強会に参加する - 50%(9名)
4位:翻訳コンテストやトライアルに挑戦する - 33%(6名)
5位:プロの翻訳を写経する - 17%(3名)
その他:詩歌を読む、日本の作家の作品を読む、訳文のフィードバックをもらう など
翻訳学校が1位となった理由としては、「体系的な学び」や「プロの添削が受けられる環境」が、独学では得にくい価値であることが伺えます。特に初学者にとっては、自分の訳文に対するフィードバックが“翻訳の地図”となる貴重な経験です。
また2位の「プロ訳文の読解」は、良質な訳をインプットし、目と耳で“自然な日本語”のリズムをつかむ訓練として定番です。
さらには翻訳者同士の交流(3位)も、孤独になりがちな学習を支える大きな要素。翻訳が個人作業である一方、学びにおいてはコミュニティの力が非常に大きいことが見えてきます。
■ 初心者が最初に身につけるべきスキルとは?
アンケートの自由回答からは、「英文法や語彙力の強化」だけでなく、自然な日本語表現や翻訳実務に必要な周辺スキルの重要性が多く語られました。
講師コメントより(抜粋):
「文の構造を理解することで、誤訳を防げると実感した」
「正しい日本語、特に表記や言い回しを意識する習慣が早期に身についてよかった」
「翻訳作業以外に、請求書の作成や営業メールなど“実務スキル”も必要」
「“翻訳=英語の勉強”と考えていたが、自然な訳文を作るためには日本語力こそ重要」
初心者が最初に学ぶべきスキルとして、英語力だけでなく「日本語力」や「文構造の読解力」が重視されている点は非常に興味深いポイントです。翻訳において“読む力”とは、単に英文を解釈するだけでなく、意味を構造的にとらえ、正確に再構築する力。そのためには、英文法の知識と同じくらい、日本語の感覚を磨くことが不可欠です。
■ 行き詰まり・モチベ-ション低下への対処法
翻訳学習には必ずといってよいほど「手が止まる」「自信が持てない」といった行き詰まりやモチベーションが低下する局面があります。アンケートでは、そうした“壁”をどう乗り越えてきたかを尋ねました。(複数回答可)。

1位:迷った箇所を保留にして、まずは最後まで訳す- 72%(13名)
2位:訳文から一度離れる - 56%(10名)
3位:声に出して訳文を読む - 22%(4名)
4位:翻訳仲間に相談する - 17%(3名)
「完璧な訳にしようとして立ち止まる」ことは学習者によくある悩み。そこで「まず最後まで訳す」「いったん離れる」といった切り替え術が高頻度で挙げられました。翻訳は粘り強さと同時に、適切な距離感や思考の柔軟さが求められる作業でもあることがわかります。
また、訳文を声に出す・仲間に相談するなど“外に出す”ことで頭の中が整理されるという実感も、今後の学習スタイルの設計に役立ちそうです。
■ 習慣化の工夫・モチベーション維持のヒント
回答には、日常の中で継続するための具体的なアイデアが多数寄せられました。
「翻訳仲間と定期的に情報交換や勉強会を行う」
「トライアルやコンテストで小さな成果を積み重ねる」
「毎年目標を立て、年末に振り返る」
「憧れの翻訳者の訳文や字幕を見る」
「メーリングリストで気軽なつながりを持つ」
中でも印象的だったのは、「誰だ、こんな下手な訳をしたのは…自分か!」というコメント。かつての自分の訳に“ダメ出し”できるようになった時、それは大きな成長の証だと、プロの翻訳者は語っています。また、「仲間の存在」が学習の継続を後押しするという声が非常に多く、翻訳という孤独な営みの中に“つながり”を作ることの価値が浮き彫りになりました。
一方で、「とくに工夫はしていない」「翻訳が好きだったので苦ではなかった」といったコメントもあり、モチベーション維持に“自分なりのスタイル”があってよいことも、示唆に富む結果と言えます。
■ 実際に役立った教材・ツール
日々の翻訳実務に欠かせない教材やツールについても、複数回答形式で尋ねました。

1位:辞書(紙・電子) - 94%(17名)
2位:Webサイト - 83%(15名)
3位:書籍 - 67%(12名)
4位:生成AI(ChatGPTなど) - 61%(11名)
5位:翻訳支援ツール(Tradosなど) - 17%(3名)
辞書・Webサイトといった「定番ツール」の利用は圧倒的ですが、注目すべきは生成AIの利用率が6割を超えたことです。回答の中には使用目的までは明記されていないものの、翻訳学習や表現検討の場で少しずつ取り入れられていることがうかがえます。
一方、翻訳支援ツールの利用はやや少なめです。というのも、翻訳支援ツールは過去に翻訳された類似文書を再利用することで効率よく翻訳することを目的としており、向いている分野と向いていない分野があるためです。実務翻訳では使用されることが多いですが、出版翻訳や映像翻訳のように創作性が高く表現が多岐にわたる分野には向いていません。
■ 未来の翻訳者へ ― 講師たちからのエール
最後に、「これから翻訳を学ぶ方」への自由記述には、講師自身の原体験や、いま現場で感じている変化を踏まえた“熱のこもったメッセージ”が寄せられました。
「翻訳はすぐには上達しません。でも続けていれば必ず道が開けます。あきらめないで」
「仲間を持つこと、学びを楽しむことが、長く続ける秘訣です」
「翻訳は努力が報われる世界。コツコツが最大の近道です」
「生成AI時代だからこそ、翻訳者には“人間らしい翻訳力”が求められます」
「こだわりを持つ勇気と、捨てる賢さ。その両方を持って進んでください」
講師たちの言葉からは、「翻訳=ことばの仕事」であると同時に「人との関係性の中で育つ仕事」だという強いメッセージが感じられます。また、「生成AIの発展により、翻訳業界も変化していくが、だからこそ“人間らしさ”が際立つ時代になっている」という指摘も複数ありました。これは、単に翻訳スキルだけでなく、「どのような姿勢で学ぶか」「どんな翻訳者を目指すか」が、今後さらに問われる時代になるということでもあります。
何よりも「好きなことを続ける人には、道が拓ける」という言葉の数々は、迷いながら学び続けるすべての翻訳者に、温かく力強いエールとして響くはずです。
■ 会社概要

フェロー・アカデミー(運営:株式会社 アメリア・ネットワーク)
所在地:東京都千代田区麹町2-2-4 麹町セントラルビル 2階
代表者:室田 陽子
創立年:1975年
事業内容:翻訳教育事業
■ お問合せ先
フェロー・アカデミー事務局
E-mail:school@fellow-academy.com
TEL:0120-024-240
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