慶應義塾大学薬学部と株式会社リサ・サーナ、一般社団法人ピアリングは、がん患者のピア・サポートコミュニティ「Peer Ring ピアリング」への投稿から、患者経験の可視化を行う共同研究を開始しました。
「ピアリング」SNSに投稿された130万件超の患者の声を対象とする自然言語処理研究として、患者の症状・感情・関心を科学的に抽出・分析し、信頼性の高い知見として社会に還元することを目的としています。
株式会社リサ・サーナ/一般社団法人ピアリング(所在地:神奈川県横浜市、代表:上田暢子)は、慶應義塾大学薬学部医薬品情報学講座(所在地:東京都港区、堀里子教授)と共同で、「がん患者ピア・サポートコミュニティの投稿に基づく経験の可視化:自然言語処理による症状・感情・関心の抽出と分析」研究を開始しました。
【研究の背景と目的】
がん患者の体験は、診断・治療・副作用・心理的変化など多岐にわたり、患者自身や医療者にとって重要な情報源となります。近年、ブログやSNSのほか、患者同士が支え合うオンラインのピア・サポートコミュニティが広がり、インターネット上には多くの体験談等が蓄積されています。しかし、その情報量は膨大であり、患者が必要な情報を見つけることは容易ではありません。
リサ・サーナは、乳がんや婦人科がんなどの女性がん患者向けSNS「Peer Ringピアリング」を2017年より運営しており、本研究では、2017年7月1日から2025年6月30日までに投稿された約132万件の患者によるダイアリーおよびレスポンスのデータを分析対象として提供し、患者の症状、心理的変化、関心事などを抽出・構造化・可視化することで、患者自身の意思決定支援や医療者による適切なサポートにつなげることを目指します。
【研究の概要】
■対象データ:「Peer Ring ピアリング」上のダイアリー投稿およびレスポンス(2017年~2025年)
■解析技術:人工知能(AI)による文章解析技術(自然言語処理*注1・大規模言語モデル*注2)を用いて患者の投稿文を分析します。また,医療用に開発されたAIモデル(MedNER-CR-JA など)により、症状や治療に関する重要な情報を自動的に抽出します。
■分析内容:
・患者が記した症状や有害事象の自動抽出
・投稿文から読み取れる感情や悩みの分類・分析
・診断、手術、抗がん剤治療などの治療イベントの抽出
・投稿を時系列に整理し、症状の変化(症状トラジェクトリ*注3)を可視化
これにより、患者は自身の症状や気持ちの変化を理解しやすくなり、医療者は治療経過に伴う心身の変化を把握することで、患者視点に立った情報提供や支援が可能となります。

【期待される成果】
●患者が「同じ経験を持つ人の声」を効率的に探せる仕組みの構築
●医療者や製薬企業等のステークホルダーが患者の悩みや副作用の傾向を把握し、患者のQOL向上につながる、よりよい医療・適切な支援体制を構築するための情報基盤の整備
●増加するがん患者に対し、ピア・サポートの有効性を科学的に裏付ける新たな研究モデルの提示
【倫理審査について】
本研究は、慶應義塾大学薬学部「人を対象とする研究倫理委員会」にて十分な検討を経て承認されており(承認番号:承250730-1)、倫理的配慮のもとで実施されます。
【リサ・サーナの役割】
当社は、がん患者向けコミュニティ型SNS「Peer Ringピアリング」の運営を通じて蓄積された患者の声を研究基盤として提供し、学術的に信頼性のある解析を支える役割を担います。患者体験を科学的に整理・分析することで、医療現場や社会に還元可能な知見を創出し、ピアサポート活動を行う一般社団法人ピアリングとともに、がん患者支援の新たな可能性を拓きます。
【コメント】
●慶應義塾大学薬学部 教授:堀里子
「Peer Ring ピアリング」には、治療が生活と切り離せないからこそ日々の暮らしの中で生まれる、実体験や想いといった、医療現場には届きにくい貴重な声が集まっています。リサ・サーナ、ピアリングの皆さんとの対話を重ねながら、こうした声を見える化する研究を進め、患者・医療者双方にとって価値のある知見を届けていきたいと考えています。
●リサ・サーナ 代表取締役:上田暢子
私たちは、「がんに向き合う人の想いと経験を社会へ」をミッションとして活動しています。「Peer Ring ピアリング」に集まる膨大な患者の体験・声を単なるエピソードではなく、科学的エビデンスとして活用することで、医療者・患者双方にとって有益な情報基盤を構築してまいります。
【用語解説】
■注1:自然言語処理(NLP)
人間が日常生活で用いる言語(自然言語)を、コンピュータに処理させるための技術です。本研究で用いた技術は、診断や治療の判断を行うものではなく、文章中の情報を整理・可視化するための解析技術です。
■注2:大規模言語モデル(LLM)
文章の意味を捉え、分類や情報抽出、文章生成などを行うことができる
大量の文章データを学習した新しいAIモデルです。
■注3:症状トラジェクトリ
病気の経過の中で、症状や患者の身体機能・生活への影響が時間軸上でどのように推移するかを捉えた、『病いの軌跡』を指します。
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