水素ガスの吸入が放射線治療を受けたがん患者の副作用を防ぐことを実証

MiZ株式会社は、放射線治療を受けたがん患者に水素ガスを吸入させることで、放射線の副作用が軽減されることをヒトの臨床研究で実証しました。
がんに対する放射線療法は有効な治療法ですが、副作用としての障害を起こします。そこで、この障害を軽減させるために強度変調放射線治療(IMRT)(注1)が使われていますが、骨髄障害(注2)などの副作用軽減効果は不十分でした。
 今回、IMRTを受けた末期がん患者の内、一方をIMRTのみの治療(7人)とし、他方をIMRTと水素ガス吸入の併用治療(16人)を行いました。その結果、IMRTのみの対照群では顕著な白血球数と血小板数の減少が起こったのに対し、IMRTに水素ガス吸入を併用した水素群では、これらの減少の顕著な改善効果が得られました。本研究は、水素ガス吸入が放射線障害を防御することができる有効で安全性の高い治療法であることを、ヒトの臨床研究で初めて証明したものです。
本研究結果は、2021年4月27日(欧州時間)に医療ガスに関する国際医学雑誌・メディカル・ガス・リサーチのオンライン版に掲載されました。
1. 研究の背景
従来の放射線治療は骨髄障害などの副作用を抑えることが困難でした。そこで、がん組織に集中して放射線を照射する「ピンポイント」照射としての強度変調放射線治療(IMRT)が開発されました。しかし、IMRTでも骨髄障害が生じますので、IMRTの時に生じる骨髄障害を防御する治療薬の開発が望まれていました。
放射線の照射時には、体内にある水が分解されて最も強力な活性酸素種(注3)であるヒドロキシルラジカルが生成され、これががんを死滅させます。しかし、同時にヒドロキシルラジカルが正常組織にも障害を与えます。水素は、不活性物質ですが、活性酸素種の中のヒドロキシルラジカルを選択的に消去します。これまで、動物モデルでは、水素の放射線防御効果が報告されていましたが、放射線治療を受けたがん患者で水素の放射線防御効果を報告した研究成果はありませんでした。
今回、医療法人社団愈光会クリニックC4に外来で訪れた末期がん患者さんに時期を分けて従来のIMRTのみの治療とIMRTに水素ガス吸入を併用した治療を行いました。そして、これらの患者さんの臨床データから後方視的観察研究(注4)を行いました。

2. 研究の成果と意義・今後の展開
患者さんは、毎回のIMRTの後で軽微な高気圧酸素療法(注5)に加えて2種の異なる治療を1~4週間受けました。すなわち、IMRTに水素ガス吸入を併用する治療とIMRTに水素ガス吸入を併用しない治療です。そして、それぞれ水素群(16人)と対照群(7人)としました。対照群と水素群の間の照射回数と総容積被爆量はほぼ同じでした(図1aおよび1b)。さらに、性別、年齢、腫瘍の原発および転移数を含む患者さんの特徴も両群間で同じでした。臨床的有効率も両群間で同等で、水素ガス吸入によりIMRTの抗腫瘍効果が損なわれないことが分かりました。
 

図1:放射線の照射回数(a)と総容積被爆量(b)図1:放射線の照射回数(a)と総容積被爆量(b)



IMRTの初日(治療前)とIMRTの1〜4週間後(治療後)に患者さんから血液を採取し骨髄障害の評価に用いました。赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、ヘモグロビン濃度(HGB)およびヘマトクリット値(HT)を測定し、治療前に対する治療後の比を算出しました。RBC比、HGB比およびHT比は2群ともに1に近い値を示し、この結果からこれらのマーカーは影響を受けないことが分かりました(図2a、2bおよび2c)。一方、対照群のWBC比とPLT比は顕著な減少を示しましたが、水素群ではこれらのマーカーの統計学的に有意な改善効果が見られました(図2dおよび2e)。

 

図2:放射線の血液学的データへの影響図2:放射線の血液学的データへの影響



安全でより効果的な放射線防御剤を開発することは非常に重要な課題です。過去50年間に渡り多くの合成化合物や天然化合物の放射線防御効果の可能性が試されましたが、臨床使用可能な安全で有効性のある放射線防御剤は今日まで開発されておりません。本研究は、水素ガス治療がIMRTなどの放射線障害を防御することができる有効で安全性の高い治療法であることを、ヒトの臨床研究で初めて証明したものです。本研究は、IMRTだけでなく医療現場で使用されている放射線治療やCT検査などの医療被曝にも水素ガス吸入が防御効果を示す可能性を示しています。

3. 特記事項
本研究は、MiZ株式会社、医療法人社団愈光会・クリニックC4、国立成育医療研究センター・移植免疫研究部、大阪大学大学院医学系研究科・先端移植基盤医療学講座、関西メディカル病院・腎移植センターおよび慶應義塾大学・環境情報学部の共同研究によるものです。

4. 論文
英文タイトル:Protective effects of hydrogen gas inhalation on radiation-induced bone marrow damage in cancer patients: a retrospective observational study
タイトル和訳:がん患者の放射線誘発骨髄障害に対する水素ガス吸入の防御効果:後方視的観察研究
著者名:平野伸一1、青木幸昌2、黒川亮介1、李小康3、市丸直嗣4、高原史郎5、武藤佳恭6
所属:1 MiZ株式会社、2 クリニックC4、3 国立成育医療研究センター、4 大阪大学大学院医学系研究科、5 関西メディカル病院、6 慶應義塾大学・環境情報学部
掲載誌:Medical Gas Research, 2021; 11 (3):104-109.
URL: https://www.medgasres.com/article.asp?issn=2045-9912;year=2021;volume=11;issue=3;spage=104;epage=109;aulast=Hirano;type=0

[用語解説]
注 1)強度変調放射線治療(IMRT):腫瘍(がん)の形状が不整形で複雑な場合、従来法の放射線照射法では腫瘍周囲の正常組織や臓器にも腫瘍と同じ線量が照射されてしまい、腫瘍制御率を高率に維持しながら合併症を低く抑えることが困難でした。 IMRTは、コンピュータ制御により腫瘍のみに放射線を「ピンポイント」で集中して照射できる照射技術です。
注 2)骨髄障害:抗がん剤や放射線によるがん治療の時に起こる副作用で、造血機能を有する骨髄が障害を受けて、赤血球数、白血球数、血小板数の減少が起きます。
注 3)活性酸素種:空気中の酸素が反応性の高い化合物に変化したものの総称で、一般的には(狭義には)スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素の4種とされています。
注 4)後方視的観察研究:特定の事象に対して実験的な操作がともなわない研究の中で、過去の事象について調査する研究の総称です。本研究は、日常の診療業務の中で、時期をずらしてIMRTの単独治療とIMRTに水素ガス吸入を併用した治療を行い、その結果を過去に遡って解析したものです。
注 5)高気圧酸素療法:大気圧より高い気圧環境の中で患者さんを収容し、高濃度の酸素を吸入させることで、病気の改善を図る治療法です。本研究では、患者さんは軽微な高気圧(1.35気圧)環境で酸素ではなく、空気を吸入しました。
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