「2022年度 シチズン・オブ・ザ・イヤー®」受賞者決定
シチズン時計株式会社(本社:東京都西東京市、社長:佐藤 敏彦)は、本年1月5日に選考委員会を開き、
「2022年度 シチズン・オブ・ザ・イヤー」受賞者を下記のとおり決定しました。
この賞は、市民社会に感動を与えた良き市民を1年単位で選び顕彰するもので、当社が1990年から主催し、本年度で33回目となります。
各受賞者には、副賞として賞金100万円と時計が贈られます。
2022年度 シチズン・オブ・ザ・イヤー 受賞者
▽ きつおん親子カフェ 広島県広島市
吃音のある子どもと家族が思いを共有できる交流会や講演会の運営をはじめ、子どもの成長に合わせた
リーフレットを作成するなど吃音への理解を広める
▽ 認定NPO法人マギーズ東京 東京都江東区
がんに影響を受けるすべての人たちが気軽に相談でき、心のよりどころとなる居場所を提供し、
がんと共に生きる人たちを支援する
▽ 市川 真由美(いちかわ まゆみ)さん 55歳 奈良県奈良市
さまざまな事情により無戸籍となった人たちの人生の伴走者として、戸籍取得の手続きなど、
一緒に生きていくための支援を続ける
〔順不同〕
吃音は100人に一人と言われるが、「きつおん親子カフェ」の代表を務める戸田祐子さんの次男が小学生のころ、吃音のある人と出会う経験はほとんどなかった。そうなると子どもは「吃音は自分だけ」と思うようになり、孤立感や孤独感を抱く。戸田さんは「吃音の子どもが出会い、保護者が悩みを分かち合い情報交換できる場を作りたい」と思い始め、次男が通っていた「ことばの教室」で知り合った母親と意気投合し、2011年5月、同じ境遇の親子が交流する「親子の料理会」を開くと20名が集まった。この成功をもとに2011年7月、戸田さんたちは、吃音のある子どもとその家族の交流、支援を目的とする有志の団体「きつおん親子カフェ」として活動をスタートした。
「きつおん親子カフェ」では専門家を招いての講演会や吃音のある子どもや親たちの交流会を開催。公民館などで年3回行う交流会では、午前中は料理会やスポーツなど親子が一緒に参加するレクリエーションを行う。午後は小学生、中高生、保護者と分かれ、ゲームを通じて吃音を学んだり、人間関係や将来の不安を先輩と話し合うなど、グループごとにそれぞれの疑問や困りごとなどを語り合い日頃の思いを分かち合う。コロナ禍で対面での活動が難しかった時期は、Web会議サービスを利用し交流会を続けた。2022年までに計31回開催し、交流会は平均70名、最高で100名が参加。累計で2,500人以上が参加した。現在のコアメンバーは代表の戸田さんをはじめ、保護者、「ことばの教室」教員、言語聴覚士など11名。イベントの際は手伝いのスタッフ約20名が加わる。
また、吃音の症状や支援方法などを当事者視点でまとめたリーフレットを「幼児期用」と「学齢期・思春期用」の2種類作成し、啓発活動も行っている。これまでも吃音に関する書籍はあったが数が少なく、またネットに不正確な情報が多く載せられていた。吃音の正しい知識、保護者だけでなく教師の吃音のある子どもへの接し方などを記載し、医療機関や学校で無償配布した。県外からも問い合わせがあるなど反響は大きく、初版5000部から増刷しこれまでに17万部を配った。現在、ホームページから注文、ダウンロードできる。
小学生だった子どもたちも就活の時期を迎え、採用面接は大きな試練となった。そこで就活生を支援するリーフレットを2022年から作り始め、「学生向け」と「採用者向け」の2種類が近々完成する。学生向けには先輩学生の体験談や、吃音で困ることや採用側にお願いしたいことをフォーマットに整理し記入する「私の吃音説明書」などを収録。当事者目線で「相手に吃音をどう伝えるか」に重点を置いた。
吃音は関係者の間では情報が行き交うようになってきたが、一般の人にはまだ理解されていない。吃音のことが正しく理解され、誰もが遠慮せずに伝え合える社会になれば、と戸田さんは期待する。
■表彰理由
団体の活動が多くの吃音の子どもたちとその家族を勇気づけていることが伝わってくる。吃音に対しては、まだ偏見や誤解があり理解が進んでいるとは言えない。そんな状況で、何より当事者の家族同士が声を掛け合い、自ら行動を起こしたその積極性が素晴らしい。様々な交流会に加え、子どもの成長に合わせたリーフレットの作成による啓蒙活動や、他に例を見ない就活支援の手引書作成など企画力、アイディア力も優れている。
■受賞コメント
12年前、小学生だった息子に「吃音があるのはひとりじゃない」と思える場を作ろうと一歩を踏み出し、思いを共にする仲間と試行錯誤しながら活動を積み重ねてきました。まだまだ、吃音が正しく理解されていない世の中で、悩みながらも強く生きている子どもたちのそばにいると、私たちも何かしなければと突き動かされるのです。この度の大きな賞は、会に参加した吃音のある子どもたちや吃音リーフレットを配布して下さった全国の皆様と共に受賞させていただいたと思っています。大きな励みをいただきました。今後さらに活動を前進させてまいります。
■連絡先
きつおん親子カフェ(広島市南区西蟹屋3-7-27 広島市立荒神町小学校内)
ホームページ:https://stutteringpccafe.webnode.jp/
「マギーズ東京」は、英国の「マギーズキャンサーケアリングセンター」(以下「マギーズセンター」)初の日本版施設である。「マギーズセンター」とは、創設者マギー・K・ジェニングスさんが、自身のがん体験から「治療中でも、患者ではなく一人の人間でいられる場所と、友人のような道案内がほしい」と願ったことがきっかけで1996年にエジンバラで生まれた施設で、現在は英国を中心に世界27カ所に展開されている。
「マギーズ東京」では、マギーズセンターのコンセプトを基に設計された四季が感じられる庭と来訪者が心安らぎくつろげるように配慮された空間の中で、「自分の力を取り戻す」ためのヒューマンサポートを行っている。がんに詳しい看護師や心理士が来訪者の話を親身になって聞く。来訪者は、ちょっとした一言、何気ない会話のやり取りでモヤモヤが晴れ、心の整理がついてくる。すると次は具体的なことが聞けるようになり、そして次第に自分の力を取り戻していく。
平日10時~16時開館。来訪しての利用をベースに、現在は電話、メール、オンラインによる相談も可能。夜間は毎月2回(第1、第3金曜18時~20時)も開館している。さらに、治療中の暮らしの工夫、実用的・心理的・社会的なサポートを探す支援、様々なグループプログラム(「リラクセーション」、「食事と栄養の話」、「ストレスマネジメント」、「ホルモン療法あれこれ」他)などサポートも多様だ。看護師7名、心理士2名、保健師1名の専門スタッフと非常勤の管理栄養士や運営事務など約20名を加えた30名体制で施設を運営する。
日本での施設の開設に尽力したのが、共同代表理事でセンター長の看護師・秋山正子さん(72歳)だ。秋山さんは39歳の時、末期がんの姉を在宅看護したのを機に、1992年に新宿区を拠点に訪問看護を始めた。だが活動の中で、患者が困りごとや悩みを話せないまま残りの時間が少なくなっていく現実に直面し、気楽に相談できる窓口が病院以外の場所にも必要だと考えるようになった。そんな中、2008年に開催された国際がん看護セミナーで、「マギーズセンター」のアンドリュー・アンダーソン看護師と同じ登壇者として出会い、「相談者が自分自身の力で物事が考えられ、自分の力を取り戻せるようなサポート」に共感した。翌年には現地視察を行い、2011年に「マギーズセンター」をモデルとした相談所「暮らしの保健室」を開設。そこに取材に来た、がんを経験したテレビ報道記者の鈴木美穂さんと出会ったことで同じ志をもつ仲間が増え、世界で20番目、日本初の「マギーズ東京」が実現した。
がん治療は外来が中心になり、暮らしの中で治療についての難しい選択や決断を本人が孤独の中で抱えることが多い。こうした変化の中で、秋山さんは、一緒に考えともに歩んでいく「相談支援」の重要性が一層、増していると考えており、全国各地の病院や地域で相談支援に携わる人を対象に、「マギーズ流サポート研修」を年1回実施して、ネットワークを広げる活動も継続的に行っている。
■表彰理由
「がんとの共生」と言われる時代において、病とどう向き合っていくかは非常に大きなテーマである。だからこそ、真摯に患者や家族に寄り添ってくれる「マギーズ東京」の存在はとても重要だ。多くの人たちがここで心を救われている。こうした何でも相談できる場所はまだまだ少なく、日本の医療ケア体制から抜け落ちているところであり、この活動は一つの「答え」である。また設立の中心となった秋山さんの看護師としての考え方、行動力にも感銘を受けた。
■受賞コメント
突然の受賞のご連絡には驚きましたが、改めて選考内容を知った時は、嬉しい知らせに仲間と共に喜び合いました。がんと共に歩む人々が不安一杯の中から自分の力を取り戻すために、もう一つの家のような環境を整えて待つスタイルの活動に着目して頂いたこと、そしてチャリテイで運営することにも着目して下さったことに感謝いたします。この受賞を今後の継続の力として活動していきたいと思います。
■連絡先
認定NPO法人マギーズ東京(東京都江東区豊洲6-4-18)
ホームページ:https://maggiestokyo.org/
こうした無戸籍者に、戸籍や住民票などの取得を支援する活動を2018年から行っているのが、奈良市の市川真由美さん(55歳/NPO法人「無戸籍の人を支援する会」代表)。自営業の合間を縫って全国を飛び回り、相談者の戸籍取得等の後押しをする。活動のきっかけは2016年、マイナンバー法の施行により、自身が経営するイベント用品販売会社の20代従業員に提示を求めたところ「持っていない」と言われた。市役所で確認すると、出生届が出されておらず「無戸籍者」ということがわかった。本人の希望もあり、軽い気持ちで戸籍取得(就籍)の手伝いを始めたが、身分を証明するものがなく、市や法務局などとの話がなかなか進まない。就籍には「いつ生まれたか」という年齢証明が重要であるため、「沖縄生まれ」を手掛かりに出生した病院などを探したが見つからなかった。そこで母親や知人に話を聞き、昔の写真など本人の出生を証明するものを集め、自治体などと粘り強い交渉を重ねた結果、1年8カ月かかってようやく取得が実現した。
市川さんは戸籍などの取得には大変な労力と時間と交渉力が必要であることを痛感。実際に行政から厳しい対応をされ、心が折れてしまう人もいるという。そこで、自分の経験を生かし、無戸籍者を支援しようと、2018年に1人でNPO法人を立ち上げた。市川さんのもとには全国から毎日約3~5件の相談が入る。現在も3人を支援中で、相談対応中の人が6人いる。相談者の事情に合わせ、本人が所属した学校、アルバイト先、民生委員、近所の人や友人・知人などあらゆる関係先を当たり、いつ生まれたのか、これまでどのように生活してきたのかといった証拠を集める。交渉先も、自治体、家庭裁判所、法務局、入国管理局、警察など多岐にわたり、取得まで1年以上かかるのが通常だ。これまで6人の戸籍取得、1人の国籍取得、13人の住民票取得を実現した。
就籍したら終わりではない。就籍すると国民年金保険料の支払いや納税などの義務も生じるため、取得後の支援が必要になる場合もある。無戸籍が障壁になり、学校や勤務先といった団体の中で過ごしたことがない人には、教育と就職のための職業訓練も必要になる。「目の前に困っている人がいれば放っておけない、知らん顔できない。そんな性格だからやっている」と市川さんは相談者の生き方に寄り添い、伴走者として全力で支援を続けている。
■表彰理由
戸籍などの取得には大変な労力と長い時間を要する。この支援活動をひとりで、しかもご自身の仕事と両立させながら行っている市川さんの姿に頭が下がる思いだ。無戸籍者一人一人に真剣に向き合い寄り添っていることが伝わる。従業員の戸籍取得の支援がきっかけだが、その経験からすぐにNPOを立ち上げ、支援活動を始めたその行動力・実行力に感動する。無戸籍の問題がもっと認知され、無戸籍者に対する理解が進むことを願う。
■受賞コメント
「無戸籍」と言う言葉と「無戸籍者」の存在を、そして私と言う伴走者のいることを知ってもらう機会をくださったことに大変感謝しております。表に出せないことが多いこの事実を抱えた人に、どうやって死のうかと考えるのではなく、生きることを諦めない方法があるということを啓蒙できる場が一つでも増えれば、救える命が増えることにもつながります。今回の受賞で、人を信じて動くことに間違いがなかったと確信が持てました。今後も姿勢を崩さず無戸籍者の伴走支援を続けます。
■連絡先
NPO法人「無戸籍の人を支援する会」(奈良市法蓮町559-1)
ホームページ: http://mukoseki.com/
〔選考委員会〕
委 員 長:山根基世 (元NHKアナウンス室長)
委 員:鮎川耕史 (毎日新聞社 社会部長)
酒井孝太郎 (産経新聞社 社会部長)
サヘル・ローズ(俳優、人権活動家 )
龍澤正之 (朝日新聞社 社会部長)
早坂 学 (読売新聞社 社会部長)
益子直美 (スポーツコメンテーター)
丸山寛朝 (日本経済新聞社 社会部長)
※敬称略・五十音順
略称「シチズン賞」。
◆「シチズン・オブ・ザ・イヤー」ウエブサイト:https://www.citizen.co.jp/coy/index.html
―― 以 上 ――
「2022年度 シチズン・オブ・ザ・イヤー」受賞者を下記のとおり決定しました。
この賞は、市民社会に感動を与えた良き市民を1年単位で選び顕彰するもので、当社が1990年から主催し、本年度で33回目となります。
各受賞者には、副賞として賞金100万円と時計が贈られます。
2022年度 シチズン・オブ・ザ・イヤー 受賞者
▽ きつおん親子カフェ 広島県広島市
吃音のある子どもと家族が思いを共有できる交流会や講演会の運営をはじめ、子どもの成長に合わせた
リーフレットを作成するなど吃音への理解を広める
▽ 認定NPO法人マギーズ東京 東京都江東区
がんに影響を受けるすべての人たちが気軽に相談でき、心のよりどころとなる居場所を提供し、
がんと共に生きる人たちを支援する
▽ 市川 真由美(いちかわ まゆみ)さん 55歳 奈良県奈良市
さまざまな事情により無戸籍となった人たちの人生の伴走者として、戸籍取得の手続きなど、
一緒に生きていくための支援を続ける
〔順不同〕
- きつおん親子カフェ
言いたいことが頭に浮かんでいるのに、言葉がスムーズに出せない「吃音(きつおん)」は言語障害で、発達障害の一つに分類されている。「わわわたし・・」(連発)、「わーーたし」(伸発)、「・・・わたし」(難発)の症状がある。2~5歳から始まることが多く、8割は自然治癒するが2割は続いてしまう。吃音に対する認知は低く、話し方をからかわれたり、緊張していると思われて「緊張しないで」と声を掛けられることもある。周囲の理解不足で傷ついたり、不安になって人前で話せなくなるケースも少なくない。
吃音は100人に一人と言われるが、「きつおん親子カフェ」の代表を務める戸田祐子さんの次男が小学生のころ、吃音のある人と出会う経験はほとんどなかった。そうなると子どもは「吃音は自分だけ」と思うようになり、孤立感や孤独感を抱く。戸田さんは「吃音の子どもが出会い、保護者が悩みを分かち合い情報交換できる場を作りたい」と思い始め、次男が通っていた「ことばの教室」で知り合った母親と意気投合し、2011年5月、同じ境遇の親子が交流する「親子の料理会」を開くと20名が集まった。この成功をもとに2011年7月、戸田さんたちは、吃音のある子どもとその家族の交流、支援を目的とする有志の団体「きつおん親子カフェ」として活動をスタートした。
「きつおん親子カフェ」では専門家を招いての講演会や吃音のある子どもや親たちの交流会を開催。公民館などで年3回行う交流会では、午前中は料理会やスポーツなど親子が一緒に参加するレクリエーションを行う。午後は小学生、中高生、保護者と分かれ、ゲームを通じて吃音を学んだり、人間関係や将来の不安を先輩と話し合うなど、グループごとにそれぞれの疑問や困りごとなどを語り合い日頃の思いを分かち合う。コロナ禍で対面での活動が難しかった時期は、Web会議サービスを利用し交流会を続けた。2022年までに計31回開催し、交流会は平均70名、最高で100名が参加。累計で2,500人以上が参加した。現在のコアメンバーは代表の戸田さんをはじめ、保護者、「ことばの教室」教員、言語聴覚士など11名。イベントの際は手伝いのスタッフ約20名が加わる。
また、吃音の症状や支援方法などを当事者視点でまとめたリーフレットを「幼児期用」と「学齢期・思春期用」の2種類作成し、啓発活動も行っている。これまでも吃音に関する書籍はあったが数が少なく、またネットに不正確な情報が多く載せられていた。吃音の正しい知識、保護者だけでなく教師の吃音のある子どもへの接し方などを記載し、医療機関や学校で無償配布した。県外からも問い合わせがあるなど反響は大きく、初版5000部から増刷しこれまでに17万部を配った。現在、ホームページから注文、ダウンロードできる。
小学生だった子どもたちも就活の時期を迎え、採用面接は大きな試練となった。そこで就活生を支援するリーフレットを2022年から作り始め、「学生向け」と「採用者向け」の2種類が近々完成する。学生向けには先輩学生の体験談や、吃音で困ることや採用側にお願いしたいことをフォーマットに整理し記入する「私の吃音説明書」などを収録。当事者目線で「相手に吃音をどう伝えるか」に重点を置いた。
吃音は関係者の間では情報が行き交うようになってきたが、一般の人にはまだ理解されていない。吃音のことが正しく理解され、誰もが遠慮せずに伝え合える社会になれば、と戸田さんは期待する。
■表彰理由
団体の活動が多くの吃音の子どもたちとその家族を勇気づけていることが伝わってくる。吃音に対しては、まだ偏見や誤解があり理解が進んでいるとは言えない。そんな状況で、何より当事者の家族同士が声を掛け合い、自ら行動を起こしたその積極性が素晴らしい。様々な交流会に加え、子どもの成長に合わせたリーフレットの作成による啓蒙活動や、他に例を見ない就活支援の手引書作成など企画力、アイディア力も優れている。
■受賞コメント
12年前、小学生だった息子に「吃音があるのはひとりじゃない」と思える場を作ろうと一歩を踏み出し、思いを共にする仲間と試行錯誤しながら活動を積み重ねてきました。まだまだ、吃音が正しく理解されていない世の中で、悩みながらも強く生きている子どもたちのそばにいると、私たちも何かしなければと突き動かされるのです。この度の大きな賞は、会に参加した吃音のある子どもたちや吃音リーフレットを配布して下さった全国の皆様と共に受賞させていただいたと思っています。大きな励みをいただきました。今後さらに活動を前進させてまいります。
■連絡先
きつおん親子カフェ(広島市南区西蟹屋3-7-27 広島市立荒神町小学校内)
ホームページ:https://stutteringpccafe.webnode.jp/
- 認定NPO法人「マギーズ東京」
東京都江東区豊洲にある「マギーズ東京」は、がんを経験している人やその家族、友人など、がんに影響を受けるすべての人が気軽に訪れ、看護師や心理士と安心して話をしたり、お茶を飲みながらゆっくり過ごしたりもできる無料の施設である。病院でも自宅でもない「第三の居場所」として2016年10月に開設され、来訪者は約3万7千人を超えた。
「マギーズ東京」は、英国の「マギーズキャンサーケアリングセンター」(以下「マギーズセンター」)初の日本版施設である。「マギーズセンター」とは、創設者マギー・K・ジェニングスさんが、自身のがん体験から「治療中でも、患者ではなく一人の人間でいられる場所と、友人のような道案内がほしい」と願ったことがきっかけで1996年にエジンバラで生まれた施設で、現在は英国を中心に世界27カ所に展開されている。
「マギーズ東京」では、マギーズセンターのコンセプトを基に設計された四季が感じられる庭と来訪者が心安らぎくつろげるように配慮された空間の中で、「自分の力を取り戻す」ためのヒューマンサポートを行っている。がんに詳しい看護師や心理士が来訪者の話を親身になって聞く。来訪者は、ちょっとした一言、何気ない会話のやり取りでモヤモヤが晴れ、心の整理がついてくる。すると次は具体的なことが聞けるようになり、そして次第に自分の力を取り戻していく。
平日10時~16時開館。来訪しての利用をベースに、現在は電話、メール、オンラインによる相談も可能。夜間は毎月2回(第1、第3金曜18時~20時)も開館している。さらに、治療中の暮らしの工夫、実用的・心理的・社会的なサポートを探す支援、様々なグループプログラム(「リラクセーション」、「食事と栄養の話」、「ストレスマネジメント」、「ホルモン療法あれこれ」他)などサポートも多様だ。看護師7名、心理士2名、保健師1名の専門スタッフと非常勤の管理栄養士や運営事務など約20名を加えた30名体制で施設を運営する。
日本での施設の開設に尽力したのが、共同代表理事でセンター長の看護師・秋山正子さん(72歳)だ。秋山さんは39歳の時、末期がんの姉を在宅看護したのを機に、1992年に新宿区を拠点に訪問看護を始めた。だが活動の中で、患者が困りごとや悩みを話せないまま残りの時間が少なくなっていく現実に直面し、気楽に相談できる窓口が病院以外の場所にも必要だと考えるようになった。そんな中、2008年に開催された国際がん看護セミナーで、「マギーズセンター」のアンドリュー・アンダーソン看護師と同じ登壇者として出会い、「相談者が自分自身の力で物事が考えられ、自分の力を取り戻せるようなサポート」に共感した。翌年には現地視察を行い、2011年に「マギーズセンター」をモデルとした相談所「暮らしの保健室」を開設。そこに取材に来た、がんを経験したテレビ報道記者の鈴木美穂さんと出会ったことで同じ志をもつ仲間が増え、世界で20番目、日本初の「マギーズ東京」が実現した。
がん治療は外来が中心になり、暮らしの中で治療についての難しい選択や決断を本人が孤独の中で抱えることが多い。こうした変化の中で、秋山さんは、一緒に考えともに歩んでいく「相談支援」の重要性が一層、増していると考えており、全国各地の病院や地域で相談支援に携わる人を対象に、「マギーズ流サポート研修」を年1回実施して、ネットワークを広げる活動も継続的に行っている。
■表彰理由
「がんとの共生」と言われる時代において、病とどう向き合っていくかは非常に大きなテーマである。だからこそ、真摯に患者や家族に寄り添ってくれる「マギーズ東京」の存在はとても重要だ。多くの人たちがここで心を救われている。こうした何でも相談できる場所はまだまだ少なく、日本の医療ケア体制から抜け落ちているところであり、この活動は一つの「答え」である。また設立の中心となった秋山さんの看護師としての考え方、行動力にも感銘を受けた。
■受賞コメント
突然の受賞のご連絡には驚きましたが、改めて選考内容を知った時は、嬉しい知らせに仲間と共に喜び合いました。がんと共に歩む人々が不安一杯の中から自分の力を取り戻すために、もう一つの家のような環境を整えて待つスタイルの活動に着目して頂いたこと、そしてチャリテイで運営することにも着目して下さったことに感謝いたします。この受賞を今後の継続の力として活動していきたいと思います。
■連絡先
認定NPO法人マギーズ東京(東京都江東区豊洲6-4-18)
ホームページ:https://maggiestokyo.org/
- 市川 真由美(いちかわ まゆみ)さん
戸籍がない「無戸籍者」は、法務省によると全国で785人(2023年1月現在)となっているが、実際にはもっと多くの無戸籍者が存在すると考えられている。最も多いのが親が出生届を出さなかったケースだが、戦後に海外から引き揚げた際の入国時の手続き不備や、医師や助産師のいない状況で一人で出産し、出生証明書が取得できないなどさまざまな要因により無戸籍となる人がいる。戸籍が無いと住民票が作れず、国民健康保険に加入できず病院に行けない、進学できない、銀行口座が作れないなど日常生活で多くの壁に突き当たる。さらにマイナンバー制度の施行に伴い、就労できないという問題も出てきている。
こうした無戸籍者に、戸籍や住民票などの取得を支援する活動を2018年から行っているのが、奈良市の市川真由美さん(55歳/NPO法人「無戸籍の人を支援する会」代表)。自営業の合間を縫って全国を飛び回り、相談者の戸籍取得等の後押しをする。活動のきっかけは2016年、マイナンバー法の施行により、自身が経営するイベント用品販売会社の20代従業員に提示を求めたところ「持っていない」と言われた。市役所で確認すると、出生届が出されておらず「無戸籍者」ということがわかった。本人の希望もあり、軽い気持ちで戸籍取得(就籍)の手伝いを始めたが、身分を証明するものがなく、市や法務局などとの話がなかなか進まない。就籍には「いつ生まれたか」という年齢証明が重要であるため、「沖縄生まれ」を手掛かりに出生した病院などを探したが見つからなかった。そこで母親や知人に話を聞き、昔の写真など本人の出生を証明するものを集め、自治体などと粘り強い交渉を重ねた結果、1年8カ月かかってようやく取得が実現した。
市川さんは戸籍などの取得には大変な労力と時間と交渉力が必要であることを痛感。実際に行政から厳しい対応をされ、心が折れてしまう人もいるという。そこで、自分の経験を生かし、無戸籍者を支援しようと、2018年に1人でNPO法人を立ち上げた。市川さんのもとには全国から毎日約3~5件の相談が入る。現在も3人を支援中で、相談対応中の人が6人いる。相談者の事情に合わせ、本人が所属した学校、アルバイト先、民生委員、近所の人や友人・知人などあらゆる関係先を当たり、いつ生まれたのか、これまでどのように生活してきたのかといった証拠を集める。交渉先も、自治体、家庭裁判所、法務局、入国管理局、警察など多岐にわたり、取得まで1年以上かかるのが通常だ。これまで6人の戸籍取得、1人の国籍取得、13人の住民票取得を実現した。
就籍したら終わりではない。就籍すると国民年金保険料の支払いや納税などの義務も生じるため、取得後の支援が必要になる場合もある。無戸籍が障壁になり、学校や勤務先といった団体の中で過ごしたことがない人には、教育と就職のための職業訓練も必要になる。「目の前に困っている人がいれば放っておけない、知らん顔できない。そんな性格だからやっている」と市川さんは相談者の生き方に寄り添い、伴走者として全力で支援を続けている。
■表彰理由
戸籍などの取得には大変な労力と長い時間を要する。この支援活動をひとりで、しかもご自身の仕事と両立させながら行っている市川さんの姿に頭が下がる思いだ。無戸籍者一人一人に真剣に向き合い寄り添っていることが伝わる。従業員の戸籍取得の支援がきっかけだが、その経験からすぐにNPOを立ち上げ、支援活動を始めたその行動力・実行力に感動する。無戸籍の問題がもっと認知され、無戸籍者に対する理解が進むことを願う。
■受賞コメント
「無戸籍」と言う言葉と「無戸籍者」の存在を、そして私と言う伴走者のいることを知ってもらう機会をくださったことに大変感謝しております。表に出せないことが多いこの事実を抱えた人に、どうやって死のうかと考えるのではなく、生きることを諦めない方法があるということを啓蒙できる場が一つでも増えれば、救える命が増えることにもつながります。今回の受賞で、人を信じて動くことに間違いがなかったと確信が持てました。今後も姿勢を崩さず無戸籍者の伴走支援を続けます。
■連絡先
NPO法人「無戸籍の人を支援する会」(奈良市法蓮町559-1)
ホームページ: http://mukoseki.com/
- 【選考方法について】
〔選考委員会〕
委 員 長:山根基世 (元NHKアナウンス室長)
委 員:鮎川耕史 (毎日新聞社 社会部長)
酒井孝太郎 (産経新聞社 社会部長)
サヘル・ローズ(俳優、人権活動家 )
龍澤正之 (朝日新聞社 社会部長)
早坂 学 (読売新聞社 社会部長)
益子直美 (スポーツコメンテーター)
丸山寛朝 (日本経済新聞社 社会部長)
※敬称略・五十音順
- 【 シチズン・オブ・ザ・イヤー® について 】
略称「シチズン賞」。
◆「シチズン・オブ・ザ・イヤー」ウエブサイト:https://www.citizen.co.jp/coy/index.html
―― 以 上 ――
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