EX-Fusion と東京工業大学が協働研究拠点を設立
-日本発のレーザー核融合商用炉の早期実現を目指す
この「EX-Fusion liquid metal 協働研究拠点」は、東京工業大学オープンイノベーション機構の支援のもとに設置され、今後の研究マネジメント、知財戦略、事業化までを支援し、拠点で開発された研究成果の社会実装を目指します。
写真 (左)東京工業大学 学長 益一哉
(右)株式会社EX-Fusion代表取締役社長 松尾一輝
1.背景・目的
温室効果ガスを排出しないエネルギー供給が急ぎ求められている中、レーザー核融合技術は持続可能なエネルギー源として国内外で非常に高い期待が寄せられています。核融合反応とは、水素などの原子核が高温・高圧下で融合してヘリウムなどのより重い原子核に変わることであり、身近な例としては太陽が非常に大きなエネルギーを生み出す理由として挙げられます。レーザー核融合は、レーザーを燃料に照射することにより核融合反応を起こし、エネルギーを発生させるための技術です。海水資源を活用するため、安全で持続可能なエネルギーを供給することができます。生み出す電力量を変化させられるため、負荷変動に柔軟に対応でき、脱炭素化への多大な貢献が期待されています。しかし、世界中で技術的な課題やエネルギーの効率化に関する多くの研究と開発が進行する中であっても、現時点で商用のレーザー核融合炉は実現していません。
2023年4月に日本政府が「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を策定したことで、国内で核融合エネルギーの研究・開発が加速する環境が整ってきました。今後、国際的な競争が激化する中で、独自の核融合技術群の開発とその応用はますます重要となっています。
この背景を踏まえ、レーザー核融合炉のレーザーや燃料ターゲット技術の開発を行うEX-Fusionと液体金属流体を用いたエネルギー変換システムの学術研究を行う東京工業大学がオープンイノベーション機構の支援のもと、協働研究拠点を設立しました。レーザー核融合炉に適した液体金属燃料増殖ブランケットの概念を高度化し、必要とされる液体ブランケット要素技術を開発しながら、ブランケットモックアップループ(用語3)の設計へと研究拠点としての幅広い研究開発を加速し、レーザー核融合エネルギーの早期実現を図ります。
2.共同研究テーマ
レーザー核融合商用炉実現に向けた液体金属デバイスの高度化研究
3.共同研究の内容
商用炉の液体金属燃料増殖ブランケットの運転に必要とされる高純度の液体リチウム鉛燃料増殖材(用語4)の大量合成技術を、東京工業大学の技術的蓄積により高度化します。また、液体金属技術を応用したレーザー照射システムの最終光学系(用語5)を開発します。こうした技術を結集して、レーザー核融合炉のエネルギー変換と発電性能を評価しうるブランケットモックアップループの詳細な設計を行います。更に、本共同研究により得られた知見と液体金属技術群は、深宇宙探索用の低融点金属ミラー(用語6)、海水淡水化や環境浄化技術(用語7)など、核融合にとどまらない多様な応用分野での利用が期待されます。EX-Fusionと東京工業大学は、このような広範な技術応用にも共同で取り組み、技術の社会的実装を最大限に推進していきます。
4.概要
名称:EX-Fusion liquid metal 協働研究拠点
場所:大岡山キャンパス 北2号館274室
期間:2023年10月1日から2026年9月30日まで
研究体制 :
近藤 正聡(科学技術創成研究院・准教授)研究責任者・拠点長
松尾 一輝(株式会社EX-Fusion・代表取締役) 副拠点長
森 芳孝 (株式会社EX-Fusion・最高技術責任者)
研究分担 :
東工大:
レーザー核融合炉の液体金属ブランケットの開発および液体金属技術の環境浄化技術への応用検討
EX-Fusion:
レーザー核融合炉全体の包括的な概念設計およびチャンバー・光学系設備等の仕様策定
研究内容:
1. レーザー核融合炉の液体燃料増殖ブランケット概念に関する研究開発
2. レーザー核融合炉用液体燃料増殖材の高純度合成技術に関する研究開発
3. レーザー核融合炉用の最終光学系に関する研究開発
4. 液体金属技術を応用した環境浄化技術の研究開発
5.今後について
2026年までの3年間で、レーザー核融合炉の燃料サイクルの鍵を握る液体燃料増殖材の高純度合成法を高度化し、世界中で行われている核融合エネルギー開発を支えられるような供給能力を実現する技術の開発を目指します。また、液体ブランケットシステムの概念設計を行う一方で、その長寿命化や稼働率の向上に関わる様々な要素技術開発を行います。こうしたブランケット技術を、EX-Fusionが開発するレーザー核融合炉へと統合させることにより、10年以内でのレーザー核融合エネルギーの実現を目指します。
図 レーザー核融合商用炉の概念図
(チャンバー中央に燃料を射出して、周囲から高エネルギーレーザーを照射することにより核融合反応を起こす。)
【用語説明】
(1) レーザー核融合商用炉: 安全で信頼性が高く、 高レベルの放射性廃棄物を生成しないクリーンエネルギーのこと。 海水から採れる豊富な燃料を使用した小型の核融合炉によって生成される。 原子炉と同等以上の発電量と従来の再生可能エネルギーの安全性を備えていると同時に、レーザーの繰り返し数を変えることで負荷変動にも対応できる。
(2) 液体金属ブランケット:レーザー核融合炉において燃料の増殖とエネルギーの変換を担う重要機器のこと。流動する液体リチウム鉛合金(LiPb)に核融合反応で生じた中性子を照射することにより、燃料であるトリチウムや熱エネルギーを生産する。
(3) ブランケットモックアップループ: レーザー核融合炉の液体燃料増殖ブランケットとして、液体金属を循環させながら、定常的にエネルギーの取り出しを行える実験施設を設計する。
(4) 液体リチウム鉛燃料増殖材:鉛とリチウムの液体合金で、中性子を増倍する機能と三重水素を増殖する機能を併せ持つもの。液体金属(写真)は、金属でありながら流体であるため、優れた冷却性能を備えている。
図 液体金属の様子
東工大は2022年に、ポテトマッシャー型の撹拌機を利用した減圧下合成手法の開発に成功し、2022年に論文を発表している。
【論文情報】
掲載誌:Corrosion Science
論文タイトル:Corrosion-resistant materials for liquid LiPb fusion blanket in elevated temperature operation
著者:Masatoshi Kondo, Susumu Hatakeyama, Naoko Oono, Takashi Nozawa
DOI:10.1016/j.corsci.2021.110070
(1) レーザー照射システムの最終光学系:レーザーを反射させて燃料ターゲットに照射する際に必要とされる鏡は最終光学系と呼ばれ、高エネルギー中性子に晒されて損傷する事が課題とされている。そのため、中性子による損傷を速やかに回復できるような最終光学系を開発する必要がある。本共同研究では、低融点金属の溶融・凝固を活かした自己修復機能を有する金属鏡に関する研究を実施する計画がある。
(2) 深宇宙探索用の低融点金属ミラー:東工大は金属を月面などに輸送しやすい液体などの形態で輸送し、設置場所で望遠鏡の主鏡へと変形させる概念を提案している。建設プロセスの簡略化や劣化時の修復などの点でアドバンテージがある。2023年に基礎的な成果を論文として発表している。
【論文情報】
掲載誌:Results in Optics
論文タイトル:Fundamental study on optical performance of low-melting-point metal mirrors for space telescopes
著者:Eisuke Imaizumi, Masatoshi Kondo, Katsuya Murakami, Yutaka Hayano, Yuichi Matsuda,
DOI:10.1016/j.rio.2023.100473
(3) 海水淡水化や環境浄化技術:東京工業大学は液体金属を用いた新しい海水淡水化方法を提案し、近藤正聡研究室 大学院生の堀川虎之介さんが第36回先端技術大賞「フジテレビジョン賞」を受賞している。また、液体金属流体を用いてCO2を有価物資源に変換する技術も開発している。
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