岐阜県美術館開館40周年記念「前田青邨展」学芸員の総力結集 困難乗り越え大型展実現

生まれ変わった岐阜県美術館。その裏側には学芸員の苦労が。条件を整え、どのように課題をクリアしてきたのか。

株式会社岐阜新聞社

 開館40周年の節目に開催されることになった本展覧会は、数回にわたる大規模な施設改修工事を経て実現。展示室や収蔵庫の拡張に続き、作品を温湿度の変化から守る空調設備や、作品保護を兼ねた見やすい照明、さらには展示ケースの拡充に重点を置いた施設改修の成果として、「これぞ岐阜が誇る前田青邨」という展示構成となった。国重要文化財「洞窟の頼朝」をはじめ、名品逸品尽くしの大型展。この秋は美術館での絵画鑑賞を存分に楽しんでいただきたい。

《ラ・プランセス》1957年 岐阜県美術館蔵ⒸY.MAEDA&JASPAR,Tokyo,2022 E4702《ラ・プランセス》1957年 岐阜県美術館蔵ⒸY.MAEDA&JASPAR,Tokyo,2022 E4702

🔶施設機能を強化
展覧会には、館蔵品も名品を展示するが、展示する多くは、全国の美術館をはじめ、各所蔵先からの借用物で構成している。さまざまな貸出条件を満たす施設機能を強化しての企画準備ではあったが、コロナ禍中ということもあり、借用交渉には多くの時間を費やす必要があった。とりわけ交渉を難しくした背景には、作品の保存状態の問題が横たわっていた。没後50年を経て、所蔵者の変更やそれに伴う保管環境の変化により、経年劣化が著しく進行する時期と重なった。また昨今の震災や異常気象によって被災したものもあるなど、借用にあたり搬送やそのままの展示が難しい状態の作品も見られた。
こうした状況を踏まえ、交渉の初期段階から、2人の展覧会担当とは別に、環境を整えて特殊な搬送方法を設計する保存担当と、状態把握から適切な処置を施す修復担当を加えた構成メンバーで、準備に当たることにした。また修復担当と協力して状態調査や初期対応に応ずる複数の修復技術保持者を加え、搬送、展示までを、美術品専門搬送業者と協力して行う態勢を整え業務に臨んだ。とりわけ意欲的に制作された作品は、技法上限界までその表現性を引き出したものが多く、故に保存上脆弱(ぜいじゃく)な一面を持つ。理想の展覧会を実現するには、大勢の関係者による協力が必要で、所在先との信頼関係の上で、地道な調査研究に基づく成果の積み重ねにより成し得るものだと、改めて実感する機会となった。

🔶掛軸が額装に
こうした先人の顕彰をきっかけにして、自分たちの地域を耕す芸術文化の源を知る機会とし、新たに根付いていくことを願いつつ、開催準備に企画調整として携わり、また保存担当学芸員としての貴重な体験をここに記しておく。
展覧会構想が現実味を帯びてきた2017年、前田青邨の額装を数多く手がけた東京の額縁店で、館蔵品である「ラ・プランセス」の額縁調整を依頼し、その構造や特性について多くの知見を得るところから保存技術の調査研究を始めている。日本画の表具に関する基本的な構造は、巻いた掛軸や巻子、連ねて折りたたむ屏風(びょうぶ)や折本など、大小用途にかかわらず、保管時は小さくまとめることができ、かつ軽量化を施して手に馴染んでいくよう仕上げる特徴がある。本展会場には、額装された作品も多く並ぶが、いずれも描かれた本紙は裏打ちされ、屏風や襖絵(ふすまえ)と同様に組子下地に貼り込まれて額内に収まっている。その中には当初、掛軸だったはずの絵絹に描いたものが、状態維持の理由から額装に変更されていたり、屏風のまま取り外し可能な状態で額装した大きな作品もあるなど、実に多彩な額装を見ることができる。元はどのような装丁をイメージして画家は描いたのか、掛軸と額縁では随分と違ってくるだろうと、作品の前で考えてみるのも面白い。

🔶特殊な搬送方法
それから、特殊な搬送方法により展示が実現した早稲田大学會津八一記念博物館所蔵の「羅馬(ローマ)使節」は、岐阜県美術館開館当初、1983年に開催した「生誕百年記念展 前田青邨とその弟子」で1度展示したことのある三曲屏風の大作であるが、現在は専用の固定展示ケースの中で、額装され建物と一体化して保管されていた。渡欧して西洋の古典技法に感化された若き画家が、日本画の画材に新たな可能性を見いだそうとした痕跡を見ることができる記念碑的な作例である。しかし、額装したまま借用するには現実離れした大きさのため、建物から安全に搬出することもままならず、借用は難しいだろうと当初は考えていた。開催するに当たり実施した、絵具が厚く塗られた技法上の特殊性と数回にわたる修復痕に関する状態調査をもとに、搬送方法を見いだし、大学と美術館の共同調査として額装のまま借用し、展示することになった。当館にとって、将来忘れることのできないものとなろう。
また、大倉集古館所蔵の「洞窟の頼朝」は、2度目となる2006年に開催した「生誕百二十年 前田青邨展」での公開後に国重要文化財に指定された作品で、今回はまさに郷里岐阜への凱旋(がいせん)展となる。その圧倒的な迫力を体感した後は、新たな表現に挑戦し続けた画家人生を追いかけるように、会場で作品をたどってほしい。日本画の魅力を画材とその表現性に見いだし、ついには野太い筆線のうちに表現の問い先を見つけた前田青邨の一大展覧会が、岐阜の地で会場を埋め尽くし、今始まろうとしている。

展覧会概要展覧会名  開館40周年記念 前田青邨展 究極の白、天上の碧(あお)  ―近代日本画の到達点―
会  期  2022年9月30日(金)~2022年11月13日(日)
展  示  前期展示:10月23日(日)まで、後期展示:10月25日(火)から
開館時間  10:00-18:00  ※10月21日(金)は20:00まで開館(入場は閉館30分前まで)
休  館 日  月曜日(祝・休日の場合は翌平日)
 観覧料一般 :1,300(1,200)円
大学生:1,000(900)円
高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体割引料金
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、難病に関する医療費受給者証の交付を受けている方とその付き添いの方(1名まで)は無料でご観覧いただけます。

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URL
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業種
情報通信
本社所在地
岐阜県岐阜市今小町10
電話番号
058-264-1151
代表者名
矢島薫
上場
未上場
資本金
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設立
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