【新潟県小千谷市】浮世絵に囲まれたおひな様⁉「絵紙(えがみ)と小千谷のひいな祭り」(3/1~3/9)
新潟県小千谷市で昔から伝わる、ひな祭りに浮世絵を飾る風習を再現した「絵紙(えがみ)と小千谷のひいな祭り」を3月1日(土)から9日(日)まで開催します。
世界で有数の豪雪地帯である新潟県中越地方。その中でも特に雪深い小千谷市(おぢやし)は、ブランド米である魚沼産コシヒカリや国魚・錦鯉の発祥の地として有名ですが、なぜか小千谷地方のひな祭りにはたくさんの「浮世絵」が飾られます。
今年話題のNHK大河ドラマ「べらぼう」に取り上げられるなど、クールジャパンの象徴として語られる浮世絵。
江戸時代から明治時代にかけて主に江戸(東京)で作られた浮世絵が、なぜ越後(新潟)・小千谷のひな祭りに飾られるのか。その結びつきを、イベントの紹介やルーツとともに紐解きます。
※「ひいな祭り」とは源氏物語「雛(ひいな)遊び」から着想したイベント名です。
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■「絵紙と小千谷のひいな祭り2025」
ひな祭りに絵紙を飾る風習を再現したイベント「絵紙と小千谷のひいな祭り」は、令和7年3月1日(土)から3月9日(日)まで開催されます。地元商店街を中心に26か所に色鮮やかな絵紙(浮世絵)とひな人形が飾り付けられます。また、記念講演会や和をテーマにした親子フォトブースの設置、和楽器を弾きながらまちを練り歩く一座が出没するなど、さまざまな関連イベントが行われ、今年の豪雪に耐えた小千谷にうららかな春の到来を告げてくれます。
■特産品・小千谷縮が結ぶ地域の文化
小千谷市の特産品の一つが、ユネスコ無形文化遺産に登録されている伝統の麻織物「小千谷縮(おぢやちぢみ)」です。江戸時代に生産が始まった小千谷縮は、麻織物特有のさらっとした着心地と風通しのよさが好まれ、端午の節句に大名が江戸城に登城する際の公式な着物に定められるなど、夏の着物の代表格として愛好されました。
江戸と越後とを盛んに行き来していた商人たちがこぞって買った江戸土産が、当時の最新の流行を描いた「浮世絵」でした。
なにせ電車も自動車もない時代。軽くてかさばらず、値段も安い浮世絵は持ち運びやすく、江戸を代表するお土産でした。
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■大量に伝わった浮世絵、その理由
江戸から小千谷に持ち込まれた浮世絵は、お土産として織物関係者に配られました。その浮世絵には、まさに今、江戸で上演されている芝居や人気の役者、観光名所などが描かれています。インターネットどころかテレビもなく情報が少ない当時の人々は、リアルで鮮やかに描かれた浮世絵を眺めながら、遠い江戸のにぎわいを想像したことでしょう。
このように、小千谷縮の江戸との盛んな交易が、大量の浮世絵を小千谷にもたらしたと考えられており、調査済みのものだけでも小千谷市内には6,000枚を超える浮世絵が残っています。
■雪国で花開いた小千谷独自の“あたたかい”ひな祭り
いつの頃か小千谷の人々は、それぞれの家で、ひな祭りの時期にひな人形と一緒に浮世絵を飾るようになります。ただ浮世絵を飾るのではなく、部屋の寸法に合わせて絵を縦横にいくつもつなぎ合わせてタペストリーのように壁にかけるのです。
ではなぜ、ひな祭りに浮世絵を飾るようになったのか。当時のひな祭りは月遅れの4月3日。豪雪地帯では、4月になっても積もった雪に家を囲まれ、日中でも屋内は薄暗いまま。せっかく女性や子どもたちが楽しみにしているひな祭りを少しでも明るく華やかに飾ってあげたい。そんな小千谷の人々のやさしさが、ひな祭りに浮世絵を飾る文化を生み出したのではないかと、30年に渡り小千谷に通って調査を行っている鈴木俊幸先生(中央大学文学部教授)は語ります。小千谷のひな祭りは、商人の経済力と人々のやさしさが織りなした“あたたかい”文化なのです。
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■浮世絵≒絵紙、似て非なるもの
小千谷では、浮世絵のことを「絵紙(えがみ)」と呼びます。文字通り「絵が描いてある紙」という意味の方言ですが、かつては東北や北陸など、ほかにも絵紙と呼んでいた地域があったそうです。
また絵紙とは、1枚の浮世絵ではなく、つなぎ合わせて雛飾りの一部として飾られる浮世絵を指します。さらに言えば、ひな祭りに絵紙を飾る文化そのものを含む言葉でもあります。主役はあくまでもひな人形ですが、その小道具として絵紙は欠かせない存在なのです。
昭和30年代頃までは、ひな祭りの時期になると、子どもたちはお雛様と絵紙が飾られた家を何軒も訪ね、供えられたお菓子をごちそうになることが楽しみだったそうです。それを食べると、「めめが良くなる(見栄えが良くなる=美人になる)」と言われて競って食べた、絵紙に描いてある絵はちょっと怖かった、と80代のご婦人が懐かしそうに話してくれました。
しかし、高度成長期のテレビの普及などによって全国の文化が均一化されたことで、それまで4月3日だった小千谷のひな祭りは3月3日に行われるようになり、住宅事情の変化とともに絵紙を飾る家は少なくなっていきました。
※絵紙飾りの風習については、こちらからご覧ください
■形を変えながら引き継がれる、小千谷ならではの独特の文化
平成16年10月23日に発生した新潟県中越地震。最大震度7を記録した巨大地震が小千谷を襲い、多くの市民が被災しました。壊れた家や土蔵を片付ける中で、しまわれていた絵紙が数多く捨てられ、まちの文化が失われる危機にありました。
それを救ったのが、市内で表具屋を営んでいた表久(横山久一郎)さんをはじめとする平成商店街の皆さん、そして鈴木先生を中心とする絵紙調査隊の皆さんでした。
商店街の皆さんは、まちの復興のために絵紙を活かしたイベント「絵紙で彩る小千谷のひいな祭り」を立ち上げ、商店街に絵紙とひな人形を飾り付けました。「ひいな祭り」とは、源氏物語に登場する「ひいな遊び」から着想を得たイベント名です。
鈴木先生は、縁あって訪れた小千谷に大量の浮世絵があることに驚き、研究仲間や教え子を誘って絵紙調査隊を結成。以来、30年にわたって小千谷の絵紙を調査し続けています。
さまざまな人の思いと努力で危機を脱した絵紙は、現在、小千谷絵紙保存会のもとで保存と継承活動が続けられています。まち全体でひな祭りに絵紙を飾るという、小千谷だからこそ成立した独自の文化は、今でも個人のお宅や商店街のお店で受け継がれています。
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■小千谷市民俗有形文化財指定の記念に、今年限りの特別展示
小千谷縮の交易で栄えた豪商として知られる西脇家と、その分家である西義家には、先祖代々のひな人形が伝わっています。お内裏様とお雛様、三人官女たちだけでなく、市松人形やセルロイド人形から金太郎まで、当時の子供たちが喜びそうなものを何でも集めて飾っていました。
そのひな人形群と、小千谷絵紙保存会が所蔵する絵紙が、令和7年2月10日に小千谷市の民俗有形文化財第1号に指定されました。それを記念して、4月6日(日)まで西脇家と西義家のお雛様、そして絵紙を一堂に公開する特別展示を、図書館や郷土資料館などの複合施設「小千谷市ひと・まち・文化共創拠点 ホントカ。」にて開催しています。
古い人形はその取扱いにも細心の注意が必要で、なかなか一堂に展示できるものではなく、今回限りの特別展示になるかもしれません。貴重な機会にぜひご覧ください。
また、3月9日(日)14時からは鈴木俊幸氏による記念講演会が開催されます。鈴木氏はNHK大河ドラマ「べらぼう」の版元監修者としても知られており、いろいろなお話をお聞きできると思います。
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■市民による手作りイベント「絵紙と小千谷のひいな祭り」
商店街のイベントとしてはじまった「ひいな祭り」は、その運営を市民有志による実行委員会が引き継いでいます。実行委員会には、イベントの中で何かやってみたい人なら誰でも参加でき、店舗の経営者や織物関係者、行政職員など立場を超えて集まった市民による手作りイベントです。
今年は3月1日(土)から3月9日(日)までの9日間、まちのあちこちに色鮮やかな絵紙とひな人形が飾り付けられ、雪深い小千谷にあたたかな春の訪れを告げます。さまざまな関連イベントも行われますが、その根底には、小千谷のまちの歴史と人々のやさしさがあるのです。
今年のひな祭りの時期には、絵紙を通じて雪国の春と”あたたかさ”を感じに、小千谷を訪れてみてはいかがでしょうか。
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